第209話 神化種、揃い踏み!

 松岡の凄まじい猛攻の前に防戦一方となる舜。2人は再び上空へと戦場を移し、膨大な魔力をぶつけ合って死闘を繰り広げていた。


 金城達は結界を破る事に注力しており、こちらの加勢に入るつもりはないようだ。只でさえ分の悪い戦いなのに、ましてや1対1では舜に勝ち目は無い。


(くそ、どうしたら……! このままじゃ……!)


 何とか打開策を講じようと焦る舜。その時丁度松岡が大剣を叩きつけて、舜がそれを二振りのサーベルで受け止め、鍔迫り合いのような形となった。当然膂力勝負となれば増々舜に勝ち目は無い。


「ぐぅぅぅぅ……!」


 一方的に押し込まれる。それによって松岡の兜に包まれた顔が、女性になった舜の顔に限界まで近付く。と、その時……



「……そのまま黙って聞け」

「……!?」



 一瞬空耳かと思った。だが間違いなくそれは目の前の松岡の発した声だった。膨大な魔力の波動や鍔迫り合いの音に紛れて、それは舜にしか聞こえなかった。


「な、なに―――」


「黙って聞けと言っただろ? これから浅井が金城達を説得して、全員が神化種に変身するはずだ。そしたらお前もあいつらと同調してありったけの魔力を束ねろ」


「な……神化種!? い、一体何を――」


「説明してる時間も余裕もねぇ。とにかくやれ。安心しろ。が無事に済んだら、お前等は全員クィンダムに帰してやるよ。とりあえずはな」


「……ッ!?」

(な、何かの罠か!? いや、でも……)



 戦況は圧倒的に松岡が有利なのだ。このまま何もしなければ松岡の勝利は揺るがない。こんな手の込んだ罠を仕掛ける意味はないはずだ。


 しかし松岡がいきなりこんな事を言いだした理由がさっぱり分からなかった。


「……俺とお前を含めて6人の神化種全員の力がどうしても必要なんだよ」


「…………」


 どうやらそれ以上の詳しい説明をする気はないようだ。説明している時間も余裕もないと言っていた。〈王〉であり、これ程圧倒的の力を有している松岡が、一体誰の目を気にしていると言うのか。



 そう疑問に思い掛けた時、それ・・は起こった。



「……ッ!!」


 神化種となっている今の舜をして、肌が粟立つ程の膨大な魔力。それが地上で一気に爆発したのだ。この魔力には覚えがあった。何故なら、かつてそれらと死闘を繰り広げた・・・・・・・・記憶も新しいのだから……!




 ――グウォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!




 何重にも木霊する大気を震わせる咆哮。


 舜が咄嗟に視線を向けた先でまず目に入ったのは、強靭な鱗に覆われた巨大なドラゴンの姿であった。カギ爪の生えた力強い四肢に棘の生えた太い尻尾。そして鎌首をもたげる太く長い首に、凶悪そうな角や牙の生え並んだ竜の貌……。



 間違いない。それは吉川が変身した神化種、ドラゴン吉川の姿であった!



「な…………」


 舜が息を呑む暇もあればこそ、驚愕は続く。




 ――ズズゥゥゥゥンッ!!




 地響きと共に、地面に巨大なクレーターが穿たれる。その中心にいるのは……二足歩行の野獣がそのまま巨大化したような獣巨人……ベヒモス梅木であった。肘や膝からは凶悪な突起が突き出て、その頭の2本の角はまるで破城槌かと見紛う質量だ。


 その横では、分厚い雪原の雪を割るかのように地下から巨大な牙だけの口が『顔』を覗かせる。その環状の胴体は全容が見通せない程に長大だ。超巨大サンドワーム……いや、場所柄で言ったらスノーワームとでも言うのか……アバドン金城である。



 だがそこまでは・・・・・、舜も一度はまみえた相手である。舜が真に驚愕したのは、松岡の結界の外側から広大な結界全体・・・・にへばり付くように覆い尽くしている、巨大という言葉すら愚かしい何か・・であった。


 たこ……なのだろうか? それとも烏賊いかだろうか。中心にそれらが融合したような奇怪な頭部らしき器官が存在し、そこから何十本もの長大な触手が四方八方に伸びていた。触手の一本一本がアバドン金城の全長に匹敵すると言えば、その馬鹿げた巨大さが解るだろうか。


「あ、あれは、まさか……」



「そう……浅井の奴の神化種……『クラーケン』だ」



「……!」


 舜も初めて見る浅井の神化種形態……クラーケン浅井が、遂にその全容を露わにしたのであった!



 眼下にその姿を顕現させた4体の神化種は、その魔力で一気に結界を破る……のではなく、何故か上……つまり舜達がいる方向に向かって魔力を練り上げ始めた。


「な……!?」


 咄嗟に警戒して身構える舜だが、松岡は何ら慌てる事無く、自身もそれに呼応するように魔力を練り上げ始めた。


「お、おい……?」


「何ボサッとしてやがる、シュン。さっさと言われた通りにしろや!」


「……ッ! くそ……何なんだよ、一体!」


 訳が分からないまま、何故か言われた通りに魔力を練り上げ始める舜。特に確証がある訳でもなかったが、このまま戦い続けても舜に勝ち目が無い事は明白だ。ならば何だか分からないが、とりあえず状況に身を任せてみよう、という気になったのである。


 ……半ばヤケクソ気味であったのは否定出来なかったが。



 6人もの神化種ディヤウスが、その魔力を全開にして練り上げていく。そこに集う天地創造にも匹敵する桁外れの魔力は、最早空間が歪むほどの密度となっていた。そして……それこそ・・・・が松岡の狙いであった!



「今だっ! 溜め切ったその魔力、俺が示す一点に集中して放出させろやぁっ!!」



 松岡が合図と共に剣を中空に向けて、その剣先からまるでビームのような形で、収束させた魔力を一気に噴射させた。


「……く!」


 やはり訳が分からないまま 舜も松岡に釣られるようにしてそのビームと交叉するように己の魔力を電撃の形で解き放った!


 同時に眼下からも、吉川がドラゴンの口からまるでレーザー光線のように超密度の熱線を吐き出した。金城も無数の光球を一つに纏めた超巨大光球を作り出し、一気に射出する。


 クラーケン浅井は、その無数の触手から水弾……否、水流・・の魔法を発射させ、それらを一つに束ねて、あらゆる物を押し流し打ち砕く『極大水流』として撃ち込んだ! 


 飛び道具のない梅木はどうしたかと言うと……何と今のベヒモス梅木が両腕を広げて抱え込む程の(つまり直径が10メートル近い)巨大な岩塊を頭上に掲げたかと思うと、それにありったけの魔力を込めて、5つの魔力が集結交錯している空中の一点に向けて、全力で投げ付けた!



 その岩が5つの魔力に衝突した瞬間…………空間が破れた・・・・・・



「な……あ……?」


 衝撃から思わず顔を背けていた舜は、再び視線を戻して……唖然として絶句した。




 ――中空の一点に巨大な『穴』が開いていた。




 『穴』……いや、『ゲート』の奥からは、清浄な光が漏れ出している。舜はこれと同じものを過去に見た事があった。


(この光……フォーティア様がいた空間を満たしていた光に似ている……?)


 あの幻想的な異空間を照らしていた光と同質のものだという確信があった。


「ま、松岡……お前、一体何を……?」


「何かって? へっ! 俺は長い間この時を待ち続けていたのさ! ……さあ、シュン。今からクライマックスが始まるぜ? 神狩り・・・って名の究極のクライマックスがなっ!!」


「……ッ!!」

 再び息を呑む舜。


 そして松岡の言葉に呼応するように、開いた『ゲート』を潜り抜けるようにゆっくりと、下界・・にその姿を現したモノ。それは…………



 今、最後の戦いが始まろうとしていた……  


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