第178話 同盟反対派
「……やってくれたね。一足遅かったって訳か……」
事情を聞いたロイドが腕を組んで唸る。
「というより、ミッドガルドの〈王〉が一枚上手だったという所だな」
「うむ。もしかすると我等のこの動きを予測していて先手を打ってきた可能性もあるな……」
ヴォルフとアレクセイも目を細めて難しい顔をしている。
「あ、あの……アレクセイ様。ミッドガルドの提案を受けたのは皆様からの対談のお話があるよりも以前の事。我々には徒に敵対する意思などありません。何とかこの度のお話、進めさせて頂く訳にはいかないでしょうか?」
「ふぅむ。つまり〈御使い〉が不在の
「は、はい。厚かましいお願いなのは重々承知しておりますが、シュン様は私達が必ず説得致します。どうか……」
「むぅ……」
アレクセイはしばらく何か考え込んでいたが、やおら顔を上げた。
「……そうだな。他ならぬリズベット嬢の頼みだ。最終的な判断は〈公爵〉達が下す事になるが、私も出来うる限り良い方向に話が纏まるように取り計らってみよう」
「あ、ありがとうございます、アレクセイ様……!」
「お二方もそれで構わないかな?」
ロイドとヴォルフも頷く。
「うむ、元よりクィンダムと『同盟』を結ぶ事が我等の目的だからな」
「ええ、僕達も頑張ってみますよ」
その答えに、固唾を飲んで見守っていたレベッカ達も破顔する。
「ありがとう、ロイド殿! 宜しく頼む!」
「ヴォルフ様……あ、ありがとうございます!」
口々に礼を述べる女性達。ロイドが手を上げる。
「さあ、それじゃ〈公爵〉達もお待ちかねだと思うから、そろそろ行くとしようか? そっち側の参加メンバーは?」
「あ、ああ。我々とロアンナ、それにフラカニャーナ達にも一応同席してもらいたいから、全部で8名だな。大丈夫だろうか?」
「8名か……天幕は広いし別に大丈夫だと思うよ。こっちはオケアノスのグスタフ殿を入れると全部で
「ん? 10名? ロイド殿達と各国の〈公爵〉で、全部で7名のはずでは?」
レベッカの疑問にロイド達が少し言いづらそうな雰囲気になる。
「ごめん、予定通りに行かなかったのは僕達の方も同じでさ……」
「? と言うと……?」
レベッカが重ねて問い掛けようとした時だった。突如凄まじい魔力が沸き上がり、それと同時に強烈な殺気が戦士隊の女性達に叩きつけられる。
「な――」
「あ、危ないっ!!」
叫んだのは誰だったか。ロイド達3人のいずれかだったと思われるが、それを特定している余裕など無くなっていた。
戦士隊のいる場所の丁度上空辺りに小規模の雷雲が発生したかと思うと、耳をつんざくような轟音と共に何条もの雷が落ちてきた!
落雷の魔法だ。
余りの突然な事態に隊員達は勿論、ロアンナや小隊長達ですら呆気に取られて反応が遅れた。為す術も無く死の雷が彼女達に降り注ぐ寸前、その頭上を半透明の膜が覆った。
落雷の轟音と視界を塗りつぶすような稲光に、戦士隊の面々は思わずその場にしゃがみ込んで目を覆ってしまう。
音と光が晴れて彼女達が恐る恐る顔を上げると、上空の雷雲は既に消えていた。自分達に何事もなかったのが信じられないように、自分や同僚の身体を確かめていたが、やがてそれが頭上を覆った半透明の膜――結界のお陰だという事を理解する。
結界を張っているのは……ヴォルフのようだった。
「ヴォ、ヴォルフ様!? い、今のは一体……!?」
「……下がっていろ、ライカ」
「……ッ!」
咄嗟にヴォルフに誰何しようとした莱香が息を呑む。ヴォルフの表情は厳しく、口調にも一切の余裕がない。
「――おやおや、クィンダムの下等な雌共と随分仲が良いようだな、ヴォルフよ? 〈市民〉も遠ざけて密談の気配ありと言うから、つい攻撃してしまった。悪く思うなよ?」
余裕ぶった厭味ったらしい声音と共に現れたのは、
「ダリウス……クロフォード伯爵……!」
その名前に莱香や他の隊員達もざわつく。先日のアラルの街襲撃部隊は、この〈貴族〉の差し金である事は既に皆が知る所であったのだ。ダリウスが鼻を鳴らす。
「ふん、お前は……ヴォルフの所を『脱走』した奴隷だな? その割には随分親しげではないか。なあ、ヴォルフよ?」
「ダリウス、貴様……
「何の事だ? 我々の奴隷調達を邪魔する害虫どもを、この機に駆除しておこうと考えるのは当然であろう?」
「……!」
害虫呼ばわりに女性達が色めき立つ。しかしそれを制して進み出る者が1人……
「ダリウス殿。
ロイドだ。その身体から濃密な魔力が溢れ出ている。どうやら怒りを抑え込んでいるようだ。ただしそれは害虫と言う言葉に対してではない。問答無用で戦士隊を攻撃した行為にこそ怒りを抱いていた。
「平時はどうであれ、今の彼女達は国を代表する正式な使節団だ。それを攻撃した貴殿の行為は、『対談』を決めた〈王〉への反逆行為とも取れる行いぞ?」
アレクセイも援護に加わる。他国の〈貴族〉にまで加勢されては分が悪いと感じたのか、ダリウスが不快気に肩を竦める。
「ふん! ヴォルフが絶対に防ぐと解った上での、ちょっとした挨拶みたいなものだ! 余計な口出しは無用に願おうか!」
ダリウスはヴォルフの方をキッと睨みつけた。
「覚えておけ……絶対に貴様らの思い通りになどさせんぞ!」
捨て台詞と共に
その後ろ姿を見送ってヴォルフが盛大な溜息を吐く。
「ヴォルフ様……なぜダリウス伯爵がここに……?」
クリスタが疑問を呈する。それは他の女性達皆に共通する疑問だった。
「……『公平性』の為だそうだ」
「え?」
「案の定というか、クィンダムと『同盟』を結ぶという行為に対して、各国でも反発する声が多くてな。そうした
「な…………」
女性達は一様に言葉を失う。改めて進化種の王国との溝や軋轢を思い知らされた形だ。
「各国とも〈公爵〉は基本的に中立の立場と言っていい。ならば反対の立場の者も出席させなければ『公平性』に欠ける、と言われれば〈王〉達も承諾せざるを得ん」
「何分急に決まった話で、君達に伝える暇がなかったのは申し訳なく思うよ」
ロイドも済まなさそうな声で補足する。
「で、では、7名から10名に増えたというのは、まさか……?」
リズベットが恐る恐るといった感じで確認すると、アレクセイが重々しく頷く。
「そのまさかだ。バフタン王国からはあのダリウス伯爵。我々アストラン王国からはフレドリック侯爵……」
「そして僕等ラークシャサ王国からはシラルム侯爵が参加を表明しました。奴隷の扱いにかけては我が国で最も非道な事で有名なお方です。彼に比べたらギルサンダーだって聖人みたいなものですよ」
「……ッ!」
ロイドの言葉にかつてギルサンダーの奴隷だったフラカニャーナが青ざめる。その卑劣さを知っているレベッカ、イエヴァ、ジリオラも同様だ。
「……フレドリックは、クィンダムへの襲撃をお気に入りのゲームのように考えている男でね。私とも度々意見の衝突があった。奴が反対派の代表なのは頷ける話だよ」
「…………」
アレクセイの言葉に、自分達が必死に撃退している襲撃をただのゲームなどと言われ、戦士隊の女性達は怒りに震える。
「ダリウスは……まあ深い考えは無く、とにかく私のやる事に反対したいだけであろうな……」
「ヴォルフ様……」
ヴォルフの疲れたような溜息に、クリスタが同情した様子になっていた。
レベッカはリズベットと視線を交わす。事態は想像以上に厳しいようだ。ただでさえシュンの不在及びミッドガルド王国の件があって危ういと言うのに、反対派などという連中がいるのでは、そこを徹底的に突かれるのは確実だ。
(……だがここで逃げてはカレンの言葉が正しいと証明する事になる。クィンダムの為にも……そして
レベッカ達は悲壮な決意を胸に、暗雲立ち込める『会談』へと臨むのであった……
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