第157話 オリエンテーション完了!
ジリオラの所は一風変わった小隊であった。この小隊では特に高い技術や能力は求められていなかった。では何に突出しているかと言うと……
「あ、ああ……! み、見て! レベッカ隊長が剣技の実演をなさっているわ! ああ、何て凛々しいお姿なんでしょう!」
と新隊員の1人がうっとりとした目でレベッカの方を見ているかと思えば……
「先程のイエヴァ様の模擬戦見ましたか!? きっとレベッカ隊長に比肩する強さですよ! それでいてあのクールな眼差し……ああ、あの目で虫けらのように蔑まれたい!」
と、イエヴァの模擬戦を思い出して1人で自分の世界に入っている者がおり……
「模擬戦と言えば、あのライカ様も相当な実力よね!? それでいてあの謙虚な感じが堪らないわよねぇ……何かこう、守ってあげたくなる、みたいな」
「守ってあげると言えば、ライカ様とクリスタ様の関係も捨てがたいわね! クリスタ様がライカ様を見守るあの瞳……まるで母親が娘の成長を見守ってるみたいで、見てるこっちも微笑ましくなるわよね!?」
「ああ……あのフラカニャーナ様の逞しい筋肉に抱かれてみたい……」
「…………」
舜は若干引いたような心持ちで小隊の様子を窺う。この小隊は身体能力や潜在能力、技術などに格別優れている訳ではないが、
熱意と言ってもクィンダムを守るという使命感よりは、何と言うか……多分にミーハー的な斜め上方向の
そもそも使命感に限っては、この戦士隊への入隊を承諾・志願した時点で、どの隊員も等しく持っているものであろう。要するにこの小隊はやる気だけはあるが、色々と空回りしている
「くぅ……な、何故ですの? 何故私がこんな浮ついた小娘共の面倒を見なくてはならないんですの?」
隊員達の様子を見ながらジリオラがぼやいている。
「し、しかも、他の面々ばかりで私に対する賛辞が一切無いように思うのは、気のせいかしらぁ?」
ジリオラの頬が引き攣る。するとその気配に目敏く感づいた隊員達がジリオラにすり寄ってくる。
「小隊長! 勿論一番素敵なのは小隊長ですよ! ねぇ?」
隊員の1人が同僚達に同意を求めると、他の隊員もウンウンと頷く。
「そ、そう? それは中々見る目がありますわね」
「そうですよ! ヴァーリンの闘技場でレベッカ様にボロ負けして〈貴族〉に処刑されそうになった所を、再びレベッカ様に颯爽と助けられたんですよね!? 羨ましいです!」
「しかも先の『侵攻』では、〈職人〉に手も足も出ずにボロ負けしそうになった所をリズベット様に助けられて、あの方に支えて貰ったとか!? う、羨まし過ぎます!」
「……何だか余り褒められてるような気がしないのだけれど……」
「気のせいです! 私達同じ女として小隊長に憧れて、あやかりたいと思っているんです!」
「そうそう! 小隊長は私達の
「そ、そう……? そういう事なら仕方ないですわ、ね? ……おほん! あなた達にレベッカお姉さまとの素敵な思い出を聞かせて差し上げますわ。感謝しなさい!」
「流石、小隊長! 待ってました!」
隊員達から黄色い歓声が上がる。その勢いに乗せられて気を良くしたジリオラはレベッカとの出会いから、かなり脚色された物語を隊員達に語って聞かせていた。
(……まあ、これはこれであり、なのかな?)
問題児ではあるが、彼女らとてきちんと選抜された神術の適性も持っている正規の隊員達なのだ。いざという時はちゃんとしてくれるだろう……多分。
後はレベッカの直属部隊だが、こちらはもう何も問題はないだろう。何と言っても旧戦士隊の指揮を一手に担っていた戦士長レベッカなのだから、実力、実績、知名度、経験いずれも申し分ない。事実直属部隊の隊員達は、レベッカの直属になれた事を誰もが非常に喜び、感動すらしている様子であった。
ここの隊員達は他のどの小隊の条件にも当てはまらない、いわば平均的な性質の者達であった。突出した特徴はない替わりに目立った弱点も無い、いわゆるオールラウンダーという奴だ。その意味では旧戦士隊の隊員達に近いかも知れない。レベッカとしてもその指揮や教導はお手の物だろう。副長のミリアリアもここの所属なので、増々旧戦士隊の色が強い部隊である。
そんな中、レベッカが自分の部隊のオリエンテーションを終わらせると、演台の上に登って大きく手を叩く。練兵場にいた全ての隊員達の注目を集めると、大声で話し始める。
「よし! 皆、日も暮れてきたし、顔合わせはここまでとする! 小隊ごとの訓練内容とスケジュールは各小隊長に任せるが、戦士隊の初回の合同訓練は3日後とする! それまでしっかり英気を養っておくように! それでは解散!」
レベッカからの号令を受けて、本日のオリエンテーションはお開きとなった。新隊員達は今日の興奮を語り合いながら思い思いに帰路に着く。そのまま家路に着く者もいれば、仲の良い者同士で酒場に繰り出す者達もいるようだ。
フラカニャーナの小隊も何とかトレーニングメニューをこなせていたし、他の小隊長も流石に今日明日から即訓練開始という事は無いようだ。
「皆もご苦労だった。これから色々あると思うが皆と一緒なら乗り越えていけると思っている。どうか宜しく頼む」
残った小隊長達やミリアリアに対しても頭を下げるレベッカ。
「はっ! よしなって、水臭い! あんた達には色々と借りがあるんだ。あたし達もこうして取り立てて貰って感謝してるんだよ?」
フラカニャーナが豪快に笑ってレベッカの背中を叩く。イエヴァもそれに頷く。
「ええ、あくまでよそ者だった私達に居場所を作ってくれた。この恩は今後の働きで返す」
「ちょっと小隊の人選に思う所が無い訳ではありませんが……すぐにお姉さまのお役に立って見せますわ!」
ジリオラも顔を赤くして意気込んでいる。
「わ、私も任命されたからには精一杯頑張るつもりです! こちらこそ色々とご迷惑をお掛けするかも知れませんが宜しくお願いします!」
「ふふ、そうね。ライカさんもすっかり頼もしくなったし、私も皆さんに負けないよう本腰を入れてみるつもりよ」
莱香とクリスタもそれぞれに抱負を語る。レベッカが感動して涙ぐんでいる。
「み、皆……すまん! 一度は失態を犯した不甲斐ない隊長かも知れんが、精一杯取り組ませて貰おう! 改めて宜しく頼む!」
「おう、任しときな! どうだい? 隊員達も飲みに行ってる奴等がいるみたいだし、あたしらも一丁お疲れ会と行かないかい!? どっかいい店は……」
フラカニャーナがそう言い掛ける所に、ミリアリアが咳払いを被せる。
「おほん! ……実はそうおっしゃられるだろうと予期して、人数分でお店を予約してあります。皆さんのお気に召すと良いのですが……」
「あらぁ? 気が利きますのね? てっきりあなたはそういうのには反対すると思っていましたのに、どういう風の吹き回しかしら?」
「そ、それは、まあ……私とて慰労という物が全く無意味だとは言いませんし、それに……」
ジリオラの問いに、ミリアリアが何故か舜の方をチラッと見てから、恥ずかしそうに視線を伏せる。舜はキョトンとしたが、ジリオラはその視線の意味が解ったらしく、若干顔を赤らめて上擦った声になった。
「あ、ああー……な、なるほど……。そういう事でしたら、まあ……」
「さ、さあ、皆さん、準備が出来たらご案内致しますので、どうぞ」
ミリアリアは顔を赤らめつつ、さっさと歩き出してしまう。他の面々も異論はないらしく、ゾロゾロとその後について歩き出す。一方で舜は先程のミリアリアの様子と視線の意味について考えていた。
(い、今のってまさか、ミリアリアさんも俺の事を……?)
オケアノス王国でのロアンナの台詞が思い出される。彼女によるとミリアリアも以前から舜の事を好いていたのだと言う。
「…………」
そう言われれば思い当たる節はある。舜も今や莱香を含め、3人もの恋人と付き合っている状態だ。そうそう昔のままの朴念仁ではいられない。
(いや、でもまさか……)
それでももしかしたら自分の自惚れではないかという疑問や不安が拭えない。
(とりあえず行ってみるしかないだろう。もしかしたら自分の盛大な勘違いって可能性も無い訳じゃないし……)
自分でも余り信じていない事を思いながら、舜も女性達の後を追いかけていった……
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