第五章 神人
第153話 宿敵
彼――松岡英樹は退屈であった。
今、松岡はニブルヘイムの王城にある大きな寝台に全裸になって仰臥していた。寝台はかなり大きな造りであったが、それでも優に2メートルを越える巨体である彼が寝そべるとかなり手狭に感じた。ましてや今その寝台の上にいるのは松岡だけではなかったので尚更だ。
他に3人ほど……両手を後ろ手に縛られた、やはり全裸の女達が同衾していた。女達は不自由な身体をくねらせて必死に松岡に「奉仕」を続けている。
「…………」
最初の頃は彼にとって夢のようなこの環境に興奮したものだ。それこそあらゆる欲望を満たした。〈王〉としての強大な魔力と権力がそれを後押しした。
だがそれも何年も繰り返していれば流石に飽きる。
松岡はゆっくりと手を伸ばすと、女達の1人の首を鷲掴みにした。
「ひっ!?」
捕まった女が引きつった悲鳴を上げる。松岡は構わずに手に力を込める。女が足をバタつかせて必死に暴れるが、勿論松岡にとっては毛ほどにも感じない儚い抵抗であった。
やがて女の顔が真っ青になり、口から泡を吹き始める。他の2人の女は恐れ
「…………」
松岡は気紛れに手をパッと離す。吊り上げられていた女の身体がストンと落ちる。
「げほっ! げほぉ! かはっ!!」
間一髪で窒息から免れた女が必死で酸素を取り込んで涙目で喘いでいる。その様を見ても何も感じなかった。罪悪感は勿論、興奮も何もだ。ただ無感動にその様子を眺めていた松岡は、魔力を放って部下を呼び寄せた。
そう待つ事もなく部屋のドアが開かれ、配下の〈
「お呼びでしょうか、陛下?」
「ああ、もうこいつらはいい。連れていけ」
するとその〈貴族〉は少し困ったような顔をした。
「陛下……まだ3日目ですぞ? もうこのニブルヘイム……いやミッドガルド王国中を探しても、陛下がご満足頂けるような女はもうおるまいかと」
配下の苦言に小さく苦笑する。どんな女もすぐに飽きてとっかえひっかえしていた結果、冗談抜きに国中の奴隷を抱いてしまった。だが……駄目なのだ。どんな女を抱いても、もう全然満足できなくなってしまった。
そもそも奴隷の女達はどいつも反応が似たり寄ったりでつまらないのだ。元が平民であろうが王侯貴族の令嬢であろうが、そう大差はなかった。どいつもただ怯えて隷属するか、松岡に
それでも最初の内は、色々な趣向を凝らす事で楽しむ事が出来たのだが、それらもやり尽してしまった感がある。他国から買った奴隷でも同じ結果であった。奴隷根性が染みついた女では駄目だ。
松岡はそこまで考えた時、数か月前にラークシャサ王国から取り寄せた活きの良い奴隷の事を思い出した。『侵攻』によって獲得したらしい、あのクィンダムの【
何と反抗されたのだ。新鮮な体験だった。その時つい反射的に殺してしまったので、蘇生魔法で生き返らせた後はすっかり怯えて従順になってしまいすぐに飽きてしまったが、あれは中々得難い体験となった。
「そう言えば、アグナス。クィンダムに
「は……先日オケアノス王国の〈女王〉を打ち破って、要石の一つを破壊したそうですが……」
「ああ、
赤銅色の〈貴族〉――アグナスが嘆息する。
「はぁ……何でもラークシャサ王国から帰還した戦士長レベッカが、剣闘士であった女奴隷達を何人か連れ帰ってきたそうです。灼熱人や氷雪人までいるとか」
「ほう……そいつは随分
「私が聞いた限りでは……陛下のご期待に沿えるかと」
「ほう……!」
それを聞いた松岡が喜んで身を乗り出す。アグナスが溜息を吐くが、それには構わず松岡は妄想を膨らませる。
(灼熱人か……
進化種と常に戦いを繰り広げる、気高く美しい女達……。間違っても奴隷の女共のような反応はしないだろう。存分に松岡を楽しませてくれるはずだ。それに加えて……
(九条莱香……。まさか
彼女の事を考えると胸が苦しくなる。
――松岡君ね? 私、2年の九条莱香! 宜しくね!
――生徒会に入ってくれてありがとう! 皆でこの学校をより良くして行こう!
それは色あせる事のない、甘酸っぱい記憶。九条莱香は松岡の……
彼女を追うように生徒会に入り、共に2年間を過ごしてきた。そして彼女が卒業する卒業式の日……松岡は莱香に告白した。
――ま、松岡君の気持ちは凄く嬉しいんだけど……ご、ごめんなさい!
――わ、私、その……他に好きな人がいて……。松岡君なら私なんかより素敵な彼女をすぐに見つけられるよ! 保証する!
失意のまま柔道に打ち込む日々。そして高校に入ってから、悪友の浅井から聞かされた衝撃の事実。
――莱香の幼馴染の存在。彼女の
(莱香……今度こそお前を手に入れて見せるぜ。今の俺にはその『力』があるんだからな)
松岡がその目に妄執の光を宿らせていると、アグナスが若干言い難そうに咳払いした。
「おほん! あー……それに関連して他にもご報告が。間諜によると、どうやら戦士長レベッカ、狩人ロアンナ、そしてライカ・クジョウの3人が、あの〈御使い〉と正式に恋人同士になったのだとか……」
「……何だと?」
それを聞いた松岡の瞳が一瞬怒りに燃え上がり掛けるが、すぐに良い趣向を思いついて逆にニンマリと口の端を吊り上げる。
(くくく……そいつはおあつらえ向きだな。女達をまとめて俺の物にして、尚且つシュンの奴に精神的に計り知れないダメージを与えてやれる。まさに一石二鳥って奴だな)
「へ、陛下……?」
1人で嗤っている松岡の様子に不安を感じたアグナスが恐る恐る声を掛けると、松岡は視線をアグナスに戻した。
「ああ、何でもない。そろそろ
「……! では、いよいよ……?」
「ああ……ロキ様の計画を実行に移す時が近付いてきている。他の〈貴族〉達にも通達して準備させとけ。近い内に……『祭り』が始まるぞ。このイシュタールを丸ごと『贄』に捧げる祭りがな……」
「畏まりました。すぐに準備を進めさせておきます。それでは……」
アグナスは一礼すると、女達を連れて退室していった。松岡は寝台から立ち上がり、窓際まで歩いていく。外は相変わらずの冬景色だが、街の中にいる限り寒さを感じる事は無い。松岡がその膨大な魔力で街中を常時結界で覆っているからだ。
「……もうすぐだ。シュン……俺達の因縁も、もうすぐ終わる。俺とお前、最後に笑ってるのは果たしてどっちか……その時を楽しみにしてるぜ」
松岡の目に眼下の街の様子は入っていなかった。彼の狙っている女達を侍らせて、慟哭する舜の胸に剣を突き立てる……。そんな光景を想像しながら、松岡は久方ぶりに股間を激しく怒張させるのであった…………
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