第6話

「お初にお目にかかります。レマリア皇帝陛下、ササン朝ペルシス王の娘サラと申します。神の代行者である救世主教の地上の父にお会いできたこと光栄に存じます。」


「よろしい。下がりたまえ、部屋に案内させよう。」


「サラ殿下こちらへ。」


「あ、あの?」


「何かね?」


「お父様を助けてくださるのですよね?」


「救世主教徒では無いとは言え、その父だからな。」


嘘である。

ファールス王は異教徒ながら同盟相手、北突も信仰心が厚いとは言えないとはいえ救世主教国の一角。戦争する意味が無い。


「疲れただろう。休みなさい。」


北突撤退。レマリア帝国領返還。

ファールス王国対ササン朝停戦。

レマリア皇帝直々の外交によりササン朝ペルシスは助けられた事になる。ササン朝ペルシス王ハッサン一世はレマリア帝国帝都ビザンテュオンに出向き宮殿で謁見した。


「久しぶりだな。ハッサン一世。」


「久しぶりですな、レオ陛下。」


ここには講和会議として俺の他に北突の伊朗可汗、ササン朝ペルシス王ハッサン一世、ファールス王ダレイオス二世、その他レマリア皇帝から個人的に招かれたササン朝ペルシス辺境領主達。これだけの面々の前で俺が呼び捨て、ハッサン一世が俺を陛下と呼んだ事から力関係はかつてのソレとは異なることを示す。


「救援に感謝申し上げる。」


「気にするな、対価は充分に貰っている。」


政治的に失った領地を兵の1人も死なせること無く回収し同時に外交的権威を高めた。


「それでは戦後処理を始めよう。まずは伊朗可汗。貴殿にはわが叔母の夫となって欲しい。」


「その代わり、領土要求はしない。それで構わんよ。レオ皇帝。」


「ファールス王にはバーラト方面の領土を承認し、現領土の全てを貴国の領土と記録しよう。」


ファールス王は外交的にはこちらの下につくが基本的には同盟国である。旧領回復後は旧西レマリア帝国領土の奪還を目標としている。が、1代で解決する気は無い。皇帝最高権限インペラートルの継承魔法により、ハイ・ダークエルフ皇帝の寿命は300年を超える、平均として350-400年ほどだ。それ程あれば、東レマリア帝国の旧領奪還程度は可能だろう。


「この後、晩餐会に参加してもらおう。」


誰からも拒否されることはない。

ササン朝には適度に弱体化して欲しいが帝国西方の不安定化は望んでいない。

伊朗可汗は兎も角、ファールスもそれは同意している。政治的にササン朝への宗主権とペルシスの統一は取り下げられないが、かと言ってササン朝と正面からやり合う国力は無いのである。


「インペラートル及びシャー・ハン・シャーレオ二世陛下万歳!」


兵士達が叫び始める。宮殿の眼下に広がる広場に集まる兵士達の声だ。シャー・ハン・シャーは諸王の王を意味する君主号で我々東レマリア帝国皇帝の正確な君主号インペラートルに等しい称号であり、ペルシス圏において宗主権を獲得した事になる。東方同盟を建て、盟主に俺をつける。

まさに外交芸術の様な物だ。

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