第5話

「さて、現在ササン朝はこちらに干渉できない訳だ。つまり、現在我々は東方及び北方でフリーハンドを得た。クルーミアを回収しマジャル属領まで接続する領地を獲得する。」


「つまり?」


「カウカーソスを北上しクルーミアを獲得植民都市を造ってマジャル属領まで接続する。ほぼ全ての軍団を率いて制圧してこい。任せるぞダリオン」


ブルガロン戦で経験と勝利の味を覚えさせた使える程度に質を上げた将軍達に任せて遠征させる。その間に俺は充足し訓練がある程度完了した、1個中装騎兵カタフラクト軍団、歩兵軍団2個、1個弓兵軍団、1個軽騎兵軍団を訓練がてらアラディン半島を全土を席巻する。南方には帝国の支配域に入っていない諸部族がいる。救世主教化も目的の1つだ。


「はっ、私の名誉に賭けて完遂いたします!」

「たわい無い。」


「陛下?」


「いや、つまらんと思わんか?」


帝国総人口現在約2300万。人間系が約半数の約1000万、獣人系がそれに次ぐ約800万、残りが約500万エルフ系である。エルフと獣人は男女共に寿命が長く区別なく徴兵に耐えられる。人間の徴兵数が17万、獣人80万、エルフ20万。計117万程ではあるのだが、その全てを動員できないし、生産や物資も間に合わない。食糧は整備した軍用道路沿いに保存魔術を掛けて備蓄されている為に機動力は高いが現在はブルガロン全土併合の影響もあり財政は一時的にとはいえ微妙な状況。

そこで武器を自弁としながらも半農半兵の歩兵のみで構成される屯田兵を国境沿いに配備した。普段は耕作に勤しみ基本的な訓練のみを施し敵軍の来襲を知らせるのと最低限度の防衛のみならこれで十分。

徴兵人口外からも採用できる為に多方面からの反発もゼロに近い。


最後の砦を坑道戦術で崩し降伏させた。所要時間は僅か2週間。上々だ。


「よし、エルシュレムに帰還するぞ!」


伝令が走り、着々と帰還が開始される。既にある程度を制圧した時点で官僚達が送り込まれ統治政策を開始している。


「陛下、ダリオン将軍より伝令。マジャル属領へと到達、軍政官と1個歩兵軍団をのみを残し、帰還を開始すると!」


「結構だ!帝都ビザンテュオンで会おう。」


先行していたダリオン遠征部隊は一月か。

既に手配された海軍が帝都への帰還を支援しているしエルシュレムから帝国海軍が輸送する。



「陛下!ササン朝より援軍を要請するとの使者です。」


宮殿の玉座の間。玉座に君臨するのは勿論我が婚約者レオ二世陛下だ。ササン朝よりの支援要請に応える義務はこちらには無い。


「サラ殿下をこちらに寄越すこと、そちらが不当に占拠し続けている帝国領土の返還を条件だ。サラ殿下の帝都到着を以て俺が行動を始める。ウィレム。」


「はっ、皆様方に共有していただきます。陛下は既に北突と交渉しサラ殿下がこちらに来れば、即時全兵力を引く用意があります。代償としてこちらは陛下の叔母上を可汗に妻として送ります。更には同盟を強化します。ファールス王国にはバーラト領土の領有を承認しササン朝にペルシス領土を全て放棄して頂きます。拒否した場合はササン朝と我が帝国軍が共闘し粉砕します。既に返答済みで、1週間前に帝国領内へと入りあと数日で帝都に到着するでしょう。帝国軍本隊は海軍により輸送が始められササン朝との国境に集結しております。」


「ササン朝の民衆からすれば、敵を威光のみで引かせ、ファールス王国を蹴散らす強い援軍が来るという事ですか。」


「それは二次的な要素だ。ササン朝ペルシスは封建制だ。つまり、我々はササン朝ペルシス貴族の北突及びファールス国境領主達に大きな恩を売れる。」


「その後に…?」


「その通りだ。ファールスを喰らう。北突に与える。そうすれば我々とササン朝ペルシス

は良い同盟国になれると思わんか?三国同盟ともなれるだろう。」


成程、一手も間違えられない緻密な謀略。

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