第4話

スコピエンヌに翻る双頭の鷲。二頭立ての馬車を大通りを堂々と走らせた。

上層部は兎も角、下位層には弱肉強食が染み付いているし、平民たちにとって基本的に統治者はどうでもいいのだ。


「親愛なる、我が犬共。」


スコピエンヌに築城されたスコピエンヌ宮殿。更に北にはビオグラード城塞が築かれ蛮族から帝国を護る鉄壁と成る。

項垂れる各氏族の新長達。旧長は全員斬首、成人した長子も処刑した。戦後処理は基本的にそれで終わらせ、ブルガロン人から中装騎兵カタフラクト軍団を2個編制し訓練中である。次の敵は恐らくササン朝ペルシス。

広大な平原が広がるあの場所は騎兵が鍵となる。


「氏族長」


「はっ?」


「貴様らは馬の育成に長けている。レマリアからの離脱を考えず延々と馬を育てろ。コトルミア氏族を統括役として任ずる。余の忠臣よ。」


コトルミア氏族のみは氏族長は処刑されていない。戦前から裏切ってこちらに着いていたからだ。


「エドー・エルビス総督の監督に従うように。」


皇帝衣を翻して俺は去る。ビザンティオンへと帰る。


「陛下!ササン朝からの書状です。」


「読もう。」


宦官の手から書状を取り、広げる。神経質そうな文字で要約すれば貴国と縁談を結びたいとある。


「誰だ?」


「救世主教徒でハッサン一世の娘のサラ殿下かと。」


「ファールス政策か。」


「陛下それは?」


「読め。」


カタリナへと書状を放り投げる。読み終えたのを確認し口を開く。


「ササン朝は現在ファールス侵攻を始めている。今までは弱体化著しい我々等警戒の必要もなかったし攻める意味も無かったが、俺が打ち立てた国土回復運動にはササン朝の領土も1部含まれているし、実際ブルガロンに勝利してしまった。故に国土回復運動は政治的パフォーマンスでないと証明されてしまった訳だ。」


「成程、それでは陛下どう為さるおつもりですか?」


「単純だ、マルクス。会談を申し込め。見合いだとな。カタリナ悪いな。」


「いえ、貴方の思うがままに。」


後で何か対応する必要ができた。


東レマリア帝国とササン朝の国境線に存在する河川の中洲。両国の会談は大抵ここで行われる、中立領だ。


「お初にお目にかかる、東レマリア皇帝。」


「こちらこそだ。ハッサン一世。」


浅黒いサウスエルフ系の肌。長身と若い頃はさぞ女子からモテたであろう、容貌。

威厳に充ち、自信満々である王の姿がそこにはあった。


「単刀直入に行こう。レオ二世、私は貴方と縁談が結びたい。」


「無条件と言う訳にはいかないな。第一に私には正妃のカタリナが居る。副妃になる。」


「それが条件かね?それなら問題は無いとも。」


「分かっているはずだ。貴国が保有する東レマリア帝国旧領全土返還を求める。交渉する気もないし譲歩の可能性は微塵もない。」


「はい、分かりましたと受け入れる訳にはいかんな。」


「ならば、戦争しかあるまい。因みにだこちらの書跡に見覚えは無いかね?」


書状を放り投げる。ムッとしたハッサン一世は臣下に拾わせひったくる。


「…ファールス王の筆跡か。」


「済まないな。レマリア語は分からないだろう。内容は我々東レマリア帝国とファールス王国の同盟を締結する文章だ。」


現在かつてのアケイメネス朝ペルシスはクーデターにより王朝を奪取したササン朝とアケイメネス分家が王家となっているファールス王国に分裂している。東レマリア帝国はササン朝は対立関係であり、直接接敵していないファールスはササン朝と敵対関係ということもあり敵の敵は味方理論でこちらと最低限の友好関係はある。それを強化し同盟となった訳である。今回はたまたまこのタイミングだが、本来はササン朝への侵攻までの明かさない手筈であった。

つまり、ファールスはこちらに旧領を返す代わりにこちらが消耗戦を繰り広げているあいだに背後の一突きを担うという予定だった訳だ。


「ハッサン一世、貴方は現在の我々とファールス、を相手取って勝利する自信はあるか?私見だがそうなれば、北からも北突が侵攻すると思うが兵力の当ては?」


「…なかった事にする。帰るぞ。」


「どうぞハッサン。貴国に帰還するまでは我々は攻撃しない。」


悔しげな表情。俺を若僧と侮った時点で結果は見えている。


「陛下!あれは一体?」


「カタリナ、分からなかったか?単純だ、アレは若僧だから儂の娘でも宛がっておけば思い通りになると思ったんだよ。」


唖然するカタリナ。まあ珍しい表情だ。


「なんて無知な…」


「傍から見ればそうだろうよ。これからが俺の芸術とも言うべきものを見せてやる。」


「…また悪巧みですか。」


「…言うようになったな。」


前よりキツくなったように感じるが気のせいか?

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