第2話

「面を挙げよ。直答許す。」


「…はっ。」


豪華な玉座に鎮座する若き皇帝。その前には救世主教徒では無いダビデ教徒や預言者教徒が集められていた。救世主教の頂点であり、神の地上の代行者である東レマリア皇帝の気分次第では異教徒の彼らはかんたんに死にかねない。

だが、彼らが全く想像もしていない言葉が飛び出す。  


「諸君らは金貸しなどを営んでいる筈だな。要望がある、東レマリア帝国に投資し給え。」


彼らは金融ギルド所属の商人たちであった。宗教的に金が不浄のものとされ金融関係の職業は異教徒である彼ら以外には営むものが居ない。

その点投資とは革新的であり、商人的な思想は危険ですらある。


「陛下、我らその話に乗らさせて頂きます。」


抑圧され、差別を受ける彼らには降り注ぐ一筋の光明に見えた。

それが例え甘美なる悪魔の誘いであろうと。


統一歴617年東レマリア帝国帝都ビュザンティオン元老院


「諸君、久しぶりだ。今回諸君を招集したのはこの事を伝える為だ。余レオ二世は国土奪還戦争を開始する。目標はマケドニア属領。エルビス議員、貴殿の故郷だ。」


元老院最古参の議員であり、派閥問わず人柄をもって尊敬を集めるエドー・エルビスの目に涙が浮かぶ。先代皇帝はマケドニア属領へよ侵攻を無理だと拒否。それで元老院やエルフ系の有力者からの支持を喪失したという経緯がある。


「エルフ系の諸君。貴殿らは知っている筈だ栄光のあの頃を。普人系の諸君。諸君らには東レマリアの栄光への回帰をその目に焼き付けて欲しい。獣人系の諸君、貴殿らの精強さを余に見せもらおう。」


エルフ系のノスタルジーを煽り、ヒトの興奮を煽り、獣人系の示威欲を煽る。

若き皇帝は身振りや視線、話す時の抑揚や口調を使役し若い貴族たちは簡単に熱狂した。

更に油を投入する。


「諸君、我が父祖ハーキュリーズ3世陛下ですら成し遂げられなかった偉業、我らで成そうではないか!」


東レマリア帝国元老院は数百年振りに全会一致で国土回復戦争に賛成。すぐさま出兵が始まった。


「陛下、どう為さるおつもりなのかしら?」


正妻のカタリナは問い掛けてくる。


「先帝陛下は優秀だった。外交において常にレマリア皇帝による一方的且つ寛大な譲歩と言う姿勢を崩さなかった。更にブルガリアンの野蛮な騎兵には貢納金は最適だ。何故だと思う?」


「…分配での分裂?」


「それもある。臣下との関係は皇帝と奴隷と称される我が国とは違いかの国の国王は他の氏族の族長を呼ぶ時我が友と呼ぶ。カタリナは何もかもを独り占めにする友人は好きかね?」


「有り得ませんね。」


「更にだ、金を使える貨幣経済の国は近くにどこが有る?」


「我が国は金貨。ササン朝は銀貨であるし、北部には未開地が拡がっている。そういう事ですか。全て我々に帰ってくるのですね。」


聡明だ。素晴らしい。知性と聡明さ、なんでも受けいれ学べるハングリー精神は霊長の頂点たるエルフ系や獣人系、普人系の人類種の最大の良所だ。


「…悪どいですね。」


陛下は早かった。数日以内に軍を国境に展開すると即時経済封鎖。更に部隊を北部未開地に送りマジャル属領を設置、現地のマジャル人を従え軽騎兵軍団を編成し牽制する。海軍はアドリア海を抑え、敵対するヴェニス共和国の物資輸送を防ぐ。


「更には臨時混成分遣隊軽騎兵2500、歩兵2500、長弓兵500は北方で800騎を打ち破り、負け続けの帝国に希望を与えた。です

か。ほぼ戦うこと無く、2個の氏族をこちら側へと引き寄せた手腕は単純に評価できるものです。」


と少し誇らしげに、恋する少女のような顔で呟く。

因みにそれをメイドに見られ赤面するのは別の話だ。

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