帝国再興の英雄皇帝

佐々木悠

第1話

地中海と言う内海がある。そこに大陸から突き出したペニシア半島がありそこを本土とする一大帝国が古代には存在した。その名をレマリア帝国と言う。

建国時は共和制に始まり覇権を獲得しその時代はレマリア帝国による平和、パクス・レマリアと称された。

それも今は昔である。かつての東方領土、それもギリシアとアナトリア、ミスライムにシューリアのみしか維持していない東レマリア帝国は旧西方領土においては蛮族によって支配され国土を侵食され、名目上の宗主権しか保有していないのである。

そんな斜陽の帝国の帝都ビザンテュオンは人口75万人、三本の交易路の合流点に位置し、天然の良港を有するそれなり以上に有益な都市である。

東レマリア帝国は常備軍は1個軍団を1万とし、長槍兵とハルバード兵の歩兵2個軍団、ロングボウの1個軍団、重装機兵クリバナリウス1個軍団の計4万が存在する。

その様な亡国寸前の東レマリア帝国に後世大帝、英雄皇帝として尊敬され尊崇を集める神として信仰される名君レオ二世が即位した。


「俺が皇帝とはな。世も末だ。」


「実際その通りでしょう。東レマリア帝国は既に斜陽の帝国です。」


俺の独り言に答えるのは俺の侍女のカタリナ。相変わらずの毒舌。


「嫌がる俺を無理矢理皇帝にしたんだ。好きにさせて貰う。」


「…そうでなくともご自由に為さるのでしょう。」


俺は数年前に実用化された木から出来た紙に書かれた財政健全化案を放る。


「これは、反発は激しいでしょう。」


「この国は皇帝の俺と奴隷しか居ないのだぞ?更に損をするのは金持ちや貴族だけ。常備軍は全て俺につくし、市民軍も何とか出来る。」


東レマリア帝国の政治体制は俗に皇帝と奴隷と言われる。

それだけ、皇帝の権力は絶大である。

レマリア時代の名残から市民から徴兵される常備軍と訓練を施され、有事には招集される市民軍が存在しそれは大きな支持基盤ともなる。

権力が絶大と言えど丸腰では武器を持った雑兵にも適わないことはある。あまり市民の反感をかうべきでは無い。


「成程、貴方が無駄に意味の無い事を言う時は勝算がある時だけですからね。」


「そう言うことだ。全ての重臣と文武百官を招集しろ。」


「承知しました。我が主ドミヌス


「おはよう、諸君。俺が新皇帝レオだ。諸君らには1つ最初の命令をだそう。税制改革だ。先ず廃止する税を発表しよう。人頭税、出店税そして塩の専売だ。」


「恐れながら陛下。それでは財政がままなりません。」


若い、1人の文官が立ち上がって言う。


「その通りだ。君の名前は何だ?」


「マルクスでございます」


「マルクス、覚えておこう。土地税と職種事に組合を作らせ純利益から10パーセントを納付させる商業税を代わりに導入する。密造塩は免罪とする。その代わり組合を作らせるのだ。」


幾人の文官が素早く計算に入ったのが見て取れる。暫く虚空を見つめているとふと目に意識が戻りこちらへと返答を返す。


「確かに合理的だと存じます。陛下、何を為さるおつもりですか?」


「まず、歩兵軍団1つ、ロングボウ兵の軍団を1つ、重装騎兵軍団を1つ増やしたい。一応は2年かけるつもりだ。その後は今は秘密だ。」


試算では、改革を遂行すれば充分どころかお釣りが来る計算である。

つまりは官僚が何処まで真面目にやるかの問題だ。


「分かりました。それでは陛下他に何がございますか?」


「我が婚約者についてだ。カタリナを婚約者とする。」


カタリナを俺は気に入っている。美人だし俺と同じ純血のハイ・ダークエルフだ。第一皇帝の筆頭侍女とは婚約者の内定に他ならない。つまりは俺がNoと言えば断れなくも無いが政治的に波風を立てる必要が無い。


そう宣言すると官僚と武官は退出する。そして俺はカタリナを引連れ、執務室へ帰るのであった。


「ビザンテュオン改造計画ですか?」


改革開始から一年後、財政健全化は順調に進んでいる。試算通り、黒字歳入に変わり、国庫にもかなりの金が溜まっている。

帝国軍も三個歩兵軍団、二個弓兵軍団、二個重装騎兵軍団が充足し訓練をしている。


「ああ、上下水道を整備したい。首都の景観を保持し、疫病を防ぎたい。」


マルクスを行政長官に任命し、俺の補佐を任せている。官僚組織への給料を上げた事で反発は少なく改革を進められている。


「成程、それは確かに必須ですね。その後にはミスライム属州の大運河の灌漑工事を行いたいのです。」


「勿論だ。俺もそう考えている。それは3年以内に終わらせてくれ。3年後領土復興に動く。それまでには根回しは済ませる。」


そう言うとマルクスは一礼し立ち去る。

隣の部屋からカタリナが入ってくる。前に紅茶を置くと向かいの席へと座る。


「思った以上に順調なのですね。」


「当たり前だ。俺のする事だぞ。」


嗚呼、真に彼を、皇帝レオ二世を評するならば比類なき天才で比類なき傲慢だろう

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