後日談《じらいのはなし》
みなさんこんにちは。先日、学園の卒業パーティーにて畏れ多くもクラウド王子に公開プロポーズしていただいたあの雌豚です。あれからもうね、私の生活は百八十度変わっちゃったよね。そもそも、私は今まで王子を立派な
今日は王宮作法を指南してもらうはずだったんだけど、指導係のミレイヤさんが体調不良で急遽お休みに。だから仕方なく……そう、することがないから仕方なく……。
「はぁぁぁ……! お仕事に専念するクラウド様っ……アンニュイなその美しい瞳で冷たく見下され蔑まれたい……!」
仕方なくというのはもちろん嘘で、私はノリノリで柱の隙間から王子を垣間見、ストーキング。今日も尊く美しい私の前世からの推し……最高オブ最高。
「……なにをしてる」
「ひぃ」
わわ、さっそくバレた。王子は目を細めてこちらに向かってきて冷ややかな視線を……。ハァ……その目……最高か………。あ、後ろには側近のグレン様もいる。
「ライラ、またサボりか」
また、と言うのは以前修行中に我慢できず王子を眺めに行ったのがバレたことがあったから。あの時は各方面からお叱りを受けた。もちろん王子にも……うへへ。で、でも今日は本当に違うのに!
「え、冤罪です! 今日は急遽ミレイヤ夫人がお休みになったのでフリータイムなんです! だからこうやって物陰からこっそりストーキングを……!」
「……全然こっそりできてなかったけどな。そんなくだらないことをする暇があったらもっとすることがあるだろう!」
「えぇーないですぅ」
あっても今日はやりたくないですぅ。王子を垣間見萌え萌えしたいですぅ……!
「はぁあ? 君は僕があの時どんな気持ちで皆に君とのことを話したと思ってるんだ。卒業したらすぐ婚姻の儀をする予定だったのに……蓋を開けてみたら君は全然準備してなかったし……待たされるこっちの身にもなりなさい! お馬鹿!」
早口でまくし立てる王子。尊い。すると王子の美しい指先がおでこにコツンと当たった。……うはっ! デコピンいただきました……! ご馳走様です!
小さな額の刺激に鼻息を荒げた私を見て、王子はげんなりした顔をした。あぁそういうお顔も素敵……! 圧倒的美……!
「まぁまぁ、殿下。ライラ嬢も息抜きが必要でしょう。ね、ライラ嬢?」
そう言ったのは王子の側近のグレン様。グレン様はニカッと太陽のように笑った。
実はグレン様も前世でやりこんだ乙女ゲームの攻略対象だったりする。あんま好みじゃなかったからグレンルートは一回しかやってないけど。
……と言うか、私はさっきから気になっていることがある。グレン様の手。そうさっきからグレン様はクラウド様の肩に手を回している。距離が近い。王子はいつものことみたいに普通って顔してるし。ぐぬぬ……悪気はないのは分かってるけど……仲が良いのはいいことなんだけど……。実はこのコンビ私はあんまり……と言うか本能的に避けたい組み合わせ。うぅっ……なんでもいいからグレン様、早くその手離して早く。
前世での乙女ゲームオタク界隈には私のようなどうしようもない雌豚でさえ存在したから、人によって色々な嗜みがあっていいとは思ってた。例えそれが『ボーイズラブ』でも……。
でもやっぱり私はクラウド様ガチ恋の夢豚。どうしても、どーしてもグレン×クラウドのカップリングだけは
クラウド様は色白で美人系な美形に対してグレン様は褐色短髪でガタイも良くて男前な美形って感じで二人とも一緒にいればそりゃ絵になる。それは分かるけど……やっぱり駄目だわ。クラウド様は私の
「グレン、この変態をいつまでも甘やかしては駄目だ」
「わー殿下きっつい。なぜライラ嬢には素直になれないんです?」
「なぜって……これはライラの自業自得だ。余計なことをする暇があったら時間を有効活用するべきだろ」
「あはは、そう言うことを言ってるんじゃないですよー」
ううっ……やめて! 私の前でイチャつかないで!
これはもう俗に言うNTR……。辛い無理……私の推しが……。そういうプレイだと思えばある種興奮するかもって一瞬思ったけど、やっぱ駄目だ。私そこまで高度な変態じゃなかった……。この感情は何? 地雷カップリングに対する……憎悪? 嫌悪感? ……もしかして、嫉妬? ……し、嫉妬だなんて私ごときの存在でなんと傲慢な……雌豚の風上にも置けないわ……。うっやばい、自分が情けなくて泣けてきた。目元がジワリと熱くなり、頬に生ぬるい雫が落ちた。
「え、」
「ライラ嬢?!」
王子は不可抗力で泣いてしまった私を見て硬直してる。この顔はこんな雌豚の風上にも置けない出来損ないはいらないって顔かもしれない。ううっ……。涙が止まりませぬ。
グレン様は一瞬驚いた様子だったけど子犬にするみたいに頭をよしよししてきた。なにこのスーパーダーリン気質……こんなの勝てるわけないじゃん……。
「殿下、わかってますね? 後は自分で彼女をお慰めください」
「……ああ」
グレン様はそう言うとその場から立ち去り、私は王子と二人きりになった。え、ちょっと今二人は気まずい。
「……すまなかった」
さっきデコピンされた私の額に、王子の冷たい指先が優しく触れる。王子は私以上に泣きそうな顔になっている。なんで……?
「僕は君といると、どうも調子が狂う。傷つけたくないのに傷つけてしまうし、意図しないこともしてしまう。さっきの言い方もきつかったな……僕が未熟なんだ。すまない」
「うえっ……全然いいんですっ……むしろ最高です……うげっ」
嗚咽でうまく話せない。それにデコピンに興奮してたなんて今言える空気じゃないからやめとこう。
「……僕は時々不安になるんだ。この結婚を望んでたのは、もしかして僕だけなんじゃないかって……」
いつもの王子らしくない切なそうで弱々しい声。
違う……そりゃゲーム通り婚約破棄されなくてびっくりしたけど、それ以上にまだそばに居られるんだって安心したんだもん……。
「違います……。確かに昔は、婚約破棄されるものだと思ってました。でも今は……、ずっと王子のそばに居たいです」
「……っ、ライラ」
次の瞬間、がばっと正面から抱きしめられた。王子に。
わ、わ、わ、ナニコレ。いいの? え、こんな、えぇ……。めっちゃいい匂いする……。心臓止まりそ。やばい。
キャパオーバーで泡吹きそうになったけど耐えた。顔は茹で蛸みたいになってると思う、その証拠に顔がすごく熱い。
「……はは、顔真っ赤だよ」
今まで見たことがないぐらいの慈愛に満ちた微笑み。な、なんて優しい顔するの……。あなたは聖母マリアですか……。
こんなの人類皆惚れてまうでしょ。素敵すぎるでしょ。うん、嫉妬なんておこがましいことを考えた数分前の自分を殴りたい。
そうだよ、私は運良く合法的に王子の近くにいることができる立場。だからこの先、王子が誰と結ばれようとも優しく見守っていかなくっちゃいけない。たとえ地雷カプであっても。そう、それが私――雌豚のさだめですもの! 私はこの時、雌豚魂の真髄を知ったのである。
Fin?
ドMな私が悪役令嬢に転生しましたが、断罪イベント(ご褒美タイム)が楽しみすぎて待ちきれません! つきかげみちる @tukikagemichi
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