後編
そして、ついに卒業パーティーが始まった。
ゲームではライラはクラウド王子にまとわりつきヒロインとの間を邪魔をする。そしてクラウド王子はついにライラに婚約破棄を言い放ち、ヒロインと婚約することを発表するって流れだったはず。とりあえずヒロインが来るまで王子にまとわりついてたらいいって事ね。
「ライラ、今日は珍しく大人しいね。どうしたの? 生ゴミでも食べた?」
いつもの奇行が見られない私に、王子は心配そうに顔を覗き込んできた。うおおっ顔近いっすな……顔面偏差値ハーバード大学かよ。眩しすぎて直視できません。
「いえ、緊張してますの。だって今から待ちに待ったご褒美タイム……デュフフ、あっいえ、……なんでもありませんわっ!」
「……しゃべったらいつもの君だ。心配いらなかったようだね」
王子のシャイニングスマイルに私の寿命は一万年伸びた。ありがたや。
それにしてもヒロイン遅っせーな。もうすぐパーティー終わっちゃうじゃん。焦らされるの興奮するけど、さすがに遅くない?
「ねぇクラウド様ぁ、あのーいつも一緒にいるーえっと、こう可愛らしいヒロインっぽい、えっと名前なんだっけ転校生のー」
「転校生……ヘレネ嬢がどうかしたか?」
「そ、そうでしたヘレネ様! えっとーそろそろヘレネ様の所に行かなくていいのかしらーと思いまして!オホホホホ」
待ちきれないから誘導するしかないよね。ヘレネが来ないならこっちから行かせるしか。
「は? 何故僕がヘレネ嬢の所に行くんだ」
あ、今の は?の感じめっちゃ良かったです。ご馳走様でした。っじゃなくて! えええ行かないのー? じゃあ私どうしたらいいの? 困るー!!
「えっと、えーーっと。あ! 皆さまの前で私について何か言わなくてはならないことございませんでしたか? 皆様に私の悪行を羞恥プレ……いえ、周知させないと!」
どや! ここまで助け船出したらさすがに大丈夫でしょ!
王子は目を見開いてすぐに逸らした。そしてだんだん耳が赤くなってきてボソボソなんか言ってる。
「……今日は忙しい日だから、今度の機会にしようと思っていたけど……君がそこまで言うなら、今この場で君とのことを発表してもいいけど……」
なーんだ。ちゃんと分かってたじゃない!
てか、そんな真っ赤な顔して……ヒロインのこと好きすぎか! もう若いっていいわねぇ……分かったから早く断罪してー!!
王子が壇上に上がると、皆が注目し、会場は静まり返った。
ついに来た。正直この瞬間のために生きてきたからもう失神しそう。
「皆、聞いてくれ。少し伝えたいことがある。……私の婚約者のライラの事だが、……学園では彼女が私に変態じみたことを言うということが日常茶飯事であったのは皆も知っていると思う。周りで迷惑を受けた者達には私から謝罪する……」
そう言うと会場のどこからか「いいですよー!」「微笑ましかったですよー!」「ごちそうさまでーす」と余計なガヤが飛んだ。いやいやおかしいでしょ、断罪イベントなんだからもっと殺伐とした雰囲気でお願いしますよ、皆さん。
「……彼女はよくおかしなことを言うが、なんだかんだで皆に愛された。彼女のおかげで皆毎日楽しく過ごせたと思う。私も彼女のおかげで毎日楽しかった。そして、そんな彼女は正式に私の妻となり、国民に愛される妃になっていくと思う。皆にはそれを見守っていて欲しい」
ん…………?
会場は拍手が鳴り止まない。
えっ、は?終わり……? 婚約破棄は? 断罪は?
ふと見渡すとヒロインも感極まっていて、いい笑顔で拍手している。いやいやいや! 貴女は一番拍手したらダメでしょ! どうなってるの?
「はは、そんなに嬉しかった? ライラ、涙目になってるよ。もう、そんな顔されたらもっと泣かせたくなっちゃうなぁ」
やりきった顔でこっちに戻ってきた王子は調教の賜物みたいな発言をしてきたけど、待って、その前に状況が読み込めません!
「あの、私、婚約破棄はされませんの?」
「君の耳は節穴かい? 君はやっと僕の妻になるんだよ。ずっと昔から決まってたことだけど……いよいよ現実になるね」
王子の殺傷能力の高いキラキラシャイニングスマイルで先刻伸びたはずだった寿命が縮まった。はひ……。まじか。
そんなこんなで私は、何故か断罪イベントを回避してしまいました。
こんなはずじゃなかったのに……。……いや待てよ、本当に結婚するなんて畏れ多いけど……これから先も合法的に王子の側に居られる=合法的に
……最高かよ。
fin.
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