ドMな私が悪役令嬢に転生しましたが、断罪イベント(ご褒美タイム)が楽しみすぎて待ちきれません!

つきかげみちる

前編


『君との婚約は破棄させてもらう! 理由だと? 笑わせるな、今まで君が行ってきた悪行、僕の大事な人への嫌がらせ……忘れたとは言わせない。僕はお前を許さない! 捕らえろ、地下牢へ連れて行け!』


『私は悪くないわよ! 悪いのは全部あの女よ! 離してっ、いやーーーーーーー』



 これは、某学園&ファンタジー系乙女ゲームの悪役令嬢断罪イベント。

 私は前世で交通事故に巻き込まれ死んでしまった。しかし、その後私は前世で大好きだったゲームの世界に転生することができた。転生先はゲームヒロインではなく、断罪を受ける悪役令嬢。幼い頃に馬車に轢かれそうになった衝撃で、私はすべての記憶を取り戻した。

「っよっしゃああああああああ!」

 悪役令嬢だ! あのゲームの悪役令嬢のライラに転生してる! やったああ!

 馬車に轢かれかけたくせに渾身のガッツポーズをする私を見て、両親は頭がおかしくなったのかと困惑顔でこっちを見ていたことは今でも鮮明に覚えている。


 あれから年月は経ち、今夜は待ちに待った学園の卒業パーティー。私はここで婚約者であるクラウド王子に皆の前で今までの悪行をバラされ、婚約破棄される。私はこの日を待っていた……。

 前世でオタクOLだった私は、このゲームのメインキャラクターのクラウド王子推しだった。美形で長身長髪、丁寧な言葉遣いの優男。いかにも育ちがいい王子様。まじで俺の嫁。尊すぎて嫁という言葉が似合う。あー顔が良い。それに超善人。尊い。神。

 クラウド王子を崇拝するあまり、前世ではクラウドルート何周目? というほどゲームをやり尽くした。その時私はあることに気付いてしまった。

(クラウド様ヒロインに対して超優しいのに、悪役令嬢への断罪イベントの時だけSっ気ヤバない?)

 王子の普段とのギャップという名の沼を知ってしまった私は、その沼に両足からドボーンと落ちた。沼にハマればもう抜け出せない。作者もそこまで考えてねーだろレベルの考察まで繰り広げた私は、成るべくして立派なクラウド王子推しの雌豚オタクになった。ちなみに、乙女ゲーム仲間のあみちゃんは「うわ、ドM怖っ……。変態じゃん。怖っ……」と素直なドン引きをしてくれた。


 記憶を取り戻したその日から、私は努力の日々だった。

 断罪イベントまでに、王子をもっと調教しなければ。

 はっきり言って前世で妄想厨だった私からすれば、最早あの断罪イベントごときのSっ気では物足りない。もっと罵って!もっと蔑んだ目で見て!欲しがりな私は、日頃から王子に嫌われるような行動やドン引きさせる行動を繰り広げ、王子を真のドS(女王様)に調教していった。そのお陰か徐々に王子から微妙な反応を受けるようになっていった。やったぜ!

 今では王子はよく「君は僕まで変態にするつもりか!」とか「僕の加虐欲を刺激するな!」とか「僕以外の奴の前で変な事を言うな!」とかシンプルに「おばか!」とか結構罵ってくれるようになった。あの優しかった王子が……最高かよ。でもちょっとまだ照れがあるのかな、顔を赤らめて言ってくるのがちょっと惜しい。可愛いっちゃ可愛いけど、それでは真の女王様じゃないし? もっと蔑んだ目で「死ねクソ!」ぐらい言ってくれないとね!

 あと、ちゃんと悪役としてヒロインいびりにも力を入れた。これは断罪イベントにも関わってくる重要任務だからね。学園でヒロインに出くわすと「あなた、クラウド様の何なの? 私? 私はクラウド様の従順な雌豚よ。あなたには雌豚の座は渡さないわよ」としっかりマウントとって嫌な女を演じてやった。おかげでヒロインはうわ、関わらんとこ……みたいな顔してた。あれは結構ヒロインの心をえぐったはず。これで心置きなく断罪イベントを楽しめるわ。

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