VOL.4
地下鉄丸ノ内線の1番出入口から地上に出かかっている、地味なスーツ姿の『彼』の背中に、俺は後ろから声を掛けた。
『
『
面長で色白、背は中背といったところで、知的な何処にでもいる会社員、俺にはそんな風に見えた。
『いえ、ちょっとした調査で、どうしてもお話を伺いたいんですが』
彼は『これから仕事だから無理だ』と言うのを、俺は『なら、昼休みなら如何です?東洋物産の経理課にお勤めですよね?会社のビルの真向かいにコーヒーショップがあるでしょう。そこでお待ちしています。それとも私の方から会社に伺いましょうか?』
流石に向こうは慌てたような顔をした。そりゃそうだろう。
仮にも一流どころの会社だ。そんなところに『私立探偵ですが』なんて尋ねて来られたら、誰だって気分が良くない。
『分かりました。では昼休みに必ず生きます』
彼はそう言い置き、速足で去っていった。
午後12時10分、彼が勤めている商社の真向かいにある喫茶店・・・・とはいってもビルとビルとの狭間にある、至極目立たない小さな店であるが・・・・で、俺が待っていると、菅野氏が辺りを伺うようにして入って来た。
しかも、入って来たのは彼だけじゃない。
背が高く、お世辞にも人相の宜しくない背広姿の男を連れていた。
『会社の同僚で』とはいったものの、どう見てもそんな風体には感じられない。
『わざわざ来ていただいて恐縮です。実は・・・・』俺が懐に手を入れようとすると、その目つきの悪い男が、
『脅そうというんなら、話は俺にしてくれ』と、精一杯ドスを効かせた声を出した。
俺は苦笑いをしながら、懐から取り出したのは、あの霊園で写した写真・・・・
つまりは『黒い貴婦人』を後ろから写したものだった。
『失礼だが、菅谷さん、それに・・・・』
『荒井だ』男は慌てて目を逸らした。
いや、荒井と名乗った男だけじゃない。菅谷氏も、まるで鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしている。
『荒井さん、何を勘違いされたか知らんが、私は貴方達のビジネスに関してはまったく関心はありません。極めて個人的なことですよ』
菅谷氏は咳ばらいを一つしてから、
『荒井君、悪いが先に帰っていてくれ』と告げた。
荒井が出ていくと、彼はやってきたウエィトレスにコーヒーをオーダーし、改めて声を潜め、
『で、では何の用で』
『この写真、貴方でしょう?先日A霊園で撮ったものです。かつての美男俳優、倉田洋一氏のお墓の前でね』
『しかしこれは女性・・・・』
『わざわざ女装してらしたんでしょう?』
彼は運ばれてきたコーヒーを一口飲み、少し間を置いてから、小さく頷いた。
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