第174話
この会議で俺たちがやることになった内容は外壁の補修、皇帝の討伐、ヘルハウンドの討伐だ。
物凄く多く感じるが、労力的には雑魚を永遠と相手にする方が大変なのでそこまで押し付けられた感はない。
「じゃあ、何から手をつける?」
会議室から出て、外に向かいながら皆に問いかける。
「あんたは外壁をスキルでどうにかできるか確認してきなさい。
言った通り皇帝は私が討ってきてあげるから」
リズは王家の端くれとしてあの様な王は許せないと息巻いた。
それを聞いたアリスとユキが一緒に行くと言い出す。
ヘルハウンドを討伐できる様になるほど成長しているから危険はない筈だし、アリスとユキも将軍たちを纏めて相手取れる程度の強さはある。
けど、こういうの任せていいのかね……
どうしようかと悩んでいれば背中をバンと叩かれ、頬に手を添えられ、手をギュッと握られ三人からジッと見詰められる。
誰に視線を返そうかと迷っているとリズの声が聞こえそちらに目を向ける。
「詰まらない事気にしてないで任せなさいって言ってるの!」
お、おう。と勢いに押され返せば頬に当てられていた手に力が入り強制的にアリスへと目を向けさせられる。
「アリスが心配で仕方ないのはわかりますわ。
ですがカイトさんもお仕事があるのですからそうお気になさらず」
う、うん。と少し引き気味に返すとユキの視線が気になってそちらを見る。
「私も神を名乗り民を捨石にする愚か者には思う所があります。
どうか、この度のことはこのユキコにお任せ願いたく存じます」
皆らしさ全開の言葉に思わずクスリと笑いが漏れる。
「わかったよ。ただ、危険な事は無しだぞ。
サポートし合える様に纏まって行動してくれよな」
うん。そうすれば万が一はないだろう。
そうして皇帝の件を三人に任せ、雑魚討伐の手伝いを皆にお願いし、俺は外壁の補修作業を行う。
早速ラズリィに飛ぼうかなと飛び上がったが、先に直す場所見なきゃと外壁へと飛んだ。
群がってくる雑魚がうっとおしいが、見に来て良かった。
これは酷い。
数十メートルがっつりと崩れて瓦礫の山となっている。
先ずは瓦礫の撤去だと『アイテムボックス』に仕舞い、ついでだと外壁外の魔物の上で吐き出した。
他にも割れてしまっている石材をチェックして外していく。
あれ、これ今のうちの数えないと取りに行ってもどのくらいの大きさで持って来ればいいのかわからんぞ。
大変だが仕方ない。と何マス必要かをメモする。
一段一段壊れた枚数が違うので大変だったが、メモを取り終わり転移にて一瞬でやってきましたラズリィ外壁前。
パッと見でもわかるくらいにラズリィの外壁の方が五段低かった。
幸い、さっきの所は下三段は無事だったから、最上部二段はショウカの人が後々やるだろうとスルーすることにして取り外し作業にかかる。
一先ず『残光』にて必要分ぶった切り、要らない場所を外していく。
接着してあると聴いて不安だったが、有り余る力で強引にやれば意外と簡単に取っ払えた。
そして同じ形になったところで『アイテムボックス』に入れた。
少し入るか不安だったけど、最近素材やら食料やらを大量に出したからか、問題なく仕舞い込めた。
後は帰るだけだと転移で戻る。
再びショウカ首都の外壁に戻ってピッタリ合うように出してやれば問題なく嵌った。様に見える。
「た、多分大丈夫。だよな?」
不安だったのでキンブ将軍に問い合わせ見てもらえば、魔力も流れたので後は接着をさせるだけで大丈夫だとオッケー貰えた。
よし、何とかギリギリ午前中で済んだし、リズの手伝いに行こう。
そう思って通信をつなげる。
「壁の補修は一先ず成功したから終わったぞ。
そっち手伝いに行こうと思うんだけどどんな按配?」
『あら、こっちも終わったわよ。皇帝とその家族は捕らえたわ。
その他もろもろも殺す前に降伏したからもうやることはないわね』
「は? はやっ! お前、何したの?」
『何したのって失礼ねぇ。普通に討ち入りしただけよ?』
ええぇ、俺、そんなに早く終わらせる自信ないよ?
なんてしょぼくれて見れば『あんたは転移からの範囲魔法で一瞬で終わるでしょうが』と返された。
いや、それただの虐殺やん。
『そんな事はいいからカブ老師に皇帝の処遇を聞いてきて。
生かす方向なら纏められる人を寄越させて欲しいの』
おおう。確かにそれは急務だな。
と、通信を将軍とカブ老師両方に繋ぎ、事の次第を説明した。
全員早すぎることに驚いていたが、それでも向かう人員を直ぐに決めてくれた。
一先ず、敵地という事で将軍二人が出張るそうだ。
ただ、こっちの防衛もそこまで人を裂けないから二十名程度の精鋭部隊のみで行くと決まった。
だが、徒歩で行けば二日かかると言うので俺が送ることにした。
二日もリズを待たせられないからな。
今回は距離もそこまで離れてないのでゲートは出す必要はない。
重力魔法で車を少し浮かせて全力で突っ走った。
そして、ドウゴ将軍とサイエン将軍たちを送り届け、そのまま戻ろうと思ったのだが、こちらでも色々と面倒ごとが起こる。
何故か二人の将軍が到着したら国の重鎮とやらが騒ぎ出したのだ。
俺たちを排除しろと。
その声を聞いたドウゴ将軍が重鎮どもをぶった切り、サイエン将軍が独立を宣言すれば爺婆どもの金切り声が響いた。
おおう。何このカオス空間。
早く離脱したい。
そう思って将軍に「俺たちもう帰っても大丈夫?」と問いかければ快くオーケーを貰えたので即座に帰還した。
帰ってきてみればもう夕刻。折角魔力温存したのにもう狩りに行ける時間じゃなかった。
ホセさんたちもかなり暇だった様で、遠出してまで釣ってきてできる限り討伐を進めてくれたそうだ。
そして昨日に引き続きむくれている少年が一人。
いや俺と同じ年だからもう十八越えているんだが、顔を見るにまだまだ少年だ。
「折角人を呼んで貰って難民をお願いしてきたのに……もう! カイト?」
「しらねぇよ! 会議で話し合った結果なんだから仕方ないだろうが!」
「僕だって……僕だって頑張ってきたんだぞ?」
いや、ウルウルとした目で見られましても……
「明日だ! 明日行くから!」
「本当? 絶対連れて行ってくれる?」
「わかったからその目やめろ!」
やっとの事でアレクを黙らせて一息吐いた。
それはいいとして、折角温存した魔力があるんだしちょっと自国の様子でも見ておくかと皆に断りを入れてからソフィアたちの居る場所に転移した。
「ソフィア、アカリ、問題は起きてないか?」
「あら、お帰りなさい。何かあったの?」
ソフィアの声に「時間ができたから二人の顔を見に来た」と言えば嬉しそうに「こちらは問題ありません」とアカリが微笑む。
平和だと聞いて安心した俺は二人に昨日今日の出来事を報告する。
「はぁ、エリザベスは全くもう。他国を引っ掻き回してもリスクばかりなのに」
「聖人様の威光がある今ならば問題ないのではないですか?」
「まあ大丈夫だとは思うけど何もないか、デメリットがあるかのどちらかって考えるとね」
確かになぁ。ルソールへの賠償うんぬんを無視するならもう俺たちが手を出すことにメリットはない。
ただ、リズは割りと曲がった事が嫌いで見ていられない性質だからな。
「そう言えば、避難民はどうだ。問題起こしたりしてない?」
「ああ、それね。
問題というほどではないけど、定住できないかと伺いが来ているわ」
えっ、マジで?
家も畑も与えてないのに?
「先に移り住んだ者たちの話を聞いて、この国の民になりたいと思ったそうよ」
「そっかぁ。じゃあ、あっちの人に聞いてみるよ」
「待ちなさい。これから避難民が数千人規模で来るのでしょう?
到底一度に受け入れきれる人数じゃないわ」
お、おおう。そうだった。
「うーん、どうしよ。何かいい案ない?」
「そちらが落ち着いた事を伝え、帰還希望者を募れば良いのでは?」
ああそうか。
人口は減ってるらしいし魔物さえ何とかなれば受け入れは喜ばれそうだな。
帰れるなら帰りたいってやつは普通にいるだろう。
「それ採用! それでいこう!」
「それでもうちを望む場合はどうするのよ?」
「そりゃ正直に言うしかないだろ。
手一杯だからもし住むとしても家も畑もすぐには与えられないって」
「そっか。それもそうね。無い物はないって言えばいいだけか。
それはそうと、まだ時間はあるの?」
ソフィアは「あるならアイザックを呼ぶけど」と続けた。
何やら彼から話したいことがあるそうだ。
先ず間違いなくお願いしている商売関連の何かだろう。
俺としても気になるので「大丈夫」と返して呼んでもらった。
丁度いい時間なので夕食を取りながら話を聞くこととなり、並べられた料理を前にアイザックさんを待つ。
すると間を置かずしてアイザックさんが入ってきて俺の向かって方膝を付いた。
「国王陛下、この度は――――――――」
「ちょっとちょっと待った待った! どうしちゃったの一体!」
俺のことを知らない人ならいざ知らず、アイザックさんにそんなことをされると思わず慌てて言葉を遮った。
「あはは、カイト様はそう仰るだろうと思っておりましたが、本来はこれをさせねばならんのです。少しでも慣れて頂ければと思った次第で御座います」
「やめてよ! 他のやつらならまだしもうちの面子にそれされんのはきついから!」
まったくもう、とジト目をたっぷり向けていれば漸くいつもの感じに戻ってくれて、安心して言葉を交わす。
「それで、話ってなに? まさか、俺をからかう為だけじゃないよね?」
「からかうつもりなど元よりありませんが、その……お恥ずかしながらこちらで身を固めようか思っておりまして。そのお許しを頂けたらと……」
「へっ? いや、許すも何も良い話なら祝福するけど……何処の誰よ!?」
アイザックさんは珍しく困った表情で言いよどんだ末、買った奴隷の女性だと告白した。
「えっ……その、できればそういう事はお互いの意思でして欲しいんだけど……」
「いやっ! 違います! その、解放はすぐ致しました!
シーラルでやっていた時と同じく、借用書という形に変えて商売の補佐として傍付き担って貰っていたのです」
「ああ、よかった」と俺は一息吐いたのだが、ソフィアはまだ納得していない様子。
「ちょっと待ちなさい。それ、大丈夫なのよね……
借金を帳消しにしたら逃げられるんじゃないの?」
「いえ、借金の返済は終わっております。その、こちらの奴隷はとても安いので」
……確かに安そうだ。下手したら命すらも。
この国はそんなことにならない様に気をつけねば。
「そう。あなたが騙されるようなことにならないのならいいわ」
そう言って一つ頷くソフィア。
おいおい。アイザックさんを心配する気持ちもわかるがそれだけじゃダメだろ。
「ソフィア、違うだろ。こういう時はな―――――」
と、食事の手を止めて姿勢を正しアイザックさんを見詰める。
「おめでとう、アイザックさん!」
「あ、ありがとうございます。カイト様……全て、全てはカイト様のお陰です!」
「何言ってんの。自分でつかんだ幸せでしょ。俺は全力で祝福するよ」
「おめでとう、アイザック」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
そうして再び食事の手を動かした俺たちは彼に馴れ初めを尋ねれば、驚愕の事実が発覚した。
なんと、できちゃった婚だそうだ。
それでプロポーズしたら喜んでくれたのだと言う。
しかしこっちに残るのかぁ。
ってことはアイザックさんにも何か箔がつくポストを用意した方がいいかね?
いやまあ、アイザックさんなら自分で作り上げそうな気もするけど。
そんなこんなで晩餐終わっても遅くまで語り合い、それは通信によりリズに怒られるまで続いた。
結婚かぁ。
そう言えば、この討伐が終わったら俺、国に帰ってけっこ……
おおう。一級フラグ建築士に成るところだった。
けど実際そうなんだよなぁ。
などとベットでくだらない事を考えていれば、いつの間にか眠りに落ちていた。
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