第173話
先ずはうちの面子での会議。
そんな一連のやり取りを終えて場はお城の会議室へと移された。
三人の将軍と副長、カブ老師と数名の文官、そんな面々と自己紹介から初めて今日の予定の取り決めを交わす。
「こちらは今日も避難が間に合わなかった者たちの救助からとなります。
数日はかかってしまうと思われますが問題ありませんか?」
「ええ、人命救助を最優先にしてください。ただ、問題は外壁の補修ですわね……」
マリンさんの声にショウカ側が表情を歪める。
「それなのですが……あそこまで大々的に破壊されてしまうと」
「厳しいでしょうね。ですがやらなければならないでしょう?」
「それはわかっているのですが……」
そう。外壁は魔道具だ。ただ石を加工して積み上げれば良いという問題ではない。
その加工する石材すらない状態だ。普通の手順で考えたらお手上げ状態と言える。
だがそれは普通の手順で考えたら、だ。
「もし材料があればどれくらいで可能だと思う?」
「材料というのは、素材からということで?」
「いや、外壁を他から持ってきたらの話」
そう。放棄した町もあるし、滅ぼされた町もある。そこの外壁も魔道具だったのは確認している。
それを俺が『アイテムボックス』に入れて持ってくれば材料は事足りるだろう。
その草案を告げて問いかければ彼らの表情は一気に明るくなった。
「そ、それでしたら! 半年……
いえ、民を外に出せれば二月で終わらせて見せましょう!」
「うーん。この状態で安全に外に出せるかしら……」
「かと言ってこの状態を半年も続けるのは不可能である。
危険を押してでもやらねばなるまい」
一人の文官の宣言にマリンさんが苦言を呈したが、キンブ将軍が強行するしかないと首を横に振る。
「なぁ、一つ聞きたいんだが、他の町の外壁ってここと同じ規格なの?」
規格とは、と疑問が飛んだが、一つのブロックの大きさと返せば直ぐに理解して調べてくれた。
全部が同じではないが同じ町もあると地図を出して説明を始める。
「なら、外壁をそっくりそのままはめ込めないかな?」
それができれば一瞬で終わる。
「それができれば解決でしょうけど、できるかどうかは貴方しかわからないわよ?」
マリンさんの言葉にそれはそうだと後ろ頭を掻く。
けどどうだろうな……流石に接着してあるものは一つの物扱いになる。そうなると『アイテムボックス』にそこだけをしまうことはできない。
もし組みあがったまま持ってくるなら一度剥がす必要があるんだよな。
「まあ、やれるの俺だけだしそこはちょっと手をつけてみるわ」
「待ってカイト君。ヘルハウンドとどっちを先に手をつけるの?」
ああ、そうか。
流石に皆だけで行かせる訳にもいかないし、どうしよう。
アディの声に悩んでいればマリンさんが提案を入れてくれた。
「今すぐ外壁を完全に直せてしまうのは逆に良くないわ。理由はわかるでしょう?」
「うむ。魔力を外壁に取られては我らショウカ軍は動けなくなってしまう」
なるほど。もっと減らしてからじゃないとダメなのか。
「じゃあ、先にヘルハウンドやってていいかな?」
「できるかできないかだけは先に知って置きたい所。
今日とは申しませんが、早い内に一箇所だけでもお願い出来ませぬか?」
カブ老師は「もし不可能なら今から手を付けないと間に合わないので」と補則を入れた。
ならばどの箇所をどの町から持ってきてという話に移り変わる。
可能か不可能かを図るテストなので一番大きく破壊された場所が上げられ、取ってくるのはラズリィからと言う事になった。
その町はゴザの最寄町だ。外壁の高さが違うので多少不恰好に成ってしまうが、密着していれば魔力は通ってくれるらしく高さをあわせる必要はない。
それならば早速やってみようと行動を開始しようとしたのだが、まだ違う議題があるとカブ老師に止められた。
「一番にこの話をするべきではないかと迷っていた程に重要な話がございます。
それはこの先、誰がここを治めるかという話です。
ショウカ大帝国から離れるのであれば、それを民に示さねばなりませんので」
ああ、そういう話ね。
けどそれはそっちでやってって言っておいた筈だけど……
と、キンブ将軍に視線を向けたが彼は難しい顔のまま口を開かない。
「一応将軍には言ってあるけど、俺たちが治めるつもりはないよ。
別にこのまま皇帝を担いでてもいいし、離脱してもいい。
ただ、もう南部には攻め込まない事。侵略して迷惑掛けた所にはちゃんと賠償すること。こっちが望むのはそのくらいだよ」
「それは……破格の条件ですな。
そう言って下さるお方だからこそ、統治して頂ければと望んでしまいますが」
カブ老師の視線がキンブ将軍へと向く。
彼の考えを聞きたいということなのだろう。
だが、思い悩んだままのキンブ将軍の変わりにサイエン将軍が口を開いた。
「恥も外聞も取っ払ってしまうと離脱したい思いはあるが戦力的にも金銭的にも難しくて結局頭を下げて臣下のままで居るしかないというところだよ。
大きな恩ができたそちらにどちらにしても負担を掛けそうだと決めきれないのさ」
そう言うと彼は難しい顔で口を引き結ぶ。
「うむ。今の皇帝の下に居ては戦後交渉ですら揉めに揉めるだろう。
かと言って、独立を宣言すればあの手この手を使って再びこの地を取り返そうとするのは目に見えている。
そうなれば仮に皇帝側と分担にしたとしても戦後の賠償など絞り出せん」
サイエン将軍に補足を入れたドウゴ将軍は「そうだろう?」と文官たちに問いかける。
「南を取られていると考えると、三将がこちらに居ても厳しい戦いになりますね」
「今の人口を考えると数十年を見込んでも支払えるかどうか……」
「せめて蓄えていた財が残っていれば少しは考える余地があったのですが……」
文官たち分析は他にも続いたがほぼほぼ不可能だという言葉だった。
だが、俺の分析ではその心配は要らない。
流石にまだ大きな差とはなっていないだろうが、このまま討伐を続けて数ヶ月も経てば戦力に大きな差が出るだろう。
元々戦えるか戦えないか、ギリギリのラインの魔物。
ブラッディハウンドを一匹倒すだけでも平時なら騒がれるレベルだろう。
それがヘイストとシールドのお陰で大きな被害は出ていない。
そんなのと丸一日戦い続ける、そんな事を数ヶ月も続ければ急成長は確実だ。
その上将軍が三人居るのだから生き残った町全てを攻め落とすのもそれほど難しくなくなるはず。
ただ、今それを言っても信じてくれるとは思えない。
まだ彼らを陣形に入れて群れを相手にする程には事が進んでいないのだから。
さてどうしたものかとリズに視線を向けた。
「何でそんなに悩んでいるのよ。
今頭を挿げ替えられればまともになるだろうし攻め落とせば終わりよ。
放置してもまたどこかで呼び出されるだろうから一緒でしょ。
受けなさい。私がやってあげるから」
あっ、そうか。
ソフィアがやれって言ってた状況が整ってるのか。
「じゃあ、それでもいい?」とカブ老師に問いかける。
「いえ、それはどういう……」
うん? 話聞いてなかったのかな?
と、首を傾げていればリズが引き継いで説明してくれた。
「貴方たちがショウカのトップになって治められる状態まで持って行ってあげると言っているの。
ただ、一つ勘違いをしないで欲しいのは今後も手助けをする訳じゃないってこと。
私たちは討伐を終えてある程度上手く回るようにしたら人族の国に帰るのだから」
リズはそう言って言葉を止めると鋭い視線を送る。
「でも、ただ働きはいけないわね……
そうね、全てが終わった時一つ対価を要求するわ」
うん? 帰るのに対価なんているか?
あ、お金でも欲しいのかな?
そんなことを思いながら様子を伺う。
対価の話が出てショウカ側の獣人はゴクリと息を呑む。
「別に難しい事じゃないわ」とリズは視線を緩める。
なんだよ早く言えよと視線を送れば再び口を開いた。
「人族とは友好的な関係だとしっかり歴史に残しなさい。
世界の危機に手を取り合い助け合ったと後世に残るようにね」
「……それだけ、ですか?」
「ええ。それだけ。
恐らく私たちの世代が終われば緩やかに戦力は減っていき交流は途絶えると思う。
けど、長い時を見れば再び協力しなければいけない時がきっと来るわ。
その時に今回の様に時間の猶予があるとは限らないじゃない?
きっと未来の友好の一助になるはずよ」
リズがニコリと微笑むと「おお」と感嘆の声が漏れる。
まあ、こいつは結構カリスマがあるからな。
あれ、もしかしてこの『おお』を引き出す為に回りくどい話し方をしてたのか?
そんな事を考えていたらリズに睨まれた。
こいつ、心を読んだのか?
そうしてリズに脚光が集まったままに会議は終わりを告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます