第172話


 暫くは深い森が続き、大きく開けた場所を見つけ降り立つ。


 この先にある森に入っていけば直ぐにヘルハウンドに遭遇するだろうライン。

 目的地に辿り着いたはいいが、他と同様雑魚が溢れていて邪魔で仕方がない。


 一先ず雑魚殲滅を行う運びとなり集めては範囲で殲滅を繰り返す。

 

「もう戦闘というより作業ですね」


 手馴れ過ぎて本当にただの作業と成り果てユキからもそんな声が出るほどに効率よく殲滅が進んでいく。

 ヘルハウンド討伐には入る予定のないアリスが駆け回りながら範囲魔法を撃ちまくっている。


 そして、漸く釣ってきても問題ない程度にまで数を減らせた。


「じゃあ、そろそろ連れてくるか」

「では、先ず我らが行きましょう」


 アーロンさんがそう言うとホセさんが一つ頷き森の中へと消えていく。


「とうとう、始まるんですね……」


 アリーヤの声に皆真剣な顔で武器を構える。


「おう。けど気負う必要はないぞ。ケルベロスはもっと奥だからな」


 うん。最悪は俺も参戦すればいいだけだからヘルハウンドだけなら数十匹来ても何とかなる。

 皆の緊張を和らげようとそう告げたのだが、顔の強張りは解けない。

 そんな中、早くも釣りに行った二人が帰ってきた。

 木々を薙ぎ倒す音と共に。


「来たな。作戦通りいくぞ。

 アリス、ユキ、リディアは雑魚を近づけないよう広範囲に散って釣りながら殲滅。

 他の皆は余裕があっても連携を忘れないよう心がけること!」


 言い終わると同時に森からヘルハウンドが飛び出てきた。

 数は七匹。想定よりも多いので俺も参戦しようと前に出る。


「なんであんたが前に出るのよ! 任せろって言ってるでしょ!」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。それに何の意味があるんだよ!

 魔力の温存だけできれば何も変わらないんだから、安定するまでは手伝うっての!」

「なら、押されてる奴が居たらそこに入ってくれよ。それならいいだろ?」


 いや、参戦したって別にいいじゃんよ。


 そう思うがリズとレナードに下がっていろと言われてしまったので渋々中衛ラインまで後退して見守る。

 それと同時にアリスたちが隊から離脱して離れた所でハウンドドックを連れまわす。


 そんなこんなで始まったヘルハウンド討伐戦だが、始まってみれば一方的だった。


 ホセさん、アーロンさんの二人はかなり一方的な戦いをしている。

 リズ、エメリー、アディも一人一体受け持っているのに普通に安定していた。

 残った二体のうち一体をレナード、ソーヤ、アリーヤで囲み、もう一体をコルト、サラ、ソフィで受け持っている。

 レナードとコルト以外は一対一ではまだ不安だが、二体一ならやれるだろう。


 あれ? 本当に出る幕ないな。


 そう考えている間にもホセさんは討伐を終え、他の面々を見守っていた。

 次に三人で囲んでいたメンツが討伐を終え、それと同時くらいに一対一で挑んでいた者たちも倒し終わる。


「あれ? こんなに余裕なの?」


 もっと苦戦すると思っていたが、オークの時よりも余裕過ぎて拍子抜けしてしまった。


「言ったであろう。十体程度なら受け持って見せると。

 しかし、レナードとコルトがこの程度とはのう……」


 怒っている様子はないが、呆れた視線を二人に投げかけるホセさん。

 その言葉に二人は心外だと早口で訂正を入れる。


「ま、待ってくれよ。今回は釣ってきた数が少ないから仕方なくだな……」

「ええ。下の面倒を見ただけです。一対一でも受け持てますよ?」


 二人の言葉は間違ってはいない。問題なく倒せるとは思う。

 だがホセさんの指摘もわかる。

 見た感じだと魔力温存を一切しなければやれるというレベルだ。

 リズ、アディ、エメリーの三人と比べると若干見劣りする。


 まあ、彼女とラブラブなんだから仕方ないよね。

 十分頑張った方だと思うよ。うん。


 そう言って二人の肩を叩けば彼らは悔しそうな表情を浮かべた。

 とは言え、これは嬉しい誤算。

 ホセさんに至っては下手をするとケルベロスのサポートすら入って貰えそうなくらいだ。


「問題はなさそうですし、このまま殲滅してしまいますか?」 

「馬鹿者! 主がゲートを出したばかりなのを忘れたか!!」


 ソーヤの問いかけにホセさんのお叱りが飛ぶが、叱られた彼は首を傾げる。

 

「あ、なるほど。カイト様の魔力が減っている状態なのですね。

 でも、なんでそんな状態でここに来ているのですか……?」

「むっ、すまぬ。ソーヤは後からの合流であったな」


 ホセさんはソーヤがその場に居なかったことを思い出し謝罪の言葉を入れる。

 誘ったのは俺だし理由もあるので助け舟を出した。


「ディーナ情報でケルベロスはもっと奥に居ることがわかっているからだな。

 元々手が空いた為に様子見をしに来ただけなんだよ。言っただろ成り行きだって」


 彼は「ああ、なるほど」と返して苦笑する。


「んで、結局どうするんだ。まだ釣ってきても大丈夫そうなのか?」

「どうだろうなぁ。魔物も動いてるだろうし……」

「未確定なら帰ろぉよぉ。明日からにすればいいだけでしょぉ?」


 エメリーの声に皆柔らかい表情で賛同する。

 問題なく討伐ができるとわかったことで心に余裕ができたのだろう。

 討伐前とは打って変わって弛緩した空気だ。

 それだけでも来た意味があったな。


「んじゃ、今日は終わりにするか」


 そうして再びショウカへと戻り夕刻、魔石と共に戦果を応援部隊やショウカ兵へと報告すれば彼らも喜びの声を上げた。

 それと、今日からショウカ城へと泊り込む事にした。

 応援部隊の皆は飛べないので連れ帰れないし、俺たちだけ帰るのも気が引けたからだ。

 城の中は人で溢れてしまっているので街中の屋敷を借り受け、見張りを立てて泊まり込む事となる。

 そんな中、通信魔具が光った。


 あれ? これは……と何やらデジャブを感じる。


 そして繋げて声を聞くと一つ失念していた事に気が付いた。

 討伐に呼んでない面子が一人居た事に。


「僕、怒ってるからね!」

「いや、だから様子見に行っただけだってば……」

「大体カイトは全てにおいて迂闊過ぎるんだよ。

 パーティーメンバーを忘れて置いて行くってどういう事だよ!?」

「これはアレクさんが正しいと思います!

 カイト様はもう少し周囲に気を配るべきです!」


 何故か、ソーヤまでが一緒になって迂闊だ迂闊だと俺を責める始末。


「はぁ? 俺は迂闊じゃねぇし! 全て計算なんだよ!」

「僕を置いていく事の何処が計算だよ!」

「だからお前は仕事中だったろ!?

 手の空いた面子が様子を見に行っただけなの!!」


 避難民をうちの国へと誘導しているアレクはその後もプリプリ怒り続け、通信を切るまでに数時間の時を要した。 

 切り際に「明日は絶対に行くから勝手に行かないでよ」と強く言っていたが、距離的に一般人の足じゃもう少しかかると思うんだけどと不安を覚えたが、アレクに限っては放り出して来ることはありえないだろうと彼に任せることにした。




 一晩明けた朝、マリンさんやマイケルを筆頭に応援部隊の人たち交えて会議を行う運びとなった。

 元『希望の光』からはアンドリューさん、ステラ、ヒューイさん、シグさんの四人が参戦してくれている。他は戦力的な問題で参戦を見合わせたらしい。


「えっと、昨日はどうでした?」

「あれからずっと変わらずの戦闘続きだったわ。今日の開始直後が心配ね」

「そうですね。夜討伐できなかった分が溜まっていると思うと不安が残ります」


 二人の懸念は尤もだが、そこは考えているから問題ない。

 元『希望の光』の彼らも同意見な様子で頷いているので余裕はないのだろう。

 うちの面々と比べてもこの二年と数ヶ月の間で結構な差が出てしまっている様だ。


 任せているのがマリンさんたちなのだから不安はない。

 どの程度になれば危ないとか全員が体で理解している面々だからな。

 

 まあ、不安なやつが若干一名ほど居るがと視線を向ければ、勘違いしたのか元気良く発言をした。


「それなら私たちで減らしてくるから何の問題もない」と。


 いやいや、お前もそこまで成長してないだろ。

 もしかしてアンドリューさんとの仲を深める方を優先していたのだろうか?

 そう考えると少し以外だなと彼の方に視線を送る。


「ステラ君、もしそれをやるならもっと早起きして始めてないと厳しいよ」


 非難の視線だと思ったのか彼女を止める発言を入れるアンドリューさん。

 見る限り二人の仲は良好の様である。


「なら今すぐ行く!」


 ステラがまた協調性の無い事を言って出て行こうとしているが、今回に限っては助かることに違いはないので放置して話を進めれば、アンドリューさんが「もう少し待とう」と彼女を引き止めた。

 予想外にも素直に言うことを聞く様子。


「当面は安定するまでこちらの殲滅に入るので安心してください」

「ええ、お願いね。

 それとこちらの代表とも打ち合わせを行って置きたいのだけど」


 ああ、そうか。

 顔繋ぎは済ませたけどこういう会議みたいな場も必要だよな。


「という事で朝食を済ませたらお城に行きますか」

「じゃあその間に行ってきてもいい?」

「いや、良いけど危なくない範囲でな?」

「問題ない! 行くわよあなた!」

「そうだね。始まる前に道くらいは作って置こうか!」

「ううん。全部倒す!!」 


 少しは成長したのか、一応断りを入れ二人で陽気に出て行った。

 ちなみに、二人にはヘルハウンドの事は秘密にして貰っている。

 絶対に行くと言い出すからだ。


 その後、夜通しこの屋敷を守ってくれていた面々は城で休んで貰い、カブ老師に会議の場を用意して貰えるよう頼んだ。



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