第171話
神が光臨したという混乱から立ち直るまでに数時間を要したのち、興奮したお爺ちゃんに質問攻めにあっていた。
彼はこの国の政務を司る議事長の一人だそうで、民を置いていくことに強い懸念を示した所為で置いていかれてしまったそうな。
そんな彼の押しに負けて再びディーナに受け答えして貰えば、予想外の事実が浮かび上がった。
「では、カイト様のお子であれば信託を受ける巫女になれると!?」
「ええ。この地ではもう巫女の血筋は途絶えていますが、彼の子であれば私が降りる事に耐えられるはずですよ」
ディーナはそこまで言うと「これ以上は精神に良くありません」と去っていった。
えっと、こっちで子供作れとか言われても俺困るよ?
『あら、もう既に関係を持っているじゃない。彼女たちなら問題ないでしょ?』
いやいやいや!
知ってるだろ?
皆に怒られてもう手なんて出せないって!
『大丈夫。カイトの孫だっていいんだから!』
どうやら体を作り変えられた時に金色の光に耐性を持たされたらしく、俺だけでなく子孫に至るまで耐性を持ち続けるのだそうだ。
ディーナにとってもこっちに話せる相手ができるのは嬉しい事の様だ。
大丈夫?
俺の子孫が増えたら威光が通じなくなるんじゃない?
『いいのいいの。元々苦肉の策で作ったから薄れてしまうくらいで丁度いいわ』
あ、そう。
まあ、子供がモテモテになるって考えれば悪くはないのかな?
「カイト様! 貴方様には是非ともこの地に御子を授けて頂きたく!」
カブ老師は早速そんなことを言ってきた。
「いや、俺もう婚約者が一杯いてこれ以上は無理なんだ……」
「そ、そんな……お子を宿すだけで良いのです!
後のことは仔細こちらで執り行います。勿論、最大限大切に致します故!」
ダメダメと鉄の心で彼の提案を断り続けたが、カブ老師が住人に何やら演説を行うと今度は数人の女性が擦り寄ってきた。
彼女たちは躊躇する事無く体を使って誘惑してくる。
ええっ!?
何でこんなに乗り気なの?
見ず知らずの男と子作りなんて普通絶対に嫌だろ。
だが、彼女たちの顔色を伺うに乗り気なようである。
ぐぬ……これは俺が不細工だからということですか?
っと、そんな事よりも断らなければ……
「ちょっと待った! そういうのは言われてする事じゃないから!」
「そんな事を仰らずに。精一杯ご奉仕致しますから……ね?」
おおう。これは危ない危険だと転移にて外に逃げた。
皆が居なければちょっとくらいモテモテ気分を味わっても良かったが、今は皆に殲滅で働いて貰っている状態だ。
そんな中デレデレしようものならどんな制裁を受けるかわかったものではない。
一刻も早く合流してそんな状況には陥らない様にしなければならないと適当に飛び回ればサラを発見した。
彼女の元へと急行して討伐を手伝う。
「カイト様!? どうしたんですか。何か問題でも?」
急に目の前に降り立ったからか、サラは緊迫した表情を見せた。
そんな彼女になんと説明したものかと頭を働かせる。
「いやぁ……ディーナが光臨したら変に敬う空気になっちゃってさ」
「ああ、なるほど。アプロディーナ様が……」
秘儀『詳しく言わない』を発動!
サラは足りない部分を想像で補い納得した。
やったね。
「手伝うよ」とちょこちょこ襲ってくるハウンドドックを蹴散らし、彼女と二人ゆったりと討伐を続けていく。
聞けば効率を求める為に半数は外から殲滅しているらしい。
確かに、見晴らしがいい外を先に減らした方が殲滅が早そうだ。
それからも討伐を続け、日が沈む頃本日は終了ということにして切り上げた。
外も中も大分減ったが、やはり遮蔽物が多い街中では殲滅が遅れる。
完全に綺麗にするには数日は取られそうだ。
だが、悪い事ばかりではない。
思いのほか殲滅が捗り、避難の必要がなくなったと告げれば住人たちは歓喜の声を上げ城に立て篭もることに不満の声は出なかった。
その声に安堵しつつ、振舞われた夕食を頂く。
よく見れば俺たち以外の肉は一回り小さい。
食料は心配しなくて良くなったよね、と問いかけたが人数が人数だけにあれほどの量でも二、三日で無くなると返された。
そう考えると食料の方が問題になるかもしれない。
万を軽く超える人員の食料を軽く引き受けたのは失敗だったかな。
まあ、余裕が余りないだけで一応足りている。
街中の討伐をさくっと終わらせれば良いだけだから先行きが暗い訳でもないが。
カブ老師のハニートラップもリズが即座に止めてくれたから俺に被害はなかったし一先ずは順調だ。
その後再び将軍と少し話し合いをし、今日はこれで切り上げるとお家に帰って眠りに付いた。
次の日、予定通りアイネアースから応援部隊を連れてきた。
「うわぁ、本当に尻尾がある……」
と、皆目を丸くしていたが魔物の強さを改めて伝えれば即座に気を引き締めてくれた。
まずは応援部隊が安定して戦える様にする為のサポートからだと町の外の担当をお願いした。
隊はマリンさんに纏めてもらい、陣形を作って討伐を開始する。
やはりステラとアンドリューさんが勝手に突出するが、それを見越しての陣形だ。
思っていた以上に安定して狩りを続けられた。
マイケルたちが七十階層と言っていたからブラッディハウンドが数匹来たらヤバイかとも思っていたが、俺の教えを守っての七十階層だったのだろう。
余裕と言うほどじゃないが安定するくらいにはやれていた。
将軍たちには減ってきた街中の殲滅を引き継いで貰っている。
名目は完全な殲滅ではない。住人の生き残りの捜索と町内の魔物を減らす事だ。
そこまでの割り振りを終わらせれば逆に俺たちのやる事がなくなってしまった。
昨日頑張りすぎたのかもしれないな。
「おいカイトさん、いいのかよ。俺たちがのんびりしてて」
「そうは言っても、強くなってもらう為には俺たちが入らない方がいいだろ?」
そう、適度に残っている状態だ。
俺たちも外にでて殲滅を始めてしまえば直ぐに終わってしまう。
「ちょっと見に行くか?」
「見に行くってヘルハウンド?」
頷けば視線が強張る一堂。
一応昨日ケルベロスの場所をディーナに再確認して貰ったので出会わない場所でやる分には危険はない。
一応アーロンさんには残ってマイケルたちの指揮を執るかを聞いたのだが「あいつの成長を妨げたくないんで」と柔らかく断られた。
呼んで早々任せ切るのも申し訳ないがマリンさんに了承を取りに行く。
ここを任せてしまっても大丈夫ですか、と。
「えっ!? 割とぎりぎりなのだけど……魔力が切れたら被害出るわよ?」
「いや、その前に引いて下さい。
こんな感じで断続的にくるのが続くと思うので」
「中を兵士が殲滅しているんじゃないの?」
「ええ。でもどちらにしても壁が所々破壊されてるんで……」
中の殲滅は人命救助という名目もあるし一番は戦える兵士であれば自由に動き回れる状態にしたかったからだ。
切り上げて明日大量に入られたとしても朝は俺たちが付いているので問題はない。
「そっか。あのオーク戦と同じ規模なのか。長期戦ね……わかったわ」
「一応将軍たちに繋がる通信機渡して置きます。
俺への連絡が着たら面倒ですけど繋ぎお願いしますね」
マリンさんとの打ち合わせを終えて再び飛び上がる。
ステラに絡まれる心配もしていたが、彼女には丁度いい塩梅の様で夢中に成っていてこっちには終始気が付かなかった。
今がチャンスだと俺たちはそそくさと北東へと飛び去った。
その飛行中、通信機の一つが光を発した。
あれ?
これは……と魔力を送り繋げた。
「カイト様、次の討伐は何時になるかお聞きしてもいいでしょうか?」
あっ! ソーヤか!
「おう。今からヘルハウンドやりに行く所だぞ!」
「はっ? いやいや……はっ?」
……え?
ソーヤからこんな威圧的な『はっ?』は初めてなんだが……
「いや……お前もくる?」
「行きますよ!! 何で行かない事が普通みたいに言うんですか!?」
泣きそうな声だった……
「いや、ごめん。いつもの様に成り行きで決まったんだよ。
決して置いて行こうなんて思ってないよ?」
「……何処に行けばいいですか」
「えっと、じゃあゴザ村で。付いたら連絡して……迎えに行くから」
そう告げると返事もなく通信が切れた。
怒ってる……
「カイトさん……そりゃ怒るぜ?
あいつだってこの二年ずっとこの日の為に頑張ってきたんだからよ」
「お、おう。けど、今回の討伐……成り行きじゃん?」
「人類の危機対応を成り行きで行うとは誰も思いませんからね」
アリーヤにすら呆れ顔を向けられ一杯視線を泳がせる羽目になったが、リズの仕切りでゴザ村が目的地へと変わり少し落ち着いた。
幸い、相変わらず北東方向は魔物で溢れていたので討伐で時間を潰していれば彼との合流は体感的にすぐだった。
今回はちゃんとクレアは置いてきたようで安心して再出発だと移動を開始する。
「ねぇ、怒ってる?」
「怒ってません!!」
おおう。
「いや、だからごめんて」
「知りません!!」
そんなこんなでソーヤのご機嫌取りをしながら北東へと飛んでいけばヘルハウンドが見えてくるまでは案外早かった。
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