第170話
ショウカ軍の前に降り立って早々、三人の将軍と挨拶を交わしてこれから先の予定を変更したい話せば、何故かサイエン将軍が腕を強く掴んできた。
「待ってくれ!! それは実質見捨てるって事じゃないのか!?」
「いや、そういうんじゃないから。説明ちゃんと聞いてた?」
てか、なんで腕を掴んで引っ張ろうとしてくるんだよ……
意味がわからんと思いながらも軽くペチペチと叩き止めろと言外に伝えるが、手を放すつもりはないらしい。
「何を血迷うておる……見捨てる算段ならば態々来ぬ。
切り捨てられたくなくば我が主を侮る真似は即座に止めよ」
ホセさんはサイエンを見据えると、柄に手を掛けカシャンと音を立てて腰を落とした。
「ち、違う! 侮って居ないから焦っているんだよ!」
「ほう。貴殿の国は一国の王にその様に対応するのが普通だと?」
「あ、いや……失念していた」
ハッと驚いた様子で手を離した後、姿勢を正し頭を下げた。
その様を見て「それでは及第点もやれんがこれ以上問い詰めても時間の無駄じゃ」と言いながらも戦闘態勢と解いて一歩下がった。
王って言っても繋ぎでやってるだけなんだけどなぁ。
すぐ退位するんだしそこまでしなくてもいいのに。
いや、あの国の後を考えればそうもいかないのかな?
レナードとコルトが残るんだから問題ない様な気もするけど。
うん。じゃあ適当に流して話を進めよう。
と、魔法のレクチャーや戦闘指南をしてヘルハウンド以外は群れで来ても対応できる様になるまでサポートをすると告げた。
「言っている事はわかるが、閉じ込められて居ては食料確保もままならんのだ」
「それはどっちにしても俺が負担するから大丈夫だよ」
「輸送するのであれば人を運んでも変わらぬのでは?」
どうしても不安が拭えない様子のキンブ将軍にこちらの事情を説明する。
「あぁ、一先ず近場のは俺たちで殲滅するから心配しなくていいよ。
ただ、これから先も流れてくる。
うちからも人員は出すけどヘルハウンドを沢山相手にしないといけないから主力は貸せないんだ。
だからある程度自分たちで対応できる様になって欲しい訳だ」
「おいおいおい! あの、双頭のデカイのがまだ居るのかよ!?」
様子を伺っていたドウゴ将軍が切羽詰った表情で詰め寄るがアディにローキックを喰らい膝を折った。
彼女は蹴っておきながら何事も無かったかの様に「それでカイト君がね――――」とエメリーと雑談している。
「えっと……うん。居るよ。二百匹くらいね。
でもそっちはまだまだ遠いし俺たちで殺るから心配はいらないよ。
そういう訳でちゃんと事情があって言ってるの。見捨てようなんて思惑は無いよ」
「そういう事でしたら……了解しました」
理解したのかアディが怖いのかはわからないが兎に角了承の言葉を得た。
ならば次は町の中を殲滅だ。
「んじゃ皆、適当に散らばって街中を綺麗にしようか」
「はーい」「はいよ」「了解」と皆緩い感じに言葉を返し散っていく。
皆が居なくなった後、再びキンブ将軍に話しかける。
「えっと、食料は何処に出したらいい?」
「そ、そうですな……では城内の方の食料庫にお願いできますかな?」
そう言えば在庫どのくらいあったっけ……
いざ出して見て殆ど無かったらどうしよ。
そんな不安を抱えながらも冷凍室へと案内されてお肉を出しまくった。
意外と大量に入ってて入りきらないほどだったので一安心。
「こ、これほど高級な食材を……宜しいので?」
「ああ、これしかないから気にしなくていいよ。
それと今日の分も別で出しとくから鱈腹食べさせてあげなよ」
うん。腹減ってると不満も溜まるだろうし。
そう思って隣の調理場にも肉を大量に積み上げればキンブ将軍の表情が柔らかくなった。
恐らく、まだ本当に見捨てないのかを疑っていたのだろうな。
一応念押しでもう一度言って置くか。
「恐らく当分は俺たちもここに通う事になる。
防衛が形になるまでは付き合うからそっちもちゃんと協力してよね」
「勿論です。こちらが協力を頂いている身ですから」
じゃあ、早速調理させようと思ったのだが、万を超える人数の調理などここではできない。
大広間に調理台を並べて貰い一度しまった肉を再びそっちで肉を大量に出した。
避難民の見ている中で出した為、強い視線を浴びている。
「これは俺の奢りだ。いくらでも出してやるから食べられるだけ食べていいぞ」
その言葉に沸き立つ者、訝しげにこちらを見る者、反応は様々だった。
「後はそっちで宜しく」と告げれば間を置かず兵士が調理できる者を集めて下処理を始める。
兵士が俺の言葉に従った事で味方と認識できたのか避難民から質問攻めに合いそうになるが、兵士たちが止めてくれて彼らの意識はお肉の方へと移っていった。
「なぁ、将軍たちはこの後はどうするつもりなん?」
お肉の調理を見守るだけで動かない彼らと共に居る俺も手持ち無沙汰になり、彼らの思惑を確認しようと問いかけた。
「この後とは……?」と苦い顔を見せるキンブ将軍。
他、二人の将軍も視線を逸らしただけで返事はない。
言いたい事はわかっていてあえて問い返しているのだろうが、今のうちにはっきり聞いて置きたい所だ。
「自国をこんな酷い国のままにしておいていいのかって事」
「……変えねばならんとは思っている。しかし現状は芳しくないのだ。
仮にこのまま皇帝に背いても民が付いて来ないだろう」
「ここまでされても?」と問いかければ彼はゆっくりと国の内情を語った。
まず皇帝は神に準ずる者とされているらしく、実子以外が代わり立つなどという概念がないそうだ。
目を合わせる事すら罪とされているほどに敬われていると言う。
他にもショウカには監視システムがあり密告者は金を貰える仕組みがあり逆らう意思などそう簡単には持てない。
それを聞いていくうちに軽く考えていた事に気付かされた。
ここまでの事をされれば民意は問答無用でこちらに向くと思っていたのだが、この世界の国に民主主義など殆どなく、完全な独裁国家。
その中でもやばいこの国は力ない民が反意を示せば少なくとも仕事を失い路頭に迷う。
そこが最低限。自分だけでなく家族の命も危うく、絶対に逆らってはいけないものとして心に刷り込まれていて強い強迫観念となっている。
彼の言葉を聴いてそれほど簡単な話じゃなさそうだと強く感じた。
「そっか。そこまで雁字搦めなんだな。まあ俺たちは攻めて来ないならいいけどさ。
でもそれほどのものを変えるとしたら今くらいだとも思うけどねぇ」
知らんけど。と投げやりに返せばドウゴ将軍が眉間に皺を寄せた。
「お主がここを治めようという話じゃないのか?」
「はぁ? 嫌だよ。
俺は王様なんて面倒なものやりたくないっての。
今の国だって直ぐに引退して帰るつもりだし。
楽しく平和に生きれるならそれでいいの。
仕事に忙殺される人生なんて送りたくないね」
「仕事に忙殺だって……王は何もしないものだろう?」
サイエン将軍が首を傾げながら言った言葉に今度は俺が眉間に皺を寄せる。
それは駄目な王がそうなだけだろ……
なるほど。こいつらは駄目な王様しか知らんのか。
「十人以上は王様に会ってるけど、俺が知っている王様は皆自国をより良くする為に努力する奴しか居なかったよ」
そう。程度の差はあれど皆国の為にと行動をしていた。
ティターン皇国の先代だって裏で色々手を回そうと頑張っていたらしいし。
カミラおばちゃんは何もしてないとも言えたが、あの人だって皆の力になりたいのになれないと心を折っていた。
俺の知る限りじゃこの国が王の中で最低だ。
「まあ、お前らがこのままでいいなら止めないよ。約束さえ守ってくれりゃいい」
「ははは、そりゃ助かるね。貴国と闘うなんて誰に頼まれたってごめんだから」
いや、本当にこのままでいいの?
と思わずジト目を向けるが、彼らがいいならそれでいいかと流した。
「しかし、であれば尚更にわからぬ。何故、助けようと思ってくれたのだ?」
「いや、敵対して来なければ普通に助けてたから。
まあそれ以前に理由があってだな―――――――――」
俺たちが人族の領域から来た事から話し始め、ディーナの話になった所で黄金の光が身を包んだ。
お?
ディーナも話したい感じ?
『そりゃぁねぇ。だって神と名乗られたら私の品位が落ちるじゃない?』
確かに。
あれと同列と言われたら俺も嫌だなぁ。
なんて思いを浮かべれば『でしょ?』と軽い乗りの返事が聞こえた。
んじゃ、任せるよ。と、目を閉じて彼女に体を委ねた。
「私の名はアプロディーナ。盟友カイトの体を借りて話しかけています。
長くこの地に顕現する事が叶いませんでしたが、私が何者かわかりますか?」
五秒、十秒、二十秒と誰も返事を返さないまま沈黙が続く。
あれ……と薄目を開けてどうしたのか探れば彼らは驚愕した顔で固まっていた。
「そうですか……忘れられてしまっているのですね」
「と、とんでもない!! 女神様の名は存じて居ります。
ただ、その……本物ですか?」
サイエン将軍が混乱して正体を疑った直後、一瞬だけ黄金の光が視界が霞む程に強くなる。
「し、失礼致しました!!」
彼が勢い良く土下座するとその場の者全てが平伏した。
「構いません。では、わかって頂いた所で何故人族であるカイトがこの地に舞い降りたかをお話します――――――――」
ディーナは端的に召喚して世界を救って貰うように頼んだ事を伝え、俺が世界を脅かす双頭の狼の上位種を討伐する為にこの地に来た事を彼らに伝えてくれた。
「ですので彼は意図してこの地に来た訳ではありません。
国を持ったのも道すがら助けた者の行き場が無かった為に作りあげただけの事。
本来であればすべて任せようと思って居ましたが、神を名乗るのは頂けません。
名を汚されてしまえば、この様な時導きの言葉すらも届かなくなるかもしれませんから。
もしまだその者を祭り上げるつもりであれば神を名乗る事だけは控えさせなさい」
やっぱり相当嫌だったみたいだ。
彼女は念入りに駄目だぞと言って帰っていった。
完全に光が収まったので目を開けて辺りを見回すが平伏したまま誰も顔を上げない。
「えっと、帰ったよ?」
そう伝えるが彼らから返事が返る事はなかった。
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