第166話
ショウカ大帝国の件が放置すると決まり手の空いた俺は町の工場へと見学に来ていた。
やはり見る限りほぼ全て手作業だ。
布を作る為の機織り、木材加工、他にも精肉所や食品加工系統も回った。
優秀な者は結構なスピードで仕事をこなしていたが、遅い作業者が殆どだ。
工芸品とかならわかるのだがもう少し何とかしたいもんだな。
そう思った俺は木材加工と鉄工細工を扱う職人に声を掛けてハンドルを回すだけで千切りが出来るスライサーや、炎に空気を送る機械、調味料などをすり潰して粉にする機械などの製作依頼を出した。
軽く説明するだけで二日程度でさくっと作ってくれた事に疑問を持ち、聞いてみれば元々ある物だという。
ただ、元々稼ぎが少ないのに高価な道具は使えないと手作業だったらしい。
これの効率がどこまでかはわからないから、取り合えず無料で提供するからフル稼働で使いまくれと言って渡してきた。
もしそれが壊れるまでに購入費を超える効率を出したのなら、新たに導入すればいい。注文を入れれば二日で作ってくれると伝えてある。
上手くいけば後々広がっていくことだろう。
それからも色々な職場にお邪魔して仕事内容を聞いて回り、明らかに改善できるであろう場所にはアドバイスを出した。
そのアドバイスが一番功を奏したのは魔道具屋だ。
人族では当たり前でもこちらではなかった魔道具を数点作って貰った。
一応、アイネアースの魔道具ギルドに許可を貰って全て丸パクリさせて貰った。
結構な金が飛んだが、これで生活水準がほぼほぼ変わらないラインまで引き上げられるだろう。
アイネアースで掛かった金額は結構痛い出費だったが魔道具屋から徴収はしなかった。
魔道具は前世で言う家電だ。
出来るだけ安く流通して欲しいので最初の内は技術を独占してもいいから薄利多売を心掛けてくれと頼んでおいた。
便利な魔道具が多く出回れば今度必要になるのは魔石だが、傭兵ギルドへの登録者は受付が追い付かない程に伸びている。
魔石や物資も暫くすれば数多く出回り値が落ちるだろう。
そうなれば金の巡りが良くなり景気が上がってくれるはずだ。
まあ、俺の予測に過ぎないけども。
娯楽に関しては一番簡単な対人戦の大会を開くことにした。
と言ってもガチな感じの大会じゃない。
子供をわーわー応援する感じの大会にするつもりだ。
なので参加資格は十八歳未満とさせて貰った。
小さい頃から戦闘技術を磨くくらいじゃないとこの環境は厳しいからな。
町の作りもそこにある程度合わせてやらんと駄目だろうと子供限定戦にしたのだ。
大人からは入場料を取って賭けて貰って子供への賞金もそこから捻り出すつもりだ。
俺ならこんな見世物に出たくはないが、参加するだけでお小遣いを貰えるくらいに優遇してやれば参加してくれるだろう。
そんな大きな企みをするには人が要ると考え、今だけでもと手伝いに呼んだリックと悪巧みをするように色々計画を立てた。
先日の宴会で仲良くなった奴らも巻き込んで話を纏め資金を出す所まで決まったので後は彼らに任せることにした。
三日でリックを嫁さんの所へ返してやる約束だったので、後は計画通り進めるだけの状態にして貰い三日目の朝には絆商会シーラル支店へと送り届けた。
そして住み慣れた我が屋敷へと帰還する。
さて良い仕事したと居間で寛ぎ始めれば後ろから視線を感じた。
「ちょっとぉ?」とジト目で睨むソフィア。
「な、何だよ!? 何もやってないぞ?」
何故そんな目で見てくるのかさっぱりわからず強めに問い返す。
「……何もしてくれないから怒ってるの!
ずっと仕事だけさせて放置し過ぎだと思うの」
「えっ、いや、ソフィア遊んでくれるなら大歓迎だけど……お前も暇なの?」
何だよ。そういうことかよ。
しかしこいつも相当忙しかった筈だ。
「やっと暇ができたわ。優秀な人材を連れてきてくれたあなたのおかげね」
「じゃあ、アカリでも連れて教国に日帰り旅行でも行くか?」
「い、行くっ!! アカリぃ!!」
彼女はどたばたと階段を駆け上がり、アカリを呼びにいく。相当フラストレーションが溜まっていたのかもしれない。
皆がダンジョンから戻ったら全員で慰安旅行でもしてストレス解消の場でも作るか。
「お待たせ致しました! 教国でしたら喜んでご案内させて頂きます!」
「うん。今日はお休みにして三人で遊びにいこう」
「はいっ!!」
あ、ユキ置いて行ったら後で泣くかも……
そう思って彼女に連絡を繋いでみれば崖のダンジョンだったので直ぐに出てきて貰って五人で行くことにした。
もう一人はユキとペアを組んでいるリディアだ。
集まるのに多少時間が取られたが、ゲートを開いて一瞬で移動したので逆に丁度いい時間だった。
ユキお勧めの茶屋で休憩し、ぶらぶらと町を散策して日が暮れてきた頃にアカリの案内で小料理屋で夕食を取った。
「へっへっへ、最近ご主人様がよく誘ってくれます。私は運がいいですね」
「むぅ。秘訣は何ですか? アカリさんばかりで私はいつもおまけなのです」
「ユキコ姫、それは違いますよ。私が戦闘員ではないから時間を取り易いだけです。
その証拠に最近はソフィア様が一番寵愛を受けています」
「戦闘員組みは留守番無しで付いて行ける時が多いんだからそれくらい譲って頂戴」
見渡せば気兼ねなく雑談を交わしながらも、細々と出された料理を各々綺麗に食している彼女たち。
俺も一応今は王様だしそういうの覚えた方がいいのかなと問い掛ければ、何故か突如として二人羽織が始まってしまった。
どうやらユキが後ろからマナーのレクチャーをしてくれる様だと、言うがままに動いていくがただ口に料理が運ばれるだけである。
「これ、どうやってマナー覚えればいい?」
「い、一度で覚える必要なんてありません。何度もやりましょう!」
いや、うん。確かに何度もやれば覚えるかもだけど。
「そういうことなら次は私ね!」
「おう。宜しくたの……ってそこは口じゃねぇ!
全く、場所を変われ! お前よりは上手くやって見せる!」
おおう。そう言えばソフィアはかなり不器用だったと俺が後ろに回り彼女に食事を取らせた。
「ねぇ! どうせあいつら帰って来ないんだし、こっちでお泊りでもいいわよね?」
「それは素敵な提案ですね。私も賛成です」
「どちらにお泊りしますか。
もしお城の部屋を使うならばお父様に用意させますけど……」
こらこら。
お城をホテル扱いはやめなさい!
イチノジョウさんだって、いきなりそんな事を言われても困っちゃうからね?
まあ、他の皆が帰ってこないなら一日くらいはいいけど……
試しに連絡入れてみるか。
と、全員に繋がる様にギルド内で纏めてある通信魔具袋に一気に魔力を通す。
『はーい、どしたの?』
『お、なんかあったか?』
『ショウカの件かの?』
各々繋いで早々質問が色々と飛ぶ。
「ちゃうちゃう。こっちは平和だよ。皆、今日はダンジョンにお泊り?」
『俺は今日は戻りますよ。余り長いとオーロラが心配しますから』
『俺もだな』
コルトとレナードが帰ると言うと他の皆も満足したから帰ると言い出した。
「じゃあ、今日は俺たちも帰ろうか。いつでも来れるしさ」
「……約束ですよ? 近い内に」
「はいはい。約束な?」
小指を差し出したユキと指を絡め軽く振る。漸く言いたいことを言うようになったと少し安堵を浮かべつつもゲートでさくっと帰還する。
「これで魔力はすっからかんだ。今日はもうゆっくりしよう」
「今のあなたでも朝夕に少し出すだけでそれなの……
ゲートって相当厳しいのね」
うん。一度に大人数の移動であればかなりいけるようになったけど、小人数を小まめに移動が一番魔力がかかるから仕方ない。
一日に二度使って普通に動けるくらいに残ってるのだから成長したのもんだ。
皆が帰ってくるなら豪勢な夕食にしてやろうかな。
うちの使用人組みであるオーロラたちに百階層付近のお肉を出して調理して貰う。
お酒も高級品種をずらりと並べる。
お風呂なども済ませて軽く抓みながらゆっくりしていれば皆続々と帰ってきた。
皆並ぶ豪勢な料理を一目見るとご機嫌なようすで汗を流そうと風呂へ向かい、直ぐに戻ってくる。
本当に洗ったのだろうかと思うほど早いが、外見上綺麗に見えるので突かずに夕食会を始める。
「よし、今日はお疲れ様会だな。最近の成果の報告でもするか」
ここ一週間と少しの間、何をやっていたかを皆に告げていくのだが、しょっぱなのショウカの件で直ぐに話が止められた。
「ちょっと待って。
そんな事を言われたのに攻め込まない約束だけで許しちゃったの?」
そう言って責める様な視線を向けたのは珍しくアレクだった。
他の皆も不服そうにしている。
まあ気持ちはわかるけども戦争なんてない方がいいじゃんよ?
「お、おう。絶対に攻め込ませないって約束したからな」
「カイト様、この状況だとそれはこっちに対しての利点にはなりませんよ。
これでは戦争を止めることがカードに成りえると勘違いさせてしまいます」
コルトに言われて何を気にしているのかに気が付いた。
要するに舐めた行いをされたつけを一切支払わせていない事に憤っているのだと。
「それは大丈夫よ。
あなた、誤解されるからしっかり最後まで言いなさい。
ハウンドドックの討伐は暫く止めると決めたの。
救援を断るどころか喧嘩を売ってきたショウカにはこのまま滅びて貰います」
「「「――――っ!?」」」
滅び。その思い言葉に少し張り詰めた視線がこちらに集まる。
「おう。少なくとも謝罪も何も無しで手を貸してやることはもうない。
ヘルハウンドがこっちに来ない限りは皆も自由にしてていいからな」
ソフィアの言の通りしっかり伝えれば皆納得してくれた。
「しかし、あのように発展した国が滅ぶのは勿体無いのう。
なんと愚かな王を持ってしまったものじゃ……」
「ああ、うん。あれをトップに据えるなら俺の方がマシだ」
そのくらいの自信はある。と胸を張ればアーロンさんに肩をバンバン叩かれた。
「何を仰る! 救世主殿ほどカリスマのある王様などこの世に居りますまい!」
「そうです! カリスマで言うならピカイチですわ。自信持って下さいまし!」
「ま、まぁ、未来を切り開く力は誰よりも持っているわ!
うん。私が認めてあげる!」
何故か彼の言葉に王女二人が立ち上がり、皆も乗って俺を祭り上げようとする運動が始まる。
アイネアースでも王様にとか言い出されても困ると止めに入る。
「いやいや、俺は女神に選ばれただけの一般人だからね。
というか王様なんて重いのもう嫌だよ」
最後の本音に納得してくれたが、溜息を吐かれ残念そうに見詰められてしまった。
アリスちゃんやリズがしつこくじっと見詰めてくるが断固として嫌だという主張を押し通し続け、夕食の宴はお開きとなった。
その次の日。
気になって見に行ったアレクからショウカの首都に魔物が続々と集結しているとの報告が入った。
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