第165話



 おうちに帰ってソフィアに報告を入れた俺はお説教を食らっていた。

 徹底的にやれと言われたのに中途半端なまま帰ってきてしまったからだ。

 城を破壊して戦力を完全に残せばただ戦争を触発しただけだと。


「大丈夫だって。魔物放置すればあいつら動けないじゃん?」

「ならショウカは見捨てるってことで良いのね?

 動けないというか間違いなく全滅するけど……」


 えぇ……そういう言い方するとなんか心にくるじゃん。

 てか戦争しかけてきた奴らを助ける義理なんて最初からなくね?

 時間も余裕もあるから暇つぶし程度に手をつけたけど。


 そう伝えればソフィアは機嫌を直してくれた。


「そう。それならいいの。

 私が一番に懸念しているのはここが攻められて帰れなくなることだから」

「ああ、もしそうなったらその時はさくっと潰してくるよ」


 うん。約束を破ったら潰すって言ってあるし。

 戦争を仕掛けてくる奴らを潰す分には心は痛まない。

 

 てかこんな適当な治世しかできない奴が王で本当にいいのかね……

 早く全部終わらせてアイネアースに帰って隠居した方がいい気がしてきた。

 だって名誉伯爵は何もしなくていいって言ってたもの。


 そんな不安に煽られながらも、暇になってしまったので町の中を見て周った。


 道を歩いていれば何やら工事が始まっている。

 話を聞いてみれば国主導で道路工事が始まったらしい。

 街中限定だが、俺が手を付けようとしていたのを知って手を回してくれたみたいだ。

 自分の手掛けた町が急速に発展していく様は見ていて気持ちがいいと、少し沈んでいた心を癒されながらも散歩していれば、人だかりがある場所を発見した。


 なんだろうと中を覗けばアイザックさんたちが居た。


「おお、カイト様!」

「あれ、もしかしてこれ……」

「ええ! とうとう第一歩を踏み出せましたぞ!

 名を傭兵ギルドと名付け、説明を行っているところです!」


 見れば従業員であろう女性たちがカウンターにて紙に書かれた言葉を読み上げている。

 聞いてみるとどうやら最初は商隊の護衛と素材の買取に絞るみたいだ。

 安定したら盗賊の討伐依頼なども受け付けていくとか。


 アイザックさんの周りを見渡せば商人であろう者たちも多い。

 頑張って宣伝したのかなと思って聞いてみたがそうではないらしい。


「ははは、今までは月二回国の決めたタイミングでの移動のみだったのです。

 自らの都合で好きな場所に行商できるとあらば確かめに来るのは当然ですぞ!」


 国がルートを決める為、儲かるルートを己で設定する事もできなかったそうだ。

 だからこそ村の物資を買い取って売りさばいてくれるかはルート次第。村から町へ売りに行く場合は命がけになる。


 村は相当苦しい立ち位置に居るんだな。


 ルナたちの村も戦える奴は多い時でも二人しか居なかったと言うし、護衛につけたら村の守りが無くなるから仕方がないのか。

 その前に二人じゃ盗賊の集団に勝てるかもわからないな。

 だから美女に接待させて居つかせようとしていたのか?

 そりゃ、強者への持て成しが手厚くなるわけだ。


「確かに画期的だ。

 しかし、料金が高すぎる。これではとても個人では頼めんぞ」


 一人の商人から設定値への苦情が入ると他の者たちもそれに同意の声を飛ばす。


「皆さん、勘違いをしてやいませんか?

 好きなルートを選べるのですぞ。護衛料金は日数により変動します。

 ここからこのルートを回りこう辿れば七日程度の料金で移動できるのです。

 それならば大きな商会でなくとも三つ以上の商隊を組んで料金を割れば十分元は取れるでしょう」


 アイザックさんは地図を指差して往復するより弧を描いて周り、場所場所で売り買いをする方が得だと説明を入れる。

 彼らは割り振られたルートに強制的に着かされ、その村や町が望む物資を用意し村が売りたい物で捌ける物だけを買い取る日々だった。

 特に他国へと行く場合は各町を周ることなどできなかった。


 好きに町を周って帰るのであれば売れる物資の幅は大幅に広がる。

 今までただ行って戻るだけの一度の売り買いではない。回る町すべてで自由にやり取りができるのだ。

 彼の声に「おお!」と湧き上がる商人たち。


「集団で割り勘しても良いのか! それならば確かに安くできる!

 だがしかし、そうなってくると正確な収穫時期を知らねば機を逃すな……」


 今までは兵士が巡回した時に情報を得て居たのだそうだ。それすらも実費となると割っても厳しいんじゃないかと声があがる。


「それは独自にルートを作って貰うしかありませんな。

 ただ、村も野菜だけを扱う訳ではありますまい。

 情報に旨みも出ると成れば面白いとは思いませんか?」

「そうか! 保存が効く物の買取時に収穫時期の情報を得れば……」


 彼らはそれも金に成るのではないかとほくそ笑む。


「これから商人の己の才覚で利益が決まる時代が来ます。

 面白くなりますよ! 商売というものが!」


 アイザックさんが悪い顔で笑うと彼らもそれに続いた。

 それに思わず苦笑させられながらもその場を後にしてカウンターへと移動する。


 説明を受けているメンツにはリリィたちやゴーンも居た。


「ねぇ、この買取ってどれだけ持ってきても買いとってくれるの?」

「ええと……少々お待ちください……あっ、保存の利くものであれば大丈夫だそうです。ただ、数日で駄目になるものについては買取に制限が付く場合があります!」


 少したどたどしいが、問題なく説明を行えている様子。


 あの説明は終わったのかなと首を傾げていれば俺が決めたあのシステムの説明がなされた。


「傭兵ギルドではギルド員のランク分けを行っております。

 行ける階層に応じて最低ランクのGランクから始まり、F、E、D、C、B、Aと続き最高ランクがSランクとなります。

 最低でもDランクを超えた者が護衛依頼を受諾可能と成ります。

 今後、発生するであろう地上に居る魔物や盗賊の討伐依頼などもランク制限が発生しますのでご了承ください」


 護衛料金もランク分けされていて値が張るのはCランクからでDランクは安い。

 その代わりに盗賊に遭遇した場合は逃げても構わないとしている。

 遭遇する魔物の討伐だけをしっかりやればいいという契約となる。


 これに関してはCランクからにした方がいいのではと警鐘を鳴らしたが、危険でも安く運ばせないと利益が出ない者たちが多く居るからと言われてしまった。


 ただ、盗賊に襲われる事は少ないのでたまに出て来るゴブリンだけを倒す仕事になるだろう。

 だから運が悪くなければ楽して稼げる仕事となる。


「他にも、国を出る時には申請が必要になりますので悪しからず」

「兵士になるのに出られないって訳じゃないのか?」

「ええと、その護衛時には出ているので出られるとは思いますが……」


 彼女では答えきれない質問が出てしまったので間に入って話を引き継ぐ。


「この決まりは兵士が他国に行って悪さしちゃうと国に責任がくるからだ。

 だからどの国にどのくらいの期間行くのかくらいは事前に調べたいって話だ。

 そうすりゃ自分が悪さしたらバレ易くなるから早々出来ないだろ?」

「お、王様!?」


 いあ、うん、王様ではあるんだけど……

 しょっちゅう顔合わせてるんだから驚くほどじゃないだろ?


「うちの国が緩いのはもう感じていると思う。

 だけど人に迷惑かける行為だけは別だ。

 そっちは逆に厳しくするつもりだからよろしく頼むな?」

「「「は、はいっ!!」」」


 そんなに畏まらんでもいいけど。

 まあわかってくれたならいいか。


「ちなみにうちの戦闘員は全員Sランクだ。皆も無理しない程度に頑張ってくれ」


「「「お、おお?」」」


 と微妙な声が返る。

 あれ、と疑問に思っていればカウンターのお姉さんがランク別の強さの説明にはいった。


「Fは五階層以上、Eは十階層以上と五階層を区切りにランクは上がっていきます。Sランクは最低三十五階層からとなります」

「「「おおおおお!!!」」」


 その倍の階層行ってるって言ったら更に驚くだろうなぁ。

 まあこのくらいの設定の方が皆やる気出すだろうとこの程度に留めた。

 軽く超える奴が頻発したらSSランクとか上を作ってもいいしな。


 皆も乗り気になってるしこれ以上は邪魔だろうと傭兵ギルドを後にした。

 すると後ろから付いてくる影が三つ。


「ねぇ、わたしたちもSランクになったら家に入れてくれる?」


 そう聞いてきたのはノアだった。


「いや、入れるも何も一緒に暮らしているだろ?」

「そうじゃなくて!」

「じゃあ何を……」


 あっ、ナニを入れてって事?

 なんて呟けば赤い顔をしたルナにお尻を叩かれた。


 ふむ。だがしかし嫁が……


 そんな悩みを抱えながら一緒に歩いて町を見て周る。


「なぁ、まだ少し寂しいよな?」

「すっごく寂しいよ。夜も一緒に寝たい……」


 いや、エヴァちゃん?

 そうじゃなくてだな。

 町並みの話!


 理路整然とした佇まい。

 これで道も整備されれば立派な町なのは間違いないのだが、何もないのだ。

 中央通りには少しばかりの商店があるのだが、色々足りてない感が半端ない。


「えぇ! もううちの村よりも全然凄いよ?」


 ルナの言葉に、聞く人選を間違えたと思いながらも続ける。


「うん。大きくは成ってきたけども華やかさとか娯楽とかさ。

 なんか面白そうなもん作るか?

 いや、その前に平均所得を上げてやらんと遊ぶのは無理か」

「えぇ……これ以上何かしたらソフィアさんがまた怒るよ?」


 いや、俺が悪事を働いたみたいに言うのやめて貰えませんか?


 なんて戯けて返せば三人は楽しそうに笑う。


 しかし多少は真面目に考えなければいけない問題でもある。

 この世界、大半が手作業の為貧富の差が激しいのだ。

 物価が安いものでも機械で大量生産が出来ないのだ。

 かと言って値を上げても多少便利になる程度の物は買ってもらえなくなる。


 よって単価の低い商品を作る作業員の給料は驚くほど安い。


 このままではどんどん傭兵ギルドに人が流れて製造業が覚束なくなる可能性がある。

 そうなれば買取にストップが掛かり今度は傭兵ギルドの活気がなくなるだろう。


 魔物の討伐が無くなって暇になったしそこら辺手を付けてみますか。


 ま、基本俺は人頼みだけどな!


 と胸を張れば三人の少女に「じゃあ頼っていいよ」とじゃれ付かれながら街中を散歩してまわった。

 



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