第164話
ルソールのお城を出て一先ずソフィアと通信を繋いだ。
先ほどの会談での話を彼女に鬱憤を晴らす様に告げて、余裕だからこのまま落としてくると一人で行くと伝えた。
『待ちなさい。トップを暗殺した程度じゃ何も変わらないわ。
やるならやるでトップの後任をこちらで用意するくらいじゃなきゃ駄目よ!』
「いや、変わるだろ。いつでも殺される可能性があるってわかれば」
『馬鹿ね。そうなれば相手は何をすると思う?
何をしてでも潰しにくるわ。何をしてでもよ』
ああ、弱い所を攻撃してくる訳か。
流石にうちの国民を狙われるのは困るな。
「けどさぁ、あいつらの言い分を聞いてやるのもないだろ?」
『当然じゃない! そんな言い掛かりに屈したら際限が無くなるわ。
攻め込むのを否定しているわけじゃないの。やるなら徹底的にやりなさいって話』
彼女は少し強く言うと『一応気を付けてね』と心配の言葉を残し通信を切った。
て、徹底的にか。
殺しつくせって話じゃないのは俺にもわかるが、後任なんて用意できないぞ。
俺にできるのは力の差を思い知らせるくらいだ。
ああ、それならそれを徹底的にやるか。
うん、とても気分が晴れそうだ。
そうと決まれば早速行こうとルンルン気分でショウカのお城前へと転移する。
近くで見てみると驚くくらいに立派な城だ。
お城の外壁の門に六人ほど兵士が立っている。
転移にて現れた俺を見て「何者だ!」と声を上げた。
「俺は南部の国の王、カイトだ。お前らと戦争しにきた」
「貴様、何処の馬鹿かは知らぬがそう名乗って無事で居られると思うなよ」
どうやら信じていない様子。
一人で来たんだし当然か。
「おう、相手してやる。かかってこい」
「生意気なガキが……
ごっこ遊びで許される範疇ではない。己の無知を後悔して逝くがよい!」
槍を前に突き出して走ってきたので大きな石畳を引き抜いてそれで叩く。
衝撃で石畳は弾け飛びドンと小気味良い音を響かせ、数十メートル転がっていった。
おし、生きてる生きてる。
不殺を貫くつもりはないが、見せしめで虐殺するつもりもない。
逆に殺さず制圧した方が力の差を思い知らせるにはいいだろうしな。
「なっ……!? 今、何をした!!
いや今はそんなことよりもこれでは門の守りが……
私は応援を呼びに行く。お前らはそれまでここを守るのだ!」
一人が中へと逃走しそれを恨めしそうに眺める残された門兵。
「大丈夫だよ、手加減するから」
そう告げながら歩を進めれば彼らはじりじりと下がる。
手を出してくる様子はないのでこちらも攻撃をしづらい。
どうせなら攻撃してきて欲しいんだけど、どうすればやらざる得なくなるかな?
ああ、そうだ。
攻城戦と言えばあれだろ。
「戦争だから門破壊するけど、いいよな?」
「な、なんだと!? そんなの駄目に決まっているだろうが!」
「いや、だって戦争だよ?」
「いやいや、駄目だ駄目だ! それだけはしてはならん!」
彼は涙目で俺をじっと見詰め、情に訴えかける。
こいつ、俺の弱点を看破しているのか!?
めっちゃやり辛いんだが……
『私が説得してもいいよ。体制を変えるには至らないと思うけど』
見詰め合って居ればディーナの声が聴こえた。
彼女曰く、己を省みる事が出来ない者には畏敬の光が余り効かないのだそうだ。
確かにレガロって奴には効かなかったな。
「いや、お願いするとしても大半の奴に痛い思いさせてからがいいかな。
攻め込む気を削ぎたいから」
うん。この前みたく通信に気がつかない事だってあるだろうし、睡眠中とかに来られても対応が遅れてしまう。
『わかったわ。じゃあ、楽しんで見させて貰うわね』
「おっ、じゃあ楽しめる様に派手に行きますか」
ディーナと話している間に応援の兵が続々と流れ出てきた。
集まった兵が門の前で整列していく。
「賊はここだぞー!
ほれほれぇ、さっさとかかってこいやぁ!」
手を上げてアピールしてやれば直ぐにスキルによる波状攻撃がきた。
いいねいいね。
こういうのじゃなきゃ暇つぶしにもならん。
ミスリルの剣ですべてを叩き落しながら歩いて距離を詰めていく。
「いいのか。その程度じゃ城が落とされちまうぞ?」
ある程度距離が詰まった所で『衝戟』で吹き飛ばして『ストーンバレット』を門に放った。
相変わらず反則的に大きな岩が高速で飛んでいき門を破壊してなお突き抜けていった。
大きな門を弾き飛ばし石で出来た外壁もが崩れ落ちる。
衝撃と砂埃に巻かれ地に伏せた兵士たちがざわざわと騒ぎ出す。
「そんな馬鹿なっ……!?」
「な、なんだこの威力は!?」
「こ、これは我らでは無理だ! 将軍を呼べ!」
いいね。
思い知らせる為にも、もっともっと戦力を集めてもらわないとな。
「おう、呼んでこい。まあこっちからも行くけどな」
ゆっくりと歩を進めれば、遠巻きに囲みながらも後退し割れていく。
門だった瓦礫の山となる場所を飛び越えても彼らが道を閉ざすことはなく、城内へと侵入する。
ある程度歩くとストーンバレットの岩が地面を抉り半分ほど埋まっていた。
徐に岩に手を突き刺して持ち上げ、囲む彼らに見せ付ける。
「いいのか、止まってて。今度はお城に投げつけるぞ?」
「「「や、やめろぉぉぉ!!」」」
再び一斉にスキル攻撃を撃ってきた。
致し方なしと手を離して剣で切り落とせば余裕で相殺できたが岩が壊れてしまった。
「へっへっへ」とやってやったぜと言わんばかりの顔を見せる兵士たち。
イラッと来たので『ストーンバレット』を城に向けて撃てばお城の一角を弾き飛ばし大きな穴があいた。
お返しだと「へっへっへ」とドヤ顔をお見舞いする。
「……」
兵士たちは絶望に顔を染めた。
トップも馬鹿なら下も馬鹿だった。
情に訴えた奴は中々のやり手かと思ったが調子に乗ってしまったようだ。
大きく穴を開けられた城から蜂の巣を突いたかのように人がわらわら飛び出してくる。こちらに向かってくる者、他の建物へと逃げる者の二手に分かれて。
そんな事はお構い無しに再びお城へ進む。
「しょ、将軍が来たぞぉ! 直ちに道を空けるのだ!」
大きな喝采と共に、お城へを塞いでいた兵士たちが割れていく。
割れた人垣の先には四人のミスリルに身を包んだ男たちが立っていた。
「ほれ、お前らが宣戦布告してきたから攻めてきてやったぞ」
「こ、こいつはっ……!!」
「何をふざけたことを……宣戦布告などしておらんわ!」
三十路かそこらの若い方の二人が明らかに焦った顔を見せ声を上げる。
「したから。そっちのあんたは知ってるよな?」
「先日の会談の事は聞いたが……何故一人で来た」
頬を引きつらせ苦い顔を見せる将軍であろう厳つい老人。
なんだよ。
皆で来て欲しかったのか?
そう思いつつも言葉を返す。
「必要がないからだ。俺一人で城くらい十分落とせるからな」
「そう、であろうな……
皇帝は説得すると言ったらここで引いてはくれはしないか?」
確かに彼は最初から止めていた。
だがこちらの脅威を理解していた上で結局止められてない訳だ。
気持ちを理解することはできるが、首を縦には振れない。
「それを信じろってのは流石に無理だろ。
てかお前らも馬鹿な上司が居なくなった方が幸せな人生を送れると思うけど?」
「ふっ、その様に鞍替えするものに将など勤まらんわ」
そう。
まあ俺としてもお前らをボコれるのは都合がいいからいいけどさ。
「じゃあ、やんなら来い」と挑発的に手招きを行うが、若手の二人が声を上げ睨み合いが中断される。
「ま、待ってくれよ、キンブ将軍!
ここで無駄死にするのが臣下の勤めじゃねぇだろ?」
「そうですよ。ラカン将軍も!
ここは話し合いで場を収めてこその忠義でしょう!?」
「確かにな。しかしその希望は先ほど絶たれた」
ラカン将軍と呼ばれた老兵は最初から殺意を飛ばしやる気満々だったが、一応彼らに同意を示した。
それにより若い二人が前に出た。
「その、キミの望みは何かな?
戦争を終結させるというなら協力する。
全将軍が反対を示せば誰であっても無視はできないから期待に添えると思う」
「ああ、俺たちが現役の時代は攻め込ませねぇ。
全権を持っている間は約束できる!」
ふむ。攻めて来ないのを実現できるってんなら俺的には悪くない。
けどルソールだって魔物の件が片付けば腰を上げるだろうし、結局駆り出されそうな気もする。
あれ、待てよ。
その前に俺を罪人扱いしていたからこのまま終わりには出来ないよな。
と、会談にてあった話を彼らに正確に伝えた。
「なっ、何でだよ!?
それだけの事で皇帝はこんな化け物に喧嘩を売ったのか!!」
「やめよ、ドウゴ。帝批判は重罪ぞ」
「しかし将軍! これは流石にショウカから見ても道理が通らない!」
若手の彼らは『俺たちの命をなんだと思っているんだ』と憤る。
「そうそう。それが普通の反応だろ。
その上で帝批判が重罪なんて意味のわからない言葉が出てくるんだから放置できないっての」
「先ほど申した事を取り下げられれば引いてくれるのか?」
うーん、それができるなら別にいいけど本当にできるのか?
あの皇帝相当な自己中だぞ。
その上批判できないんだろ?
もう無理じゃん。
そんな言葉を投げかけるが彼らはやってみせると言い切った。
「わかった。じゃあ今回だけはそれを信じて引くよ」
「約束は守る。これ以上何か起こらぬうちに即刻退去して欲しい」
「うむ。説得が終わるまでは排除を是とした者を止められん。
早々に去るがよかろう」
ラカンって爺さんは納得いって無さそうだな。
まあ、派手に城ぶっ壊したんだから当然か。
しかし、この程度じゃハウンドドックの群れに蹂躙されて終わるんじゃないか?
あ、一応忠告しておいてやるか。
「ああ。後、魔物はまだまだ来る筈だからちゃんと対策しろよ」
「やはりか。あの数が綺麗に居なくなる筈がないとは思っていたが……」
流石におかしいとは思っていたようだ。
恐らくこの程度の強さじゃ守るだけで精一杯で斥候も出せなかったんだろう。
んで魔物を減らしていけば来なくなったから終結したと勘違いしたと。
「次はないからマジで頼むな。次は問答無用で城全部吹き飛ばすから」
そう告げれば顔を引きつらせて居たが、気にせず転移でおうちへと帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます