第162話



「終わりだ……もう、どうにもなんねぇ……」


 彼は降ろされるとそのまま膝と付き四つん這いになって顔を伏せた。


「それではわからん! ゴーン、説明しろ! 何を見た!」


 村長の問いに彼は乾いた笑い声を上げた後、諦め顔で説明を始めた。


「ラズリィだけじゃねぇ。グアートも他も全滅だ。完全に壊滅していた。

 それだけじゃねぇ。全てが魔物で埋め尽くされてたんだ。

 町だけじゃねぇ。平原から何から全てだ!

 こいつらの言った通り世界の終わりだ……」


 この短時間で結構周ったんだな。

 それにしてもこいつ大丈夫か……俺たちは終わりなんて言ってないんだが。

 まあいいや。

 悪い奴らではなさそうだし、こいつらにも選択枝は与えてやるか。


「ええと、俺たちはちゃんと抗う術は持っているからな。

 それと俺の国に来るならこのまま守ってやるけどどうする?」

「い、行く! 俺の家族も頼む! 空を飛べるあんたらに頼む以外道はねぇ!

 あれだけの数倒せるあんたらなら飛んで遠くに離れればきっと……」


 ゴーンと呼ばれた男がそう言った瞬間「ちょっと待て、勝手に決めるでない!」と村長に腕を引っ張られて連れられていった。

 少し離れた場所でちゃんと報告しろと怒られて、外に転がっていた魔物のドロップを大量に見たと報告を入れている。


 あれだけ大きな声で報告するなら連れて行く必要はないと思う……

 まあ、相談したいならいくらでもどうぞだが。


 そんなこんなで暫く待てば村長がこちらに歩いてきて頭を下げた。


「村人全員を守ってくれるのなら貴方に従おうと思います。

 ですがその、対価は如何ほどになるのでしょうか……」

「対価?

 ああ、俺の国で好きな職に就いて普通に暮らしてくれればいいよ。

 家の心配もいらない。

 畑も無料貸し出しだし。収穫物の三割は国に収めて貰う決まりだけどな」

「好きな職に就く……ですか。我らは奴隷になるということではないのですか?」


 変な勘違いをしていた彼らにしっかりと説明した。

 うちの国民として受け入れるだけの話だと。

 食料も当面は配給制にしてあるから心配はいらない、と補足も入れれば漸く安堵した様子を見せた。


「それならば是非」と頼まれたので、他で討伐している皆とお留守番のアカリに通信を繋ぐ。


「ゴザ村の住人を保護した。

 うちに移り住んでくれるみたいだからゲートを開こうと思う。

 アカリ、五百人くらいの受け入れ準備を頼むよ。

 それで俺は魔力が切れると思うから皆もそのつもりで」

『畏まりました。お任せください』


 流石にゲートを長時間開けば魔力はほぼほぼ枯渇する。

 まだ双頭の獣は近場に居ないとはいえ俺の魔力が枯渇している状態だと伝えて置くのは必須だろう。


『という事はこのまま帰るのですね。

 では切りの良い所までやって私も戻ります』

「うん。それでお願い。アリーヤ、皆も無理をしない様に頼むね」


 魔力がないから大量に来てしまうと困るので軽く注意しつつ、アカリに「急だけど大丈夫?」と尋ねた。

 こっちに着てからアカリにも仕事ができて張り切っているのはありがたいのだが、彼女は無理ですとは早々言わないので問題がないかを小まめに確認している。


『では、一時受け入れに兵舎を使っても問題ありませんか?』

「ああ、勿論。資材関連が厳しくなったら言ってくれ。直ぐ取ってくるから」


 もううちも四千人ほどの人が居る。建築も開拓も物凄い速さで進んでいてそろそろ個別の住居が行き渡ってきた頃だろう。

 順次住人のレベルアップもさせているから更にスピードが上がっているはず。

 五百人程度の受け入れならば問題ないだろう。

 あっ、そういや昨日も数百人連れてきたばかりだったわ。

 まあ、アカリの声色から見て問題ないだろう。


『あなた? 確かに資材も食料も問題ないけど人には限界があるの。

 一度に色々やれと言われても限度がありますからね?』

「うぅ。わかった。けど今回、家は無事だったから必要なのは畑だけだぞ」

『あらそう。なら問題ないわね』


 ソフィアに釘を刺されながらも了承を得たので早速ゲートを開く。

 しっかりと説明をしてから開いたが、直ぐには通ってくれない奴もいて大変だった。ソフィとソーヤに無理やり放り込んで貰い移動が完了する。


 その後、魔力が尽きた俺はソフィに抱っこされてゴザ村とうちの町を何度も往復して、彼らの家を持ってきた。


 そして彼らの住居を新しい区画に並べ、配給の受け取り方や畑を借りる申請などのやり方を教えた。


「魔物はこっちから討伐に出向くし、此処か襲われても一瞬で戻れる。

 直ぐに戻れる理由は言わなくてもわかるだろ。心配は要らないからな」

「ありがとう御座います。

 その、差し支えなければ貴方様のお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」


 おおう。俺、名乗ってなかったのか。

 もう若造をこのネタで弄れないな。


 しかしゲートを出したり家持ってきたりしたら恐れられちまったな。

 舐められるよりはよっぽどいいけども……


「そういや言ってなかったな。俺はカイトだ。

 一応この国の王様ってことになってる。ついこの間出来たばかりの国だけどな」

「な、なんと!? 王は先ほどのクレア女王様では?」

「ああ、あいつは別の国の王だ。もっと南の方の。

 こっちには国が一杯あるんだよ」


 なんて話していれば村長の息子ゴーンも話しに入ってきて暫く話し込んでいれば漸く打ち解けてきた。

 彼らはダンジョンにも行ける強さを持っている様で、兵士に志願してきたので新たに作っている騎士協会の様な組織の事を説明した。


 そう。アイザックさんたちと作っているあの組織だ。

 だが、騎士を知らない彼らに説明するのは少し大変だったが、理解して貰えばゴーンがかなり乗り気になっていた。


 気分が乗ってきたので「折角だから歓迎会やるか!」とバーベキューセットを取り出して道端に並べ。肉と野菜をポンポンと出していく。

 最近はうちの住人たちも慣れたもので、大声で「宴だぁ!」と叫べば人が集まってくる。


 集まってきた人たちに「うちに招待した新しい国民だからよろしく」とショウカから来た奴等を紹介しつつ、歓迎会するから肉焼いてとお願いした。


 先日連れてきた元ショウカ国民も招待して酒をじゃんじゃん振舞ってやれば彼らはさっそく出来上がって気兼ねなく仲良く盛り上がり始めた。

 その頃には飲んでない俺はテンションが下がってきていたので早々に帰ってきた。


「ただいまぁ~!」


 声を上げた瞬間、腕を取られ居間に連れて行かれる。

 その先では皆集まっていてこちらに真剣な眼差しを向けていた。


「どした?」

「いえね、救世主殿の人助けは何時も通りなので良いのですが、私たちでボスクラスの捜索も同時進行した方がいいと思っておりましてね」


 マイケルの成長を見てからご機嫌なアーロンさんは『俺も負けて居られない』とそんな事を言い出した。

 しかしそっちは大分先でもいいと思っている。

 と言うより無駄に時を早めるよりも少しでも強くなった状態で当たった方がいい。

 だから焦る必要はないと皆に説明を入れた。


「えぇぇぇ……ぶっちゃけるとぉ。敵が弱くて詰まらな過ぎるんだよぉ。

 この程度ならこっちの人に任せてもいいんじゃなぁい?」

「いや、だから俺に任せてダンジョン行ってこいって言ったじゃん?」


 最初にそう言っただろとエメリーに事実を突きつければ「そうだっけぇ?」と首を傾げているが、他の面々はしっかりと覚えている様子。


「まあ、これほど差がある雑魚狩りをしても成長は殆ど見込めないし、万全の体制で慎重にやるならいいけどね」


 そう。双頭の獣のみを減らせるなら万々歳だ。

 問題は減らす際にケルベロスと遭遇する危険があるということだけ。

 それも俺の準備が整った以上、万全の状態であればやってもいいと思っている。


「流石カイト! 話が早くて嬉しいよ!

 僕ももうそろそろやれると思うんだ。あれとも……」

「アレクさんが行けると踏んでいるなら私だって……」

「これ! 気合を入れるのはいいが、過信をするでないぞ?」


 双頭の獣を思い浮かべているであろうアレク。

 自分もと実力の近いサラも気合を入れている。

 それはホセさんに窘められても変わった様子はない。


 他の皆も思いのほか気合が入っている。


 そりゃそうか。

 ディーナの話じゃこれが終われば一先ず安泰だもんな。

 もう一体は場合によってはやらなくていいとも言っていたし。


 この二年間、これに縛られっ切りだったから気合も入るよな。

 だが、アレクとサラにはソロは早い。

 三対一くらいで望む様にと注意を入れた。


 そして漸くお休みタイム。

 所在無さ下にそわそわしているソフィとリディアをつれて寝室へと入る。


「今からお前たちは押し置きです!」

「ごめんなさい……」

「え、えへへ、はいっ!!」


 ソフィとリディアの温度差に笑ってしまいながらも色々と頑張った。

 途中、リディアは何をしたのかとソフィに尋ねられたが、こいつへのお仕置きはご褒美なんだと言うとソフィはリディアを見て唖然としていた。


 そんなこんなで本格的に始まった討伐初日は成功のままに終わりを告げた。


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