第161話



 リズとの戦争は直ぐに終わり平和が訪れたのだが、まるでリズを『こやつは四天王の中でも最弱』と言わんばかりに攻めてきた者たちによって再び開戦した。


 だが今日は討伐開始日だ。

 遅れるわけにはいかない。

 ということで、俺たち数名は寝不足を押しての参戦となった。


「ほら、しゃんとしなさい! 貴方たちも!」

「くっ、最弱がっ!」

「全くよ、口ほどにもない癖に!」


 リズに窘められた者たちは寝不足で不機嫌である。

 ちっとも悪くないはずの彼女に悪態をつく。


「あんたが訳のわかんない四天王とか言い出すから!!」


 頬を抓まれるが眠くて言い合いをする気になれない。


「ごめん。リズが愛らしくてついさ……」と抱きついて寄りかかる。


「い、意味がわからないわっ!」


 そう言いながらも口を綻ばせ支えてくれるリズ。

 チョロ可愛い。


 おっと皆待ってる。


「さて、今日皆に集まって貰ったのは他でもない。

 これの為にずっと頑張ってきたんだから言うまでもないだろうが、これより人類を脅かす魔物の討伐を始める!」


 余りの眠さに険しい顔になってしまう。

 皆、ガチな顔してるけど違うんだよ。

 眠すぎるだけなの……


「人数が少ない分長い戦いになると思うが、気負わず地道にやっていこう。

 てな訳で現地まで飛ぶぞ。『フライ』!」


 とりあえず、風を受けて体を冷やせば眠気も飛ぶだろう、と高度を上げてスピードも上げる。

 そしてしばらくすると漸く目が冴えてきた。


「なんだ、始まる前からその様な顔をして……ソーヤを見習わんか!」

「ク、クレア? お前、何で居るの?」

「す、すみません。止めたのですが……」


 良く見れば自力で飛んでいる。ということは避難も自力でできるという事だが……


「おまえなぁ……クレアを本気で愛してるなら引っ叩いてでも止めろよ。

 クレアにとっては本当に命の危険ばかりの場所だぞ?」


 これは駄目だろとソーヤにジト目を送ったが、余裕な顔で「ははは」と笑う。

 え?

 なんでそこで笑うの?

 俺、お説教してるつもりなんだけど?


 ムッとした顔でソーヤを見れば直ぐに説明を入れてくれた。


「すみません。丁度昨日その……言われたことをやったもので……」

「ふははは! わらわが優しく叩かれた程度で止まるか!

 危険だから駄目? そんな詰まらん事は言うでないわっ!

 危険ならわらわを鍛えて安全にするくらいの気概を見せるのだな!」

「おいソーヤ、これはこいつが我侭言っているだけだからな?

 増長しすぎる前に止めないとクレアの為にならないぞ。これはマジ話だ」


 自覚があったのかクレアは目を逸らすとサッとソーヤの陰に隠れる。

「今回限り、ですもんね?」とソーヤはクレアに慈愛の目を向ける。

 甘いと突っ込みたい所だが、もう現地に到着する。見渡せば獣王国からは他に誰も来ていないようで安心して昨日の外壁に着陸する。


 昨日は帰るまで警戒した視線を向けていたが、今日はなにやら歓迎ムード。

 恐らく再び魔物が集まってきているからだろう。

 だが、敵だなんだと騒いでいた奴等に構ってやる理由もないと降りて勝手に戦闘を始める。


 大きく広がって各々自由に討伐を開始したが二万程度しか居なかったので直ぐに討伐が終了する。


「えーと、次はこのまま北東進むよぉ!

 今の所はまだ町周辺にボスは来てないけど一応警戒は常にしておいてね」


 そうしていざ進もうとすれば後ろから叫び声が聞こえる。


『待ってくれぇ!!』

『助けてください!!』

『見捨てないでぇ!!』


 外壁の上のやつらは俺たちが去っていくのを見て嘆いているが、自分たちが選んだ道だろ。

 拒否ったばかりなのに止めてくれよ。なんか気分悪いじゃん。


「ほら、あんなの放って置きなさい。居ついて守れない以上できる事はもうないの」

「むう、なんかこういう時リズさんばかりでズルイ!」


 後ろから飛びついてくるソフィを受け止め「そうだな」と前を見る。

 ここから北まで殲滅するなら何の問題もないか。


 速度を上げて敵を引き連れながら北上する。

 物凄い数が付いてきているというのに、進行方向に居る敵の密度が急激に上がった。


「おい、クレアそろそろ上に避難しろ」

「うむ。そう言うという事はここで叩くのだな?」


 その問いに頷けば素直にフライで飛び上がるクレア。

 それを確認した後、殲滅しながらゆっくりと北へ北へと移動する。


 そうしてうっすらと見えてきたのは町だったもの。

 壁が破壊され完全に落ちているのが此処からでもわかる。

 よく見えない距離だが、想像に容易い凄惨さに数人が手を止めて見入る。


「おい! 手を止めてんじゃねぇよ! こっちに皺寄せくんだろが!」


 レナードの声に慌てて動き出す若年層の手を止めていた面々。

 そこで上空から声を掛けられた。


「カイトよ、先日の調査の時世話になった村がある。見に行ってくるがよいな?」


 聞けば戦争前に調査に来ていてその時に立ち寄った村が気になると言うが、お前が一人で行ってもしょうがないだろ。

 もし生き残りが居ても自滅するだけだぞ?


「はぁ? ダメだっつの! もしどうしても行くならソーヤ連れてけ!」

「かっかっか、わらわとソーヤが共に行くのは当然よ。じゃが心遣い感謝する!」


 ああ、最初から一緒に行く気だったか。

 じゃあ頼んだぞとソーヤに視線を向ければ彼は困った顔を向けている。


「どうしたんだ」と問いかければ「一人でこの数から確実に守り切るのには不安があります」と言う。

 仕方ないと俺も二人に付いて行くことにした。


「ちょっと周辺見回ってくる。此処の殲滅頼むな!」

「ヤダ! ソーヤが許されるなら私も行く!」


 大半の者が即了承してくれたのだが、我侭に育ったソフィが一緒に行くと付いてきた。

 

「言っておくが人数少ないんだからこっちの方が面倒な思いするからな?」

「一緒に居れば面白くなるから問題ない。

 カイト様はそのままで居てくれるだけでいい。それだけで笑える」


 こいつ、どんどん遠慮が無くなってきてやがる。

 ジロリと睨みつけるがなんら気にした様子はない。


 ぐぬぬ、お仕置きが足りないのか!? お仕置きが!


 ならば今は仕方ないと前を向けば予想外にもソーヤが助け舟を出してくれた。

 

「ソフィちゃん、少しは慎みを見せないとカイト様に嫌われるよ。

 それでもいいと思うなら止めないけど……」

「はぁ? 私が嫌われる? ソーヤの癖に生意気!」


 おい馬鹿それは止めろ!

 音痴なガキ大将の称号まで付いてくるぞ?

 っと冗談はさておきこれは宜しくないな。クレアも本気で怒っているし。


「うわぁ、ソフィそこまで性格悪かったんだな。幻滅しそうだわ……」


 呆れた視線を向けてわざとらしく大きく溜息を吐いた。

 既に弱りきった顔をしているがここで折れてはいつもの二の舞だと少し冷たい視線を継続する。


「ち、違う! ご、ごめんなさい……」

「……俺そういうの嫌いだから悪化する様なら距離置くかも」

「やっ、やぁぁぁ!! やだぁぁぁ!!!」


 よし、ここまで強く言っておけば大丈夫だろう。


 ソフィのジャイアニズムを叱責している間に村が見えてきた。

 魔物はそこら中に闊歩しているというのに村の佇まいは一見無事に見える。


 どういうことだと首を傾げながらも高度を下げて周辺を見てまわる。

 ソフィは汚名挽回のつもりなのか飛び回り周囲を隈なく調べている。


「あ、あのね、カイト様、あっちから声が聞こえたよ……?」

「本当か! よし行ってみよう!」


 不安そうに見上げる彼女の頭を撫でて指差した方向へと飛んでいく。

 するとそこにはダンジョンの入り口があった。

 その奥には人が沢山居るのがここからでも見える。


「ああ、ダンジョンに避難したのか」


 外の魔物はダンジョンの中には入らない。

 入れないのか、入りたくないのかは知らないがそんな話は聞いたことがある。

 実際に受肉した魔物を中で見たことはない。


 だから今の現状、ダンジョン内が一番安全だと言える。

 この危機にとっさに思いつくなんて頭良いな。


 さて、話し合いに行くにしてもとりあえず近場は殲滅しておくか。

 集めてないからそれほどは居ないがそれでも千近くは集まっている。

 こんなのを引き連れて行ったらまず間違いなく阿鼻叫喚となるだろう。


「やるぞ」と声を掛けて殲滅を開始する。


 その間にクレアがダンジョンに入り話を聞きに行ってくれた。

 まあ、クレアの頼みで出てきたんだから当然かとその場を任せるが、ソーヤが続かない事に疑問を感じた。


「ソーヤ、いいのか? 一人で行かせて」

「はい、大丈夫です。

 クレア様はカリスマがありますし弱くもありませんから」


 クレアの話になると途端に表情が優しくなるソーヤ。

 もうぞっこんである。

 彼は戦闘を続けながらもダンジョンの方へと何度も視線を向ける。


「いや、気になるなら行けよ」と背中を押してやれば漸く中へと入っていった。

 

 そして大凡を倒し終わり俺たちも中へと続く。


「もう怪我人は居らんか? 頼むなら我が騎士が居る今のうちじゃぞ?」


 見ればソーヤが村人たちにヒールを掛けていた。

 そこに怪我人がぞろぞろと集まってきたので範囲ヒールで即回復してやった。

 そして漸く村長との話し合いが始まる。


「初めに申しておく。わらわは南部、聖獣王国女王クレアである。

 北部とは敵対しているが、魔物の災害は別と考えてここへ来たのだ。

 なのでわらわたちは救援に来たと思ってよい」

「えっ、いえ……そう言われましても……」


 村長は敵対国の王だと聞き、二の句が上げられず固まってしまった。

 彼の息子であろう男が武器を片手に前に出た。


「おいおい。敵国の王が入ってきちゃ拙いだろうがよぉ」


 彼は武器を向けるでもなく村長との間に入る。

 心配になって割り込んだのだろうか?


「そんな事を言っている場合ではない。ラズリィは壊滅。周辺の町も全部落ちた。

 これはショウカだけの話じゃない。獣人全ての危機なのだ」


 クレアはソーヤに「こいつを担いで空からの景色を見せてやるのだ」と命じた。


「はぁ!? ふざけんなっ!

 そんな冗談みたいな話があるはず……って触るんな! 離れろ!!」


 暴れる男をソーヤは抱き上げてその場で『フライ』を使い浮き上がる。


「この魔法で安全に空からどれだけの魔物が居るかを見せます。

 危害は加えません。貴方も無償で情報を得られるのですから暴れないでください」


 浮き上がった事で男は黙り込んだ。了承はしていないがソーヤはそのまま入り口の階段を飛び上がる。

 残った俺たちに微妙な沈黙が訪れる。


「なぁ、随分余裕そうだけど良い作戦でもあるのか?」

「いいや。それほどの危機とは思っておらなんだ。

 おぬしらの言葉が本当ならばじゃがな……」


 早期にダンジョン内への避難を決めて、村人全員で避難した為、大怪我を居ったものは居るが全員無事だったそうだ。

 食料も当面問題なく、待てばラズリィとかいう町からの救援が来ると信じているらしい。


 あちゃぁ、こりゃ今から悲嘆にくれるパターンじゃん。


 そう思っている間に顔を真っ青にさせた彼がソーヤに抱えられたままに戻ってきた。





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