第160話
黄金の光に包まれながらディーナと会話するのにも慣れたものだ。
「もう安全に乗り切れるかなぁ?」と問いかける。
『安全ではないわね。でも異常な成長速度よ。
運が悪くなければ多分大丈夫と言えるくらいにはなったわ』
「あ、ここまでやっても安全じゃないんだ……
階層は安パイな所までやったとおもうんだけど?」
そう問いかけるが、このレベル帯に成ってくると多少の力の差はスキルで覆されるのだそうだ。
元々は魔物の方が強い。それを魔法とスキルで補っているのに魔物にもスキルを使われると一気に不安定になるらしい。
「進行の方はどうなの? まだ大丈夫?」
『そうねぇ……ショウカ次第かしら。あそこが今攻められてるから』
「はぁ? また呼び込んだの!?」
聞けば、前に呼び込んだ魔物の移動に釣られて流れてきたハウンドドックが結構居るらしい。
その所為で少し流れが出来てショウカの方へとちらほら魔物が攻め込んできてるそうだ。
『安心して。流石に自分で引き込んだ奴等を助けてやってなんて言わないわ』
「いや、国のトップはそれでもいいけど一般市民を考えるとそうもいかんだろ」
『そうは言うけどいいの? 安全度合いはさっき伝えた通りよ。
ショウカを助ける為に貴方たちが危険に晒されるのよ』
ううぅ。そう言われると迷う。
皆が修行する時間が削られるのかぁ。
「あれ? それなら当分の間、俺一人で対応すればよくね?」
『まあ、大分違うでしょうけど数が数だから焼け石に水よ?』
確かに。
数万ならまだしも百万を越えるともう何をしても個人じゃどうにもならん。
「ディーナ的には見捨てるべき?」
『むぅ。私だってこんな事言いたくないんだからね?』
「わかってるわかってる。けど、そっかぁ……」
前回と比べ、まともに討伐できるメンツが居ないのだ。
前回で言うならハイオークですら捌ける人材が少なすぎる状態なのだ。
双頭の獣なんてうちの奴等でもまともに受け持てるのは半数程度だろう。
そう考えると確かに。
ディーナの言う通りひとつも安全ではない。
でもまあ焼け石に水だったとしても俺が一人行く分にはいいよな。
ディーナとの雑談を終え、早速ショウカ大帝国へと転移してみればとんでもないことになっていた。
北の町は壊滅し、王都手前の町まで魔物に攻め込まれている。
だというのに兵士が戦っている様子はない。
城壁に立つ数人の兵士の元へ降りて状況を尋ねた。
「なぁ、そこの兵士さん。
なんで群れを止める兵士が居ないんだ? 何か作戦があるのか?」
「戦争で皆死んだんだよ。生き残った兵は王都だけを守ってる」
「俺たちはもう終わったんだ。捨石ってやつだ」
震えながら必死に魔道具に魔力を送っている。
恐らくは皇国で見たのと同じ。外壁を破壊されない為にだろう。
「ああ!! 駄目だ、魔力がぁぁ! おい誰かぁ、誰か魔力をぉぉ!!」
彼は叫ぶが魔力を送る場所はここだけじゃない。
転々と見受けられる兵士が魔力を送っている様が見える。
俺が魔力を注いでやってもいいがそれよりもこっちだろう、と外壁の下を覘く。
「ちっと待ってろ。近場だけはやってきてやるから」
「うるせぇ! 魔力を寄越せって言ってんだろうがぁ!!」
おおう、言葉が通じないほど錯乱しちゃってる。
こいつを相手にするのは止めようと外壁から飛び降りる。
「くそがぁぁぁぁ! 死んで逃げるくらいなら魔力を置いていけよぉぉ!!」
違うんですけど……ガチ過ぎて引く。
仕方ないとわかって居ながらも余りの温度差にSAN値を削られながらも、五万は越えているだろう魔物の群れに飛び込む。
こいつらの弱点は火で間違いないだろうと『ファイアーストーム』を全方位に打ち出すが、直ぐに群がってきて再び囲まれる。
大剣を振り回し、密度が高くなってきたら再び全方位『ファイアーストーム』となんの手応えも楽しさもない雑魚殲滅を続ける。
魔力が上がって巻き込める範囲も増えたからやってりゃその内減ってくるだろ。
そんな適当な考えで殲滅を続けた。
体感的に一時間近く続けていれば魔物が結構減ってきた気がする。
半分は切ったか?
何て周囲を確認していれば、上からめっちゃ見られているのを感じた。
大丈夫だから少しは落ち着けよ、と手を振っておく。
「「「うおおおお!!! ショウカ大帝国バンザーイ!!」」」
おお、元気になった。
それはいいが俺は他国の者だぞ?
まあ、大声出してまで訂正はしないが。
早くここを殲滅して事情を聞きたいんだが……まだまだ終わりそうにない。
単調すぎて飽きてきたと『瞬動』プラス『一閃』に変えて駆け回る。
魔力も余裕そうだと駆け回りながら『ファイアーストーム』もばら撒けばかなり勢い良く殲滅が出来た。
もう一時間ほど経つ頃にはぽつりぽつりと寄ってくる程度の魔物しか残って居なかった。
さて、終わった終わったと、再び飛んで外壁に上がってみれば何故か一般市民だろう奴等まで上に上がっていて拍手喝采で迎えられた。
「えーと、なんで国の奴等はここを見捨てたんだ?
どう考えてもここを捨てる意味がわからないんだが……」
防壁に硬化まで仕込んであってこれだけ発展した町を捨てるってどれだけだよ。
しかも住人が非難した様子もないんだが……てかめっちゃ拍手してるよ住人。
ここより南はまだ魔物が殆ど来ていないはず。
近場の兵士に目を向ければそわそわしながらも教えてくれた。
「はっきりしした事はわかんね。けどうちの兵隊は全部戦争に連れて行かれた。
負けてきたそうだから殆ど死んじまったんだろ。
んで兵が居ないから応援は送れねぇって言われたんだ」
「マジかよ……これからどんどん魔物が襲ってくる。
悪いけど流石にずっと居ついて守ってやる事は出来ない」
俺が守ってやれないと言った事で「待ってくれよ!」と悲痛な叫び声が飛ぶ。
収集が付かないほどに膨らんでいきそうだったので急いで声を上げて腹案を出す。
「お前たちが俺の国へ来るなら守ってやれるけど、どうする?」
そう。俺はもう国王なのだ。
誰に断りを入れることなく彼らを受け入れる権限を持っている。
「そういやあんた、どこの誰なんだ……?」
「今は南部で王様やってるカイトって者だ。
今ショウカが魔物に襲われてるって聞いて助けに来た感じだな」
「ちょっと待て!! 南部ってうちらと戦争やってるところじゃねぇか!!」
俺が南部の人間だとわかると彼らはこちらを睨みつけてきた。
先ほどまで英雄を見るような目で見ていたのに現金なものだな。
「そうだ。お前らの国が侵略戦争を起こしてな」
「嘘をつくな!! お前らが奴隷狩りをしたからだろうがぁ!!」
「そこの国と俺たちの国は別の国だ!
うちらの周辺国に奴隷狩りをする様な悪いやつが確かに居た。
だからそこを落とした時は俺たちは戦争に一切関わらなかったんだ」
と、俺はそう聞いた。彼らの中にも情報通は居て「確かにそう言われればルソールはどう考えても関係ない」と同意を示す。
その声に「そうだ」と頷いて言葉を続ける。
「この国のトップは、関係ない国だとわかっていながら奪う為に攻めた。
関係ない俺たちまで攻撃してくるなら静観はできないと争いになった訳だ。
今攻めて来ている魔物もこの国が俺たちの国に流そうとして連れて来て失敗した結果だ。
お前たちが自国の為にこのまま死ぬって言うなら俺はそれでもいいけど、うちの国の人間としてやっていくってんなら助けてやる。どうする?」
あれだけ錯乱するほど怖がっていたのだから直ぐに乗ってくると思っていた。
だが、数千人中乗ってきたのは数百人程度だった。
彼らには、自国の民として平等に扱う事を約束し、纏めた荷物と共にうちの国へと送った。
その際ソフィアから勝手に決めてと怒られたが、状況を話せば納得してくれた。
そして次の日の朝、久々にうちの皆が勢ぞろいした。
偶然じゃない。
俺が討伐に着手すると言ったらソフィアが勝手に呼び寄せてしまったのだ。
「あぁ、まだショウカに散らばった雑魚の数を減らしてる段階だ。
恐らくこれだけで数ヶ月はかかるだろう。
それまではダンジョンで効率を求めてほしいんだけど、どうかな?」
「却下よ!」
「当然じゃな」
「ここで行かなきゃ今までの意味がねぇだろよ」
あれ?
皆の安全を考えてベストな選択のつもりなんだけど……
そう言って皆の顔を伺う。
「あの、カイト様は一番強いのをご自分でやるつもりなんですよね?」
「おう。そこは譲れない。任せてくれ」
「雑魚処理もやるから任せてくれって今言ってますよね?」
「カイトさんの事だから双頭のやつだって間引くとか言って倒してくるだろ?
それじゃ俺たちの意味ないじゃねぇか!」
「アホ! 勝手な妄想で俺を悪者にするな! あのでかいのは任せるって!
だからギリギリまで時間を奪わないようにってしてるんじゃん!」
これは間違ってないぞと強い視線を向けるが、わかってくれないやつらが一定数居るようだ。
その中でも一番の強敵が口を開く。
「主よ。もう大凡の準備はおわっとる。
我ら全体でなら十程度までは受け持って見せる。だから一人で行くとは申すな」
うぐっ、そんなに切実な顔をされちゃうと……
「カイトくん、私はどう決まろうがなんて言われ様が一人でも行くわ。
だから行った上で生存率が上がるように考えて。私が大切ならね?」
ちょっとぉ?
それは卑怯じゃない?
え? お前が言うな?
待ってよ。
俺はいつもただ逃げてるだけだよ?
「「「威張るな!!」」」
あ、はい。
「それで、もう討伐始めちゃうとして潰されそうな町はどうする?」
「どうするって……はぁぁぁ」と小馬鹿にする気満々の顔で溜息を吐くリズ。
はぁ?
お前なんでそんな目で溜息吐くの?
ちょっとおっぱいが大きいからって調子に乗ってる?
「ええ、乗っていますわ! この駄肉!」
「そうね。調子に乗るのわよくないわよ、エリザベス」
「は、はぁ? 何でその意味わからない振りに乗るのよ!?
私は悪くないでしょう!?」
姉妹で戯れるリズに「それで、何で調子に乗っちゃったの?」と問いかけた。
「こいつ……どうせあんたは助けに行くの。
見捨てないんだから聞く必要なんてないじゃない!」
「いや、話の流れ次第で行かないよ?」
なぁ?
と視線を回すがどうやらリズに同意している奴の方が多そうだ。
「いや、仮にそうだったとしてもお前が俺を小馬鹿にする理由にはならんだろ!?」
「あらぁ! やっぱりそうなんじゃない!」
こ、この野郎、久々に『あらぁ』で威圧してきやがって。
宜しい。ならば今夜は戦争だ。と俺はリズの駄肉を抓んだ。
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