第159話
こつこつと道を作ろう計画をしていたのだが、ホセさんたちに却下されてしまった。トップがやる仕事ではないと。
そんな事をするくらいなら素材を売りに出してその金で人を雇えと言われた。
確かにアイテムボックスには大量に素材が入っているが、道を作るほどの大金を得ようとすると売るだけでも大変なのだ。
アイザックさんに頼めばいいのだろうが、彼には今仕事を頼んでいる最中。
色々落ち着いてくるまで待つしかなさそうだと道の着手は延期する事にした。
なので暇つぶしにダンジョンへ。
一応目標は達成したが、イレギュラーが起こる事だってあるだろう。
敵が沸くペースに合わせ周一くらいで敵を集めて集めて殲滅は行っている。
その殲滅さえ終わらせたら空いた時間は適当に遊ぶ事に決めていた。
うん。ちょっと根を詰めすぎていた。
そうしてうろちょろといろんな所に顔を出してぶらぶらしている昨今だが、今日は特別なイベントのある日だ。
それは懐かしの東部森林大討伐の日。
マイケルたちが居る以上、俺が行く意味はないのだが折角のイベントなので顔を出すつもりだ。
その話を皆にしたら珍しく自分も行くと皆が言い出して全員で行く事になった。
仕方がないと時間を見計らって全員でゲートで東部森林前に転移した。
コール平原を見渡せば、見覚えのある天幕が立てられている。
「あら、懐かしいわね……ってどうしたのよアディ」
「ははは、ここに来ると自然と悪寒がするのよね……」
「よかった。アディさんもでしたか。私だけかと思ってました」
あら……
皆乗り気で行くって言ってた癖にテンションが低いと思ってたけどそういう事か。
「どうする? 見物やめて町で休むか?」
皆を気遣ってそう問いかけたのだが……
「はっ! 折角来たのにビビッて逃げる何て真似できるかよ!」
「はい。マイケルさんたちが出るのにそれは流石に恥ずかしいです」
あれ、悪寒がするって言葉に同意してたからサラは乗ってくるかと思ったんだけど。
「魔物自体はもう気にするのもアホらしいほどの雑魚に成り果ててる。
俺たちに危険は一切ないから軽く殲滅して打ち上げで騒ごうぜ」
「「「おお~!」」」
天幕へと向かえば、直ぐにヘレンズに帰ったうちの奴等を発見した。
話を聞けば野良騎士の指揮官を任されているのはマイケルだと言う。
ほうほう。じゃあその指揮官様に挨拶させてくれよ。と彼らに案内を頼んだ。
「へっ!? カイト様!?」
「おう! やるっつってたから来たぜ」
「いやいや、呼んでませんよ!? この程度大丈夫ですって!!」
必死に弁解するマイケルにアーロンさんが「応援ではないぞ。お前らの戦いを見ながら酒を飲むために来たのだ」と説明を入れた。
「「「ギルマス!」」」
「おう。ってバイロンたちはどうしたんだ?」
「ああ……暇だから世界を回ってくるって言って旅行に行ってしまいましたね」
アーロンさんは「あいつら……下のもんの面倒みる立場だろうが!」と目を尖らせて唸る。
ヘレンズへと帰還する彼らに『頼むぞ』と真剣にお願いをしてあったのだそうだ。
「ギルマス、もう俺たちは子供じゃないんだから大丈夫ですって。
これからは俺がうちを守りますから」
「お、おお? おいおいおい!
マジかよ? 大人になったじゃねぇかよぉ!」
「いや、そりゃもうこんな年ですからね?」
マイケルは「今まで子供だと思ってたんですか」と苦笑する。
そんな暖かい光景を見守っていれば『おっさんの集い』子供勢が駆け出してきて、何故か俺の前へと殺到した。
ヘレンズに残っていた彼らとは余り面識はない。
どうしたんだ、と首を傾げた。
「救世主様! クインねぇちゃんどうやって強くしたんですか!?」
「クインちゃん私より弱かったのに!」
「すっごくどんくさかったんですよ!」
「ちょっとちょっと! 流石に十歳のミミよりは強かったからね!?」
殺到する子供たちの頭を撫でつつも、慌てるクインを見て笑う。
そんな中、後ろからアレクの声がした。
「お爺様!?」
「なっ!? アレク!!」
ここにルンベルトさんが居るのは予想できそうなものだが、アレクはその可能性に気がついてなかった様だ。
なにやら一歩一歩と後退り逃げようとしている様子。
お爺ちゃん子の彼が逃げる何て珍しいと様子を伺う。
「アレク、何故連絡をよこさんのだ! 心配したであろう!!」
「いや、その、色々あって……あはは……」
アレクはこっちにチラチラと視線を送りまくっている。
助けてと言いたいのだろうが、そもそも助けるような話ではないと傍観していたが、何故か矛先がこっちに向かった。
「カイトぉ! お前もお前だ! 何故連絡をよこさんのだ!」
「ちょっとルンベルトさん? 俺は顔出してますよね?」
「それは王宮にだろう。兵舎に来ねば顔も合わせられんではないか。全く……」
ふむ。あそこはマイホームでもある。
そう言うなら今度遊びに行こう。
そうこうしている間に討伐の開始時間が訪れたらしい。
アレクへの説教が途中なままに彼は集まる兵士を纏める為に動き出す。
「お前、連絡くらい入れろよ。飛んでいけば直ぐだろ?」
「いやうん。ずっとダンジョン篭ってると素で忘れるんだよね」
いや、気持ちはわかる。
一ヶ月以上篭ってるとダンジョンの外の事情からは隔離された気分になるんだよな。海外旅行から帰ってきて親に無事に帰ったよと言い忘れる感じだろうか。
アレクと雑談を交わしながらルンベルトさんの指示に従い移動する。
彼には、いつでも使ってくれていいが今日はマイケルたちの活躍を見に来ただけ、と伝えてある。
そんな中、大討伐がスタートする。
斥候が森に飛び込み、ざわざわと緊張に包まれた空気が伝わってくる。
「なぁ、もう宴会はじめねぇ?」
「おい馬鹿、人が命懸けで戦ってる横で宴会は拙いだろうよ!」
レナードの馬鹿な発言に注意を入れたのだがアーロンさんやエメリーが悲しそうにこちらを見ている。
ホセさんも若干何か言いたげだ。
要するに、呑ませろってことか。
「わぁーったわぁーった! けど、おおっぴらにはダメだぞ」
と、最前線近くにストーンウォールで野球のベンチみたいな場所を作った。
これなら少なくとも後衛からは見えない。
テーブルに宴会用の物を並べていく。
肉、おつまみ、酒、飲み物。数種類ずつ出せば一端の宴会場へと早代わりした。
その瞬間、ホセさんが凄い速さで自分の酒を一本確保し、それにアーロンさんが続いた。
レナード、コルトは苦笑しながらも残り物を取る。
喧嘩になっても詰まらないのでエメリーとアリーヤは飲む酒は本人の前に直接出してある。
「おお、おお。始まった、始まった」
漬物と一緒に酒を煽り、くぅぅとご機嫌なホセさん。
彼の言葉の通り斥候が森から出てくる。
その数五十程度。丁度良い塩梅の釣りだ。
これくらいマイケルたちで瞬殺だと思ったが敵が流されたのは彼の場所ではなかった。王国騎士団の面々が奮闘して倒していく。
「あー、こう見ると随分差がついちまったな」
「そうだな。もう共に組むということは早々ないだろう」
俺たちからの目から見ると余りに遅すぎて差を改めて実感した。
自分たちで言うのもなんだが明らかに次元が違う。
正直ここまで差が開いてしまうと余り嬉しくないな……
その後も毎回五十前後の敵が連れてこられ討伐が進んでいく。
「凄い安定してる。私たちの時と違いすぎ……」
「仕方ないのよ。あの時は異常種が居たんだから」
ソフィの不機嫌な声にリズが嗜めたが、皆ももっと連れて来いと呟いている。
「お前ら……命かかってるのに無茶言うな!
やりたいなら自分でやれ!」
「あそっか。じゃあ僕が行くよ!」
え?
いや、お前が行くと邪魔じゃない?
うん? 失礼なお口はここかな?
止めろ馬鹿! 唇抓むな!!
そんなやり取りの果てに俺は口を閉じる事になり彼は意気揚々と出て行った。
「全く、アレクも学ばんの。
あれではベレス団長に叱られるじゃろうて」
そう思って見ていたが、彼はしっかりとお爺ちゃんに報告し次の魔物の群れで己の強さを示してから行動に移していた。
陣形もマイケルたちを使い後ろに流れすぎない配慮もしている。
これならば俺たちは見ているだけでいいと新たにお肉を焼き始める。
そうしていればとうとうぬしがお出ましした。
一匹目のぬしはレッサードラゴン。それが見えると同時にホセさんが立ち上がる。
スッと消えると直ぐに戻ってきて手には大きな肉を持っていた。
軽く上に放り投げ、空中で薄切りにして見せるとお酒を片手に焼き始める。
「俺もちょっと飲もうかな?」
うん。もうそろそろ十八だ。こっちの世界じゃ合法だしいいだろ。
そう思って手を出すが取ろうとしたお酒をリズにずらされる。
「初めて飲むなら家でにしましょ。なんか不安だわ」
「はぁ? お酒くらい平気だし!」
「平気かはわからないでしょ。最初に家で慣らせば止めないから!」
「だから大丈夫だって!」
「ダメよ!」と何故か許してくれないリズと言い争っている間に討伐は終わっていた。
折角試してみようという気になったのに……
お酒は諦め、討伐していた奴等にご褒美としてミノ肉を振舞ってやった。
討伐中に焼肉臭を漂わせて居たから結構睨まれていたので、お酒も大量に出して許して貰う。
うん。全部飲んで良いよ。
どうせ俺飲ませて貰えないし。
そうして大盤振る舞いしてやればおお盛り上がりになり、どんちゃん騒ぎが始まる。
何故か酒の肴に模擬戦が選ばれアディ対レナード戦が拮抗し大盛り上がりだった。
最終的にはアディの勝利に終わったがなかなかに良い試合だった。
ルンベルトさんともじっくり話せたしアイネアースは平和そのものだという話も聞けた。
皆も自由に満喫していた様だし、なかなかに有意義な休日となった。
そうして宴会も終盤となりゲートにて皆と自宅へと帰れば、昼から騒ぎ続けて居たからか各々自室へと引っ込んでいく。
最終的に俺一人になり「よし、そろそろやるか」と決意を露にして地下室へと入った。
「ディーナ、そろそろ始めようかと思うんだけど、どうかな?」
慣れた口調で問いかければ、胸元から黄金の光が灯り始めた。
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