第158話
その後、周辺国を回り同じ説明を行えば全ての国に受け入れて貰えたので、住人を集めて説明会を行った。
女性も参加可能という言葉に大きな反響があったが、うちの女性たちの強さを知っているからか難しい顔をする男性は多かったものの反対の声は上がらなかった。
そうして募集が開始されたが希望者はそれほど多くはない。
元々兵士だった者を除けば五十名足らずといったところだ。
だが、ゼロじゃなければどうとでもなる。
そう、育てて裕福になれると言う事を証明してやれば良いだけの話だからだ。
ただこっち特有の問題もある。
そう。ダンジョン難易度が高く最初から一人でどころか未経験者のみですら不可能な点だ。
まあアリスの様に高い魔力を持ち強化魔法まで習得できれば絶対に無理というほどでもないだろうが、戦闘センスがある者でも最初は死闘を強いられるだろう。
流石にそんな状況は払拭しなければならない。
だから俺は魔物の生息域を細かく地図に書き出した。
魔物の生息域なら知識として頭に入っているので簡単だ。
そう。別に最初からダンジョンで強くならなければいけない訳じゃない。
幸いこの周辺はゴブリンゾーンだ。
この地のダンジョンはアイネアース王都と比べ二十階層程度から始まる。
人族で言うところの十二階層程度の魔物をクッションとして入れれば難易度は大きく下がる。
幸いあいつらは数が居るので少し念入りに鍛えればソロでもない限り危険は殆どなくなるだろう。
外の魔物はダンジョンと違い強敵が徘徊している可能性があるのだが、この地に限ってはその可能性はかなり低い。
何故なら早々動かないトレントという木の魔物に囲まれているから他から周ってくるというのが難しいからだ。
だから、トレントの生息域を入ってはいけないラインと定め、そこで訓練を積ませればいい。
勿論、最初は万全を期して護衛として人を付ける。
元々兵士だった者たちに加え、ある程度戦えるようになってきたノアたちやリリィたちが護衛につく。それに俺も行くので死者が出る事は絶対にない。
そんな思いで総勢百名ほどで森の方へと歩いていく。
「ほ、本当に大丈夫なのか?」なんて声がちらほら聞こえるが直ぐに「大丈夫だ」という声が返る。
余裕な表情で付いて来るのは既にゴブリンキングの時に経験済みの者達だ。
獣王国に帰ってしまった者も多いが残ってくれた者たちもいる。その大半は協力してダンジョンに行き、ちらほら狩りを行っていたのでゴブリン程度なら蹴散らせるくらいにはなっていることだろう。
その中には当然リリィたちも入っていて、そこで力を付けた彼女たちは女性たちの尊敬の的となっている。
今ではリリィたちは町の人気者だ。
「これからは戦える女性の時代よ。共に頑張りましょう!」
なんて彼女が言えば周囲の女性の目に光が灯る。
……こいつら元々肉食だからなぁ。怖い怖い。
あれから襲われてないが、どうにも強迫観念が抜けない。
おっと、もう生息域に入ったな。
一度止めて説明を入れるか。
と全体に止まる様に指示を入れる。
「さて、ここからはゴブリンが出てくる。
と言ってもあいつらは武器を持った大人と互角程度だ。
最初は弱らせてやるから心配はいらないが、気を抜くなよぉ」
「えへへ、気が抜ける声かけだね」とルナが笑う。
待て、別に普通に言っただけだろ?
え?
危ない時はもっと強い言葉を使う?
いや、うん。まあそれはそうかも。
なんて反省しつつも、飛び上がり探知にかかったゴブリンを五十ほど連れてきた。
「ちょっと!! 多いよ! 多い!!」
「いや、このままやらせる訳ねぇだろ!!」
と『残光』で纏めて脚を切り落として転がす。
「よし! これを一人一匹づつ倒してくれ。
最初はこれを何度も繰り返すから迅速に動くように」
そう伝えても動き出さない彼らに護衛として付いてきた者たちが一人一人に付いて討伐させていく。
それを確認して次を連れてくるのを繰り返す。
「ねぇ、これでいいの? 訓練にはならないわよ?」
五回程度のサイクルを終えた辺りでリリィに声を掛けられた。
他の面々からも視線を向けられる。
「いや、ダンジョンは最低一人三百匹くらいはやってからだぞ。
訓練はある程度力が付いてからでいいだろ」
「えっ、そんなにやるの!? 私の時は百もやってないわよ?」
あっ、そうか。
ダンジョンでも同じように止めを刺す状態にすればそれでいいのか。
けどそうなるとやっぱり手助けがないと自力で成長が出来なくなるんだけど。
「そんなの鍛えて貰った奴は最低二人は育てる義務を負うってことにすればいいじゃない」
あ、そうか。
それならそれでいいか。
「わかった。じゃあそうする!」
「はぁ。もう、頭良いんだか抜けてるんだか……」
なんだとぉ!?
お前なぞオークの様な鼻にしてやる。
と鼻を上に持ち上げたりしてリリィと遊んでいれば「遊ぶなら私と!」とエヴァに怒られた。
そんなこんなで方向性を変え、護衛たちと共に十人一組で散らばって討伐するという形になった。
俺は飛び回ってゴブリンを近場まで連れてきて放出する役目を担った。
そうして遊んでいれば直ぐに日は暮れて本日の討伐訓練は終了となる。
一つも危険がなかったという事で初参加の面々も表情は明るい。
俺としても毎日付き合う必要がなさそうで気楽な面持ちだ。
そうして家に帰ってみれば、ソフィアとアイザックさんに呼び止められた。
アカリやコルト、レナードも居る。
「おう。こっちは順調だったぞ。そっちはどうだ?」
「気楽そうでいいわね。こっちは大変よ……」
え、何かあったの?
と問いかければアイザックさんが苦笑しながらも説明してくれた。
「ははは、騎士教会のような場所を作る為に必要な買取の相場表の作成や、ルールの制定などやる事は山盛りでしてね。
売却ルートなども考えると今日はまだまだ働かねばならぬようです」
「それだけじゃないわ。
依頼を受けた時の金額もこちらに合わせてある程度は設定しなきゃいけないの。
最初は住人への告知も必要でしょう? その時にいくらだって話になるじゃない」
おおう。そうだった。
商売としてやるなら金額はお互いに納得のいくラインを決めなきゃだめだよな。
それは面倒そうだ。
「じゃあ、明日からは俺も手伝うよ。あっちの相場表貰ってくれば楽だろ?」
と、こっちは俺が居なくても周りそうな状況に成った事を伝えた。
「それは助かります。指標があれば全然違いますから」
アカリが柔らかい表情で微笑んでくれたので自然と頭を撫でれば抱きつかれた。
「ちょっと!? まだ仕事はあるのよ!?」
「いや、直ぐに終わらせなくてもいいじゃんか。ソフィアもおいで」
「おっ、んじゃ俺ももう終わりにしていいよな?」
「……俺たちが居る意味はあったんだろうか」
レナードとコルトが背伸びをしながら二階へと上がっていく。
相当長い事試行錯誤していた様だ。
「……そうね。相場表が来てからの方が効率がいいわね。
いいわ。今日は終わりにして夕食にしましょ」
そう言ってソフィアも筆を置く。
アイザックさんはもう少し詰めたいと纏めた紙を集めて早々と出て行った。
ご飯くらい食べて行けばいいのに。
「ちゃんと前に進んでるんだから根を詰める必要はないからな?」
「ありがとう御座います。
ですが逆に進み過ぎていて纏めるのが追いつかないので御座います」
困ったように笑うアカリに呆れた視線を向けるソフィア。
「まあ、そうね。確かに焦る必要もないわね。
ただ引き継げる人材まで作る必要があると考えるとね……」
あっ、そうか。
いくらコルトたちに任せると言っても引き継げる人材が居なければ流石に無理ゲーだよな。
「よし! これからはもっと人を巻き込もう!」
「はぁ? 巻き込んでどうするのよ!?」
「いや、一緒に進めていけば自然と継がせられるじゃん?」
「なるほど。さすがカイト様に御座います」
「……土台が出来る前に何もわかってない人間入れたら更に大変になるじゃない」
「まあ、後は楽だろうけど」と困り顔で了承するソフィア。
その後使用人の作ってくれた料理を頂き、俺は二人と戯れながら夜を明かした。
次の日、早速アイネアースに戻り騎士教会にて名誉伯爵パワーをふんだんに使い、相場表なる物を手に入れた。
力技でゲットだぜぇ!
と浮かれながら町へと戻り、次に旧アマネ邸にて人員募集を掛けた。
此処の人たちは教養のある人間だから数字にも強いだろうという目論見だ。
新たに始める事業の事務方が欲しいとお願いしてみれば、すんなりと二人の中年男性が快く引き受けてくれた。
そして、ソフィアたちが来る前に概要を説明してこっちの相場に合う様に持ってきた表を書き換えて欲しいとお願いした。
すると彼らは久々の事務仕事だと気張ってガンガン仕事を進めてくれた。
前に法律関係に詳しい人に仕事を頼んだのを見ていて羨ましいと思っていたそうだ。
彼らは獣王国で物資の発注やら受注など財政関係の中間チェックもやっていたからそこら辺は得意分野だそうだ。
流石はアマネさんの側近たちだ。
しかしそんな凄い人材が良く残ってくれたもんだ。
間接的に引き抜かれた獣王国は大変そうだな。
暫くして降りてきたソフィアとアカリにも混ざって貰い、着々と下準備が進んでいく。
「……こっちの人舐めてたわ。最初から頼るべきだったわね」
「はい。カイト様は全てお見通しだったのですね……」
いや、これほど有能だとは思ってなかったから。
まあ王女であるクレアの家庭教師とかやってた人たちなら付いて来れるだろうとは思っていたけど。
「よし、次は何処に建てるかだな」
「いいえ、そちらはアイザックがもう進めているわ。彼、凄くやる気よ」
彼は騎士協会の設立者として携われると活き活きとしているそうだ。
そうか。
商人にとってはこの上ない利権に成るかもしれないな。
もしかして、これは凄い事なのでは?
……獣人国とはいえアイザックさんが商人界隈の頂点に立つ日が来るかもと思うと胸熱だな。
「んじゃ、後は任せればいいのかな?」
「……そうね。
ここまでしっかりと考えてくれる人なら最終チェックに混ざれば大丈夫そう」
ふむ。じゃあ次は何を作るか……
学校はもうあるし、商店もできたし……
「あっ! 道を作ろう!」
「いや、作ろうって貴方ねぇ……とんでもなくお金がかかるわよ」
「大丈夫だ。ストーンウォールで道を作るから」
「無理よ。魔法で作った物は数週間から二ヶ月程度で消えるわよ」
ふっふっふ。それは一般人の魔力なら、だろ?
俺であれば二年は行けるぜ。
ディーナに貰った知識だから間違いはない。
勿論ずっと保てる訳じゃないが、その間ずっと踏み固められれば解けた後もそれほど悪くない道と成る筈だ。
二年後に余裕があれば実際に道を作ってもいいし、また魔法で敷き直してもいい。
「二年か。それなら確かに意味は十分にあるけど……」
「だろ? まあ、魔力的に数日はかかるだろうけどやる意味はあると思うんだ」
「けど上手く行くかしらね。まあ、貴方がやるって言うなら止めないわ」
最後まで心からの賛同は得られなかったが、とりあえず着手してみることにした。
と、始めたはいいが、ソフィアの言った通り一筋縄では行かなかった。
どうしても間に段差ができるのだ。
それも数センチはある。一応乗り越えられるがそれでは道にする意味がないしこれ以上段差が広がれば無い方が良いまである。
魔法を唱えてハイお仕舞いって事にはならなかった。
なので俺は必至に考えた。
そして考えた末に出た結論はプレスを掛けること。
とりあえず段差を無視して敷いて『グラビティフィールド』で無理やり合わせたのだ。
この魔法は割りと融通が利く。合わせたいラインまで重力を上げる様にすれば、そこを抜ければ普段の重さに戻るのでぴったり合うのだ。
ただ、それでもめちゃくちゃ大変だ。
道幅は欲しいから横にして並べなきゃならないし、魔力も結構使う。これは一筋縄では行かないなと長期戦を覚悟した。
そうしてある程度進んだ所で帰れば、ソフィアが家で待ち構えていた。
「この時間までやってたって事はできたのね?」
「いや、うん。一応は? でも色々大変そうだわ」
「でしょうね……でも出来そうってところが凄いわね。お疲れ様」
苦笑しながらも労いハグとキスをくれたソフィア。
そんな彼女のお陰で元気が出て地道にがんばろうと心に決めた。
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