第156話



 ルソール王へと急いで報告へ走ったマクレイン。

 状況の説明の為にクレアとローガンも同行している。


 到着と同時にそのまま応接間へと通され、マクレインが一連の流れを伝え終わると、ルソール王は首を傾げた。


 敵わないレベルの魔物が出た以上押していた中での退却に異論はないが、何故敵が連れてきた魔物をこちらが討伐するのかという話に変わる。


 それに関してはマクレインも良くわかって居らず視線をローガンへと向け、その視線に彼は一つ頷く。


「中途半端にお伝えするのは下策故、少々お時間を頂きますぞ――――――――」


 彼はカイトが見せた奇跡の数々を伝えていく。

 彼等が紛う事無き強者であることは理解しているが故に、出会いから戦争が始まる辺りまでは普通に受け入れられていたが、神という話が出たところで疑問の声が沸く。


「そ、そんな馬鹿な話が……」


 ルソール王の疑問にクレア女王は一つ大きく頷き、話を引き継ぐ。


「信じ難いのはわかる。

 だが事実だ。これは私だけの見解ではないぞ。

 南部の王の大半が自ら確認し認めているのだ」


 クレアの言葉にルソール王は深く考え込み、何かに気がついた様に顔を上げた。


「しかし、それが真であれば戦争に出て貰ったのは拙いのではないか?

 神の言葉にも反して居るし、使徒を自分の手駒にしたとも取られかねない……」

「我らも力を借りた身だ。そんな詰まらん事は言わんし言わせんよ。

 本人の意思であれば構わないと神のお言葉も貰って居る。

 しかし、時間を取り過ぎれば獣人が滅びるとも言われたがな」


「「「――――っ!?」」」


 思いがけぬ言葉に、会話を記していた文官までもが手を止め驚愕した視線を彼女に向ける。


「おい……わらわを見詰めても仕方あるまい。

 まっ、大丈夫だ。マクレインは見たであろ。カイトの騎士たちの力を。

 あやつ本人はその遥か上をいく。一つの魔法で数千の兵を滅したこともある」

「彼等以上なのか……それは確かにとんでもないな」


 そうして退却後の報告を終えた頃、クレアの通信魔具が光を帯びた。


「どうやら着いたらしい。通して貰えるか?」


 彼女の言葉に王は頷き、文官の一人が案内を命じられ退室する。






 ◇◆◇◆◇



 案内に命じられたままルソール城の応接間へと通され席に着いたはいいが、何やら警戒した視線を色々な所から向けられていた。

 まあ、確かに一切参加してない俺がいきなりここに混ざるのは図々しいか。


 んじゃ、話は他の三人に任せようかね。


 と、レナード、コルト、ソーヤに視線を向け、顎で『行け』と命じる。


「あー、ゴホン。

 このまま報告をさせて頂きたいのですが、本隊退却後からで問題ありませんか?」

「ああ、それで問題ない。して、魔物の群れはどうなったのだ!?」


 早速俺の思いに応じてくれたのはやっぱりコルトだ。

 上手い事サクサクと説明をこなし話を進める。


 俺も良くわかってなかったので隣で『あぁ、なるほど』と相槌を打った。

 そして大凡の説明を終えた直後、彼らは沸き立った。


「なんとっ!? 討伐してきたのか!?」

「ええ。ショウカ軍も半壊滅で逃走したので建て直しは容易でない筈です」

「ふむ、であれば早めにダールトンへ降伏勧告を出した方が良いだろうな……」


 ルソール王は笑みを隠しきれないといった面持ちで顎に手を当て、少し悪い顔を見せる。

 どうやらショウカが間に入れない状態の内に離反したダールトンと決着をつけ、北部との境界線は死守する方向で行くそうだ。

 その中間にあるルコンドも取り返すつもりらしい。

 あそこに関してはショウカにも大義名分があったが、侵略戦争を始めてしまった以上そこはもう一切考慮しないとの事だ。


 そう語る彼らの表情は明るい。

 だが、全てが上手くいっている訳でもないらしい。


 最大の問題はショウカ大帝国との決着をしっかり着けられなかった事。


 当然だがこの状態では戦後処理に移れない。

 決着が着かない状態が続けば国の財政が悪化の一途を辿ると頭を抱えていた。


「ダールトンへの賠償金を出来る限り吹っかけるしかないな」

「なんだ、そっちも財政は厳しいのか?」

「うむ。たった一度の敗戦だがそれが相当な痛手でな。

 遺族への保障がとんでもない額になって居る」


 その戦いは占領されたルコンド対ルソールだった為、大半がこの国の兵士だった。

 当然被害もこの国が一番大きい。

 というより、応援に来た部隊は厳しくなれば勝手に引いていくので被害の大半はこの国の兵だそうだ。

 同盟国からの応援に対しての対価もある。


 ショウカに勝利さえすればかなりの額を取れるので話は別となる。

 だからこそこの状態で止まるのが厳しいと頭を抱えているのだ。


「となると一刻も早く元凶を叩き潰したい所だが……

 ソーヤたちはどうするのだ。これ以上の参戦は厳しいか?」


 クレアに寂しそうな顔を向けられ、ソーヤは俺に寂しそうな顔を向けた。


 なんでこっち向くの!

 自分で決めなさい!


 と言いたい所だけどそう言ったら変に我慢しそうだな。


「おし。じゃあ、この問題はソーヤに任せる!」

「えっ!? こんな大事無理ですよ。絶対無理です!」


 ソーヤは弱音をクレアに聞かれたくないのか、焦りながらも小声で耳打ちをする。


「大丈夫だって。お前が困ったならいつでも手助けくらいしてやるし」

「で、でも何したら良いんですか?」

「さぁ。そこはクレアと話し合えば良いんじゃないか?」


 そう言ってソーヤと共にクレアを見やる。

 だが、彼女の視線はソーヤだけに向かい二人の世界が出来上がる。


「よし、じゃあ帰るか!」


 レナード、コルトに向け声を上げて立ち上がれば、同時にルソール王と宰相も立ち上がった。

 両手を前に出して明らかに待ってくれというジェスチャーだ。


 え? 何で?


「しょ、少々お待ち下されっ! せめて歓待の宴くらいは受けて頂きたいっ!」


 あっ、そういう事か。うちの奴らが居ないとやばそうだったって話だし引き止めたいのか。

 いやでも宴と言われても今回俺は何もしてないしなぁ……

 何となく気が引ける。


 えっ?

 国同士の友好の為?


 むぅ。そう言われると断り辛い。

 まあ、久々に皆で討伐を行ったんだし打ち上げくらいあってもいいよな。

  

 そうして皆で宴に参加する事になり、久々にお城でのパーティーで歓待を受けたのはいいが、煌びやかな装いでのパーティーにテンションを上げまくってしまったペネロペとオーロラ二人の所為で、レナードたちが変なことを言い出した。


「なぁカイトさん、城……欲しくね?」

「男のロマンだと思うんですよ。この際建ててしまいませんか?」


 こいつら……入れ込み過ぎだろ。

 いや、そこはいいんだけど現状無理くね?

 ああ、厳しいってわかってるからうちの皆が居ない時を見計らって来たのか。


「あっ、勿論人を雇って全てやらせるつもりですよ」

「いや、先立つものはどうすんだよ。流石に城建てる金はねぇぞ?」

「……俺たちで貯めます」


 アホか!

 お前ら二人で溜まる程度ならギルド資金で足りてるわ!


「そもそも、あの村に城と建てたからと言ってここと同じにはならねぇよ。

 大きな町があってこそのお城だからな?」


 沢山の人たちから凄いねって言われるから価値が出るんであって、過程を無視して城だけ建てても直ぐに空しくなるだけだ。


「なら、村を大きくすればいいんですよね?」

「そりゃな? ただめちゃくちゃ時間かかるぞ」

「それくらいはわかってるって。

 けど嫁の為にできるだけ高い地位を得たいんだよ」


 えっ、地位が欲しいの?

 それなら譲るよ。

 うん、好きなだけ!


「ああ! んじゃお前らで王と宰相やれよ」

「はぁっ!? いやいや、それはまじぃだろ!」

「そうですよ。俺たちのトップはカイト様なんですから」


 いきなり焦り出して周囲を確認する二人だが、実際皆が聞いても怒らないと思う。 

 だって俺、討伐終わったらアイネアースに帰るって伝えてあるし。


「逆に獣人の嫁を貰ったお前らだからこそ丁度良いんじゃないか?

 てかお前らがやらなければ村の奴で任せられそうな奴に投げるつもりだったし」


 ソーヤはクレアとだからこっちに残るとしても獣人国だろうしな。


「ただ、それもこれも全部討伐を終えてからだ。

 いや……住人の募集くらいはかけてもいいか」


 うん。ボルトやワールの王様から資材を大量に貰ったから家を大量に建てて貰っているところだし。

 それに討伐を終えていきなり王にするより今から中心に立ってた方が摩擦も少ないだろう。


 んじゃ早速行動だとクレアに声を掛けて住人を募集させて貰って良いかと聞いてみた。


「うむ。此度の戦争で兵士が不足しておる町は多い。

 今ならば差ほど摩擦が起きずに募集できるだろう。

 しかしまだあそこは村規模だろう。受け入れはできるのか?」

「千人以下なら問題ないかな。住居が厳しそうならまた買ってくるし」


 幸い、かなり広い平原だから土地は使い放題。水も引いてある。

 飯だって肉なら俺がいくらでも回収してこれるから俺が居る間に自給自足できるまで整えられればいい。

 土地や家は念のため貸し与えるというスタンスは取るが、年貢以外でのお金を取るつもりはない。

 

「畑は一から自分で作って貰う程度ならば問題ないだろ?」

「そうだな。それほど手厚く迎える所は早々にない筈だ。話を回しておいてやる。

 そ、それはそうとだな。わらわからも相談があるのだ」


 もじもじしたクレアを見て『あ、察し』と思いつつもちゃんと耳を傾ければ、案の定ソーヤの話だった。

 ただ、内容はかなり意外だった。


「もし、既成事実が出来たらソーヤの背中を押して貰えぬか?」というものだ。


 後ろでこっそり聞いているソーヤも驚いた顔を見せている。


「いや、もう既に押してるぞ。たがあいつは割りと頑固でさ。

 俺に一生仕えるって言ったから責任を持たなければくらいに思ってるんだろうな」


 彼は俺の言葉に少しむっとした顔を見せるが首を小さく横に振り黙らせる。


「うむ。まあ反対されぬならそれでよい。宜しく頼む」

「おう。お前の所にいるソーヤは生き生きしてるからな。こっちこそ任せたぞ?」

「うむっ!! 任されたっ!!」


 さて『振り返ったクレアはどんな顔をするかな』と少しわくわくしていたのだが、ソーヤは既にその場から姿を消していた。

 カモフラージュの為か少し離れたテーブルにて料理をいそいそと物色している。


 そこにクレアが意気揚々と歩いて行く。


 さて、それじゃ俺も嫁の所へと踵を返せば後ろに嫁たちが並んでいた。


「おおう。居たなら声掛けてよ」

「うふふ、お父さんしてましたので観察させて頂きました」


 いや、せめて兄って言ってよ。なんてアリーヤに返して皆と雑談を交わす。


 こうして久々に皆でゆっくり出来た一日は終わり、俺たちの村へと帰還した。



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