第157話


 ショウカ大帝国との大戦から一年の時が流れた。

 こちらに来て大凡二年。あと一年あるがこちらの準備は大凡整っていた。


 本来ならば群れを叩いて削ってとやるべきなのだが、俺は違う事に精を出していた。

 それは村の開拓だ。


 本来、代表を任せるつもりだったレナードかコルトがやるべきなのだが、二人のどちらかを王にする話は流れてしまった。


 どちらが王様をやるかで揉めに揉め、ホセさんに「お前らに王など勤まらんわ!」と一括されてしまった為だ。

 結局、レナードを大将。コルトを宰相とすることで話が収まった。


 なので今の所はまだ俺が王様ということになっている。

 俺、アイネアースに帰る身だけどと断りを入れたのだが、名前だけの存在でも二人のどちらかを王にするよりはマシだと傷だらけの二人に再び飛び火した。


 そういう事なら俺も協力してやらなきゃなと開拓に動き出したのだ。

 と言うか、俺が作り出した状況により動かざる得ない状況でもある。


 そう。クレアに村人募集をお願いした後、思いの他人が集まってしまったのだ。

 噂が噂を呼び、当初の限界と定めた千を超え三千人近くの人が集まってしまった。


 四千人には届かないが、もうこっちの世界で町と言える人数に届いている。

 だから大きくする為に色々やってみたのだがそれが意外と面白くてハマっていた。


「おし、今日もやるぞ!」

「ううぅ。ご主人様、私も遊びたいですぅ!」

「いや、遊びでやってんじゃねぇよ? 面白くはあるけども」


 俺は目標の百階層を軽く超えたから今はダンジョンには息抜き程度にしか行っていないが、他の皆は全員まだ篭り続けていた。

 これを機に俺に追いつくのだと皆頑張っているが、上位メンバーはあの顔が二つあるハウンドドックなら倒せる様にはなってる。

 少しくらい手を抜いてもいいと思うけど、聞き入れてくれる様子はない。


 まあそれはさておき、今日は何に手を付けるかね。

 

「ねぇっ! 今日は私も付いて行っていいかな?」


 ルナたちが恐る恐る周囲を見回して近づいてきた。


「おう、勿論だ。だけど今日は何やるかねぇ」


「畑はもういいの?」と少し眠たげな目を向けるエヴァ。

 確かに畑もまだまだ広げる予定なのだが、俺たちの仕事は大きな岩や木を撤去すること。既に見えている所は全部終わらせてある。

 実際に耕すのは住人の仕事なので俺の手が必要な所はもうない。

 

「よし! わからんからわかる人に聞きに行こう!」


 そう言って、ノア、エヴァ、ルナを引き連れて中央通の一等地にある商会へと足を運んだ。


「おーい、アイザックさーん!」

「おや、カイト様。こちらに足を運ぶなんて珍しいですね」


 そう。わかる人とはアイザックさんのことだ。

 再び家を買いに皇国へと行った時、難航している様なら手伝うと言ってくれたのでそのまま連れてきたのだ。

 彼には流通関連の活発化をお願いしているのでそっちに仕事があるかもしれないと尋ねてみる。


「うん。畑も重労働の所は終わったし、次は何をやろうか迷っててさ」

「なるほど。こちらも他国の商会との顔繋ぎもある程度終わり、行商ルートが出来上がったところですが、一つ問題がありましてな……」


 アイザックさん曰く、人族とは違い野良騎士という存在が居ない為に物資の巡りがかなり遅いらしい。


「じゃあ、騎士教会みたいな場所作る?」

「……それができれば一番良いのですが、他の商会で聞く限り兵を自前で育成するなど国が許さないだろうという話でしたね」


 あぁ、クレアが言ってたな。

 そんなもん作って強い盗賊が溢れかえったらどうするんだとか。

 現実問題、それは逆だと思うんだよなぁ。


 裕福に成れば盗賊に落ちる奴は減るし、騎士教会自体が盗賊の討伐も請け負う。

 現状溢れかえっている盗賊にとって脅威である組織が増えるのだから悪くない筈だ。


 ただ、今アイザックさんが言っているのは他国との摩擦だろう。

 国にそうした懸念を持たれている以上、不安を払拭できなければ摩擦は起きる。


「うーん。じゃあ、こうしよう」とアイザックさんに俺が考えた草案を伝える。


 それは名ばかりの兵士とすること。

 一応うちの兵士として所属して貰うしルールを作るが、自由度は格段に上げる。

 結果として野良騎士と変わらないポジションに収まってもらうというものだ。

 

「なるほど! それは名案です!

 名目上でも兵士だと伝えるのであれば周辺国の不安も大部払拭されるでしょう。

 ただ、そういった事情は直ぐに広まるので前もっての説明は入れて置いた方が良いでしょうな」


 そっか。

 んじゃ、ワールとボルト辺りには俺から話を通して置くか。

 そこから話を回して貰おう。

 クレアにはソーヤに言えば問題ないしな。


「後さ、女性もダンジョンに行ける様にしたいんだけど大丈夫かな?」


 女性が見下されている現状を変える一助にもなるし、自衛も出来ない状況なんて最悪過ぎる。

 まあ、街中での女性の扱いはオーロラが言うほど悪いものじゃなかったけど。

 きっとオーロラたちの村が少し異質だったのだろう。

 それでもそんな風潮があるから強者への貢物みたいな扱いをされたのだろう。

 その話はコルトには聞かれたくないので皆にも言っていないが。


「ふむ。女性、ですか……

 恐らくですがそこに了承の必要はないと思われます。

 聞くに女性を大切にしているからというより面子と実益の問題のようですからな。

 告知をした方が無難だとは思いますが、国内での反発がなければそれで良いかと」


 ああ、そう言えばそうだわ。

 考えて見ればここは俺たちの国だったわ。その程度なら了承はいらんか。


「んじゃ、そっちはアカリたちに話を聞きに行こう」とアイザックさんも引き連れて、ソフィアとアカリの仕事場である執務室へと向かう。


 そして二人を交えてやろうとしている事を説明したのだが……


「物資の面では良い案だけど、それだと責任が全部うちに来るわよ?」

「はい。緩い管理体制ではどうしても悪事に走るものは出るでしょうから……」


 女性云々は直ぐに受け入れられたのだが、うちの兵士にするという話にダメ出しが入った。


「って事はこっちに野良騎士作るのは難しそう?」

「我が国でも武家としてほぼ全てが国の所属となっておりましたが鎖国に近い状態でしたので他国との問題は出ておりませんでした。

 この国でも管理体制を厳格にするのであれば可能だと思われます。

 ですので、もう少し策を練る必要がありましょう」


 ああそうか。

 そう言えば教国も全員兵士だったわ。

 農家との兼任も許されているってだけだったな。


「ええと、その場合どうしたらいいの?」

「そうねぇ……国内であれば私たちでいくらでも捕まえられるのだし、国から出す際に色々制限を設ける形にすればいいんじゃないかしら?」

「なるほど。住人には国内から出るのに制限がかかる代わりに他者よりも稼げる状態にする訳ですな」


 アイザックさんも混ざり、他国との諍いに成り難い様にと話が詰められていく。

 そうしてある程度固まった案を持って今度は俺一人で他国へと話を持っていく。


 一番最初にやって来たのは二番目に付き合いの長いワール国だ。

 獣王国でも良いっちゃいいが、あの国はアマネさんもクレアも政治に長けている訳ではないのでこちらに赴いた。


 お城へ飛んで話を通して貰えば、直ぐに応接間へと通された。

 そこにはワール王、宰相、ジェレが居た。

 何故ジェレがと思うものの、スルーして挨拶と場を用意してくれたお礼を告げる。


「いえいえ、こちらとしてはカイト国とはもっと友好を深めて行きたいと思っております。もっと気軽に来て頂きたいくらいだ」

「んで、どうしたんだよ? また戦争か?」


 横入りしたジェレにワール王がキッと睨みつけるが、こいつに構っていたら話が進まないとそのまま続ける。


「ええと、これは人族の領域での話なんですけどね―――――」


 と、最初から緩い管理体制の兵を持ちたいなんて言えば警戒されてしまうと、アイネアースの兵隊事情の話を説明した。


「なるほど、確かにゴブリンキング討伐の時もそう言って居られましたな。

 して、それをそのままカイト国でもやろうというお話でしょうか?」


 難しい顔で言葉を返したのは宰相さんだ。

 年配だけあって一筋縄ではいかなそうな空気を持っている老人だ。


「いえ。そうすると周辺国との摩擦が起きるだろうという懸念がわきましてね」

「ふむ。確かにそうなりましょう。文化の違いをご理解頂けて何より」

「そこでなんですが――――――――」


 と、今度はこちらにある程度受け入れられるであろう練ってきた案を話した。

 六人以上の纏まった兵士を国の外へ出す時は管理者を置いて国が責任を持てる状態にする事。

 五人以下の行商人の護衛の場合に関してはそれを免除して欲しいという事。

 国とは独立した組織として傭兵といった形で全ての国が利用できる状態にする事。


 他にも、物資の流通がスムーズになれば物価の安定と共に暮らしが豊かに成る事や、自立した組織故に勝手に盗賊を討伐してくれる事など、メリットを並べて他にも幾つかの説明を入れた。


「なるほど。聞く限り悪い話には聞こえませんが、宜しいので?

 損害が出た際、すべてがそちらの責任となりますぞ」

「ええ。そこは了承しています。

 ただ、後々で良いんでこれが有用だと思って頂けたら、その時はこの組織を自国で運用する事も検討して欲しいんですよね」


 もしそうなればその独立した組織に全部投げる事が出来るので、うちに責任が来る事がなくなる。

 ちゃんと馴染めばこっちでも上手くいくシステムだろうからお互いに利があるので万々歳だ。


「なに!? 自分で作ったもんを俺たちにもくれるってことかよ?」

「それはちょっと違うな。最初はうちで責任を負って有用さを証明するから、上手く行くと感じたら俺の構想に乗ってくれって話だ。

 俺は皆が豊かに成ると思っているが不明なものに賛同なんて出来ないだろ?」


 まあ、問題ばかり起こされて断念なんて可能性もゼロじゃないから下手したらうちばかり損害受けて終わる可能性もあるが。

 俺だけで考えた話じゃない。

 アカリやソフィアが恐らく行けると踏んでいるのだから大丈夫だろう。


「なるほど。道理で御座いますな。

 そこから検討という形であれば私に異存は御座いませぬ。王、採択を……」

「私としては現時点で受け入れたい所だが、これも御使い殿のご好意であろう。

 このお話、喜んで受け入れさせて頂こう」


 あー良かった。

 ってあれ?

 本決まりになってしまったが、俺は相談しに来たんじゃなかったか?


 むむ、これは帰って皆と相談しなくては……


 と、俺は颯爽とみんなの元へと帰り、ワール国の了承を貰えたと恐る恐る告げた。


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