第151話



 さて、どうしたもんかね……


 俺達はレナードたちからの報告を聞いて任せ切っていいのかと首を傾げた。


 いくら格下とはいえグレートミノタウロスをソロで討伐出来る奴が数人居るってことは軽く見ていい相手ではないという事だ。


 少なくとも皆にとっては。

 やっぱりもしもの時の事を考えたら全員で行くべきだよな……


「なぁ、俺も手伝いに入ろうかと思うんだけど」


 ホセさん、アーロンさんへと視線を向けて問いかけたが、二人は首を横に振った。 


「必要ならば我らが出れば良いだけの事。主はひたすら力を付けよ」


 そうは言うけど三万五千だってよ。

 軽く捻れる相手じゃないって考えると結構シビアじゃない?

 俺なら最悪ディーナに出てきて貰って穏便に済ませられるかもしれないし。


 そんな考えを皆へと伝え再び返答を待った。


「逆に時間も掛かるって事でしょ。

 私たちですら階層を降りる速度がどんどん落ちてるってのに……」

「そうです。救世主殿も自分で言っていたではないですか。ここからが正念場だと」


 リズとアーロンさんも俺の参戦に否定的な様子。


 いや、確かにそうなんだけどねぇ。


 六十階層付近はまだ良かったが、七十階層を越えた辺りからそう易々と降りる訳にはいかなくなっていた。


 だけどまだ一年だ。

 後二年以上あると考えれば十分時間に余裕はあると思う。


「言いたい事はわかるけど駄目よ。カイトくんは最後の切り札なの。

 あの馬鹿どもで駄目ならホセさんたち、次は私たち、最後にカイトくん」


「わかった?」とアディから強い視線を向けられた。


「本当ならば決戦ですら私たちでどうにかしたいんです。

 それが難しいとわかっているからカイト様を優先しているんですよ。

 こんな他国の尻拭いで時間を無駄にしてはいけません」


 アリーヤからも駄目だと言われ、他の皆もそれに追従した。


「わかったよ! じゃあギリギリまで任せる!

 その代わり逃げてもいいから誰一人欠けずに帰ってくること。それが条件だ!」

「あら、そんなの当然じゃない。

 私たちは所詮余所者よ。勝とうが負けようが命までは掛けないわ」

 

 あぁ、そうか。

 今回に限っては獣王国ですら応援という形だったな。

 じゃあ知り合いは全員大丈夫そうだし、それでもいいか。



 これからの予定が多少変更されて俺を除いた主力メンツは状況を見て応援に向かうことが決まったのだが、本格的に戦が始まるまで四ヶ月の時を要した。


 そして四ヶ月経った今日、自由貿易都市連合四万対、ダールトンとショウカ大帝国連合軍三万八千の戦いが行われるとの報告が入った。


 だがまだ誰も応援には向かっていない。

 最初は様子見で劣勢ならば応援が欲しいとコルトから言われているからだ。

 その代わり映像通信魔道具を持たせ、あちらの映像を写して貰っていた。

 丁度今、ルソール付近の平野にて大群が向かい合っている所だ。


「さて、どうなるかね……」

「てかあんたがここに居たら意味ないでしょ!

 ユキたちを連れてダンジョン行きなさい」

「いや、最初くらいいいだろ。連れないこと言うなよ」


 もしかしたら転移魔法が必要なくらい逼迫するかもしれないんだから。


 リズとそんないつものじゃれあいをしている最中、両軍が動きを見せた。




  ◇◆◇◆◇



 とうとう戦が始まった。

 僕らは応援部隊として本陣にて前線の衝突を眺めていた。

 ルソールの総大将や自由都市連合の外から応援に来た部隊は大体この本陣にいる。


 クレア様が率いる獣王国から二千。

 その他の南部連合から八千の応援が来ていて、自由都市連合軍一万を足して二万が本陣にて待機中。


 最前線には自由都市連合軍二万が部隊を四つに分けて布陣していた。


 向かい合った大群に緊張が走るなか、敵軍が動きを見せた。

 

 一番槍として出て来た大凡5千の兵。同じくこちらの五千の兵が迎え撃つ。

 アイネアースでは魔法戦がセオリーだったがこちらでは最初からぶつかる様だ。


 予想外の行動はなくそのまま当たり敵味方入り乱れる乱戦となった。


 先頭に立つ槍を持った大男は演説で見たドウゴ将軍。

 言うだけあって乱戦の中一人無双している。

 余りの力量の差に彼の周りが空き始めた。

 

『ふはははは、脆い、脆いぞ!

 このドウゴの槍を受けられる奴は居らんのか!? この弱虫どもが!!』


 彼の周りがポッカリ空くと石突にて注目を集め、拡声器を使いこちらの軍を罵倒を始める。

 それに呼応する様に敵軍が怒号を上げ、勢いが増す。


「こりゃ芳しくねぇな。あいつを止めた方がいいんじゃねぇか?」

「それはそうだが、無断で出て勝手な行動をする訳にもいくまい」


 レナードさんとコルトさんの視線が自然とクレア様へと向かう。

 彼女は一つ頷き、こちらの総大将へと歩を進めた。


「マクレイン総大将、あれは止めた方がよかろう。我らが出ても良いか?」

「ですがそちらのお三方はこちらの切り札。最初から切る訳には……」


 いや、あっちも将軍が切り札なんだから良いと思うけど……

 でもまだ劣勢じゃないし余所者の僕らがこれ以上口出ししない方がいいのかな?


「いや、状況を返せるなら早めに出した方が良いぞ。先の戦争で思い知ったわ。 

 本当に切り札になる強者ならば温存する意味はさほどないとな」


 そう返したのはメイソン将軍。

 彼も外様で南部の連合として兵を率いて来てくれた部隊だ。


「先の戦いを勝利に導いたメイソン将軍がそう言うのであればお任せしましょう。

 ですが様子見の段階を大きく崩したくはありません。

 兵数は余り出さぬようお願い申す」


 最初から戦乱が大きく膨らむ事を懸念して少数でならば構わないと許しを貰った。


「じゃあソーヤ、お前から行くか?」


 えっ!?

 目立ちたがりのレナードさんがこの場を譲るなんて!

 あ、そうか。ペネロペさんたちが居ないから……


 まあうん。僕も早めに体感して置きたいし出て良いならば試したい。


「わかりました。ではクレア様、行ってまいります!」

「はっ!? いや、ソーヤ一人でか!?」

「はい。ドウゴ将軍を止めるだけですから」


 そう言って善は急げと前線へと全速力で向かう。


 いつもならば魔法での殲滅を図るが味方が入り乱れている為、少数の敵兵を切り捨てながらドウゴ将軍の前へと躍り出た。


 空いた広場で向かい合い剣を向ける。


「あなたを止めに来ました。お相手願います」

「貴様が……この俺を止める?

 子供ごときがこの槍を止められると思うてかっ!!」


 ドウゴ将軍は踏み込みながら上段から乱暴に槍を振り下ろしてきた。


 単純で大振りな攻撃。


 避けるのは簡単だけど僕は『絆の螺旋』の代表としてここにいる。

 無様は見せられないと下から掬い上げるように槍の穂先を打ち返した。


「何としても止めますっ!!」


 金属音を響かせて槍を打ち返せば彼は衝撃によってたたらを踏んだ。

 彼はそのまま距離を取り、表情を一転させこちらを見据えた。


「貴様、そこまで若年ではないな……?

 まあいい。良かろう! その一騎打ち受けた! 『大車輪』!!」


 えっ……僕も少しは大人っぽく見える様になったのかな!?


 いや、それより対人でそんな大技を何の繋ぎも無しに使うの!?

 もしかしたら何か裏があるのかもしれない。


 そんな疑問を持ち、スキルを不発にさせようと『ファイアーボール』をはなつ。


「ぬっ!? き、効かぬわぁ!!」


 槍の回転で炎の玉を受け止めようとするがそれで防ぎ切れるはずもなく火の手に巻かれ『大車輪』は不発に終わった。

 だが彼はダメージを受けながらもそのまま前進した。


「『五月雨』!!」


 魔法を食らっても引かないとは思わず、多少反応が遅れ『障壁』を張りつつ少し後退する。 


「はっ!! 所詮はその程度よ! 死ねぇ!」


 更に距離を詰め再び大振りな上段振り下ろし。

 別に何か裏がある訳でもなさそうだと避けながら射程距離に踏み込んだ。


「『烈波』!」

「――――なんだとっ! ぐはぁぁぁぁ!!」


『烈波』に切り刻まれながら後ろに吹き飛ぶドウゴ将軍。

 その様を見せ付けられた敵兵が驚愕し声を上げる。


「「「ドウゴ将軍!!」」」


 そのまま仕留めようと追撃に走るが周りの敵兵に足を止められた。

 蹴散らす頃には将軍は後ろに後退してしまっていて、前方は敵兵で溢れ追撃できる状況ではなくなった。


 し、仕留めそこなった……

 これは凄く拙いよね。少しでも挽回しなきゃ。


 と、今度は僕が周辺の敵が居なくなるまで敵兵を蹴散らし続けた。

 暫く経つと敵が引いていき、こちらも追撃はしないとの事だったので本陣へと戻った。


「す、すみません……」

「いや、目的は達したんだ。最善ではないが良いんじゃないか?」


 コルトさんはそう言ってくれたが、二人ならばどちらが出ても確実に討ち取っていただろう。

 いや、僕でもスキル選択を間違えなければ余裕で勝てて居た筈だ。

 

「かかっ! そんな顔してんなよ? 周りを見てみろって!」


 レナードさんの煽る様な声に更に気落ちしながらも顔を上げてみれば周囲の人が喜色ばんだ顔でこちらを見ていた。


「こ、ここまでとは思わなかったぞ! 良くぞやってくれた!」


 マクレイン総大将に両肩を捕まれてお褒めの言葉を頂き、レナードさんの言葉が馬鹿にしてのものじゃないと漸く気が付いた。

 恐る恐るクレア様に視線を向ければ彼女は笑みを讃えながら胸を張り「これがわらわの騎士だ!」と声高らかに叫んだ。


 その声に心底ホッとしていると台の上に置いてある映像通信魔道具から『あれ? これ俺らいらなくね?』という声が聴こえた。

 その声で漸く自信を持てて表情が緩む。


 だが実際の所、先ほどの戦いは全体で見れば良くて引き分け。

 少しばかり負けている。

 将軍に減らされた分は取り返したつもりだがそれでもこちらの被害の方が大きい。

 兵の錬度で負けているのだろう。


「どうしましょう。次も出ます?」

「そうだな。次は俺がやるか。あの程度なら二対一でもやれそうだ」


 確かに。安全にと様子見をしなければすぐ決まるレベルだった。

 敵将間で大きな力量差がなければ問題ない筈だ。

 レナードさんはマクレイン総大将に了承を取り次の戦いに参戦する事が決まった。


 敵軍は将軍が敗退したことで大きな動揺を見せていたが、直ぐに大きな歓声が上がった。今度は一万近い兵が動く様子。

 こちらもすぐさま総大将の指示が飛び、一万二千の兵が動いた。


 再びそのまま激突するのかと思いきや、突如として飛来した魔法攻撃によりこちらの足が止められた。

 多少距離があったので障壁により大きな損害を出すことはなかったが、次弾を警戒し障壁から動けずその場にて硬直状態が続く。

 そんな中、レナードさんが一人飛び出した。

『瞬動』と同時に『残光』を使い、オーク戦の時と同じように纏まった敵を物凄い勢いで殲滅していく。


 乱戦じゃなければ僕もあれがやりたかった……

 仕方ない事とはいえ、少しずるいと感じながら観戦する。


 少なくとも五百以上は削っただろうという所で色々と動き始める。

 止まっていた自軍が前進し、敵軍はレナードさんから距離を取ろうと後退した。

 追い詰める様に飛び回るレナードさんへと二人の将兵であろう者が止めに入った。


「困るなぁ! 僕を指し置いて目立とうなんてさ!」

「サイエン、無駄な会話をするでない。これは強敵ぞ」

「そうは言いますが獣王を名乗ったあれを討ち取った貴方から見ればこの程度の輩は余裕でしょう?」


 本陣からでは会話は聞こえないが、片方はサイエン将軍。

 もう片方も明らかに将軍であろう佇まいだ。


 一応僕らももう一人出た方が良いのではとコルトさんを見る。


「心配は要らないさ。

 あれは馬鹿だがうちでずっと上位に居続けるくらいだからな」


 うーん。それは僕も思うけど、カイト様なら怒るんじゃないかなぁ。

 安全を第一にしろって。

 そんな心配を浮かべながら彼らの戦いを見守る。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ストックが完全に尽きたので暫く不定期になります。

 しばらく視点変更が相次ぎますがお付き合い頂ければ幸いです。


 コメント、応援ボタン、フォロー、大変励みになっております。

 ご愛読に感謝を。


 筆者オレオ



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る