第119話
あれ? 俺、死んだのか?
真っ暗で何も見えない。
体の感覚が一切無く、声を上げようとするがそれすら叶わない。
いつも当たり前に出来ることが全て出来ないと言うのは頭がおかしくなりそうになる。
早々にどうにかして欲しいと神様に向けて呼びかける。
ちょっとちょっとここ真っ暗で怖いんだけど!?
てか、今のうちって言ってた割にはかなり強かったんだけど?
もっと鍛えてから当たるべきだったんじゃないの?
心の中で愚痴を呟けば、声が聞こえた。
「いいえ、本当にベストなタイミングだったわ。
強くなって貰う為にも出来るだけ速く死んで貰わないといけないと思っていたのだけど、自爆させたとはいえ倒してしまったのだから」
その言葉にちゃんと女神が対応してくれていることに安堵し、何か出来ないかと体を動かそうと試みていたのを止め、頭の中で問いかける。
俺はこれからどうなるんだ? と。
「安心して。どちらを選ぶにしてもやりなおせるから」
どちらを? 帰るか否かってやつか。
そんなのこっちに残るに決まってる。
あっちにも俺が居るのであれば尚更だ。戻るのなんて断固拒否。
「その場合、いくつかの強い魔物と戦って貰う事になるけど、いいの?」
戦わないで残ることはできないの?
「ダメね。あなたを帰さないと別の人を連れてこれないもの。
仮に討伐をしなかったとしたら、仮にギリギリまで刺激をしなかったとしてもあなたの寿命が終わる前に攻めてくるわ。
まあそれも予知ではなく予測だけど、自信はあるわよ?」
どうやら、地球の神との約束があるらしい。
『持って行っていい魂は一つのみ。それで何とか出来なければもう知らん』と言われてしまったそうで、もう後が無いと女神は語る。
どうやら、半精神生命体にする際に体を作り変えるのだそうだが、それをしてしまうと地球の俺とは融合不可になるそうで、女神はここが分水嶺なんだと言う。
当然残るんだけどさ。その貰える力ってどの程度なの?
ちゃんと倒せる相手なんだよね?
オークキングめちゃくちゃきつかったんだけど?
辛かった思いを乗せて捲くし立てる様に思考を回す。
「勿論倒せるわ。あなたのペースで強くなって行けば、全部終わらすのに三年も要らないんじゃないかしら。勿論安全に圧勝するのであればもっと掛かる。
とはいえ、戦闘ってギリギリ倒せるかもってところから安全な討伐までの幅が凄く広くて予測が難しいから時間の予測は正確とは言えないのだけど……」
女神は「だから最低でも大体そのくらいだと思って頂戴」と〆た。
今のペースでやっても最短三年か、結構長いな。
全部ってそんなに数がいるのか?
「倒して貰わないと拙い魔物は二体ね。
わかってるとは思うけど周りには下位種が一杯居るわ。
その二体は今のあなたじゃ何十万人居ても倒せないくらいには強いの。
あの進化しかけていたオークジェネラル程度なら指先ひとつで瞬殺出来るくらいじゃなきゃ倒せる可能性すらないわ」
え? あれ、まだジェネラルだったの?
いや、それはいいや。うん。忘れよう。
ええと、その数十万人の俺の強さってのはパワーアップさせた後の計算?
と問いかければ「そうよ」と返ってきた。
「それとパワーアップと言っても知識と魔力量が増すだけだからね。
まあ、それでも使いこなせれば相当な力になるんだけど」
知識って色々教えてくれて、魔力が増えるだけか。
た、足りな過ぎない?
それで倒せるの?
俺、また死んじゃうんじゃない?
「魔物の強さが強さだもの。安全とは言い難いわ。
でも、体を作り変える際に消費効率を上げるくらいしかできないのよ。
それでも魔力は驚くほどに増えた様に感じるし、魔法知識の方も多大な力になるはず。
魔法が全般的に今よりももっと高い効果が見込めるのよ」
それもありがたいんだけど、アビリティとかいう先天性のスキルとか貰えない?
「えっと、先天性ではないわよ? そもそもそんなものは無いわ。
それは水晶を使って覚えたスキルのことを言っているのよ。
普通に誰でも覚えられるわ。使うときの感覚を掴めればね」
へ?
ああ、わかった。『魂の聖杯』みたいなものってことか。
そういえばずっと疑問だったんだけど、水晶ドロップって神様が操作して出してくれたの?
「いいえ。違うわ。というよりそんなこと出来ないのよ。
私も思わず声が出たくらいビックリしたもの」
マジかよ……リアルラックだったのか。
「どっちにしろ今なら知識として与えられるから覚えられたけど、その場合だとオークジェネラルを倒すまではいけなかっただろうから、良い所で運を使ったと思うわよ?」
あそっか。
そう言われればそうだな。
てか、魔力が少なければ守れなかった命はかなり多い。
そう考えると本当に運が良く出てくれてよかったな。
「じゃあ、話を進めるわね。
貴方にはオークの居た地を真っ直ぐ西に抜けて、獣人の住まう地へと向かって欲しいの。そこに一匹目の魔物が居るわ」
じゅ、獣人!?
そ、それは、シャドウウルフみたいな獣を二足歩行させた感じ?
それとも人に耳と尻尾を生やした方?
「行って貰う場所は後者よ。
前者で知能を持つ種も居るけど、住まう地が違うのでそっちでは会わないわね。
そこら辺も全て知識を埋め込むから生まれ変われば全部理解しているはずよ。
それよりも意思の確認をして置きたいことがあるのよね」
ああ、全部頭に直接伝えてくれるんじゃ質問する必要は無いのか。
残って協力することは約束してるのに……その上で意思確認が必要とか重い案件?
「ええ。貴方にとって重要な事ね。
『絆の螺旋』の子達を連れて行くか否かよ。
先に言っておくわね。
知識の無いただの人をこれから行って貰う魔物の討伐に出せば大半が死ぬわ。
普通の人が辿り着けるラインのギリギリだから鍛える時間が足りな過ぎるの」
……それは何となく気がついていた。
はっきりと言われてみると良くわかる。
俺がこのまま魔力チートで鍛え続ければ皆は付いてこれなくなるだろう。
常時纏いを使えるようになってから既に差がつき始めている。
皆はそれを何とか減らそうと無理をしていた。
今は世界の危機なのだから身の安全のためにも力が必要だ。
と、その無理を指摘する様な事はしなかったが、ずっと続けて居たら精神的に疲れてしまうだろう。
女神の言い方からして、恐らくスキルも使い放題レベルになってくれるのだろう。
そうなればもっと大きく差が開くだろう。
そしてその差は、時間が経つほどに膨らんでいく。
「そう。
そして仮にその差を自覚させたとしても彼らは戦場に出ようとするでしょう。
だから、私は連れて行かないことを推奨する。
生きかえらせる事は出来ないから」
やっぱり、出来ないんだな。
「ええ、無理。今の貴方の状態は例外なのよ。
肉体を持っていれば精神体へのダメージが殆ど行かなくなる。
だから厳密に言うとこの世界の定義では貴方はまだ死んでいないわ。
でもそのままではそのうち霧散してしまう。だから無事な精神体をこっちの半精神体に作り変える。そうすれば完全に復活できるわ。
そういう理由だからこの世界の住人には出来ないの」
そうなると困ったな……
いや、生き返れないなんてのは当たり前のことなんだけど。
だが俺の予想も女神と同じなのだ。
皆は危険でも良いから一緒に戦うと言うだろう。
置いていくと告げても絶対に聞き入れてはくれないのは聞かなくてもわかる。
何度言い聞かせても結果は変わらない気がするなぁ。
さて、どうしたものか。
「そこで提案なのだけど、貴方を復活させるのに三年掛かると伝えてみるのはどうかしら?
勿論、どうするのも貴方の自由よ。私の提案だって確実ではないからね」
えぇ……死んだ振りして他で活動するの?
家族の様な親しい仲間に吐く嘘としてはちょっと重くないか?
三年間死んだままだと思わせておいて他でのうのうと生きてんだろ?
「だから、決定は任せるわ。
どちらにしても生きている、もしくは生き返ることだけは伝えて上げなさい。
後追い自殺されるかもしれないから」
え? マジで?
今は大丈夫だよね?
「ええ。
ただ、そろそろアカリに連絡取るからどう答えるか決めてくれるかしら?」
えぇぇ。
どっちが良いんだろ。
普通に皆の前で生き返って説得して置いてくか、女神の話に乗って嘘ついて置いてくか。
よくよく考えてみれば、一回死んだ癖にまた危険な橋を渡るって言い出して、その上お前らは置いていきますなんて言ったらガチギレされるだろうな。
「私の予測では、こっぴどく叱られた上に置いて行こうとしても無理やり付いてくるわね。獣人の領域までの道中も貴方無しじゃ割りと危険よ」
じゃあ答えは決まってない?
なんで選択権与えたのさ。
「あら、人によっては答えは変わるものよ。
何があっても嘘は吐かないと決めている者も居れば、仮に死ぬことになっても離れたくないと思う者も居る。
私はそんな人の色々な形の愛が好きなの。応援したくなるのよね」
そ、そうなんだ。
それで生きていてくれるなら三年離れる程度我慢するか。
うん。命掛かってるんならそれでいいや。
「決めたのね?」
ああ、決めた。
「じゃあ、打ち合わせするわよ」
はぁ?
いや、記憶に埋め込めるんならそっちに書き込めばいいじゃん。
「えぇ! そんなの嫌よ。
私とまともに話せるのって外から来た貴方くらいなのよ。
この時間の仲間の安全は保障するから少しくらい付き合ってよ」
あ、そこ保障してくれるんなら良いよ。
んで、どうするの。
俺が怒られる作戦は嫌だよ?
「先ずはね、アカリの時みたく私が貴方に入って顕現するわ」
あん? 光浴びると人格変わるからダメだって話じゃねぇの?
だから早々出てこれなかったのだろ?
「そうね。けど一度くらいならその場を過ぎれば直ぐに元に戻るわ。
カノン国王だってそれほど変化してないは知ってるでしょ?
その程度だから一番混乱するこの期に使うのは悪い手じゃないと思うのよ!」
あー、そう言われれば。
カノン国王も元が不信神だっただけで、こんな世界なんだからこれくらいは敬って当然じゃないかと思う程度にしか変わっていない。
もしかしてアプロディーナ様ってカリスマ低い?
「……それ、言っちゃう?
一時本気で悩んだのよ。
私ね、人に攻撃されて死にそうになった事があるの……
それが原因で私を攻撃出来ない様にしようと神威の光をトリガーに魂に畏敬を植え付けたんだ。
そのくらいには魅力がないのよね。私……」
おおう。冗談だったんだけどなんかごめん。
俺は優しい女神さまだって思ってるよ。
「あ、ありがと。
あーあ。貴方の様に話し合いが出来るなら、畏敬なんて無くしたいんだけどね」
まあ、オルバンズ伯とかスウォン公爵とか、話が通じない奴は一定数居るからな。
えっと、一回じゃ殆ど変化は無い事はわかった。
けど、俺の体使って顕現するってことは全部話を付けてくれると思っていいの?
「そうね。貴方は私が貴方から出て行った直後に空を飛ぶ魔法を使って見えなくなるまで上空に上がってくれればいいわ」
え?
その時には俺はもう復活してる感じ?
「ええ。顕現して中に入った時にそのまま作り変えちゃうから安心して」
だ、大丈夫?
そんなに急いで失敗しない?
「ふふふ、する訳無いでしょ。
もうっ! 失敗の心配なんてされたのどのくらいぶりかしら……」
そんな、思いの外嬉しそうにする女神様と暫くの雑談を続けた。
打ち解けた雑談が続き、ディーナと呼ぶ様にと強制された直後――――――――
「あらら、貴方のお仲間が集まっちゃったみたい。
これ以上はダメね、時間だわ。準備は良い?」
ああ、勿論だ。
そう応えた瞬間、突如視界が開けた。
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