第118話



「じゃ、俺が今度は攻撃するからサポートお願い」


 うん。一人で『飛燕』連打は厳しいけどサポートがあれば多分いける。

 よっし、見込みが出たならこっちのもんよ。絶対こなす!

 二人のサポートがあれば余裕だ余裕!


「やっと顔つきが変わりおったな。老骨を折った甲斐があったわい」

「そ、そんなに顔に出てた?」

「ええ。付き合いの短いわたしでもわかるくらいにはね」


 マジかよ。それで自己犠牲野朗だと疑われていたんだな。

 けど仕方なくね?

 今から死ななければならない何てなったら普通顔色も悪くなるって。


「『飛燕』『飛燕』『飛燕』」


 入って早々に『飛燕』三連発してみた。

 というより、こっちにターゲットが移るまで連発してみたのだが。

 即効で三回決められたのはありがたい限りだ。 


「と、飛ばし過ぎよ!? 危ないじゃない!!」

「そのときはどっちかが『障壁』で止めてくれるでしょ?」

「はぁ? キミ、本気で言ってるの? 毎回なんて出来ないわよ!?」


 マリンさんが焦った風に声を上げる。

 おおう、不安にさせてしまったみたいだ。


「ああ、すみません。冗談です。『飛燕』」

「って冗談になってないんだけど!? 『障壁』『障壁』」

 

 余裕を持って何枚か敷いてくれるなんて相変わらず親切だなぁ。

 

「マリン君、サオトメ殿は一人で持っていたんだよ。初見でね。きっと大丈夫さ」

「ちょっと俺が不利になる方向で話すのやめて!?」

「ああ、そうだったわ。一枚だけにするわね」


 それでも一枚は張ってくれるんだ?

 や、やさしい。

 チラリと視線を送れば目の前に気配を感じた。

 急いで視線を戻せばオークキングが回し蹴りの態勢に入っている。


 即座に『一閃』で緊急回避!


 蹴り足とは逆の方向へとわき腹を切りつけながらすり抜ける。

 オークキングがダメージもお構いなしに即座にこちらを追いかけるが、アンドリューさんによる横からの『残光』にて足を払われて転がる。


 てか、危ねぇ、ちょっと調子に乗り過ぎた。

 俺がリズムを崩した事がバレたのか、二人が総攻撃してターゲットを奪おうとしてくれている。

 ありがたいと背中に回り『飛燕』を食らわせ離脱する。

 数回繰り返せば後一息と言えるほどになってきた。


「や、やれそうね!」

「はは、僕の秘策が無駄に終わりそうだね」


 アンドリューさんがわずかな隙を伺って俺たちにスマイルを送る。

 なんで隙をうかがってやることがスマイルなんだよ!?

 てか何をしてるかバレバレだよ!?


「全く秘めてないわよ? けど、あなた器用ねぇ」


 彼はずっと左足脹脛の一点だけを狙い続けていた。

 そこだけ異様に深く削られていて骨が出そうな勢いだ。


「折角だから折りたいですよね」

「どう、かしらね……

 逃げるならそうすべきだけど、動き方が変わるし姿勢がかなり下がるから近接でやるのは逆に面倒だったりするのよね」

「そこら辺はお任せするよ。

 折ろうと思えば直ぐ折れるだろう。

 もし倒しきれないなら見張りを立てて仕切りなおしと言うことも出来る。

 魔物は自然回復力が高いから、一日もすれば半分以上治っちゃうだろうけどね」


 そりゃ困る。非常に困る。

 仕切りなおしは魅力的な案ではあるけど、それはダメージを与え切ってもダメだった場合だな。


「『飛燕』! 『飛燕』! 『飛燕』!」

「またそうやって無茶する……」

「大丈夫だいじょ―――――っ、がはっ! 『ヒール』! だ、大丈夫」


 おおう。カッコ悪い所をみせてしまった。


「うーん、僕もそれやってみたいな。どうやるのかな?」


 ダメだしされるかとおどおどしていたのだが、彼の口から出たのは纏いを圧縮する方法についてだった。


「魔力をいつもの纏いの三十倍くらい出して、ぎゅ~~っと押さえつけて練りこみながら空気を抜くんですよ。

 そこから更に圧縮する感じです」

「え、普通に教えちゃうの?」


 そりゃ、教えるでしょ。出来れば戦力増加なんだから。


「こうかな?」と彼の纏う光が強くなる。


「ああ! これはいいね! 最高だ」

「待った! それめちゃくちゃ魔力取られるから使うなら攻撃して!

 ダメージをちゃんと上げて!」

「そうだったね。じゃあ、しばらくは僕の時間だ!」


 彼はいつもの爽やかなスマイルを崩し少し獰猛に笑った。


 そこからの彼は凄かった。

『残光』と『障壁』その二つのみで立ちまわりガンガン切り裂いていく。

 余りの猛攻に、今までどんな攻撃も微動だにしなかったオークキングがたたらを踏むほどだ。

 だが、その時間は五分も持たなかった。


「ああ!? しまった。もう魔力が無くなってしまったのか!!」


 急激に減る魔力の感知が遅れたようで極限まで使い切り魔力不足で足が動かず尻餅をついた。

 幸い、少し距離を取った時だったのでフォローは間に合うだろう。

 それでも念のため急ごうと圧縮した纏いに切り替える。


「了解。代わりますよ! ホセさんちょい手伝い宜しく!」

「わかっとる!」


 側面から『飛燕』で切りかかり、念のために顔に『アイスランス』を当てる。

 やはり視界が遮られるのは高いヘイトを呼ぶようで、標的が再びこっちへと切り替わる。


 慣れからか蓄積させたダメージからか、少し遅くなった様な気がする。


「私も出来るみたいだけど、やる?」


 彼女も圧縮した纏いを習得したみたいだ。


「ええ。お願いします」


「任せなさい!」と彼女は勝気に笑うと光を放つ。

 即、特攻し突き技を連発させ、肉を削り取っていく。


 当然直ぐ彼女にターゲットが移る。そのタイミングで今度は俺が『飛燕』連打だ。

 これで決まれ! これで、決まってくれ! と念じながら連発する。

 俺ももう魔力が殆ど無い。

 ずっと回復に回って纏いを切っていたとはいえ、魔力が回復したわけじゃない。

 逃げる時に色々無駄に使いすぎな。

 いや、使わなければ死んでたから無駄じゃないな。


 うん。無駄じゃない。


 俺の計算に狂いはないのだ。

 そう。たまたま着地点が生存域ではなかっただけのこと。


 それにまだ完全に望みが絶たれた訳じゃない。

 もう残り少ないが少しでも魔力は温存しておこうと一度止めて彼女にお願いする。


「俺もそろそろきついんで、お願いします!」

「ちょっと! いい加減に死になさいよ!」


 こっち向いていうのやめてよ。

 え? 俺にじゃないよね?

 てか、魔力消費したくないから早くタゲ取って欲しい。

 そんなお願いをしてみたら、彼女から提案がきた。


「じゃあ、念のためで足落としていいかしら」


 やはり、纏いを使っても一人で受け持って攻撃もするのはしんどいのだろう。

 やり辛いと言っていた方向でいくらしい。

 魔法も得意な俺からしたらありがたいので即座にお願いした。


「お願いします」


 マリンさんが半分近く切れている足の骨の部分に突きを連打する。

 そして攻撃に合わせて『一閃』で飛ぶがそれすらも狙い撃ちしていた。


 五回、十回、十五回、と同じ場所を狙い続ける。


「ちょっと!? これ折れないんだけど!?」

「肉で裂くのが手一杯なのに骨を絶つのは厳しいってことだろうね?」

「お前が折ろうと思えば何時でも折れるって言ったんだろうがぁぁぁ!!」


 爽やかに言うアンドリューさんにマリンさんが雄たけびを上げた。

 激しい突っ込みに思わず笑いが漏れた。


 だが実際は笑っている場合ではない。確かに切羽詰った状況だ。


 足を折れれば一先ず逃げると言う選択肢が生まれるが、出来なければ死ぬのだから。

 こういう場合、剣よりハンマーだよな。

 となるとロックバレットか?

 いや、アイスランスでいいか。氷なら纏めて出してやればくっつけて大きく出来るかもだし。


『アイスランス』


 一度にポンと少しだけ重なるように十個出せば綺麗について巨大な氷が出現した。

 形は歪で不恰好だが重量を上げるという目的は達した。

 後は足にぶち当てるだけだ。


「ねぇ、私もそろそろ魔力がやばいんだけど!?」


 攻撃を受け持っている彼女もそろそろ限界が近いようだ。

 彼女への攻撃でオークキングが足を止めた時に発射させる。


「な!? 何それ! そんなの初めて見るんだけど!?」

「これ撃った後は離れちゃって良いですよ」


 纏めて出した巨大過ぎるアイスランスに驚きつつも、オークキングを引き付けギリギリで離脱するマリンさん。

 ガシャーーンと大きな音を立てて巨大アイスランスが割れて飛び散った。

 その先には地に手を付いたオークキングの姿が見える。


「や、やった? やったのね!?」


 俺は警戒しながら近寄り、オークキングの足を確認する。

 折れかけている。

 完全にでは無いがあれで踏ん張れば即折れるだろうと思えるほどにはひびが入っていた。


「うん、上手くいったっぽい! 結構大きく割れ掛かってるわ!」


 こうなってしまえば攻撃力は格段に落ちる。

 唯一掴まれればその限りでは無いが、足を踏ん張れない状態で出された攻撃ならば即死は無い。

 つまりはヒールで回復可能。


「ふぅぅ。やっと危機を脱せた様で何よりじゃ」

「後はとどめをどうやった刺すかだよな。マリンさん、攻撃できる?」


 と、視線を向ければ彼女はもうその場で腰を下ろしてしまっていた。


「無理ね。魔力がすっからかんな所為で大分足にきてる」

「僕は言わずもがなだね」

「わしも通常の状態ならば一撃二撃いけるという程度じゃな」


 つまりは誰もまともにダメージは出せないということね。


「じゃあ、俺がギリギリまで消費してダメなら皆を頼ろうか」


 うん。ここまで弱らせれば、近寄らせない限りは大丈夫だろう。

 全員で一斉に魔法攻撃して貰えば割と良いダメージが入って殺せるかもしれないからな。

 だが、先ずは俺の魔力を消費してからだ。


 数メートル離れた場所で顔に向けて『ファイアーストーム』を放つ。

 キングオークは大きく雄たけびを上げて四つん這いでこちらへ飛びつくが、二足歩行が四足歩行をしても遅い。

 軽く避けながら『ファイアーストーム』を続ける。


「よく魔力が持つわね」

「サオトメ殿はボス討伐で大当たりを引いたみたいでね。

 魔力が人の数十倍あるらしいよ」


 アンドリューさんに肩を借りて戦闘に巻き込まれないラインまで非難した二人が、こちらに目を向け雑談を交わしている。


 いや、数十倍は……と思ったけど、今ならそのくらいあるな。

 普通の特級くらいの騎士と比べての話だけど。

 アンドリューさんやマリンさんは魔力が多い方だし多少レベルも上なので五倍から十倍ってところだろう。

 てか、今日初めて知った。

 皆あの消費の激しい纏いであれだけ戦えるとは……


 そこは俺だけが特別なつもりで居たのに。


 そういえば最近魂玉吸収してねぇな。

 皇国になら一杯あるだろうしルークに頼んでみるか?


 焼却しながらそんな事を考えて居る時だった。オークキングの体が強く発光した。


 漸く死んだのか――――――――

 と一瞬は思ったのだが、どんどん光が膨らんでいく。


 その暗い光は威圧感が強く、押し潰される状況を錯覚させるほど禍々しく、全てを奪うという意思を持っているかに見えた。

 全方位に伸びる光を避ける術はなく、飲み込まれていく。


 あれ……ねぇ? これヤバイよね?


 と、ホセさんたちに視線を送る。

 ホセさんが手を伸ばし何かを叫んでいて、二人は唖然としている。


 えっ、なに!? 聴こえないっ! 


 そう思ったときには全てが光に包まれていた。






 光が収まり、全てが真っ暗になった直後、直ぐ近くから女性の声が聞こえた。


「討伐完了、お疲れさま。まさか倒してしまうとは思っていなかったわ」

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