第99話


 さーて、暴れるか。


 前衛をこなしているマイケルたちの所へと着き、道を作ってくる事を伝えた。


「カイトさん、俺も行っていいんですよね?」

「いや、悪いけどコルトは念の為このまま頼む。魔法止まってる状態だし。

 サポート考えないで自由に暴れるから、皆はそのまま入り口を守っててくれ」

「コルト、行きたいのであれば行ってきてよいぞ。わしが見ておいてやる」


 少ししょぼくれた顔をしたコルトにホセさんが交代を告げ、俺たちは意気揚々と前に出た。


 魔法が止まり、大量に入ってくるオーク共に突っ込んでひたすらにぶった切る。

 切り札を切る必要はない。ただひたすらに届く範囲を切りつくす。


 と、思っていたのだが、さりげなく付いてきたアリスとやる気満々なリズが競うように『ファイアーストーム』を放射しながら突き進んでいく。

 アディが「あっ! ずるい!」と叫ぶと皆は散り散りに走り出し、スキルを全開放し始めた。


 ヤバイ。これではまた俺が一番弱く見える。

 なんとかしなければ。

 大丈夫だ、魔力なら一杯ある。


 だが、一番派手で効果が上がる『ファイアーストーム』ではもう余り目立てない。


 他に目立つのは……やっぱり『残光』か?

 と見渡せば、コルトとレナードだけでなくアレクやアディまでが光の剣を振り回していた。

 エメリーとマリンさんはスキル無しプレイを楽しんでいる。

 ソーヤ、ソフィ、アリーヤは王女たちと一緒に『ファイアーストーム』だ。


『ブリザード』や『アースクェイク』などの他属性の範囲も使えるが、正直インパクトはあってもダメージ効率が低い。


 さてどうしようかとひたすら切り続けながらも考えこんだ。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう……



 暫く思いつかずにひたすら高速で切り裂く事を続けていたが、ふと一つこれならばというものが思い浮かんだ。

 スキルを掛け合わせてみたらどうだろうと。


 よし、ものは試しだ。


『残光』で剣を伸ばしてからの『一閃』!


 とりあえずで試したダブルスキルは途中までは発動したが、降り抜く時にいきなり光が消えた。

 一応移動中に切った分の効果はあったが、『残光』二回分と同程度だった。


 なるほど……なんとなくわかったぞ、と今度は『一閃』の移動力を使った瞬間、『残光』で剣を横に延ばした。


 今度は振り切るまで光の剣が残る。

 大凡三回分と言ったところだ。


 これならば目立てる!


 と、戦場を飛び回り光の剣を振りながら高速移動を繰り返した。

 俺が通った後はドロップと魔石が転がり、幅十メートルの隙間が出来た。


 ふはははは、これは目立つぞ!

 これでもう舐められまい!


 そうして飛び跳ねつづけていれば、隣に追走する影が見えた。


「やぁ。随分面白いことしているね。私もやっていいかな?」


 と、『残光』を二つ名に持つ存在が声を掛けてきた。

 彼は説明した訳でもないのに、俺と同じ事をやって跳ね回る。


 後ろから「ズルイ! 私にも教えて!」と声が響く。


 いや、お前らの為に道作ってたんだよ!

 伝えてあるだろ? 戻ってきたなら上に上がれよ!


「申し訳ない。俺たちが通ったらもう塞いで構いませんから」


 ヒューイさんがそう言って申し訳無さそうに通り過ぎていった。


 思いの外戻るのが早かったな。

 まあ無事に越したことはない。俺たちも戻るか。


「おーい! もういいぞ! 後は適当に戻ってくれ!」


 別に残して行ったところで一人を除けば危険はない。

 その一人であるアリスを抱きかかえて階段の前衛が居るところまで戻った。


「随分派手にやったのう。さっきのは今しがた思いついたのかの?」


 ホセさんに問いかけられて足を止め、アリスを降ろした。


「うん。人と違う事やって目立とうと思ったんだけどね……一瞬で真似されたよ」

「ほっほ。そうしょげるでない。あれは昔からある手法じゃからな。

 使える場所が少ないので誰もやらんが、ここでは効果絶大じゃったな」


 なんだよそうだったのか。なら仕方ない。

 ああ、でも『一閃』の初動を移動に使う事は多々あったのだから当たり前か。

 そうして気を取り直していれば、アリスがなにやら興奮していた。


「ふふふ、カイトさん! 私の無駄な魔力でやっと活躍できました!」

「いやいや、全然無駄じゃないよ?」


 けど、そうか。

 アリスは戦争でも狩りでも殆ど何もさせられなかったからな。

 こうして活躍できるのは嬉しいんだろうな。


「今回はアリスの魔力がとても重要だから、頼ると思うけど宜しくな?」

「はいっ! 任せてくださいましっ!」

「じゃあ、皆が戻ってくるまでここで前衛を手伝おうか」

「はいっ!」


 と、二人で盛り上がっていたが、ホセさんが首を横に振った。


「いらんいらん。おぬしらのお陰でぬるすぎるわ。これでは訓練にもならん」


 手伝いを志願した瞬間にホセさんに断られ、目を向ければ確かにもう殆ど魔物が入って来れない状態になっていた。

 やる気になっていた俺たちは仕事を失い仕方なく上に上がる。


 そして最上段へと上がった瞬間、歓声が上がった。


「「「うおぉぉぉぉ!!」」」


 はっ!? 何事!?


 いきなりの事に困惑してトウザエモンさんの方へと視線を向けたらイチノジョウさんたちまで居て、こちらに拍手していた。


 ああ、俺たちが暴れてきたからか。


「聖人様がこれほどお強いとは思っておりませんでしたぞ。

 聞いた話と違いすぎて度肝を抜かれました」

「あはは、多少は認めて貰えたみたいで良かったですよ」

「済みませぬな。魔法に精通してた故に知に長けた方だと思っておりました。

 よもやこれほどとは……これは参りました」


 うん。話のわかるイチノジョウさんに褒めてもらえるのは素直に嬉しいな。

 などと考えていれば、ユキが「ふふふ、やっと言えます」と声を上げた。

 

「父上、これはサオトメ様の全力ではありません。もっと凄いんですから!」

「ほう! これ以上か!

 では、こちらも守るなどと考え違いをしてはいかんな……

 こちらも戦果を上げられるよう勤めます故、これからもご助力お願い致す」

「ええ。

 最初に約束した通り、命の危険を感じない限りは全力で当たります。

 こちらこそ、助力をお願いします」


 彼は「当然です」と返してくれた。

 そうそう。こういう関係なら文句無い、というか歓迎なんだよな。

 お互い頑張ろう的な?


 なんにせよ力が認められたなら、もう教皇派の侍も絡んで来ないだろ。


「あの……当家の教育が至らないばかりにまたもご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳御座いません」


 ずっとへこんで居たシホウインさんが泣きそうな顔で頭を下げた。


 ああ、こういう空気ダメなんだよな。俺。

 てかシホウインさんは悪くないのだが、これじゃ立場が無いだろうな。

 なんかして上げられないかな。いい子なのに。

 あぁぁ……一つあるわ。

 けどこれは俺が危険でもある。うーむ……

 いいや、やってみてから考えよう。


「アカリ、おいで。大丈夫、怒ってないよ?」


 そう言って彼女を引き寄せて抱きしめた。


「えっ!? あの……その……はぅぅぅぅ!!」

「ほら、大丈夫だからね?」


 頭を撫でて仲良しアピールを行った。

 これは多分効果があると思われる。俺に対しての事だし。


 だけど、これは彼女と恋仲だと勘違いされて当然の行為。


 ここからどう修正するかはわからんが、優しく頑張り屋な彼女が不当な扱いを受けるのは嫌だったので、後先考えずにやってしまった。


「もう、サオトメ様はお優し過ぎます。それと……ズルイです。

 私だってこのままだと立場がなくなっちゃいますからね?」


 うっ、ごめん。けどナイス援護。

 言外に立場が無くなりそうだから助けたと言ってくれたユキに感謝だ。


「わかったよ。シホウインさん、いきなりごめんね?」

「えっ!? 嫌です! あの……またアカリと呼んでくださいまし!」

「え? あ、うん。わかったよアカリ」


 おや? なにやら神様関係無しに求められている気がするんだが?

 ユキの隣に立つイチノジョウさんは満足気な顔でうんうんと頷いている。

 このままだと状況に負けてしまう気がする。ここは戦略的撤退だ。


「アリス、皆の所へ行こう。そろそろ戻ってきてると思うから」

「ええ。わかりましたわ」


 彼らにでわまたと声を掛けて離れ再び下に降りたが、うちの連中はまだ暴れまわって居るようだ。

 外の様子を伺えば、ステラと競っている様子。

 と言うより、ステラがぼろ負けして意地になっている様だ。

 まあ、力量でも負けているのに途中参加で勝てるはずがないのだけど。

 敵もスカスカになってきているし、もういい加減終わりでいいだろ。


「おーい。そろそろ終了だ! 次の打ち合わせするから帰ってこーい!」


 そう声を掛け、ステラ以外の全員を集めた。

 うん。あいつはうちの子じゃないし。戻ってこないのだから仕方ない。


 ヒューイさんと通信を繋ぎ、ルークも呼んで再び話し合いの場を作る。


 最初にうちの面子全員に伝えて気持ちを聞いておきたいので教国には後からだ。


「それで、オーク以外の魔物は居ました?」

「それなんだが……一切居なかったんだ」


 ヒューイさんに尋ねてみたが、奥の方へ行っても普通のオークしか見かけなかったそうだ。


「へぇ。なんだ、とりあえずは余裕そうですね」と拍子抜けに思い声を出したのだが、皆難しい顔をしている。


「いえ、この規模でぬしや上位種が居ないなんて絶対にありえないんですよ」


 彼の言葉に「あぁ、感じてた違和感はそれかぁ」とエメリーが呟いた。


「なんじゃ。主はそれを見越して雑魚だけじゃないと言って居ったのではないのか」

「いや、俺が考えていたのは言った通りだよ。女神の言葉からの推測だけ」


 どうやら、ホセさんやアーロンさんたちも気が付いていたようだ。

 ダンジョン外での大討伐に何度も行ったことがある人間には常識らしい。


「それで、アンドリューさんたちの予想はどんな感じですか?」

「一番可能性が高いのは、群れの中心に上位種の群れがある事じゃないかな。

 流石にこのまま拍子抜けは無いはずだよ。今までの経験から言って」


 彼は「群れの中に群れが居るほど大規模なのは初めてだから自信は無いけどね」と少し困った顔を見せた。


「オークの上位種って強いんですか?」

「うーん、今の私たちならばそうでもないよ。

 簡単に言うと、東部森林の魔物より五階層分強い程度だね。

 仮にその更に上のぬしが居たとしてもこの人数だし、一度に十以下ならば何とかなるだろうね」


 ほほう。

 東部森林のぬしと同等だって考えれば、確かにそのくらいいけそう。

 アンドリューさんやマリンさん、ホセさんは単独で撃破できそうだし。

 俺たちだって数人で当たれば一体くらいやれるだろう。


 えっと、東部森林の時は大体どのくらいに一匹居たんだっけか。

 二百匹に一体程度?

 もしも百体に一匹で考えて、もし百万匹いたら更に上が一体居る計算になるけども……


「そのもう一つ上が居たとしたら?」

「多分、全てが終わります。

 計算上、七十階層より上のボスとかそういう強さになるはずですから」


 ぬしの群れのボスはレベルが跳ね上がるとの記述が残っていると言う。

 大昔にアイネアースが国を移動せざる得なくなった理由がそれらしい。


 俺が行ってる階層を三十階降りた上にそこのボスか。

 なにそれ、こっわっ。

 三十階層差な上にボスとか絶対無理じゃん。


「ああ、大丈夫ですよ。計算上は居ないはず。

 オークも百五十から二百体に一体の割合ですからね」


 と、焦っていた俺にヒューイさんが教えてくれた。


「アイネアースの騎士は随分詳しいのね。

 種類ごとのぬしの割合なんて普通知らないわよ」

「ははは、地元が二十五階層から三十五階層程度の魔物が群れで襲ってくるような場所でね」

「あら奇遇ね。私のところもそうなのよ。もう少し勉強した方がいいかしら……」


 少し考え込むマリンさんにヒューイさんが「俺が知っている事で良ければ、いくらでも説明しますよ」と微笑みかけた。

 それにマリンさんも笑顔で「助かるわ」と返し、二人が魔物お勉強会を始めた。


「とりあえずどうやっても無理なのは居ない計算らしいので続行するとして、上位種の群れの場所特定が最優先かな。

 こればっかりは経験の多いであろうカノンの騎士か、うちらで釣るべきだと思うけど、どう思う?」

「って言ってもよ。斥候のプロなんてうちには居ないだろ?」


 言われてみればそうだな。

 年の功でホセさんできたりしないかなと視線を向けたが首を横に振られた。


「シグさんは当然として、アーロンさんも出来るんだっけ?」

「いえ、近衛のベテランと比べられたら厳しいですぞ。

 まあ、魔物を呼ぶ種でなければ何とかできるとは思いますが」

「私も同意見だ。出来るとは思うがあれほど緻密には無理だな」


 二人の言葉に、マリンさんが「なぁに? どんな事があったの?」と尋ねた。

 尋ねられたシグさんがあの時の状況を事細かに説明した。


「なにそれ、うちに欲しいんだけど……是非交流して技術を学ばせたいところだわ」


 マリンさん曰く、優秀な斥候というのはそうとう貴重らしい。

 やはり、そのレベル帯の敵を釣りながら群れを均等に二つに割るなど至難の業だそうだ。

 

「という事はやっぱりアイネアース側でやるしかないかな?」

「なぁ、そこが終着点ならとりあえず教国にやらせておけばいいんじゃねぇか?」


 レナードはアイネアースまで被害がこなそうなら後はやらせればいいと訴えた。

 だが、それは余りにリスクが高すぎる。


「阿呆。ダメに決まってるだろ! ぬしを全部連れてきたらどうすんだよ」

「レナードはホント馬鹿ね」


 いや、アディ? お前も最初はいい事言うじゃないって顔してただろ!?


「まあ、サオトメよ。まだ多く見て五万であろう。後九回は今日と同じ戦いになるのであれば結論を急ぐこともあるまい。

 こういう話は不和を呼ぶ前に相談したほうがいい。

 サクラバ殿は事実を正確に話せば詰まらん意地を張るタイプではなさそうだしな」

「ああ、うん。言うつもりだよ。たださ、これは教国にも言ってるんだけど……

 無理な状況下なら俺は逃げるから、先に仲間内で相談したかったんだよな」


 その言葉にルークは意外そうな顔を向けた。


「ほう。私も入っているのか?」

「そりゃ、そうだろ。シーラルでは色々助け合った仲じゃん?」


 それに、教国は立地的に逃げられない立場だからな。

 まあルークと言えど、流石にうちのギルドメンバーとは比べられないほどに思い入れに差があるが。


「そうか。そうよね。

 私も協力は惜しまないつもりだけど、ここで命を捨てる戦いをする気は無いもの」

「うん。俺もそう。まあ、ギリギリまでは助けるけど、ね?」

「あんた、そう言って結局最後までやるじゃない。死にそうになりながら……」


 リズの言葉に、アイネアース勢が苦笑しつつ同意を示した。


 お前ら、俺の計算を舐めてるな?

 いけると踏んでのことだぞ?


 まったく、馬鹿ばっかりで困るぜと、深く溜息を吐いた。

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