第72話
一足先に帰った事で色々な人にお叱りを受ける事となったが、軽く注意される程度で済み、その翌日王宮前広場にてカミラおばちゃんから直々にお褒めの言葉と報奨金を受け取った。
その額は大金貨百枚。思わずカミラおばちゃんに「こんなにいいの? 国大丈夫?」と聞き返してしまった。
こっそり「大丈夫よ。うちはお金持ちだもの」と返って来たので国に打撃を与えるほどではなさそうだと受け取らせてもらった。
そして大観衆が集まる中、個々の功績を読み上げながらの戦勝記念式典は続き、それが終わるとオルバンズ伯爵の公開処刑が行われた。
そんなものに興味は無いし、リディアも見たくないと言ったので早々に立ち去らせてもらった。
褒美もでかかったし、民衆にも感謝の言葉を貰いまくったが、俺のご褒美タイムはこっちじゃないんだとお屋敷へと帰ってきた。
報酬は俺だけのものじゃなくギルドとして。
一先ず全員を集め労いをしようと口を開く。
「さて、家でもご褒美タイムしようかね。
今回は戦争に行った人は全員が良い働きをしたから大金貨五枚の一律だ。
商人組みはお留守番だったから金貨五枚な。
ああ、資本金に大金貨十枚入れて置くから、そっちから頑張って稼ぎ上げて自分にお給料出して」
そう告げれば、またも多すぎると声が上がったが当然無視した。
これでも半分近く手元に残ってるのだ。これ以上残されても困る。
「そ、その、あれだ……その金で皆でパァっとやってこいよ」
「わかってるって。今日は男だけで朝まで遊んで来いってことだろ?」
「う、うむ。楽しくやってくるといい」
……気遣いは有難いが、そう大っぴら言うなよ。
だが感謝する。もうそろそろ許してやろう。
さて、この場に居たら彼らも出るタイミングが難しいだろう。
早くも二階に上がろうか、なんて思って居ればこんな日だというのに来客が訪れた。
玄関の戸を開ければ王女三姉妹、ステラ、エマさん、アレク、エヴァン、ウェストと同年代の知り合い全員が居た。
「……お前ら、国の戦勝パーティーとかあるんじゃないの?」
「ああ、当然あるさ。だが、それにはサオトメ殿も出なくてはダメだろう?」
「ヒューゴ殿の言うとおりだ。
カイト、お前は逃げ癖があるから今から身柄を押さえに来た」
……ウェストはいいが、エヴァンは俺をなんだと思ってるんだ?
まあ、逃げるけどさ。
だって今日はダメだよ?
昨日は疲れたから休もうってなってできなかったんだから!
「どうしたのカイト、なんか顔色が悪いよ?」
「ああ、そう。そうなんだ。気分が悪いから俺達は休むよ!」
ナイスだアレク。
そう、俺はいま体調が悪い。やれてないから。
そうした想いを隠しながらも宣言すれば、王女三姉妹が一斉に声をあげた。
「ちょっと待ちなさい! 何でそこで俺達はになるの!?」
なるよ。ほら、人手は必要じゃん?
「あらぁ? 休んで何をする気なのかしらぁ?」
そりゃ、看病とか?
「カイトさん、私は味方ですからね? 一緒に休んで看病します!」
いらんわ! 王女が混ざったら全員でなんてできないじゃん!
いや、その前にお前らは俺を苛めたから入れてあげない。
……なんか卑猥だな。仲間に入れてあげない。うん。これでいい。
「いや、だからお前らは知らんて。俺の気持ち無視した罰だ!」
「「「やだぁぁぁ!!」」」
ぴったりとくっ付いてくる王女三姉妹。
ふむ。この場所でならいいだろう。モミモミ。
あれ? 抵抗どころか声も上げない。
エマさんも特に不機嫌そうにもなっていないな。
身分が多少追いついたからか?
ふむ。さてこれはどうしようか……
「おいカイト! 貴様、何をしている!」
「ああ、そうだな。取り合えず上がってくれ」
俺はエヴァンの追及から逃れつつ、皆を居間に通す。
腰を掛け、アリーヤさんがお茶を用意して全員が席に着くと、アレクが箱に入った大量の魂玉をテーブルの上へ置いた。
「これ、今回の戦争で出たやつだって」
「おっ、今日はもう魔力使わないだろうしやっとくか」
魂玉の吸収ももう慣れたもので、アレクと二人で魂の聖杯を使う。
俺の方は三十三個吸収した所で魔力が尽きて終了となった。
アレクはまだ終わっていないがそろそろだろうと見ていれば、彼は突然テーブルに倒れ込み、そのまま嘔吐した。
「アレク!?」
「なにっ!? 何が起こった!?」
隣で興味深く観察していたエヴァンが立ち上がり、声を上げる。
皆が困惑するが、俺は水晶の知識で知っている。
今現在のだが、恐らくアレクは器の限界値に到達したのだ。
「大丈夫、長くとも数日で慣れる。それよりもアリーヤ、タオルと俺の上着を頼む」
彼女に頼み、アレクを抱えて客室へと行き彼を寝かせた。
「吸収できる限界に到達して、器が張り過ぎて精神に負荷が掛かっているんだ。
時期に慣れるし、加護を得ていけば更に吸収出来る様になる。
まあ、このままの状態で吸収し続ければ死ぬけどな。
それはアレクもわかってるから心配ないけど」
「あー、それっぽいことは言ってわね。けどいきなり倒れられると心臓に悪いわ」
リズが息を吐き目を覆う様に手の平を額にあてた。
関係が深いエヴァンやアリスちゃん、ソーヤなどが同じく安堵の息を吐き、大丈夫だとわかると狭い客室からぞろぞろと人が出て行く。
「暫くはキツイだろうから、今日はうちで預かって俺が見ておくよ」
「いいえ。それは他の者にやらせてくださいませ。
カイトさんは本日行われる戦勝記念パーティーの主役なのですよ?」
「そうね。悪いけど『絆の螺旋』は全員来て貰わないと困るわ。
それが皆の安心に繋がるの。逆に来ないと誤解を受ける可能性が高いのよ」
うぐぅ。アリスちゃんとソフィアから強制っぽい言葉が出た。
これは本気みたいだ。またお預けか……
いや、まだ諦める時間じゃない! 諦めて堪るか!
俺はまだ子供。夜だから帰りますは通じるはず。
うん、夜は長いから大丈夫。そう、そこからは大人になればいい。
「もし、動けるならアレクも出て欲しいのだけど……厳しそう?」
リズは彼の先を考えて、今から顔を繋げる方が良いと問い掛けたが、実際の所は本人しかわからない。
だが、到達して一個目。心を強く持つ事で多少の無理は利くはずだ。
ならばと彼の耳元でボソボソとつぶやいた。
「眠り姫を装うとか……そういうとこやぞ?」
「ちがっ! 僕は男だ! 男だぞぉぉ!」
瞬間的にガバっと起き上がるアレク。
マジかよ……冗談だったのに。
お前実は起きてただろ?
そう問い掛けたくなる程、即体を起して抗議の声を上げた。
「どうだ? 俺の今後の為にどれほどキツイのか教えて欲しいんだけど」
「うぅ……かなり気持ち悪い。耐えられない程じゃないけど。結構やばいよ。
それよりも、さっき何か嫌なこと言わなかった……?
ねぇ? もう一度言ってみてくれない? なにかが引っかかってるんだ。心に」
怒りが勝ったのか、心を強く持った彼は思いのほか元気そうだ。
「そんな意味わからないこと言ってると、パーティー連れて行ってやらないぞ?」
そうしてアレクを嗜める。
いつもならこれで上手く交わせるのだが、エヴァンのやろうがしゃしゃり出やがった。
「馬鹿者。耐えられるなら出席して欲しいのは此方の方だ。
それと、眠り姫を装うとか、そういうとこやぞって言った瞬間起きたのだ」
「あ、てめぇ、このやろう!」
「カイトぉ? このやろうはこっちのセリフだよ!
いい加減僕をそういう邪な目で見るの止めてくれるかな!?」
いや、そんな目では見てねぇよ!
お前、俺が変態みたいな言い方するなっての!
そんな弁解をしつつ「パーティーに出れる様に起してやったのにご挨拶だな!」と逆切れした。
その言葉にアレクの威勢は弱まり「まあ確かに、そこにだけは感謝するけど……」とアレクは肩を竦めた。
「んじゃそろそろ準備するか……って必要無いのか」
うん。さっきまで式典に行ってたから全員一張羅で正装している。
アレクだけは上着が汚れたのでちぐはぐな格好をしているが、そこはお城で何とかなるみたいだ。
気を利かせて人足も用意してくれたみたいで、後は移動するだけらしい。
「では、お帰りをお待ちしております」
そうしてアイザックさんとリックが玄関で見送りの言葉を発して頭をさげた。
「何言ってるの。『絆の螺旋』は全員よ? 正装はあるわよね?」
「え? 戦争に出ていない我らもですか?」
「ええ。代表ギルドは見習いですら全員参加が慣例よ」
ソフィアの言葉に驚きながらも肯定の言葉を受けて少し嬉しそうな二人。
うちみたいに商人をギルドに入れている所は早々ないらしく、普通こういう時はギルドメンバー全員参加するものらしい。
確かに考えてみれば騎士団ギルドだもんな。
育成の為に騎士になる前の者達をギルドに入れるパターンはよくあるそうだが、商人を入れる事は殆ど無いのだろう。
二人のどたばたした準備を待ち、総勢二十名、人力車三台並んで全員でのお出かけとなった。
王宮に入り、ガッチガチに緊張する皆に俺の苦労がわかったかと今までの鬱憤をぶつけつつ、華やかに飾られて料理の載ったテーブルが並べられた大広間を歩く。
もう既に人は集まっていて、もう始まっているのかなと思わせる雰囲気だ。
取り合えず、カミラおばちゃんに挨拶をすれば良いらしいので階段の上にぽつりと置かれたテーブルへと移動した。
「さっきぶりです。顔出しに来ました」
「うふふ、隣の席すわる?」
「いいえ。アレクをどうぞ」
「ちょっと! どうぞじゃないよ! ここ公の場だから。冗談はダメだってば!」
あそっか。
えっと、確かこうだったよな……
「失礼致しました。
女王陛下、本日は二度も御尊顔を拝めまして、大変嬉しく存じます。
先の式典でも過分な評価を頂いた事、伏してお礼申し上げます」
「あらぁ、挨拶もしっかり出来るのね? 良い子良い子!」
「やめーや。折角取り繕ったの無駄になるでしょうが」
「あははははは」
こんな場所ですら楽しそうに笑うカミラおばちゃんにジト目を送る。
手を叩き落とす訳にもいかず、後ろに声が行かない様に小声で抗議しつつもエヴァン、ウェスト、アレクの挨拶が終わるのを待ち早々に退却した。
『これより、カミラ・アーレス・アイネアース女王陛下よりお言葉がある。
皆、その場で立ったままで構わぬ。静粛に』
奥から歩いてきたワイアットさんがそのまま音声拡張魔道具を使い声を上げると、カミラおばちゃんが立ち上がった。
『皆さん、本当に良くやってくれました。これでリアムも安心して見守って居られる事でしょう。夫の死から、長い、長い水面下の戦いを続け、漸くこの時を迎えられたこと、感謝の念に堪えません。
此度の戦争に赴いた騎士達にも深く、深く恩礼申し上げます。
今日は無礼講です。楽しんでいってくださいね。
あ、でも喧嘩はダメよ? うふふ』
お言葉が終ると会場の者たちから笑い声と大きな拍手が舞う。
途中まで良かったのに最後で気が抜けたみたいだな。
まあ、いつもよりはまともか。
気さくな女王様と見ればかなり好感が持てる感じに仕上がってる。
そうして挨拶が終わった直後、わらわらと人が群がってきた。
お、おいおい。
知らん奴しか居ないんだが、なぜ寄って来る……
「これはサオトメ名誉伯爵殿。ご高名はかねがね――――――――」
「私は大討伐の時から貴方のファンでして――――――――」
「もし宜しければ、娘ともども仲良くして頂けたらと――――――――」
心の準備が整う前にルネッサーンスとでも陽気に言いそうなおっさん共が群がってきた。
ダメだ。帰りたい。だって全員知らないおじさんだもの。
そう思いつつもうっかりしない様に細心の注意を払って一人一人相手をしていく。
そんな時、人の波が割れた。
どうやら偉い人がきたっぽいと思えばワイアットさんだった。
助かった……
「おお、ここに居ったか。すまぬが大事な話がある。応接間まで移動するぞ」
少し焦った表情を浮かべたワイアットさんと挨拶もそこそこに移動する事となった。
話をするのは俺だけの様で、皆は普通にパーティーを楽しんで居ていいらしい。
良く見ればカミラおばちゃんも席を外している。ニコラスさんも姿が見えない。
うーむ。助かったと思ったのだが、ワイアットさんの焦り具合から見て碌でもない話を聞かされそうだな。
そう思って居れば、彼は「もうここならば良いか」と声を上げると歩きながら続けた。
「実は皇国から連絡がきてな。そこは予想通りだったのだが可笑しな事を言い出したのだ」
「可笑しな事ですか?」
「うむ。『カイト・サオトメという騎士は皇国の騎士。直ちに返せ』と言ってきおった。それが成されねば全面戦争を起すともな」
はぁ? 俺を返せってどういう事? 皇国の人間じゃねぇよ?
余りに意味不明な言葉に「寄越せじゃなくて、返せなんですか?」と首を傾げたまま問い掛けた。
「そうなのだ。確認を取ったが、皇国の騎士だと言い張った。
思い当たる節はないのか?」
そんな事を言われても……俺が騎士になった……のって……
「そ、そう言えばリディアを助ける為にサットーラで騎士登録したかも……
けど、だから返せっておかしくないですか? 俺は元々こっちの人間ですよ?」
「むぅ……そうか。あの時か……
うむ。元より騎士の自由じゃ。しかしそうなると如何捉えたら良いのか……」
ワイアットさんは、皇国の思惑がわからず困惑しているらしく、うんうん唸っている。
難癖で全面戦争を吹っかけて何か条件を飲ませたいのだと思っていたら、話が本当の事だった為に如何返答すべきか悩んでいるらしい。
名誉伯爵だから渡せないのが当たり前なのだが、皇国側の言い方は余りに強引で、どうしても俺を差し出さないと許さないといった構えだったらしい。
「全面戦争になるくらいなら行きますけど……殺されたりしませんよね?」
「待て待て、名誉伯爵を脅されてハイどうぞとはいかぬ。
殺されはせんじゃろうが、皇国は奴隷を是としている。何をされるかわからん。
そもそも国の英雄を差し出すなど……」
そうして会話している間にいつもの応接間に着いた。戸を開ければ、カミラおばちゃんだけでなく、国の重鎮である大臣たちも勢ぞろいしていた。
ワイアットさんは急ぎ足でニコラスさんたちに俺が他国で登録してしまっていた事を告げた。
「偶々理由に選んだ謂れの無い難癖ではないとなると、全面戦争が本気の可能性もありますね。サオトメ殿の有用性は余りに高すぎる」
「情報が漏れていたのであれば、オルバンズ戦争で信憑性を得たということでしょうな。死者の比率が二十倍以上ですから……」
「確かに。
三倍の兵力を持って攻めてそれでは、脅威に怯えてもおかしくはありません」
うわぁ、話に入れる感じがしねぇ。
呼ばれたはいいけど、どうしたらいいの?
視線を彷徨わせれば、おばちゃんがチョイチョイと手招きをした。
近づけば隣に座らされ、頭を撫でる。
彼女は楽しそうに我関せずと撫で続けた。
待て。ピンチだってのに、お前は何で一人和んでるんだ!
イラッと来ておばちゃんの頬を抓った。
「ちょっとぉ? 俺も国も、ピンチなんですけどぉ?」
「こらぁ。年上にそういう事しちゃダメでしょ!?
それにあなたが居ればきっと大丈夫よ。頑張るのよ? またご褒美あげるから」
「そもそも、俺呼ばれたけど、話入れてないよ?」
「そうね。でも、それは私もよ?」
いや、同列に扱われても……
おばちゃんと仲良く話をしていれば、ニコラスさんがこちらに視線を向けた。
「サオトメ殿、これから皇国との映像通信が行われる。その場にキミが居ないと拙いんだ。発言しても構わないが、慎重に頼むよ?」
「それは俺よりおばちゃんに言った方が……」
「お・ね・え・さ・ん! 二度目よ!? あら、ほっぺ柔らかいのね?」
ちょっと! 俺が悪かったから止めて!
抓る気は無いのかプニプニと頬をつまんで遊ぶおばちゃん。
慣れてきたしもうあんまり失敗した感はないけど、ちょっと気まずい。
「はぁ……双方共に慎重に。
これは冗談ではありませんぞ。国の存亡が掛かる一切気の抜けぬ話なのです」
ワイアットさんに珍しく鋭い視線を向けられて、思わず姿勢を正す。
「そう言われても思惑聞いて引かない様子なら受けるしかないですよね……?」
「そうなるな。断れば滅亡するのでは、どちらにしても守りきれぬという事になる」
そうだよなぁ。
しっかし皇国は碌でもないな。
流石奴隷を是とする国だよ全く。厄介な……
「あっ、隷属ってこっちが拒否しても無理やりできたりします?」
「いや、それはない。しかし、拷問して心を折れば大抵は受け入れるそうだぞ」
うーむ。逃げたくなってきた。
最悪は行けばいいと思ってたけど、これはマジで軽く考えちゃダメだな。
そうして話しているうちにも、使用人らしき人たちがなにやら準備を進めていき、整ったのか揃ってお辞儀をすると退室していった。
そして、陽の刻から陰の刻へと切り替わった瞬間、大きな水晶が光輝いた。
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