第48話
三日目、キャンプに残っている低レベルの人員の奮闘により、負傷者も完全に癒えて、再び完全な状態で開戦を迎えた。
「そろそろ私も攻撃に参加したいのだけど」とのたまう王女の頭を叩き、諌めつつ前日と同じ場所に陣取った。
三日目という事で大した説明もなく、スムーズに斥候が森に入っていく。
一回、二回、三回と、こつこつ魔物を誘い出しては討伐が進んでいく。
そして四回目の索敵の際、再び『う゛ぉぉぉん』と間の抜けた声が響く。
「またかよ。まあ、今まで無かった方が不思議なくらいか」
今回はどれだけ来るのかと後衛にもどよめきが走る。再びレナードの肩に乗り様子を実況する。
「来たっ、数は今の所……三十、四十、ぬしも居るな。まだ増えてる。ちっ、二体目も来てるっ――――――――」
そこで声が止まった。森から三体目だけでなく四体目のボスも同時に出てきた。
雑魚は百体程度だが、ボスはブラックサーベルタイガーとレッサードラゴン、ミスリルゴーレム二体だ。
絶対に四体は止められない。
このままじゃ蹂躙されると頭に最悪な光景が過ぎった。
あの闇夜の中蹂躙された王国騎士の姿が俺の騎士の皆の姿と入れ替わる―――――
アホ! 今考える所はそこじゃねぇだろ!
すぐに頭を振って切りかえる。今は後衛を恐怖に落としている時じゃない。
「あらら、割と一杯来ちまったが、引き寄せる算段は付いている。
雑魚は少ないし気合入れて魔法撃つぞ! 戦姫エリザベス! 貴方の出番です!
先ずはファイアーボールで構いません。ミスリルゴーレムに向かって打ちまくってください!」
こちらからでもすぐに四体居ると見えてしまうくらいに大きい。
だが、作戦があり自らも対応に動き出した後ならば多分役割を放棄するほどの混乱にはならないでくれるだろう。
そう願いを込めてリズに先陣を切ってもらおうと声を掛けた。
「ええ! 任せなさい! 私につづけぇ!」
リズは後衛が魔法を撃つ為の台に上がり、周囲に響き渡るほどの声を上げた。
その声に、後衛の騎士が一斉に彼女を見る。
中央の俺達は治療班。大きく左右に広がり、側面から狙える彼らが魔法攻撃班だ。
リズは中央からでも状況把握を出来る様に設置されている指揮官用の台の上に立ち、ファイアーボールを放つ。
「王女殿下の狙いに合わせ、攻撃を集中させろ!
使える奴はロックバレットに切り替え、敵の足を止め続けろ!!」
そう告げている間にも『希望の光』の面々が動き、レッサードラゴンとブラックサーベルタイガーの二体を引き連れて離れていく。
ありがたいが二匹も連れてって大丈夫なのか? いや、そこを心配してるレベルじゃねぇな。
ベテラン勢はそこが解ってるから無理して二体持って行ったのだろう。
しかし一体はルンベルトさん達で持てるとしても、最後の一体をどうするかだ。
流石に彼らに二体は無理だろう。主力の自力が違う。
ならどうする? 考えろ。最善はどこだ?
不安と焦燥で背中を震わせながらも思考を回す。だが、どうしても昨日のボス戦でボスの耐久力を見ている所為で止められる気がしない。
そんな中、一人隊を抜けて走り出したフルプレートメイルの騎士がいた。
あの鎧はホセさんだ。
ミスリルゴーレムの頭にファイアーボールを喰らわせて隊を離れていく。
た、確かにあれなら速度的に釣れると思うと言って居た。これで何とかなるのか?
そう思って気持ちを持ち直し始めた時だった。
ミスリルゴーレムが両手で大地を叩き地が揺れる。そして地面を搔くように土や岩を握り締め、ホセさんへと投げた。
「――――っ!? ホセさぁん!!」
揺れる地面に足を取られ、彼は投げつけられた岩により体を弾かれ宙に飛んだ。
拙い拙い拙い! このままじゃホセさんが死ぬ!
「ソフィ! ロックバレットだ! あのゴーレムを狙え!
レナードこのままホセさんに向かって走れ! 出張治療だ! 命賭けんぞ!」
「あ、ああ? マジでホセさんがやべぇんか?
クソッ、しょうがねぇなぁ……やってやんぜ! 落ちんなよ大将!」
間に合え間に合えと、地を滑り終わり倒れ付す彼を見据えながら、肩車されたままに向かう。降りるべきか迷ったが、この上からなら俺もロックバレットですぐ狙える。前に出るなら状況把握も必須だ。
即座に詠唱を唱えて俺とレナードにシールドを掛けてロックバレットを撃てる準備を整え構える。
二陣を抜けてレナードは状況を把握すると、魔物を避けるように大きく回りホセさんの居る方へと走る。
今、ホセさんは隊から大きく離れ孤立してしまっているが、倒れて伏しているからか、敵全体に魔法が雨の様に撃たれているからか、雑魚がそちらへ向かう様子は無い。
その間にもソフィ、ソーヤ、リズによるロックバレットの岩がミスリルゴーレムへと当たり弾ける。リズが標的を変えれば、全魔法攻撃がミスリルゴーレムへと移る。
ゴーレムの体が後衛の方へと向き再び地面を叩き地揺れを起すと、地面をかっぱぐ。
やばい!
これ、またあの投石が来るパターンだ!
「おまえらぁぁ! 投石が来るぞぉ!
二陣の奴らは障壁陣の準備をしつつ固まれぇ! 一人で受け止め様とするなぁ!」
レナードは変わらず前に走り、俺は後ろに指示を出す。
もとより密集していた為、飛んでくる岩に対してその場の十数人掛かりの分厚い障壁が張られた。その障壁すらも弾かれ砕かれた岩が飛び散るが、相殺は出来たようで彼らはすぐに立ち上がり前を見据える。
そのうちの一人が声を上げた。
「止められる! 無傷で止められるぞぉ! 目を離さずかたまれぇ!」
士気が上がってきていたからか、萎縮するどころか二陣の奴らの目もギラギラとしていた。
それに安堵し、他のボスにも目を向けつつ、ホセさんの所へ早く着けと願う。
『希望の光』が二匹を引き付けに徹して上手く往なしてくれているお陰で何とか前線を保てている。だが、彼らも厳しそうだ。大半の時間をアンドリューさんが一人で引き付けているが、余裕が一切無い。
それでもダメージを与え続けている事に驚愕しつつも、他にも目を移す。
魔法攻撃による足止めが終わってしまって王国騎士と近衛騎士が不安だったが、まだルンベルトさん達の方が安定してやれていた。
ルンベルトさんとハロルドさんが交代でミスリルゴーレム受け持ち、攻撃とサポートを連続して行っていて、アーロンさんや他の騎士たちは雑魚を近づけまいとがつがつ倒していっている。
まだ動きが遅い分、ある程度押さえ込めている為、周囲の騎士に大きな被害は出て居ない。
すげぇ。マジですげぇ! 無理ゲーこなしちゃってるよ!
と高揚と恐怖に挟まれながらも漸くホセさんの所へと到着した。
「我、女神アプロディーナ様の加護を賜りし者なり。
我にお力の一端を貸し与え給え。聖なる癒しを『ヒール』
我、女神アプロディーナ様の加護を賜りし者なり。
我にお力の一端を貸し与え給え。我にアイギスの盾を『シールド』」
即座にヒールとシールドを掛けて「ホセさん!!」と声を掛ける。彼らはうつ伏せからごろりと寝返りを打つと、体を起して地面に座り、片手を上げた。
「すまん、助かったわ。まさかあんな攻撃をしてくるとはの。次は上手くやって見せる。来てくれた所悪いが、大至急戻ってくれ。レナード主を頼むぞ」
彼は軽い調子で立ちあがり、次は上手くやると目を細めた。
「あいよ。大将、もう魔法は撃たねぇだろ? 背中に乗ってくれ」
「いや、まだ大丈夫そうだから、ここからは自分で走る。
ホセさん、無理そうなら違う方向でいくからさ。早めの判断を頼むよ?」
レナードの背中から降りて、走り出したホセさんへと声を上げれば「来る攻撃が解っていれば問題ないわ」と彼は片手を上げて速度を上げた。
「さて、レナードは戻っていいぞ。俺はアンドリューさんたちのバックアップに付く」
「はぁ? ふざけんなよ! あんな所行ったら死んじまうだろうがっ!」
半ギレのレナードを無視して戦場の反対側へと森の方を回って走るが、レナードが後ろに付いたまま走ってきていた。
「アホ! 俺は戻らねぇぞ!?
あっちがつぶれたら終わりなんだよ。俺もお前も皆死んじまうんだっての!」
「わーってるよ!
けどもう魔力ねぇんだろ? もしもの時は担いで逃げてやるっての」
彼の言葉に「ああ、そう。わかってるなら最初から止めるなよ」と文句を言いつつも苦笑した。やっぱりこいつはこういう奴なんだよなと。
……あの事を許してはやらないが。
そうしてある程度近い場所で止まり森の側から戦闘を眺める。
「にしてもやべぇな。やれてんじゃねぇか。
カイトさんのバックアップいらねぇんじゃねぇか?」
「ああ。メインのあの二人はヤバイくらい強いな。
けど、他の三人がタゲられたらヤバイぞ」
「タゲ? ああ、確かにな。しっかし、カイトさん良くその強さであの戦い分析できるな。あれ? 今何階層行ってんだ?」
こいつ……シャドウウルフ倒したって話しただろ!?
お前ともうそう変わらんぞ? まったく子ども扱いしおってからに……
いやいや、今は戦況把握だろ! 邪魔すんな馬鹿レナード。
ホセさんは大丈夫か、と彼に目を向ければ良い感じに隊からゴーレムを引き離し、特大ファイアーボールでタゲを取って引っ張っていた。
もう隊から結構離れているからゴーレムとの距離も遠慮なく空けられるようになっていてあれなら安全そうだと息を吐く。
あれ? レナードがこっち見てる。ああ、話しの途中か。
「二十九階層だ。そろそろ抜いてやるからな!」
「はぁ!? ああ、王都のな? いや、待った! それでも早すぎだろ……
どれだけやってんだよ! 俺たちだって泊まり込んでんだぜ?」
「はんっ!! こちとらヘイスト込みですべてを掛けてんだよ!
負けてられっか!」
「何で怒ってんだよ。つーかいい加減機嫌直せよ」
「やだ!!」
主を絶体絶命の罠に追い込んで置いて、何怒ってるだと!?
早々にお仕置きを考えねば。
なんて言い合いをしていれば、戦況が動いた。
やはり、二匹を受け持つのは無理があった様だ。
『希望の光』の二番目に強いであろう男がブラックサーベルタイガーの爪に弾き飛ばされて血を撒き散らした。
だが幸い飛ばされたのがこっち方向。走ればすぐだと全力疾走する。
「カイトさん! 来てる! おい、今はまじぃって!」
レナードの言うとおりボスが追撃に追って来ている。だが、そうはさせまいと『希望の光』の面々が魔法を放ち背中からの集中攻撃を行っている。
恐らく、気が反れる。そう考えて突き進むがブラックサーベルタイガーはそのくらいでは止まらなかった。
「レナード! 障壁陣!」
「無理だっての! 『障壁陣』」
「あと剣でも受けるぞ! 大丈夫だ。俺を信じろ!」
地に伏せる男を守るように構えた。さあ当たるぞという所で後ろからも『障壁陣』と声が聴こえレナードの障壁陣の光が強まった。障壁陣と合わせる様に二人で爪撃を受けたがガチンと恐ろしく鋭利な音を立てて弾かれる。
転がり、地面に這いつくばってボスの後ろの方角へと懇願の視線を向ける。
追撃前にアンドリューさんが間に合ってくれないと死ぬ!
頼む、間に合ってくれ!
その直後、強い光によってブラックサーベルタイガーが横から切り裂かれ、転がりながらもブラックサーベルタイガーは即座に距離を取った。
「すまない。助かった。そのままヒューズをあいつらの所まで運んでくれ、頼む!」
それじゃ無理して来た意味半減だろと、彼の言葉を即否定する。
「いいえ、このまま治して戦ってもらいます。
我、女神アプロディーナ様の加護を賜りし者なり。
我にお力の一端を貸し与え給え。聖なる癒しを『ヒール』」
「えっ!? ヒールじゃ無理だ。って……治った……のか?
こりゃ資質が高いってレベルじゃないな。流石賢者って言われるだけはある……
ヒューズ、やれるか!?」
「ああ、完治してる。問題無い。ありがとうございます。助かりました」
その言葉を聞いて安堵し、ふらりと体が揺れる。
まだだ。あと一回いける。建て直し直後もあぶねぇんだから……
即座にボスの対応に戻る二人を見据えて踏ん張るとレナードに肩を抱かれた。
「おい、大将、流石にもう戻るぞ」
「ま、待て。せめて安定するまで見守る」
「アホ! あいつらだって月の雫持ってるっての!」
「ああ……そういやそうだった……じゃああと、たのむわ……」
もうだるくて動きたくないと、レナードに抱っこされて俺は戦線離脱した。
自陣に戻るのはもう安全に通れる道が出来上がっていたので余裕だった。それはありがたいのだが、まだ、ボスは一匹も倒されて居ない。
流石にこんな状況で寝れるかと苦痛に耐えて視線を向け続ける。
「また無理して! この馬鹿! もういいから寝てなさいよ!」
「うっさい……このまま寝て魔物に食われるのはごめんだっての……」
と、言い返すものの、自陣に戻ってしまっては立つ事すら叶わない今の俺に戦場を見ることすら出来なかった。
地面に座り込んだままサラに後ろから抱きしめられて、温い感覚に眠気が襲うがサラの控えめなおっぱいを揉んで耐える。
もっと一杯揉まないとダメだ。寝てしまう。と思って激しく揉みこんでいけば頭に衝撃を受けて目が覚めた。
「カイトくん? 何時になったら覚えるの?
私にやりなさっ、あっ、ちょっと、こらっ!」
「やるよ! やらせてよ! ほらぁ!」
吸い付く勢いでアディの胸へと飛び込んだ。
なんだ、俺はまだ動けるじゃないかと思いながら。
そして一杯アディに甘えた。
「だ、ダメだってば、こんな所じゃ……」
「じゃあアディ、止めてあげるから高い高いしてぇ?」
「は、はぁ? い、いいけど……はーい、高いたかーい!」
いや、うん。俺もそう言ったけどさ。大きな掛け声はいらないかな?
戦場が見たかっただけなんだ……
と、猫みたいに持ち上げられながら戦場を再び見回せば、王国騎士達が受け持つミスリルゴーレムが討伐されたところだった。
その足で『希望の光』の方へと主力が流れていく。
後は、ホセさんが上手くこなしてくれれば……と見渡すが見当たらない。
「おい! ホセさんはどこ行った!?」
「あっちだ。かなり離れたな。こっち戻って来てるっぽいし、もう壊滅は免れたな。
流石だぜ、ホセさん。あれからはすべて余裕で交わしてやがる」
そっか……んじゃ寝ちゃってもいいかな? えっと、皆は……あれ? コルトが居ない。
「コルトは?」
「ここに居ます。怪我人を運んでいました。
こっちの戦いが終わったのでもう仕事はそんなに無さそうなんで戻ってきました」
おっし、それならちょっと寝かせて貰おう……
「わりぃ、じゃあ俺また寝るわ。お休みぃ」
「あなた、そこ代わりなさい。わたしが支えるわ」
「嫌です。王女様がやる仕事じゃありません!」
ちょっと、なに喧嘩してんの? 寝るって言ってるでしょ?
「退きなさい!」
「嫌です!」
……煩い。
俺は無言で起き上がり、一番無頓着にしているエメリーに抱きついて再び目を閉じた。
「わーい。棚から牡丹餅きたぁ。いい子いい子」
そんなエメリーの間の抜けた声を聴きながら意識を手放した。
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