第47話

 討伐作戦二日目の早朝。

 俺たちはテントの中で今日の作戦の内容とすべき事の役割を話し合っている。

 まだ、俺が男になった件については誰も触れてこない。

 このまま流れていって欲しいものだ。


「てな訳で、昨日より人が密集して動き辛い環境ではあるが、ポジション的にも役割的にも後衛の皆は安全だと思う。

 その分ホセさんが厳しいと思うけど……」

「なぁに、雑魚の相手なら問題はない。今日も主のヘイストを頂けるのであろう?」


 頂けるって、そんな重く言わんでいいから。当然主力には掛けると伝えつつ言葉を続ける


「本当はシールドも皆に掛けたいところなんだけど、シャドウウルフの攻撃ですらダメージ食らった程度の効果しかないから、今回はヘイストを優先しようと思うんだけど」

「待って下さい。シャドウウルフなんて何処で見たんですか?

 カイト様が行ける所には出ないでしょう? あっ、異常種ですか?」


 コルトの問いかけに、フィールドで襲われ十体ほど倒したという話しをすればアディたちが驚きの声を上げた。


「待ってよカイトくん。それ今私たちがパーティーで相手してる魔物なんだけど……

 ソロで十匹も倒したの!?」

「まあ、そうだけど。範囲魔法で大半を潰したから同時に相手したのは三匹だぞ?

 それでもスキルをフルで使っても一撃喰らうほど厄介だったけど……」

「うわぁ……カイト様、もう少なくともアリーヤさんよりは強そう」

「ううぅ。私の存在意義がもうありません……」


 アリーヤさん、泣かないで! ちゃんと存在意義はありますから。俺の癒し枠で。


 何故かマジで泣いている彼女を抱き寄せて、頭をなでる。

 あれ? そういえば何の話してたんだっけ?

 あっ、思い出した。


「そんな話はどうでもいいよ。今は明日の俺たちの役割の話しだろ!

 ソフィ、ソーヤ、アリーヤ、アディはヒールもいけるから命を繋ぐ為の回復班でいいだろ?

 けど、レナードやエメリー、サラちゃんとコルトが何をするかって所だな。

 怪我人運ぶってなると、最前線にまた足を踏み入れる事になっちまうけど……」


 今日の感じを見るに酷かな。と視線を向ければレナードが待ったを掛けた。


「いや、それくらいはやるぜ? 移動の為だけに魔力使えばまず喰らわねぇしな」

「うん。正直、私たちでもヘイスト貰えれば一匹くらいなら相手できそうだしねぇ」


 コルトに視線を向けるが、彼も自信を持って頷いている。昨日の最後に動けた事で自信を取り戻したらしい。

 サラちゃんは少し表情が思わしくない。流石にレナードたちよりも大分若い分、ハンデが大きいからな。


「サラは俺の補佐として隣に居てくれ。出来れば伝令要員とかも欲しいしな」

「は、はいっ! ありがとうございますっ!」


 ニコリと微笑んでホッと一息つく。その様子を見るに彼女はまだ不安が色濃く残っているのかも知れないな。


「主よ、今日は恐らくぬしが出てくるじゃろう。

 割と激戦になるかも知れんが、昨日みたいな無茶をしてはならんぞ?」


 ホセさんは、あの数なら普通ボス的存在が居て然るべきだと言う。

 昨日の会議でも、俺の寝ている間にも話された懸念事項だそうだ。


「ボスかぁ……そうなると二体以上来る可能性も考慮しないとダメだよなぁ。

 ボスって数人の衝戟とかで足止められたりしない?」

「そりゃ面子によるのう……

 うちの面子だけじゃ無理じゃな。流石に急成長しとるし進行は遅らせられるがの。

 だからこそ昨日は隊を分けた孤立作戦だったんじゃ。今回は生存を第一に考える為の進軍じゃしな」


 そっかぁ。孤立させた後は前衛も遠距離スキルで足を止める作戦だったのか。

 確かに一まとめにしたらその回りに雑魚が群がっちまう。そうなると一方的に魔法でってのは無理そうだな。


「トレインも無理?」

「トレインとは何じゃ?」

「ああ、釣りというか、足を止めないで引っ張り続けることだよ。ヘイストで速度が上がってれば時間稼ぎができたりしないかなぁってさ」

「確かに今ならば可能な可能性はあるのぉ。ゴーレム系であれば恐らくわしでも一人で一体受け持てるな」


 なるほど。他のボスは速度的にホセさんでも厳しいのか。けどここの魔物は三種類って聞いてるし、その内一体はアンドリューさんに任せられると考えればそこまで悪い確率じゃないな。


「んじゃ、後は戦況見てかな。恐らく今日は俺は動かないだろうけど」

「それはありがたいが、何故じゃ?」

「いや、昨日の様な残り少ない魔力でも意味がある稀有な状況なんて早々ないよ?」


 と笑って言えばホセさんも確かにと納得していた。


 その後、配給として回ってきた朝食を食べて、俺たちは再び戦場に立つ事になった。

 今日は昨日と違い朝からだから時間が大分ある。

 魔力の兼ね合いもあるから何処までやるかはわからないが、出来る限り早く終わらせて帰りたいもんだ。

 戻ったらソフィアとアリスちゃんとも個別で時間取って謝罪して置きたいし、あまり長いことリディアを待たせるのも可哀そうだ。


 まっ、そうは言っても俺に出来る事は支援して待つくらいだけどな。


 なんて考えている間にも陣形が説明されて形が作られていく。

 昨日考えていた形が成り、ルンベルトさんによる役割の説明が行われ、そろそろ斥候を出すかという段になった。

 そこまで来ると俺は支援して欲しいと前に呼ばれて一人一人主力へとヘイストを掛けて行く。


 それが終われば俺の仕事はもう無いので、リズの為に用意された椅子の周囲で開戦を待つ。


「始まったわね。今回は上手く釣れるといいのだけど……」


 祈るように手を組むリズ。可愛い田舎娘が畑の収穫でも祈願しているようだ。

 なんて言える空気でもない。誰一人喋らず、沈黙の間が訪れる。


 そして「出てきたぞ」と誰かの声が響くとざわざわと声が飛び交う。


 見れば十数匹しか居ない。二足歩行の巨大なトカゲがドスドスと森から出てくる。暫く見ていても出てこないので異常種に出くわさなかったのだろう。


 そして何故か後衛が沸き立つ。それはそれでちょっと違くね?


 なんて思うけど、これを何度もこなせるのが一番安全で早く終わるだろうから、おかしくはないか。

 今回は指揮者によって魔法はいらないと声が掛かり、主力がさくさく殲滅すると再び斥候が森に戻って行く。


 二度目の釣りもトカゲ二十数匹程度で後衛は何もしないままに時間が過ぎて行く。


 そして、五度目の時だった。魔物の種類が変わり黒いサーベルタイガーだ。

 百五十程の群れの中にひときわ大きな固体がいた。パッと見でも体積が十倍以上あるのであれがぬしだと一発でわかる大きさ。


 即座に後衛指揮者から魔法の準備をと号令が掛かる。各々詠唱が始まり、指揮者の「撃てぇ」という叫びで凄い数の火の玉や岩が飛び交う。

 後衛指揮官の王国騎士の男は続け様に声を張る。


「前衛に当たるまでが勝負だ!

 撃ち尽くすつもりで連発させろ! 撃て撃て撃てぇ!」


 割と乱雑に撃たれてしまっているが、避ける隙間が殆どないのでダメージはしっかり与えている。

 だが、ボスの動きが早い。もうそろそろ前衛にぶつかる。

 

「撃ち方やめぇぇ! 治療班は固まったまま前へ! 二陣の所まで詰めよ!」


 お、治療班に指示きた。俺たちだ。

 その声に従い、扇状にこちらを守る二陣の中央に集まり待機する。


 その時、空にキラリと光の線が入り、腹にまで響く重低音の雄たけびが上がる。

 それが止まると、誰かの呟きが聴こえた。


「アンドリューの斬光だ」


 どうやら、彼がボスに一太刀入れたらしい。ここからじゃ前に人が密集し過ぎてて様子が伺えない。

 何か台になるものは無いかと周囲を見回して居れば、レナードがいきなり肩車で持ち上げた。


 おい! 俺は小さな子供じゃねぇんだぞ! と思うが戦場が一望できて言葉が止まる。 


 アンドリューさんと数人の男がボスに追われながら部隊から離れて行っていた。

 だがあそこまで離れると回復の為に下げさせるのが難しい。本当に大丈夫なんだろうなと見ていれば、アンドリューさんは再び剣を強く発光させて振りかざした。


 十メートル以上の距離はあるだろうに、伸びた光がサーベルタイガーの黒い体を切りつける。黒い血のようなものを撒き散らし怒り狂い突進を始めた。


 迎え撃つつもりなのだろうか、彼は動かない。

 接敵する瞬間、彼を囲む様に光の盾が現れた。あれは障壁陣だと思った瞬間、障壁に当たる前に障壁の前に出て飛燕で切りかかる。


 おいおい、それ大丈夫なのと不安になったが、飛燕の二撃目で前ではなく後ろに飛び、障壁へと戻る。ボスが障壁を一撃で粉砕した瞬間、一閃で切りつけながらその場を離脱する。

 そうして距離が開いた瞬間、彼の仲間が一斉に遠距離攻撃で畳み掛ける。

 流石のボスも追撃には向かえず距離を取った。


「やっべぇ、アンドリューさんめっちゃすげぇ。戦い方が美しい」

「おい、俺にも見せろよ! どうなってんだ?」


 騒ぐレナードに先ほどの戦いの実況を行えば、その場の全員の視線が集まっていた。

 俺は興奮しながらも実況を続ける。


「距離を取れたから今はガッツリ魔法で甚振ってるぞ。しっかし硬いなぁ、あれだけの魔法を耐えるのかよ……けど、余裕で戦えてるじゃん」


 おおぉ、とどよめく様に沸き立つ俺たち治療班、その時、数人の負傷者が連れてこられた。


「俺たちの仕事もきたぞ! ほれ、治療で前線支えんぞ!」


 と、俺の騎士に向けて言ったのだが、他の奴らも「おう」と声を上げて各々回復魔法を唱え始めた。

 月の雫も用意されているが、今の所はまだ使って居ない。その必要が無いくらい回復魔法が使える人員が増えたからだ。アーロンさんが皆に広めたんだろうな。


 治療班の指揮を取る男が「きつそうなら折を見て月の雫の使用の許可を出す」と言って居たのでそれまではヒールの嵐で回復だ。


 加工されて瓶詰めされた月の雫に使用期限はほぼ無いみたいだし、戦争も控えてるからこの判断も責任重大だわ。かなり険しい表情で監視してるし。


 おっと、俺は俺の仕事をしなきゃな。と時計を確認する。

 開戦からもうすぐ三時間って所か。大体六時間は持たないから後二時間って考えておいた方がいいな。


「サラ、ルンベルトさんに伝令『余裕はもってるけど後一刻でヘイストが切れると思っておいて欲しい』と伝えてくれ」

「はい! 直ちに行って参ります!」


 彼女は走り去り、再びボス戦へと目を向ける。

 彼らの戦い方は本当に綺麗だ。アンドリューさんが硬直のある大技を入れれば合わせて衝戟やら移動阻害のスキルが飛ぶ。

 一体であれば、魔力が持つ限り確実に受け持てると思える戦い方だ。


「ねぇ! どうなの! 勝てそう!?」ずっと手を組み祈りを捧げていたリズが、痺れを切らせて問いかける。


「ああ。どれだけ硬いんだってくらい耐えてるが、流石にボスもボロボロだし、攻撃は一切受けて無い。もう倒せるのは間違いないな。後は無事に完勝を祈るだけだ」


 ヘイスト時間にも余裕がある。問題は負傷する兵が増えてきてる事だ。

 流石にそろそろ月の雫使用した方が良いんじゃないかという時、雑魚処理を当たっていた者達から雄たけびの声が上がった。


 殲滅が終わったようだ。

 目を向ければ魔物は居らず、剣を掲げている兵士達の姿がある。

 回復の指揮を取っている男も、それを見て安堵に表情を緩ませた。


 ホセさんやルンベルトさん、ハロルドさんたち、主力中の主力がボスの方へと突撃していく。

 そして、その後間をおかずして押しつぶされるようにスキルや魔法の嵐をくらいボスの討伐が成された。


「「「おおおおぉぉ!!」」」


 前線の兵の雄たけびに「勝った、勝ったぞぉ」と声が響き、後衛へと勝鬨の声が伝染していく。

 それにリズも「やったぁ! やったぁぁ!」と珍しく人前で子供の様に飛び跳ねて喜んでいた。


「おい、いいのか? 皆見てるぞ?」

「う、煩いわね! あんただって肩車されて子供みたいじゃない!」


 そう言われて「あっ」と声を漏らしておずおずとレナードの肩から降りた。

 そして彼に「こ、こんな事くらいじゃ、許さないんだからな」と羞恥を感じながらも釘を刺す。


「はぁ? 許さねぇって何をだよ」と驚くレナードを無視して前線の兵士達の所へと赴く。

 最前線だった場所へと出れば、好い顔で笑い会うアンドリューさん達の姿があった。


「お疲れ様でした。

 改めて『希望の光』の凄さを思い知りましたよ。周囲の方々も動きが秀逸ですね」

「ははは、そうでしょう? 俺だけが評価されるのはおかしいと思うんです。

 いつもながら最高のサポートで楽しさすら感じましたよ」


 彼は屈託のない顔で笑い、その姿を見る周囲の羨望を浴びていた。

 なるほど。勇者気質というやつか。

 俺はこっそりと彼の右腕の男に呟く。


「ああ、これが注目の的になる原因ですね?」

「ええ、そうなんですよ。素でやってるから性質が悪い」


 なんて彼も笑いを零す。

 その時、ルンベルトさんとハロルドさんが揃って声を掛けてきて振りかえる。


「カイト、もう一戦いけると思うか? 余裕があるとは聞いたが……?」

「この士気が高い間に攻められるなら攻めておきたいと思うが……」


 ……なんで俺に聞く! ああ、ヘイストの時間か。確かに後二時間は持つから同じ規模のが来てもやれるだろうけどさ……

 流石に今日はもうダメでしょ。無理しても良い事ないよ?


「『希望の光』の皆さん、魔力的にもう一度ボスやれる余裕あります?」

「ああ、一体ならばいける。さっきより時間を貰う事になるけどね」


 あら、いけちゃうんだ? 凄いな……

 けど、もう終わりにして欲しいんだよなぁ……俺、完全勝利が好きなんだよ。

 ボロボロで勝つより、全然喰らってねぇぜ? くらいに胸を張りたい派なんだよ。


「じゃ、今日はここで終わりにしましょうよ。

 確かに時間的に早いですけど、もし長引いて途中で支援切れたら速度がいきなり変わって隙が生まれたりしますから……」


 最初からやめようと言うつもりだったのでちょっと強引だが、終了でと提案した。

 確かに、月の雫を使えば普通にまだいけると思う。

 最初の四回が斥候の釣りが完璧だったから、不完全燃焼な気持ちなんだろうけど消費は無い方がいいに決まってる。


「折角、月の雫も使用ゼロで乗り切れたんですし。

 まあ、その代わり治療途中で止まってる人たちも居ますから」


 うーむ、と考え込んでいたお爺ちゃん連中も顎鬚を弄りだせば「そうだな」と軽く納得してくれた。


 そうして二日目の討伐は午後一のまだ日の高い内から終わりを告げた。


 ドロップしたドラゴン肉とお酒が振舞われ、勝利で沸き立ったままドンちゃん騒ぎが行われた。


 この世界でもお酒は子供が飲むものじゃないとされていて、アディより下の年齢の子達は呑めなかったが、肉が美味しすぎてそんな事は一つも気にならなかった。


 しかし、酔ったエメリーとアリーヤさんが限度を知らない絡み方をしてきた。


「わたしぃ~、別にぃ、怒ってはいないんですよぉ? けどねぇ? わたしもそのぉ……ねぇ? わかるでしょぉぉ!!」


 ベロベロに酔ったエメリーが肩に腕を掛けて絡みに絡んできている。


「う、うん。そういう話は二人の時にね? 大歓迎だからね?」


 うん。お願いしたいくらいだってば! けどさ、皆見てる! 見てるから!


「「ダメよ!」」


 おい! だから抓るな!


 要所要所でぼそぼそと「していいならするよ」と言っているのだがアディとリズ、サラそしてソフィまでもが攻撃してきている。


「じゃあ、何時二人になればいいんですか!?

 いっつもいっつもアディとソフィばかり隣に置いて! 最近は王女様にベッタリです!」

「ア、アリーヤ? 呑みすぎじゃない? でも時間作ろうか? やりたいし」

「「こらぁ!」」


 そうして攻撃されながらも攻めに攻めて、やりたい意思表示をしていれば、二人は満足したのかすぐに寝に入った。解せぬ。

 怒る女性陣から抜け出し、ふぅと汗を拭い平和そうに酒を交わす男連中に混ざる。


「ホセさん、今日の陣形どうだった? 結構負傷者も来たけど……」

「うむ。守りとしては完璧じゃ。

 しかしちと密集し過ぎかの。戦えるが、動き回れんのが厳しかったの」


 あー、主力をもっと広げて囲む方向で行ったほうがよかったか?

 確かに先が見えないほどだったもんな。


「コルトとソーヤはどうだった? 前に出て危険な目に合ってない?」

「ええ。怪我したものは大抵自力で下がって来ますから。そこから抱えて戻るだけですからね。実際に前に入ったのは一度きりです」


 コルトの言にソーヤも頷き、ソーヤは一度も出る必要がなかったと少し寂しそうに言う。

 いい事だろとソーヤに返してサイコロステーキにカットされたドラゴン肉を摘み談笑する。


「しかし主は、冷静じゃのぉ。流石にあの時間で止めるとは思わんかったわ」

「だなぁ。もう終わりにしちゃっていいのかよって皆言ってたぜ?」


 ちょっと、俺が良いところで無理やり終わりにしたみたく言うなよ!

『希望の光』は後一匹が限度で時間が掛かるって言ったんだぞ?

 絶対二匹来たら被害甚大だぞ?


 そんな説明を皆にして俺は悪くないぞと言葉を続ける。


「例えば死亡者ゼロで二週間掛かるのと死亡者二十で三日で終わるのどっちがいいよ? 断然前者が良いからそう提案しただけだろ。

 俺は魔力が潤沢でボスが二匹来てもやれる状態で挑み続けたいの!

 実際時間も無くはないじゃん」

「そうですね。

 可能性としては十分ありえます。この選択が俺も正解だと思いますよ」


 コルトの言葉に「だろぉ?」と安堵を覚えつつ返して肉をパクつく。

 ホントうめぇなこれ。


「なに、責めている訳ではないぞ。あの魔力の籠もった咆哮が飛び交う中、冷静で居られる事が凄いと褒めて居るのだ。

 容姿だけでも恐ろしいというのに、あの威嚇まで喰らっては心を乱されるのが普通なのじゃからな。当然、それを乗り越え勝利すれば高揚も大きなものとなり無駄に前に出る。そうして若いもんは死んでいくんじゃ……」


 生き残る為に上手く立ち回れと言ったのはこういうことじゃぞ。とホセさんがレナードたちに説く。


「けどよぉ、普段からそれじゃ強く……いや、カイトさんのやり方なら問題ないのか。すげぇな。やり口が完結してやがる」

「おいてめぇ! やり口とか言うんじゃねぇよ。まだ俺は許してないからな?」

「ははは、そういえばカイト様、敵の親玉の娘を食っちゃったって本当なんですか?」


 ぐぬっ、コルトまで酔ってやがる……

 まあ、ここならいいか。女の子どもはなにやら密談しているみたいだし。


「言っておくが、完全にこっち側に寝返ってるからな? 裏切ってねぇぞ?

 俺に絶対服従するって言ってくれたもん!」

「それは……不安じゃな……」

「確かに……」

「カイトさんよぉ……騙されちゃいねぇよな?」


 おい、お前らぁ! ちょっとソーヤ、こいつら俺を信じないんだけど……!!


「カイト様、女の子は魔物です。簡単には信じてはいけません」


 えっ!? ソーヤ? お前、どうしたんだ? お前の過去に何があったんだよぉ!


 と、平和にアウトドアのキャンプの様な空気のまま、二日目の夜も更けていった。

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