第31話
「ねぇ、どういう事なのか聞かせてくれないかな?
僕の事はどうとも思ってなかったってこと!?
カイト! 今日は逃がさないからね!?」
「そ、そういうとこやぞ?」
「――――っ!? その言葉が一番腹立つんだよね! ねぇ! 反省してるの!?」
俺は今、目の前に自分をヒロインと勘違いした男に責められている。
注意しても聞いてくれやしない。
「そもそもこの手紙はなんなのさ。『色々ありがとう。探さなくていいから達者でやれ』って。これじゃなにもわからないよ! ちょっと聞いてる!?」
「いや、だからな?
あのままだとソフィアかエリザベスに殺されると思ったんだよ。
正直やりすぎたと思ってたし……」
「お・う・じょ・で・ん・か!」
うるさいな。ピーチクパーチク……
折角やっと貰えた自宅で寛いで居たってのに。
まさか貸して貰えた家が学校の近くで登校中のアレクにばったり会うとは……
折角ここまで送ったらそのまま報告行くってエリザベスが居なくなったのに。
せめて学校で会いたかったな……
「それよりお前、少しは強くなったの?
これから大変な事になるから本気で鍛えた方がいいよ?」
「そんな言葉で……うん? 大変な事?」と狙ったかのように小首を傾げるアレク。
だから可愛さ狙って行くのやめろよ。
お前顔は童顔だけど体はムキムキなんだから……
まあいいや。こいつも他人事じゃない。一応説明して置いてやろう。
そうしてヘレンズであったことを一つ一つ説明していった。
メンタルが弱いアレクは愕然としている。いや、家族の危機なんだから当然か。
けど黙ってたって仕方ない事だから戦争が起こる可能性が高い事を伝えた。
「そんな……来年の春じゃ今から頑張ったって……」
「気持ちはわかるが、落ち着け。
弱い俺たちが騒いだってルンベルトさんの邪魔になるだけだ。
俺たちはできる事をできるだけやるくらいしかねぇんだよ……
だからいまは冷静になって強くなる為に必死こくしかねぇだろ?」
「そ、そうだよね……一応あと一年近くあるんだし……」
少し気を取り直したアレクに「来年の春に勝敗が決まる訳じゃない」と彼を更に宥め話を進める。
「エリザベスも言って居たが、前もって知れたのは大きい。
先ずは外交であっちの国と話し合ってみると言って居たから戦争も絶対じゃない」
「そ、そっか。わかった、ありがとう。じゃあ僕はダンジョンに行って―――――」
矢継ぎ早に言葉を返し出て行こうとしたアレクに、取り合えず落ち着けと彼の頭を叩く。
最初から興奮しっぱなしでまだ二人も紹介できてないってのに。
そう言えば素直に謝ってアレクは二人に自己紹介をした。
それの補足に何故かこいつはヒロインを目指しているからソーヤは絶対に真似するなと注意したら、久々に全力で頬を抓られた。
仕方が無いので訂正して俺も二人を紹介する。
「この二人は騎士見習いだが、俺の騎士でソフィとソーヤだ。
多分士官学校へ行く事になるから俺が居ないときに困ってたら助けてやって欲しいんだけど、頼めないか?」
「えっ!? ええっ!? カイトの騎士になる子達なの……?
なんでカイトに? だってカイトだよ? 本当にいいの?」
お前……なんでそんなに驚くんだよ。失礼なやつだな……
「ソーヤです。宜しくお願いします」
「ソフィです……」
おや、なんかソフィちゃんが警戒してる。どうした?
うん? 失礼な人です? そうだね。もっと言ってやって?
「ちょっとやめてよ! だって騎士の誓いはそんなに軽いものじゃないんだよ?
それこそ自分のすべてを捧げるつもりで成るものなんだからね?」
「すべてを貰ってくださいと、私が頼みました。カイト様への侮辱は許せません」
ソフィちゃんはアレクと俺の間に入り、剣の柄に手をかけた。
こらこら。そんなことしちゃいけません。こいつは俺の友達。と言い聞かせれば彼女は素直に頭を下げた。その様を見てアレクが困惑している。
「言っとくけど、俺たちのはそんなに重いもんじゃないよ?
一緒に仲間としてやっていこうって誓いみたいなもんだ。たまたま俺の方が上司だったから主になっただけ」
「そ、そうなんだ。まあ、主従の形には色々あるってお爺様も言ってたし……
まあ二人が納得してるならそれはいいとして、騎士見習いって事は彼女達も戦えるの?」
その言葉に俺はニヤリと笑い。試しに稽古つけてやってみろよと言ってみた。
「いや、僕は稽古をつけられるほど強くないけど……まあ、模擬戦くらいはしてみてもいいよ?」
アレクが了承したので二人に視線を向けた。そうしたら二人とも我先にとやりたいと言ってきた。
まさか嫌ってとかじゃないよなと少し不安になったが、ソーヤはこっちの士官学校の生徒がどれくらい強いのかを知っておきたいそうだ。
庭先に出てソーヤとアレクが剣の鞘を向け合う。こっちでは鞘で模擬戦するのが普通なんだなと思いつつ眺める。
カンカンと音を響かせて打ち合う二人。その様を俺は安心して眺めた。
エリザベスとかと比べるとゆったりとしていて俺でも普通に見て取れる戦いだったのだ。
もはやホセさんに至っては何をしたかすらも見えないからな。これなら安心だ。
そうして見ていればソーヤが「あの、負けても構わないので本気でお願いします」とアレクに声を掛けた。
彼は少し戸惑った顔でこちらを見る。
「怪我なら治してやれるから、危なくない程度ならいいぞ?」
ソーヤの頼みでもあるしとアレクに告げれば彼は、目に見えて解るほどスピードを上げた。
「本気だと手加減ができないから、悪いけど決めさせて貰うね」
勢いよく接近したアレクが仕掛けたが、ソーヤもスピードを上げて対応する。
結構な速度で打ち合っているが、見ていたらわかってしまった。
これ、ソーヤのが強いと。
わざわざ恥を搔かせるつもりはないので「おっし、そこまで!」と二人の打ち合いを止めた。
「どーよ。ソーヤも中々やるだろ?」
「す、凄いね。僕も自信あったんだけど、これは勝てないかも……」
ペコリと頭を下げるソーヤにアレクも返して模擬戦を終えた。
「次は私ですね」と名乗り出るソフィちゃんだが、さり気なく「もうこっちの人の実力はある程度把握できただろ?」と彼女を止めた。
だが、アレクが士官学校でどのくらいの立ち位置に居るのか知らないのでこれを基準にしていいのか不安になった。
「そういえば、アレクって仕官学校でどれくらい強い方なの?」
「えっと、一年でって事なら上から数えた方が早いのは間違いないと思うよ。
皆が今行ってるのは六階層とからしいし」
ほほう。てことは俺ももう一年生よりはやれるな。
「では、カイト様も上位ですね。やっぱり一番なのですか?」
そう問いかけるソーヤにアレクが「えっ?」と首を傾げた。
『もしかして、騙しているの?』と。おいこらぁ?
「いいだろう。そこまで小馬鹿にされたのでは俺も黙っておれん。
いざ尋常に、勝負だ!」
「ちょっと待ってよ。小馬鹿になんてしてないよ!?
もしかして本当にそこまで強くなってるの? この短期間で!?」
アレクが武器を構えなかったので模擬戦を始められず、俺は鞘を降ろした。
「まーな。スキルはダメダメだが、多分卒業試験をクリア出来るくらいにはなってきたぞ!」
「はぁぁぁ!? ちょっとずるいよ。なんでその方法教えてくれないのさ!」
「あなた、失礼です! カイト様は努力をしただけです! 誰よりも!」
お、おおう。どうしてソフィはアレクにばかり噛み付くの。まさか……相手にして欲しいからとか……ダメだダメだ。ソフィはやらんぞ! ソフィは俺のだ!
いや、俺のじゃないけど……でもダメだよ?
と、そんなお花畑なことを考えているのは俺だけだった。
「ど、努力ってどうしたの? 僕もそれをやってお爺様の力になりたいんだ。
頼むよ。カイト、教えてよ!」
必死だなぁ。まあ、教えるけどさ……
「真似は難しいぞ? 人を一杯雇って全員に敵を集めさせたんだよ。
それで敵を持ってて貰ってひたすらノータイムで横から倒し続けたんだ。
後から聞いたんだが、本来ダメな行為らしくてな。
王都なんかでやったら騒がれるかも……」
「それだけじゃありません! カイト様はお仕事を終えた後、六刻もダンジョンに籠もるのです。私達を交代で休ませるのに自分は休まないのですよ!
その力をズルイだなんて言わせません!」
凄い剣幕にアレクは「えっ? いや、そんなつもりでは言ってないよ?」と困った様にこちらを見た。
ちょ、ちょっとちょっと。ソフィちゃんストップ。と後ろから抱き止めてアレクに言葉を続ける。
「強くならなきゃいけない理由ができたのは俺も同じだ。
これからは俺もガチでやる。お前も来るか?」
「うん! 当然だよ!
カイトが一緒にやれる所まで来たら元々一緒にやりたいって思ってたし」
じゃあとりあえず中で話そうぜと家の中に戻り、各々椅子やベットに適当に座った。
「そういえば、俺大丈夫? 士官学校退学になったりしてない?」
「全然平気だよ。呼び出しで領地に戻る子とかもこれくらい普通に休むし」
おお。良かった。
でもそうか。よく考えたら二週間くらいしか経ってないのか。
「それにしてもカイトは流石英雄様だね。
この短期間で力もそんなないはずなのにどこまで活躍するつもり?」
「え、カイト様ってやっぱり英雄だったのですね!?」
「いや、ソフィちゃん違うから。ちょっとおかしくなってるぞ。落ち着きなさい」
「はい……」としょぼんとする彼女の頭を撫でつつアレクとの会話を再開する。
「えっとなんだっけ?
ああ、活躍な……俺はただ回復魔法を掛けただけだぞ。ちゃんと金を取ってな。
だから功績になったのは偶々だ。治療した面子が街の主力だっただけの話しだよ」
「そっか。カイトの回復魔法なら確かに……
けど謙遜しないでよ。僕は広めたりしないし無理を押し付けたりもしないよ?」
いや、そもそもが謙遜じゃねぇんだけど……
そんなアレクの誤解を解きつつ、アリスちゃんやエヴァンは元気かと尋ねる。
「あー、怒ってたよ。特にエヴァンが。あいつめって。
アリス様は心配して元気なさそうにしてる。早く会ってあげてね?」
「お、おう。エヴァンはいいとして、アリスちゃんには悪い事したな」
アレクはその言葉に「どうする? 今からでも行く?」と問いかける。
いや、俺たち今へレンズから帰ってきたばかりなんだけど……とその事を思い出したら同時に通信魔具を買ったことも思い出した。
「行ってもいいけどちょっと待って」と声を掛けて魔道具を起動した。
暫く待てば『カイト様ですか?』と声が聴こえた。
「おお。アイザックさん、今着いたところだけどそっちは変わりない?」
『ええ。無事を知れて安心しました。他の皆さんは一昨日から早速ダンジョンに泊り込みで出かけました』
「そっかそっか。けど無理し過ぎるなって伝えておいて。あとさぁ……」
俺は、面倒を見ると伝えた彼らのことを失念していた。回復して武器も与えたし家も準備して金は置いてきてあるのだから契約には反しないが、回復してやるとかも言ってしまった。その件が心配になりアイザックさんと相談したかったのだ。
それもこれもエリザベスがいきなり強制的に話を進めるからだ……あいつめ。
『それでしたら問題ありません。アーロンさんと話し合い、彼らの治療はそちらでやってもらえる事になっていますから。彼らとも話し合い、お互いの妥協点は見つかりましたので安心してお任せください』
流石アイザックさん、痒い所が既に搔かれている。
「ありがとう。じゃあ、もし東部森林の魔物をやる話が出たら即効で教えてね。回復要員としてそっちに即行向かうから」
『ええ。カイト様もご無理はなさいませんように。ダンジョンの籠もりすぎはダメですよ?』
「ふはは、それはアイザックさんの言葉でも聞けないな。じゃあ、また適当に連絡する。頑張ってね」
『お待ちしております』と若干笑いの入った返事を聞いて魔道具に魔力を送るのを止めた。
「今のは?」と問うアレクに「俺が立ち上げた会社の従業員だ」と答えればまたもや愕然としていた。
「なるほど。その行動力が必要なのか」と呟いている。
いや、行動力はお前も凄いと思うけどね?
そうして不安も払拭されたので、皆で学校へ行くことにした。
とりあえず二人は初めてなので職員室へと向かう。今日は魔法の授業のようでエレナ先生が職員室で寛いで居た。
ふわぁぁと欠伸をしている最中だったようで、少し顔を赤くしてのお出迎えだ。
俺もいいものが見れたとちょっとご満悦な面持ちで声を掛ける。
「先生、この騎士見習いの二人を編入させたいのですが、どうしたらいいのか教えて貰えませんか?」
「見習いね。登録はどこで?」
「ヘレンズです」
そう答えれば「うーん」と暫く考えるエレナ先生。彼女は二つの選択肢を提示した。
「騎士見習いの実力を持っているかの戦闘試験を受けるか、ヘレンズの教会との手紙のやり取りが終わるまで待つかになるけど、どちらがいいかしら?」
「そりゃ、試験でしょうね。奨学制度も使わせて貰えればありがたいのですが……」
そういえば、俺今はまだ小銭しか持ってないと思い出して急遽奨学金制度を使えないかと問いかけた。
「ええ、問題ないわ。けど、採点は甘くしないわよ?」
「えっ、先生が試験官なんだ? あっ、とりあえず肩揉みますね?」
「こらこら。でも、あーそこ気持ちいわぁ」
そうして彼女の肩こりを解消し、これでどうにか甘い採点をと頼んだのだがすげなく却下されて訓練場へと移動した。
「じゃあ、二人ともスキルの使用も許可するから、好きに掛かってらっしゃい」
とエレナ先生は軽く告げるが、スキルの使用もありとか危険なんじゃ……?
「あら、仮に騎士になれるくらいの実力を持っていても、新米騎士の二人掛かり程度で負けるほど弱くはないわよ? まずカイトくんが試してみる?」
その言葉を丁重にお断りして、そこまで自信があるならいいか、と二人に「お前らの全力を見て貰って来い」と指示を出して二人の戦いを見守る。
二人は最初から飛ばして行くようで、クロスするように『一閃』で飛び込んだ。躊躇なく切り込んだので冷や汗を浮かべたが、よく考えれば武器は刃引きされた学校用のものだ。
なんて考えている間に二人はすっ転んでいた。
えっ? 一体何がと思っている間にもソフィちゃん達は跳ね起きて剣を構える。
「いいわぁ。躊躇のなさがとてもいい。もう少しで足掛けにも反応しきれたわね。さあ、ドンドンいらっしゃい」
彼女がそういうとソフィちゃんがソーヤに何か言っている。彼は苦い顔で了承した。
二人は背中を取る為か接近途中で膨らみ、エレナ先生を挟み込む。
そのまま切り込むのかと思いきや、ある程度離れたところで二人は『衝戟』を使いそれを追い掛ける様に特攻をかける。
エレナ先生が立っていたところでかまいたちでも起こったのかと思うくらいに風が吹き荒れた。
これ大丈夫かと思った時には先生が風から出てきていて、距離が近かったからかソーヤの前に立っていた。
ソーヤはそれを見越して居たかのように『障壁陣』と叫んだ。
だが、先生はもうその場に居ない。
ソフィの方かと目を向ければ彼女は後ろから抱きつかれ剣を当てられていた。
何これすっげぇ! 二人も凄いが先生がヤバイ。こんなに強かったのかよ……
俺は大興奮で近寄り「先生めっちゃカッコよかったです」と彼女を称えた。
「うふふ。これでもこの国を代表する学校の戦闘教員ですからね。
でも二人もとてもよく鍛錬しているみたいで驚いたわぁ。
まさかスキルを使わされるなんて思わなかったもの」
なんてスキルを使ったのか聞いたがそれは授業でねと流されてしまった。
二人の合否を問えば、文句なしの合格だと言って貰えて一安心だ。
唯一つ問題があるとすれば、アレクがショックを受けていたことだろうか。
「僕、手加減されて居たんだね。カイトも人が悪いや……」
なんて言うもんだから必死に弁解する羽目になってしまった。
言っておくが、俺はお前らの強さを測れるほどの経験なんてないからな?
アレクの方が自力は強いと思ってたわ!
そんな話をオブラートに包みながらアレクに伝えつつも、早速二人を連れて講堂へと移動しようと思ったのだが、そこで午前の授業の終了を知らせる鐘が鳴った。
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