第25話
「一緒に行くなら皆に紹介するよ」とエリザベスを膝から退かして、ホセさんに皆を呼んでもらった。
「これが俺の大事な仲間だ。
攻撃した奴らは誰であっても敵認定するからよろしくな?」
「ええ。エマの件はもう手打ちでいいのよね?」
「ああ。続けるようなら話しは別だがな」
流石に、ホセさんは大丈夫だろうけど、他の皆は危険だろ……
あっ、どっちが強いんだろ。まあどっちにしても戦う意味は無い。
「皆、紹介する。この子はエリザベスだ。
なんか俺に付いてきたいらしいから同行させる事にした。
秘密に関しては知っているから問題ない。
一応王女だけど、適当に仲良くしてやってくれ」
「王女ぉ……!?
ちょ、ちょっと待ってくれよカイトさん! このめちゃくちゃ可愛い子が王女様なんか? 俺は王女はあまり可愛くなかったって聞いていたんだが?」
即座にアディに蹴りを喰らい崩れ落ちるレナード。
アディの方へと視線を向ける。
「私ら、礼儀作法なんて知らないわよ? 無礼打ちとか怖いし同行とか困るわ」
「うん、気持ちめっちゃわかる。
けど、こいつマゾだから雑に扱ってやれば喜ぶからさ」
「えっ!?」と驚きに満ちた視線が一斉にエリザベスに向いた。
だよなぁ。俺も最初知ったときは驚いたわ。そのお陰で助かったけど。
「ちょっと、誰がマゾよ!? あんたなんなの!? それどこから来たのよぉ!」
わかるよ。恥かしいんだよな。だけどちょっと黙ってて。
「うるさい。エリザベスはちょっとの間、大人しくしてろっての。
お前を連れて行くために話し纏めてんだぞ?」
そう言えば不承不承ながらも「くっ、わかったわよ……」と了承の意を示した。
「てな訳で、こいつが居ればホセさんの領地移動も叶いそうだし、予定よりちょっと早いけど、明日の営業が終わったら行っちゃおうと思うんだけど……どうかな?」
「了解致しました。では、そのつもりで方々で手続きを終わらせておきます」
とアイザックさんが言葉を返してくれたのだが、手続き?
「はい、お金を持ち出して領地を移動するのであれば、その年の税金を精算してからでなければなりません。その領収証やサインを貰わねば関所で止められてしましますので」
なるほど。じゃあそこら辺お願いと頼み、彼らは早速行動を始める。
リックと二人で急いで出て行った彼らを見送り、再びエリザベスと向き合った。
「それでお前、俺に付いて来て何したいの?」
「……貴方の監視? 浮気とかされても困るし」
はぁぁぁ?
「ちょっと待て、お前何時から俺の彼女になったの?
何度も言ってるだろ! 俺は自由に生きたいの!」
「だから、自由奪わなきゃ良いんでしょ? 私じゃ不服な訳?」
「うん、めっちゃ不服。だってお前怖いし。すぐ俺のこと苛めるし」
「はぁぁぁ? 苛めるのも怖いのも貴方の方でしょ! すぐ怒るし!」
「だったらそんな男止めとこうぜ」と説得に入るが「やだ」とツンと顔を背けた。
「もうやだ。ソフィちゃん癒して……」
と両手を広げれば、飛び込んできてくれるソフィちゃん。マジ天使。
「ふーん、お姉さまと似た名前ね……顔もちょっと似てるわね。
そんな顔が貴方の好みなんでしょ?
私はやっぱり可愛くないって言いたいのね。いいわよ。もう……」
「あーもう、めんどくさいなお前! お前も魅力はあるよ? エロイし。
そこじゃねぇの! 俺は権力が怖いの! ただそれだけ!」
「えっ? 本当にそこだけなの?」と目を見張るエリザベス。
異論は無いので強く頷いた。
「そう。じゃあ、貴方たちに権力を使う事は一切しないわ。
だから同じように扱ってくれない?」
おっ、それいいね! なんか皆萎縮してるし。
「本当に約束できるか? 後から何か言うのも禁止だぞ?」
「ええ。でも公の場所はダメよ? 王女の勤めもあるもの。
だから、私の身分を明かした相手が他に居るときはダメ。それでいい?」
「おお! エリザベス、お前話しわかるじゃん!
じゃあこんな事しても問題ないな?」
と、彼女の頭を撫で撫でしてみた。
「……それは貴方限定ならいいわ。けど他の男が触るのはダメ!」
「お、おう。お前の髪柔らかいな」
「そ、そう?」
「ゴ、ゴホン」と咳き込む音に視線を向ければ、皆がこちらを見ていた。
俺に視線を合わせ小さく首を横に振っている。言外に今すぐ止めろと言っているのが見て取れた。
そ、そうだった。こいつはマゾだが一応王女だ。
「あー、てな訳で、こいつをこれから同行させる事になるから宜しくな。
アディも遠慮はいらないから。あ、攻撃はしちゃ駄目だぞ?」
アディは不貞腐れてはいるが、一応「わかってるわよぉ」と言ってくれたので一安心と胸を撫で下ろしたのだが……
「あらぁ~、これでも私、同年代には負けるつもりありませんけどぉ?」
と、エリザベスが煽るもんだから彼女の不満が爆発した。
「カイトくん、こう言ってるんだし手合わせくらいはいいよね?」
「あらぁ~、そのくらい約束が無くても構わないわぁ~」
おいぃぃ、俺に聞いてるのになんでこっち向かないんだよぉ。思わず返しそびれたじゃんか。
そして二人は当然の様に表へと移動する。
表に出れば、エマさんが未だに玄関前で倒れ気を失っていた。
誰も触れてはあげなかったみたいだ。
そりゃそうだよな。どんな相手かも知らないんだし。
どうしよう。こいつをヒールで起せば止められるかな? 余計拗れそうな気もするが……
流石に倒れたまま放置する訳にもいかんよな……
「エリザベス、その前にエマさん起そうかと思うんだけど、ちゃんと止めてくれよな?」
「ええ。助かるわ。このままじゃ流石に忍び無いもの」
その声を聴いて『ヒール』と彼女を癒した。
彼女はすぐさま目を覚まし飛び起きると、エリザベスの前に立ち素手のまま構えた。
「エマ、貴方はこのままヘンリーと帰って国に報告して欲しい事があります」
「こいつらの討伐命令を出すのですね。
ですが、いくら姫様がお強いとはいえ、護衛は必要です。
ヘンリーだけに行かるべきでしょう」
エリザベスは明後日の方向へと話を進めるエマの頭を剣の鞘で叩く。
「全然違うわよ。私か彼に同行し、戦力調査を継続する旨を伝えて欲しいの」
「そんな事は絶対にいけません! 姫様が危険過ぎます!」
「そう、じゃあ貴方は解雇する方向でいい?
さっきから、酷い行動が目立ち過ぎよ?
掠る程度だったとはいえ、こいつを傷つけようだ何てどういう了見なのかしら?」
えっ? と絶望に顔を染めるエマさん。
って戸だけじゃなく俺も攻撃する気だったのかよ! ホセさんは敵意に反応して大げさに言ってるのかと思ってたわ。
「貴方、勘違いしているようだけど、こいつは騎士団を救い、ソフィアお姉様の命を救い、お姉さまを更正させて、この町の戦力を建て直した、言わば国の大恩人なのよ。
その相手に武器を向け、私の話しすら聞かないのでは、もう傍には置けません」
いやぁ、それは違うんじゃないかなぁ……
武器を振り回したのはありえないが、お前を置いて行けとかいきなり言われても普通護衛なら無理だって言うぜ?
なんて思うが、二人の話し合いを黙って見守る。だって入れる空気じゃないし。
「で、ですが、流石に無礼過ぎでは……」
「あらあら、貴方は大きな恩がある相手に、口の聞き方が悪いからと言って切り伏せるのが本当に正しいと思うの?」
「そ、それは……」
エマさんの返す言葉が止まり、誰も口を開けないまま静寂が訪れた。
「じゃ、反論がないなら帰りなさい。私の従者で居たいのならね」
「そ、それはできません! せめて、せめて護衛としてお傍に居させてください!」
「ならば、彼らに最大限の礼を持って尽くすと誓える?」
「誓います。ですからどうか、お傍でお守りする事をお許しください」
いやぁ、ガチの従者って感じだね。
「こういっているのだけど、帰すかどうかは任せるわ。どうする?」
「いや、この空気で帰れとか言えないだろ。わざわざ聞くなよ……」
「あらぁ~良かったわね。もう貴方、彼に頭が上がらないんじゃなくて?」
こいつのあらぁ~は地味に来るんだよな。エマさんの表情も苦しげだ。
そしてこちらにトコトコと歩いてくる彼女。
え? なに?
「申し訳、ございませんでした。
今後、貴方に剣を向けるような真似は致しません。
どうか、同行をお許しください」
彼女は何故か土下座スタイルを選んだ。
流石にエマさんを抱き止めてやめさせる勇気は無い。必死にやめてくれと言葉を返す。
「は、はい。許します。だから頭を上げて!」
「さあこれで話は着いたわね。じゃ、稽古のお時間にしましょ?」
手をパンパンと叩きその場を取り仕切ると、アディに剣の鞘を向けた。
アディもコルトが使っている剣の鞘を持ち向き合う。
「お前ら、出来るだけ怪我が無い方向でな? マジで!」
「大丈夫よカイトくん。ちゃんと帰りたいって言わせてみせるから」
違う! そうじゃない!
「あらぁ~、随分自信があるのね。じゃあ、こちらから行かせて貰おうかしらぁ?」
そう言うとエリザベスは本当にそのまま仕掛け、アディの側面に移動し、構えた鞘を打ち上げた。
アディはいきなりでビックリしたのか、防いだものの少し前のめりになっている。
エリザベスがそのまま回転し追撃に入ろうとするが、途中で身を翻して大きく引いた。
「へぇ、あの王女さん、マジで戦えるんだな」
「だな。決まったと思ったんだが、避けるまでの判断がかなり早い」
コルトとレナードが二人の戦いを分析する。
「え? 今アディさんが危なかったんじゃないんですか?」
とソーヤの問いかけに俺も興味深々に耳を傾ける。
「いや、アディは態勢がスキルを発動できる状態になっていた。
多分、通常攻撃で決めようとしたら弾き飛ばされて終わっていただろうな」
ああ、それで変な受け方してたのか。
てか、俺にはまだまだ対人は無理だな。一切わからん。
あ、今度はアディが仕掛けた。間合いに入り、剣を振るう。光ってないから通常の攻撃だ。
カンカンと驚くほどに速い速度で打ち合いが続く。
「うふふ。貴方も、士官学校でなら上位に入れるわよぉ?」
「ちっ、カイトくんは渡さない。絶対に勝つ」
「あら、それはダメよ。あいつは私が貰うもの」
そう言った瞬間、エリザベスの剣が光り、すっと横を通り抜けるとアディは前のめりに倒れた。
「アディ! 『ヒール』」
「あらぁ~、怪我をしない様に手加減したわよぉ?」
「確かに、あれなら回復が無くともすぐ目を覚ましたじゃろうな。
従者よりお強いとは、とても良く研鑽を積んでおられる」
エマさんが怒るかとちょっとドキドキしたが、彼女は当然だと頷いている。
「うふふ、貴方ほどの強者にそう言って貰えると嬉しいわぁ。
折角だから貴方も稽古を付けてくれないかしら。自分より強いものとは中々やらせて貰えないのよ」
「ふむ。主、こう言って居られるが如何か?」
「いいけど、二人とも大怪我だけはさせない様にな?
まだ今日は回復できるけど……」
そうして二人が稽古と言える戦いを始めると、何故かレナードやコルト、エメリーまでもが触発されて稽古を始めた。
俺は、いじけたアディ、アリーヤさんとソフィちゃん、ソーヤの四人を連れてさり気なく居間へと戻りまったりする。
「それにしても驚きました。不仲なものだとばかり思っていたので……」
アリーヤさんがとても困った顔を向けた。
「ごめんな。俺はそう思っていたんだよ」とすぐさま弁解を入れた。
「カイトくん、あの王女様と結婚しちゃうの?」
ソファーの隣を陣取り、抱きついたままいじけていたアディが涙声で問う。
「いや、聞いてただろ? めっちゃ断ったじゃん。聞き入れてくれないの!」
「じゃあ私諦めない」と言って顔をこすり付けるアディ。また嬉しい事をと抱き寄せて頭を撫でる。
反対側に座っているソフィちゃんがちょいちょいと服を引き、視線を向ける。
「あの……カイト様、私の顔が好みって本当だったのですね」
「ああ、俺遠い異国の出身なんだけど、そっちだとエリザベスより皆のがよっぽど可愛いと評価される感じなんだよ。
だから、俺にとってソフィちゃんは本当に可愛くて仕方ない感じだね」
「皆というのは私も……ですか?」とアリーヤさんが驚愕に目を見開く。
「いや、当然でしょ。年が離れてても恋愛対称に普通に入るもん。
正直皆が皆高値の華で恐れ多いくらいだよ」
そう返すと、アリーヤさんは「ソフィ偶には場所変わって」と彼女を退かした。
当然俺は抱きよせる。なんて幸せな世界だろうか。俺もうここで一生過ごすよ。
「カイト様、僕もお聞きしたいのですが、王女様が恩人って言っていましたけど何をされたんですか?」
そのソーヤの問いかけに、アディまでもが顔を上げて聞きたがった。
なので俺の主観でやってきた事を話す。
「いや、全ては偶然なんだ。
王国騎士団が壊滅しそうな時に偶々月の雫を持っててな。それをあげただけ。
ソフィアを助けたのだって実際のところ他のやつだ。俺はただ彼女を運んだだけ。
更正させたのはマジかな。戦争始められちゃ困ると思ってガッツリお説教したら凄い効果を発揮してびびったわ」
と、今までのことを話していたら、いつの間にかエリザベスが隣に居た。
「あらぁ、凄い回復魔法でお姉さまを救った事が抜けてるわよ?
それより、これは何からしらぁ? いいご身分ね?」
「だ、だろぉ? 気に入ってるんだ……」
恐る恐る言葉を返してじっと彼女とにらみ合いが続く。
「これは貴方も更正が必要な様ね」
「しないぞ。絶対しないからな!」
「わ、私が体を許してもだめぇ?」
なっ、なにっ!? ゴ、ゴクリ。やれば出来るじゃないかエロ担当!
何て思っていたら太股が千切れんばかりの激痛が襲ってきた。
「いだだだだだ! アディ、ストップ!」
「え? 私じゃないけど!?」
そう言われて視線を向ければアリーヤさんがそっぽを向いていた。
「ふーん。気に入らなければ今度からそうすればいいのね」
ちょ、そんなわけないだろ! 止めろよ、マジで痛いんだからな……
ってお前まで割り込んで来るなよ。何? 俺の上、気に入ったの?
「ま、まあ中々座り心地はいいわね。ここを私の定位置にするわ」
む、まあ、別に悪くはないか……温かいし?
「別にいいけど間違って体に触れても責任は取らんぞ?」
「えっ、ま、待ちなさいよ。それはダメよ! まだ早いわ!」
ふっ、どうだかな。ほれほれさわっちゃうぞぉ。と遊んでいれば彼女は飛び引いて対面に腰を掛けた。
なんだよ。意気地なし……
「そんな事では定位置にはしてやれんな」
そうして遊んでいれば皆が良い汗かいたとぞろぞろと戻ってきた。
だが、フルプレートメイルの男が一人足りない。
「あれ? ヘンリーは?」とエリザベスに視線を向ければ、彼は国へ報告に戻ったそうだ。
ついでにドア修理の手配もしてきてくれるらしい。ガチなパシリだ。いや、それが仕事なのだろうけども。
てかあいつが報告行って大丈夫? 俺に死ねってサイン出してたよ?
「待て。あいつ嫉妬心で変な報告しない? 大丈夫?」
「あら、ヘンリーは婚約者が居るわよ?」
なに……さっきの死ねはなんだったのだ? ああ、それはそれこれはこれってやつか。
「それに、ちゃんと言い聞かせたわ。名目は戦力調査と貴方に恩を返すこと。
お母様も貴方には凄く感謝していたのよ。罰せられる事はないから安心なさい」
本当かと何度も尋ねればどうやらガチらしい。俺は心から安堵の溜息を吐き、じゃあ、王国に戻ってもいいかもなんて思い始めていた。
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