第24話

 ガチャガチャと玄関にてドアノブを回す音が響く中、ホセさんのフルフェイスヘルムがコテリと横に傾いた。


『ヘンリーもっと力をお入れなさい!』

『エリザベス様、ここは私にお任せを……『五月雨』』


 そんな声が聴こえ、とうとう扉が開かれた。というか切り捨てられた。

 その瞬間、すっと残像が起こるような速さでホセさんが俺の前に入り、金属音を響かせる。


「主の知り合いとは聞いたが、主の腕ごと戸を切り破るとはいかなる了見かのぉ?

 その剣、しまわぬのであれば相手になるぞ?」

「ホセさん、待った待った。エマさんもお願い。お願いします武器を収めて……

 おい、エリザベス! お前も止めろよ! 何でヘンリー煽ってんだよ!!」


 俺は、彼女が好きな罵声を使った。だが、今回はお気に召さなかった様子。


「あらぁ~、貴方が開けないからよねぇ? どの口が言うのかしらぁ」

「いや……だってさ、でも殺し合いは拙いじゃん?」

「あらぁ~、私は死ぬほど寂しかったのにぃ~」

「おい! そんな冗談言ってる場合じゃ……」


「冗談じゃないわよっ!!!!」


 ひぇっ!

 ちょ、どうしたん……いきなりヒステリック起しやがった。


「さ、寂しかったのか?」

「……そーよ! 悪い!?」


 あれ? 俺が居なくてって事?


「お前、俺に怒ってたんじゃないっけ?」

「怒ってたわよ! けど、だからって私の為に最前線行く事ないでしょ!?

 どれだけ単細胞なのよ!」

「えっ? お前の為じゃねぇよ?」

「えっ?」


 なんか良く分からんが、それは勘違いだと突きつけた。

 彼女の顔が真っ赤に染まっていく。ああ、勘違いは恥かしいもんな?


「まあ、あれだ。居間に上がれよ。茶くらい出すから」

「おいムシ。エリザベス様にそれ以上不敬な行いをするなら、殺すぞ?」

「やれやれ、通すにしてもお前さんはダメじゃな。

 そちらがお前さんの主とお見受けするが、主の意向を無視して何が主従よ。

 騎士たるものが子供の駄々で人様に迷惑を掛けるでないわ」


 あれ? なんでそっちはそっちでバチバチ火花散らしてんの?

 ちょっと誰かなんとかして。

 てかなんで王女が来てんのとヘンリーに小声で話しかける。


「おいヘンリー! こんな危険な所まで来させんなよ。止めろよ。

 なんでこいつ連れてきてんだよ!」

「無茶を言わないでくれ。

 新米近衛騎士がエリザベス様のお言葉に逆らえるわけがないじゃないか」


 そうこう言っている間にキレたエマさんがホセさんに仕掛けた。


「おい、馬鹿止めろ!」と言った瞬間、彼女は吹き飛ばされて地に伏せた。

 たった一撃。ほんの一瞬の出来事に俺たちは動きを止めた。


 うっは、ホセさんつっえぇなおい!


 剣を向け続けるホセさんを傍目にエリザベスに声を掛ける。


「えーと……正当防衛だし、仕方ないよね?」

「え? ええ、そ、そうね……流石あなたの知り合いだわ……」


 二人でぼそぼそと喋っていれば、アリーヤが後ろから現れ、玄関の惨状に目を剥いている。

 そりゃ驚くよな。玄関の扉はバラバラだし、フルプレートメイルの男が一人増えてるし、女の子が倒れているし、カオスこの上ないよ!

 だが俺が一番恐ろしいのはエリザベスだけどな……


「カイト様、これは一体……」

「えーとアリーヤさん、お客さんを居間にお通ししたいんだけど、お茶の準備お願いできる?」

「は、はぁ、畏まりました」


 唖然とした顔のまま台所へと向う彼女を見送り、意を決してエリザベスに向き直る。


「ということで、どうする? 帰る? それとも帰る?」

「まあ、貴方がそこまで言うのならいいでしょう。案内して貰える?」

「そ、そう? じゃあ、その玄関を出て真っ直ぐ。ずっと歩いて行って。またね?」

「お茶の準備させた事に言ったの! 上がるって意味よっ!」


 そうして僅かな望みだった帰らせる作戦は失敗に終わり、彼女を居間に通す羽目になった。 


「そ、それで、何しに来たんだよ……」

「そんなの、前線の様子を見に来たに決まっているでしょう?」

「いやいや、王女が来る所じゃねぇだろ?

 安全なところで皆頑張れって言っておけばいいんだって言ったろ!?」

「もう、これくらい大丈夫よ。心配性なんだから……」


 いや、別に心配してねぇけどさ……

 なんて話して居れば外から声が聴こえる。


『もう一度相手をなさい! このまま引く訳にはまいりません!』

『ほっほ。戦場であればお前さんはもう死んでおるのにのう。

 何故、生きる事を許してもらった相手に手向かえるのか。それが若さかのぉ』

『クッ……良いでしょう。次は命を賭けます』


 すげぇ。エマさん相手に煽ってやがる。


「なぁ、お前なんであれ止めないの? 結構薄情な奴なの?」

「と、止めるわよ! あんたが変な事ばかり言うからタイミング逃したの!

 エマ! 遊んでないで戻りなさい!! 貴方の仕事は護衛でしょ!?」


 ……返事が無い。ただの屍の……いや、マジでやっちゃってないよね?

 そんな不安を感じてドキドキしていれば、戸が開いた。


「主よ、済まんな。止まらぬ様なので意識を飛ばせてしもうたわ」

「そ、そう。無事ならいいんだ。ホセさん、守ってくれてありがとね」


「当然じゃ」と言ってヘンリーの隣に立つホセさん。ヘンリーがちょっとおどおどしている様に少し口元が緩むが俺の戦場はこっちだと気を引き締める。


「そ、それで前線の様子見たなら帰れば?」

「貴方……この街の戦力を建て直しているようね」


 はぁ? なんで来たばかりのお前がそれ知ってるの!?

 思わず驚愕に目を見開き、エリザベスの顔を凝視してしまった。

 相変わらずボチボチな可愛さ。けど普通に可愛い。

 王女じゃなければイチャイチャしてみたいと思うくらいには。


「な、何よ……隠してるようだけど、私は戦力調査に来たのよ?

 必要だろう人に月の雫の使用許可を出すにもこの目で見る必要があったの。

 怪我人と現在の町の状況を調べていけば、月の雫が不正使用されているか、凄腕の治療師がいるかのどちらかだってわかるわ。

 まあ、ここの場所知るまでには結構苦戦させられたけどね」

「さようで……けど、なんでお前が来るんだ? そんなの兵士の仕事だろ?

 危ない事すんなよ……」


 それも見越してここに逃げてんだから……


「もう、やっぱり心配してるんじゃない。素直じゃないわね……この馬鹿!」

「良いから帰れって! 重傷者を二百人以上は治療したし結構立て直せてただろ?」


「そ、そんなに!?」と目を見開いてジッと見詰めるエリザベス。

 軽く話を振ってみても「どういう事なの!?」という言葉しか返って来ない。仕方が無いので説明する事にした。


「お前調査した癖に知らないの?

 領主が弱い奴らを時間稼ぎの為に捨て駒にして、王国騎士団に全部投げたって事」

「はぁ? 知らないわ。王都への報告書ではそうなっていないわよ?

 ……それは看過できない話ね。言ってみなさい。聞いてあげるわ」


 生意気な。俺ごときに怒鳴られて震えていた癖にひとんちで偉そうに。

 もう守ってくれるエマさんは居ないんだぞ!

 弱腰のヘンリーが役に立つと思ってんのか?


 いいだろう。苛めまくって即効帰らせてやる。


「はぁぁ? 人にものを頼む時はなんて言えばいいんでしょうかねぇ?

 随分と目線が高いんじゃないかぁ? ないかなぁ?」

「あらぁ~、じゃあお願いしますわぁ。

 ヘンリーが見てるけど土下座でもしようかしら?

 あなたにその勇気があるのかしらぁ?」

「ほう。じゃあ見せてもらおうか?

 ほら、やってみろよぉ! 王女の土下座ぁ! ほらぁ! あくしろよぉ!」


 おっ、ちょっとビビってる。ヤル気ない癖に言うんじゃねぇよ。


 エリザベスは立ち上がり、俺の足元で両膝を付いた。

 あっ、ヤバイ。これ、本気でヤル気だ。ヘンリーに報告されちまう。

 よく考えてみたら、流石に王女に土下座はヤバイだろ。取り返しきかないんじゃないか?

 そうはさせるかと「ストップストップ」と言って抱き止めた。


「も、もう……やれって言ったり止めたり、勝手ね」

「わ、悪かった。今回は降伏します」


 まったく、土下座したがるとか……ドM王女め。


「えーと、俺、そこまで深くは知らないし、ホセさんお願いしていい?」

「う、うむ。しかし、一つ聞きたいのだが主よ。王女と聴こえたのだが……」

「あらぁ~、名乗りが遅れてごめんなさいね。

 私はアイネアース王国第三王女。

 エリザベス・アーレス・アイネアースと申します。

 貴方の強さ、しかと心に刻みましたわ。

 これからも国の為、お力添えを宜しくお願い致しますね」


「こ、これは大変ご無礼を……」と膝を付いたホセさんに「ああ、気にしなくていいよ。いきなり来た上に襲い掛かって来た方が悪いから」と彼を立たせて話を聞かせて欲しいと頼んだ。


 エリザベスも「ええ、うちのエマが失礼してごめんなさい。後で言い聞かせておきます」と言った事で話が進んだ。


「では、私が知っとる話しとなりますと、半強制の依頼が来た所からとなりますな」


「半強制、ですの?」と問いかけるエリザベスに「はい、断っても良いが断れば……という言葉が続くものです」と無表情で語るホセさん。


「その依頼は、コール平原に現れた、魔物の群れ討伐というものでした。

 魔物は未確認でしたが、北部から来た模様とありましたので皆、北部の魔物ならばと参加し、東部の凶悪な魔物と知らぬまま対峙する事となりました。

 着いて見れば知ってのとおり最高難易度の魔物が相手。我ら九百の騎士は七百が戦死し、残りの二百も全員大怪我を負いました。

 大手ギルド『おっさんの集い』ですら、四十二しか残らなかった程です」


 彼女は余りの被害の大きさに表情を歪め「『希望の光』はどれほどの被害を受けたかご存知?」と問いかけた。


「彼らは戦場に出ませんでした。町を守る為の最善の手だと申したそうです」


 無表情で話していたホセさんの眉間に皺が寄る。


「……それを領主が許したの?」

「ああ、そこは俺も聞いてるわ。領主が自分が居る場所にに戦力を残したくてそうしたらしいぞ?

『希望の光』に罪人の捕縛権限とかすら与えちゃってるし、この町は色々おかしいんだよ。こういうのってありなの?」


 エリザベスは少し思考に耽ると「前者はダメね。領主は本来共に戦場に出る立場なの。けど後者は有りよ。己の騎士団だと言えば済む話だもの」と言葉を返した。


「これは面倒な事になりそうだわ。

 それが事実なら、ヘレンズ子爵は必要な報告をせず意図的に王国騎士団を危険に晒したのだから重罪よ。

 けど子飼いの『希望の光』がフルで生きている以上、今は叩けないわね……」


 てか、なんで王国への報告を嘘ついたんだ?

 話を聞く限り『希望の光』を守りたいなんて思う玉じゃなさそうなんだが……


「なぁ、ヘレンズって奴はそんなに馬鹿なのか?

 もう俺にはクーデターでも起そうとしている風にしか見えないんだけど……

 だって、トップギルドなんだろ? 情報なんて遅かれ早かれ伝わるじゃん」


 エリザベスは少し深刻に悩んだ後首を横に振る。


「流石にそれは無いわよ。東部森林が隣にあるのよ? 今までずっと王国騎士団を頼るしかない状態だったの。助けが望めなくなれば自分達が死んでしまうもの。

 いくら王国騎士団が大打撃を受けたとはいえ、近衛騎士も居るのよ?」


 じゃあ、ただの馬鹿ってことか。いや、俺の考えが足りないだけなのか?

 ちっとこいつの考えも聞いてみよう。


「なあ、エリザベスならどう対応した?」


 そう尋ねたが「どうかしら。難しいわ」と言葉が帰って来た。という事は「ヘレンズの領主がやった事は間違いとも言い切れないって事か?」と尋ねる。


「いいえ。非人道的過ぎて肯定はできないし、これから育つ戦力を捨てるような真似は普通できないわ。街の中まで攻め込まれたなら話は別だけど。

 けどね、仮に守れた後も街は続くでしょう?

 だから主戦力をどうにか生き残らせたいと考えるのは普通のことよ。

 それにしてもただ、捨石の様に出すなんてありえない行為だけどね」

「あー、俺たちとはそもそも目的が違うんか。

 やっと少し理由がわかった。頭おかしい領主なんだとばかり思ってたわ」


 領主は町の存続、俺は仲間の無事、そのくらい違えば考えも変わっちまうよな。

 要するに、相容れない時がままあるということだ。

 と言っても表面上まで敵対するつもりもないが、まともにとりあっちゃイカンと覚えておこう。


「ねぇ、私の為じゃないなら、なんでこんな所に来たのよ?」


 エリザベスにジト目を向けられ、またそれかと思っていたらホセさんが先に口を開いた。


「主……この前、エリザベスという方とピンチの時に助ける約束をしたからと言っておられませんでしたか?」


 あっ、ちょ! ホセさん!! こいつ、絶対調子に乗るからね?

 チラリと視線を向ければ、ニマニマとしたエリザベスが「ホント? 本当なの?」とホセさんに尋ねる。

 変な言い方されても敵わんと即座に間に入る。


「言ったけど! 一応言ったけど一杯ある理由の中の小さな一個だったろ!?

 別にお前の為だけじゃないんだから、勘違いしないでよね!?」

「あらぁ~、素直じゃないのね?」


 エリザベスはとても好い笑顔でお茶を啜って「まったくもうっ」とか言っている。

 ほらぁ~、元気になっちゃったじゃん!


「いや、んな事よりお前これからどうすんの? 俺はそろそろ逃げるけど……」

「ダメよ! 逃がさないわよ!」

「いや、お前からじゃねぇよ。戦いから逃げんの」


 いや、お前からも逃げたいけど。

 こんな人んち破壊する輩とはお友達としてでも付き合えん。


 ここに居たら強制依頼で巻き込まれるだろ?

 今の俺じゃ即死して終わりだし、逃げて当然だろ? と彼女に問いかける。

 だがその応えは「必要ないわ」と真っ直ぐな返答ではなかった。


「だって貴方まだ騎士じゃないじゃない。

 普通依頼自体来ないし、要請が騎士教会からなら断っても構わない立場に居るわ」


 世間知らずか! いや、王女ならしゃーなしだな。


「月の雫が規制されてる中でこの回復力だぞ。そんな理屈が通せると思ってんの?」


 てかそりゃいいから逃げるんだよ俺は。


「確かに切羽詰ったこの状況じゃ、権利が意味を成さない可能性もあるか。

 じゃあ、いいわ。一緒に王都に帰りましょ」

「いや待て。どうしてそうなる……俺は自由に暮らしたいんだ!」

「そもそも貴方の自由なんて奪った事ないでしょう?」

「お前……人の事を何度も強制連行しておいてよく言う!」


 何よ、なんだよ、との言い合いが一段落して、エリザベスは「わかったわ。連行はしません」と首を縦に振った。


 はぁ、やっとか。


「私が貴方に付いて行きます。これでいいわね?」

「よかねぇわ! 俺が王女拉致で処刑されるっての!」

「私が行くって決めたんだからそんな事ありえないじゃない!」

「ありえるわ! ありえーるだわ!

 お前の頭はふわっふわだわ! 脳みそまで天然パーマ掛かってるわ!」


 ムムムと彼女と睨み合う。

 彼女すっと立ち上がる。おいおい何するんだと警戒していたが、俺の膝の上にストンと納まっただけだった。


「絶対、離れてあげないから……」と少し潤んだような目で見つめるエリザベス。


 ほう、エロボディで誘惑する方向にシフトしたか。


 そっちがその気ならいいだろう。

 俺は後ろからギュッと抱きしめて彼女の髪に顔を埋めた。


「ひゃっ、こらっ、ちょっとぉ……くすぐったい……人が、人が見てるからっ」


 あっ、ヘンリーが居たんだったヤバイと彼の顔色を伺う。

 ヘンリーは据わった目でゆっくりと親指を立てた拳を前に出しサムズアップした。


 ああ、この流れ、なんか知ってる。俺はそう思った。


 そして彼の親指は予想通り、百八十度反転した。死ねというサインである。


「エリザベス、ヘンリーが死ねってサインしてるからやっぱり近くには置けないわ」


 俺はその顔がムカついたので上司をたきつけることにした。


「あらぁ~、私の旦那様を殺そうだなんて、国家反逆罪もいいところだわ。

 本当なの? ヘンリー」

「へぇっ!? と、とんでもございません。ですが旦那様、ですか?」

「ええ、私決めたの。もうこいつでいいやって」


 おい、お前相変わらず失礼だな!

 しかも何が決めたのだ。俺の意思はどこ行ったよ!


「何度も言わせんな。断る!」

「はぁぁ? 今抱きしめたわよね?

 もう夫婦みたいに匂いをかいじゃったりしたわよね?」


 え? 何そのおこちゃま的思考……まさかそれが既成事実だとでも……?

 エロ担当のお前がそんな事でどうするの?


「そういう事は最低でもおっぱい吸ったくらいしてから言ってくれないか?」

「ばっ、馬鹿ぁ! ななな何言ってるのよ! ダメに決まってるでしょう?」


 いや、そんなに一生懸命おっぱい抱えて守らんでも……

 それをさせろなんて言ってないから……

 だがこれはこれで良い。エロイな!


 その後エリザベスは、誤解を晴らそうとしても言う事を聞いてくれず、体を反転させてお説教の様に強い視線を送り言葉を放つ。


「私の胸はお姉様みたいに軽くはないの! それはわかっているわね?」

「いや、酷いこと言うなよ。確かにちっちゃいけど流石に可哀そうだろ」


 まったくひでぇ奴だ。膨らみかけも至高なんだぜ?

 俺もどちらかと言えば手のひらサイズが好みだ。


「重量の話じゃないわよ! 簡単には見せもしないってこと!

 お姉様、体を見られたからにはってあんたを婿入りさせる気満々よ?」


 マジかよ……だけど、俺を利用する為にわざわざ結婚までするか普通。

 まさか、王都では俺強い事になってたりしないよね? やめてよマジで!


「俺、やっぱり逃げよ。早く帰って!」

「だから一緒に逃げてあげるって言ってるの! もう、これは決定事項よ」


 えぇ……いや待てよ。付いてくるなら来るで使い道はあるんじゃ……


「そう上から目線で言うって事は俺たちの役に立ってくれるのか?」


 どうやらこいつは俺の自由を奪う気は無い様子。ちょっと……いや、かなり面倒だが、役に立つならやぶさかではない。ネームバリューは凄そうだしな。


「なぁに? ただ町を移動するだけでしょ。何か困る事でもあるの?」


 あるよ。俺たち小市民は一杯大変なの!

 先ずはホセさんが街から出して貰えなそうなところだと、後ろから彼女を抱えたまま、ここぞとばかりに頼みごとをしまくる。


「そんなの簡単よ。そもそも契約で縛って居ない限り、騎士の移動は自由なの。

 緊急でもない時に騎士の移動を縛る権利は領主にもないわよ。

 私がそんなのいくらでも却下してあげるわ!」

「ほほう。それはいい事を聞いた。ああ、あと次の町はどこがいい?」


「はぁ? それを私に決めさせるの?」と首を傾げる彼女。


「いや、お前も色々あるだろ? 俺たちは取り合えず町出れれば目的達成なの。

 どこでも診療所でも開けて近くにダンジョンがあれば生きていけるだろうしな」

「あなた……本当に勿体無い生き方するわね。

 まあ、連れてってくれるのならそこはいいけど……」


 結局、帰らせるどころか一緒に連れていくはめになってしまったが、ホセさんを堂々と連れ出せるのはありがたい。

 王女の許しがあったというだけでこれからイチャもん付けられることもないのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る