第21話

「いいから聞けよぉ……。聞く前から首を横に振るなよぉ……」


 ショボンとした顔でいじけてみた。すると、ソフィが横からハグしてくれた。

 お、元気でた。と彼女を抱き寄せながら話す。


「だから、戦力の支援をしてやればいいんだよ。王国騎士団に!」

「あっ、なるほど。その名目で王都に送れるなら確かに……ですがそれでは結局、有事の際死線を潜ることになるのでは?」

「けど、捨石にもされないだろ? 現状よりはよっぽどいいと思う。

 言っておくが、王国騎士団はトップを含めていい奴らばかりだぞ?」


 そう告げてみれば「ちょっと待ってくれよ」とレナードに止められた。なんだよ。今ソフィちゃんの感触楽しんでるんだけど。

 いや、腰に手を回しているだけだけど。


「いや、カイトさん、王都から逃げてきたんだろ? 戻れるのか?」

「あっ……いや、そこはほら、他の人に行って貰うとか……」


 そうだった。もしソフィアやエリザベスに見つかったら危険だ。ああ、アリスちゃん元気かな……


「あの、俺行きましょうか?」と声を上げたのはリックだ。きっとまださっきの事を気にして居るのだろう。


「いや、リックには近くに居てもらいたいな。商人組みは少なめだから……」

「もし王都にお知り合いが居るのであれば手紙を出すという手もありますが……?」

「あ、それだ! アリスちゃんに手紙出そう。それで解決じゃん」


 うん。彼女ならきっと動いてくれる。


「ふーん、親しげね。どんな子なの?」

「第二王女だな。王女の中で一番優しくていい子なんだ」

「「「王女!?」」」


 だよなぁ。恐れ多いよなぁ。そりゃ逃げるってもんだよ。


「お前……力がバレたってもしかしてその相手……」

「ああ、厄介な事に王女三人にバレて問い詰められた。その黒い魔力なんなんですかぁってな。

 だから適当言ってばっくれてきたんだ。どうだ、恐れ入ったか!

 てか俺が恐れ入ったわ。恐ろしかったわ!」

「いや、つぅか、その相手に手紙出したら拙くねぇか? 見つかるぞ?」


 いや、アリスちゃんなら大丈夫だって……いや、待てよぉ?


『お姉様! カイトさんから手紙貰いました!』

『あらぁ~、良かったわね私にも見せなさい! あらぁ~、あいつあそこに居るね?

 あらぁ~、兵をさしむけちゃおうかしらぁ。ヘンリー、どこぉ?』

『ハッ! 貴方様の足の下でございます!』


 なんてことになるんじゃ?

 エリザベスの『あらぁ』が頭の中に響く。ダメだ、これはダメだと首を横に振る。


「大変だったのね。そんな面倒なお方は忘れて私と楽しく暮らしましょ。

 あといい加減ソフィを離して。私にやりなさいって言ったでしょ?」


 そう言ってアディはソフィちゃんの逆横に座って自ら腰の方へと手を持っていく。


 お、おう。なんか乗り気だな。さり気なくお尻触ってみるか? 今なら許されるんじゃ? 空気読めば良いって言ってたし。


 よし、やってみよう。

 えいっ、チラリ……おお! 気にしてない。許された!

 しかし、どうするか……いや、まだ何かあった訳じゃないし……うーむ。


「や、やっぱり手紙出すのは切羽詰るまで止めておくわ。俺の身も危ない気がする」

「因みに、何があったのかをお聞きしても?」


 なにやら汗を垂らすアイザックさんに俺がやっちまった事を告白した。


 エリザベスを怒鳴り散らし、ソフィアにがっつりお説教をくれてバックレてきた事を。


「「「うわぁぁ」」」


「待て待て。

 その後、何故か護衛騎士になれとか言ってきたし、多分酷い事には……ならないよな?」

「いや、なんでそこまでやってまた会えるんだよ! その神経が怖いわ!」


 そんなレナードの突っ込みを否定してくれるものは居なかった。

 そして、ドアノッカーを叩く音が響く。


 おっ、アーロンさんが戻ってきたな。


「さて、雑談も終わったし仕事だ仕事」

「ざ、雑談だったのですか!?」


 ソーヤが珍しく声を上げたが、すまんな。なにやら情勢が良くないので俺は隣の部屋に移るよ。


 お仕事用の配置に移動して、また先ほどのメンツで同じ場所に座る。

 もう隣に来ているので一応黙って待機した。

 耳を澄ませば隣から声が聴こえる。


『では背中を付けて準備が出来ましたら教えて下さい』

『はい、大丈夫です。お願いします』


 少し大きめな声で問いかけるリック。問われた相手も、ボックスの中に居るので少し大きめな声で返した。

 普通にこのやり取りをして居るという事は無詠唱でいいという事だろう。


 壁に手を当てて『ヒール』と心の中で唱える。


『お疲れ様でした。完治して居ない場所はございますか?』

『あの……手がまだ……』

『ではもう一度準備して声を掛けてください』


 そうしたやり取りを繰り返して、人が入れ替わり治療を続けていく。

 そして十一回繰り返した頃、魔力が厳しくなった事を感じた。


「ああ、もう限界だわ。アリーヤさん、頼む」


 そう告げれば、彼女はすっと立ち上がり、部屋を出ていく。

 暫くすれば戻って来て「明日もお願いしますと言ってお帰りになられました」と告げた。


「よっしゃー! やっとダンジョン行ける!」

「えぇ? 開店初日にまで行くつもりなんですか?」


 アイザックさんがほっと一息ついていた所で立ち上がり問う。


「当然行くよぉ! 割と稼げたし気分良くいけるわぁ。

 仕事が早く終わったら遊びいくこともあるだろ。俺にとって今がそれなの!」

「はは、回復魔法って疲労にも有効なんですかね?」


 なんて笑いながら問う。

 だが「自分に掛けた事なんて一度も無いからわからん」と元気良く返して出発した。


 明日の稼ぎもほぼ確定しているので、今日は武器屋に寄ろうとぞろぞろと大人数でで向う。

 お留守番はアイザックさんとリックだけだ。

 ホセさんもフルプレートメイルのまま意気揚々と付いて来ている。


 だが、防具で固めてるとはいえ、このお年で大丈夫なのだろうか……

 ソーヤと一緒で昨日お休みだったから正直な所わからないんだよな。


 なので彼に直接「ホセさんって戦えるんですか?」と尋ねてみた。

 何故かその言葉にクスリと皆が笑う。


「おいカイトさん、この人多分この町で三番目くらいには強いぞ?

 前回の討伐で『おっさんの集い』を差し置いて頭張ったくらいには強い」

「まあ、わしは才能がないでの。運よく生き残り討伐を続けていただけじゃよ。

 お前さんらも強くなりたいなら、生き残れ。

 もう、あのような所は行かずとも済むよう立ち回るのじゃ。あんなのはわしの人生でも初じゃった。あれは、地獄じゃ……」


 ちょ、ちょっと待て、この街本当にどうなってるの!?

 そんな人を放置して回復しないとかありえないだろ!?


「いや、ホセさんはカイトさんと一緒でバックレたんだよ。

 あんな風に使われるくらいなら、路地裏で果てた方がマシだってな」 


 レナードは気分が良さそうに語る。領主サイドに憤る同士という感じだろうか?


「わしだけじゃなかろ。お前さんらも全員そうじゃった癖に……」

「いやいや、俺らはどっちにしても回復なんてしてもらえねぇから!」


 なるほど。また捨石に利用されるのが嫌であそこに隠れていたのか。

 あの路地裏で死んでいく方がマシなほどに酷かったんだなぁ……

 しかし、恐ろしいほどの戦力の減らし方だな。反面教師で参考になるわ。


「そっかぁ。やっぱり人を大事にしない所はダメなんだな。どこでも」

「主は心配あるまい。逆にお人よし過ぎて不安じゃ。

 もうちょっと人の悪意を知った方が良いかもしれんぞ?」

「フッ、どうやらしっかり隠せている様ですね。実は俺、結構腹黒いんですよ?」


 ちょっとニヒルに笑い「あまりそう思っていると後で痛い目みますよ」と返したのだが、何故か皆に笑われた。

 ちょ、めっちゃ傷つくんだけど!?


「では、他の皆を快く送り出した事も計算なのですか?」

「コルト、お前まで……あるよぉ? 計算めっちゃあるよぉ?

 あいつら言ってただろ? 他に行ってもいつか手伝いするって。

 今いらないけど、いつか助けて貰えるだろ?

 契約は一ヶ月のみだったのに持ち越せたんだぞ?

 ほら! 俺、超得じゃん!」

「なるほど。主は先見の明があるのぉ」


「でしょぉ?」と返すのだが、皆が暖かい目で見ている。くっそぉ悔しい。いつでも凄い計算をして居るわけがないだろ! ちょっとあっただけでも凄いじゃん!

 いつか言ってやろう。言ったのに信じなかったお前らが悪いと。


 みてろよぉと胸の内に収め、武器屋で鬱憤を晴らすようにソーヤやソフィちゃん専用の武器を衝動買いして、ついでに軽装の防具まで買った。


「よし、俺たちのパーティー名を考えようぜ」

「ふむ、折角じゃしギルド名でも使えそうな名前で決めてみてはどうじゃ?」

「ギルドかぁ……何? ホセさんがギルマスやってくれるの?

 それなら気楽そうだし入ってもいいかな」


 あれ、また笑ってるけどなんで? 疎外感凄いんですけど?

 おいソーヤ、なんで笑ったんか怒らないから言ってみろ。


「いえ、カイト様がギルドマスターじゃなきゃ流石におかしいですよ」

「おいおい、ギルドマスターってのは強い奴がやるもんだろ?

 ギルドを束ねるんだから。

 俺がギルマスになったら、そこの問題児二人の片方さえ止められないんだぞ。

 良いのか?」


 そう言ってレナードとアディを指す。


「待って。私問題児なの? どこが?」

「全部だっつの。それよりそこで俺の名前が出ることの方がおかしいだろ!」


 そして当然の様にレナードが蹴られた。


「ほら、問題起した」

「ばっ! 俺は蹴られただけだろ!」


 彼の叫び声が響き渡ると自然と笑いが起こる。

 しかしギルドか。国への登録するかしないかは置いておいて、そうした集まりを作るってのはいいかもな。

 でもギルドでも使えそうな名前って言ってもなぁ。

 なんか、名付けは丸々の丸々って感じに付けてるっぽいけど……

 えっと、そうだな……あっ!


「じゃあ、今回教訓になった人付き合いが大事って事で『絆の螺旋』とかどうだ?

 ぐるぐる回っていろんな人に繋がって行きそうじゃん?」

「ほぉ」

「結構いいかも」

「カイトさんの味が出てて良いかと」

「なんかカッコいいです」


 おお、好評だ。やっぱりこういう付け方が主流なのか。

 けど、いいのかな? 中二病とか思われない? ああ、そんな言葉はないのか。




 そうしてパーティー名も決まり、ダンジョンにて初のパーティー狩りが始まった。


 だが……


「なっとらん! ソーヤ、ソフィ、前に出るなら当たって止めよ!

 主の後ろに通すでない!」

「「はいっ!」」


 六匹もいきなり来て、固まり過ぎたのか後ろに回りこまれてしまった。

 というか、二人が何故か俺の前を陣取るので固まらざるを得ないのだ。 


 あの……それじゃ俺、戦えないんだけど……


「何を言って居るんじゃ。回復役を守るのは基本じゃぞ?」

「いや、俺ヒーラーのつもりはないんだけど……」

「「「「えっ!?」」」」


 いや、気持ちはわかるけども、戦わせてよぉ!

 安全マージン取り捲ってるから緩いんだよぉ!

 それで守られると何もする事無くて切ないじゃんか!


 渋る彼らを宥めて、俺はなんとか前線のポジションをゲットした。


 そうして普通に戦えるようになったのはいいのだが、ただ一人一匹を相手にして、ソロと変わらない状態だ。なんか違うと首を傾げた。

 まあ、緩い場所だし何の問題も無いんだけど……何に違和感を感じてるんだろ。


「ああ! 魔法職がいねぇんじゃん!」

「あー、そりゃしょうがねぇよ。王都じゃねぇんだから……」


 え? どういう事?


「魔法を教える奴が殆どいねぇからって、調子に乗ってアホみたいに金取ろうとするから、誰も覚えようともしねぇのさ。回復魔法だって使える奴少ないだろ?

 仮に金払って覚えたって、資質があるかどうかもわからねぇしな……」

「いやいや、それはスキルも一緒だろ?」


 と聞いてみれば、スキルの場合は、資質が低くてもある程度の効果が見込めるそうだ。

 それに仲良くなれば無償で教えて貰えることさえあるほど敷居が低いものらしい。


 効果が高いのは武器の攻撃力が乗るからだろうか、となんて考えたが頭を振って話しを戻す。

 それよりも今は魔法の事だと。


「じゃあ、俺が教えるよ。ファイアーボールも詠唱知ってるから。

 一度も使ったこと無いけど……」

「カイトくん……使ったことないものをどうやって教えるのよ……」

「だから、そんな目で見るなよ! 教えるって言ってるんだから出来るに決まってるだろ……多分」


 だって仕方ないじゃん!

 契約上、全ての魔力を回復に当てなきゃいけなかったんだから!

 くっそぉ、今なら結構時間経ったし一回くらいはいけるだろ。今見せてやるよ!


 えーと、詠唱なんだっけ……

 ああ、思い出した!


 俺は先頭に立ち、誰も居ない方向へと両手を伸ばした。


「我、女神アプロディーナ様のご加護を賜りし者なり。

 我が魔力を糧に燃え盛る火球を顕現し敵を討て『ファイアーボール』」


 ゴォォォと巨大な火の玉が通路を照らし飛翔する。

 壁に当たると炎が燃え広がり、まるで範囲魔法の様に周囲一面を焦がす。


「……な?」


 これ当たったら死ぬわぁ……と俺は自分でも苦笑いになりながらも、彼らにできただろと言ってみた。


「主、本当に今初めて使ったのか?」

「うん。これ教わった時は使えるほど魔力無かったしな。

 魔力が増えてからは回復魔法の使用に追われっぱなしだっただろ?」


 皆の表情を見て「ああ、これも異常なんだな」と嬉しいような面倒なような変な感覚を覚えた。

 だが、次のホセさんの言葉で少しホッとした。


「色々異常じゃが、威力は回復魔法ほどではないのう。

 まあ、それでも国の精鋭である王国騎士団の魔法兵と遜色無い威力じゃが……」

「へぇぇ、魔法って資質が高いとここまですごいんだねぇ。

 確かにこんなのできたら、カイト様の役に立ちそう」


 エメリーの言葉にソフィちゃんとソーヤがハッとして声を上げる。


「「カイト様、教えて下さい」」


 元々そのつもりだったので「おう任せろ」と颯爽と応えて詠唱の意味を教えようと思ったのだが、ちょっと気になった事があり実験させて貰う事にした。


「じゃあ、まずこれを覚えろ。

 我、女神アプロディーナ様のご加護を賜りし者なり。

 我が魔力を糧に燃え盛る火球を顕現し敵を討てファイアーボール」


 彼らは元気良く返事して何度もその言葉をつぶやく。

 その間に紙に日本語で大きく詠唱の言葉を書き込んだ。

 問題なく言えているので「はい次って俺言うまで単語一つ一つ止めて詠唱して」


「我」

「それは自分の事な。文字はこれ、それを思い浮かべたら、はい次」

「女神アプロディーナ様」

「それは当然神様の事だな。こっからここまでがその言葉、はい次」


 一つ一つ全ての意味を教えて進めていった。


 発音は一緒のなので意味がわかっているはずだが、認識の違いを無くす為。

 聖なるとか加護とかの単語で俺も少し正確にはなんなんだと疑問に思ったからだ。この世界は義務教育なんてないので皆も微妙に認識がズレていたりするんじゃないかと思ったのだ。

 俺の魔法が効果が強いみたいなので俺の認識が正しいのだろうと意味を言葉にして伝える。


 そして最後の一節になる。


「『ファイアーボール』」

「それはさっき見せた火の玉な。文字はこれ。

 そんでそこで魔力を手から放出。ハイ出してぇ!」


 そうして指示を出してみれば、一回り小さいもののキチンと火の玉が飛んでいった。


「なんだ、俺じゃなくても簡単にできるじゃん。ハイ、覚えたい人ぉ~」

「は、ははは、主はほんに凄い事を軽く言うのぉ。

 普通、こんな言葉一つでは到底出来るものではないのじゃぞ?」


 ホセさんにどういう感じのか聞けば、色々認識が間違っていた。

 神の言葉の意味の真を理解し神との対話をするとか、古代語を心に焼き付けなければいけないとか、一応は理解できるものもあった。

 だが発音がどうとか、師弟の絆によって習得するだとか、祈りや信仰が足りないとか意味がわからないものまであった。

 難しく考えすぎだ。まあ回復魔法を使ってからは学校の授業に対しても思っていたが。

 


 そうして、彼らは全員ファイアーボールを習得した。

 驚く事に、ホセさんのファイアーボールは凄かった。俺のよりずっと大きく速い。きっと剣士よりも魔法の才能があったのだろう。

 まあ、一番の理由はレベル差だと思うけど。


「この年で己の才能を知るか……嬉しい様な悔しい様な。しかしこれ、面白いのぉ」


 因みに、サラちゃんやレナード、アディ、エメリーなどの面々はレベルがかなり低いはずのソーヤやソフィちゃんよりも弱い炎だった。

 そして三番目に強い威力を出したのはアリーヤさん。彼女もとても喜んでいた。


「ああ、明日『おっさんの集い』に協力して貰って回復魔法の適正も調べようか。

 適正持ちが居れば俺もかなり楽になるだろうしな」

「あぁ、私はパス。ダメだったぁ」

「俺もだな。ヒールだけは昔、大金を積んで教わったが無駄に終わっちまった。擦り傷すら中々治りやしねぇ」

「わしもじゃな」


 アディ、レナード、ホセさんはもう習得済みのようだ。

 しかしホセさんは可哀そうだな。回復の適正が無かったから魔法は諦めたそうだ。


 っと、過ぎたことはさておき、意味をしっかり理解して居るのかどうかで威力が変わるのかも実験もしたいな。


 三人に詠唱の意味を教えて貰って、それが合っているかを見よう。

 正しく認識していれば実験の必要は無いし、間違っていたら試してみようかな。


 そう思って聞いてみれば、アディの認識はダメダメだった。それでも発動するんだなと思うくらいに。

 ホセさんとレナードは大体問題ない感じだったから必要ないだろう。


「アディはやり直し! 意味が色々間違っています」

「ホントに? あいつ……ぶっ殺してやる!」


 怖い顔をし始めたので「ほらっ! そんな怖い顔しちゃ可愛い顔が台無しでしょ!」と内心ビビリながらも宥め付ける。


「でもぉぉ」

「俺がちゃんと教えてあげるから」


 そうして彼女を宥めて大人しくさせれば、俺は後ろで噂されていた。


「あのアディがあんな風になるなんてねぇ。さすがカイト様ね」

「はい、あんなアディさん今まで見たことも無かったです」

「そうだな。だが俺はいつかカイト様がレナードの様に蹴られるのではと気が気じゃないのだが……」

「「「ああぁ……」」」


 お、おいコルト! 不吉な想像すんなよ!

 本当にやられたらどうすんだよ。


 そんな中レナードが颯爽と彼らの話題に入り、親指でアディを指した。


「まあ、絶対にやるだろうな。こいつは箸が転んだだけで蹴る女だからな!」

「……もしかしてこいつって私の事? 今の酷い言葉よね?」


 ……無駄に煽るから。南無。


 レナードが蹴られ、彼の痛みが引く頃に狩りは再開された。

 どうせだから手すきの護衛は余ってる武器使って狩してきていいぞ。と告げれば、コルト、レナード、サラちゃん、エメリーが下の階層を目指して走って行った。


 しかし、エメリーはあの金槌で大丈夫なのだろうか……

 まあ、一緒にやるって言ってたし大丈夫か。怪我くらいなら回復してやれるしな。


 そうして狩りを再始動させて、のほほんと会話をしながら七階層を回った。

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