第19話


「えっと、先ずは自己紹介からかな?」


 一度契約時に名前を書く為に聞いては居る。男性陣はちょっと怪しいが、女性は覚えている。これはコミュニュケーションの一環だ。


 恐らく一番年長であろう、三十代手前くらいに見える女性が前に出て頭を下げた。


「先ずは、お礼を言わせて下さい。

 私たちの命を救って頂き、本当にありがとうございました」


 教育を受けた使用人の様に綺麗なお辞儀付きで彼女が頭を下げると、残りの二人もそれに続く。


 契約で対価を払うんだから気にしないで、と返して自己紹介が始まる。


「私はアリーヤと申します。特技は給仕全般となります。

 戦いの方は余り得意ではありませんが、十六階層程度であればギリギリ戦えます。どうか、末永く宜しくお願い致します」


 えっ? 一ヶ月って末永いの? いや、まあ別にいいか。綺麗な女の人だし。

 ちょっと年上過ぎるが、それでも恋愛対象と自然に捉えてしまうほどに綺麗だ。

 長いブロンドの軽く巻かれた髪を後ろでローポジションで一纏めにしている。

 優しげな目でおっとりとしていて綺麗なお姉さんという言葉が良く似合う。


 それにしても、十六階層いけるなら十分だろ。

 こっちのダンジョンの十六ならもしかしたら王国騎士の新兵より強いんじゃ……


「あ、私!? えっとエメリーです。何言えばいいの? 特技? 結構戦えます!」


 あれぇ? 彼女は見た目ではアディさんよりも年上に見えるのだけど……

 少しちりついた短髪で顎にも届かない程度の長さ、勝気な顔をしていて細くつった目をしている。

 身長も百七十近くあるな。俺と同じだからギリギリ届いてないくらいか。この世界の女性は皆低いのかと思っていたが、そうでもないらしい。


 だが、厳つい感じはない。

 すらっとしていても出るとこは出ている女性らしいと思わせる良いスタイルだ。


 澄まして武器を構えたりしたら女戦士として絵になりそうだな。

 まあ、このあたふたして居るのもギャップを感じて可愛く思えるが、この自己紹介を見るにポンコツなんじゃないかと疑いを覚えた。


「私、ソフィです。まだ……何も出来ません……

 言われた事は何でもします。どうか、見捨てないでください」


 涙目で頭を下げる超絶美少女。

 柔らかそうでふわふわさせた長くストレートで金色の髪。儚げなイメージを強く持たせる顔立ちだ。体も小さく華奢でアリスちゃんと同系統だが、どちらが上とも言い難いな。

 やっぱりこの外見だと胸は無いんだな。ぺったんちゃんだ。いや、僅かに膨らんでいるか……?


 うん。実に興味深い。


 しかしヤバイなこれ。何でもするって……

 けど、同時にメンタルも結構削られる。

 だって他に女性が四人も居るんだよ? ほぼ初対面だって二人も居るのに。


 そんな状態で涙目で何でもしますとか言われてもな。そりゃ期待もするけども他の人の目が気になってそれどころじゃない。


 ここは急いで安心させてやらねば。せめてその泣きそうな顔止めて!


「み、皆に言ってるけど、無理はしなくていいから。

 何も言われてないときは自由に遊んでていいくらいだ。ただ、俺がなにかしてって言った時に出来る事ならばやってくれればいい。

 望むなら一緒に来てくれていいし、あんまり不安にならなくていいよ?」


 うん。もう既にアイザックさんやコルトの様な真面目な働き者が居るんだから、彼らに指示を出してと言って置けば上手くやってくれるだろう。

 だから俺は緩い感じを出して彼女らが気楽に働ける職場にすればいい。


「お慈悲に感謝します。カイトさまぁ……」


 なっ――――!? さま……だと……

 王女に言われれば心底止めてと思うが、俺の方が立場が上の状況下だと破壊力がヤバイな……

 どうしよう。傍目的には敬称はいらないとか言うべきなんだろうけど、否定したくない。

 さりげなく流そう。


「き、気にするな……」


 よし、平常心平常心。

 しかし、可愛いなぁ……触りたいなぁ……


「ちょっとカイトくん? またエッチな顔してるぞ!?」

「し、してませんよ! 止めて下さい、苛めないで下さいアディ様」

「えっ!? ど、どうしてそうなるのよ!?」


 俺はその後も無駄にアディさんを無理やり弄り続けるて事なきを得た。


「じゃ、始めますか」と声を掛けたのだが、何故か武器を持って居ないアディさんも釣りに向おうとした。


「ちょっとちょっと、アディさんは素手でしょ?」

「え、ここなら皆も素手でやれるよ? 私はもっと上でも武器無しでやれるからね」


 そ、そうなんだ……聞くんじゃなかった。俺の弱さが際立っただけだったよ。

 そうして開始され、暫く経てば異様な状況下になった。一斉に各々敵を連れてきて凄い数が倒し待ちになっているのだ。


 俺はもうがむしゃらに切った。切って切って切りまくる。そのサイクルを永遠と続けていれば、とうとうアディさんからもう敵が居ないと声が掛かった。


 やばい。時間的に俺一人の時の十倍近い速度が出てる。

 アディさんが今の時間教えてくれたから間違いない。

 階層は下がってるのに「これ、凄い事だよね?」と問いかければ皆も同意していた。


「確かに、こんな速度で階層制覇なんて話しは聞いた事がありませんね」

「そうだよね。一人でって事ならこの街初って事もありえるかも?」


 アリーヤさんとエメリーが楽しそうに会話している。その空気に釣られてか、サラちゃんやソフィちゃんも楽しげだ。


「なぁに? 私達の事を考えてくれてたの?」

「え? なんですか突然。アディ様、あまり人をからかうものではありませんよ?」

「もうっ! それ止めてよ!」


「こらぁ」と後ろから圧し掛かってくるアディさんの柔らかさを堪能しつつ、次行こうかと声を掛けた。


「はぁ? まだやるの!?」

「いや、ここで止めたら急いでくれた皆の頑張りが意味なくなるでしょ。

 ああ、疲れたならアディさん達は帰っていいですよ?」

「お待ちください! 私たちはまだやれますから……」

 

 急遽焦り間に入るアリーヤさん。どうやら誤解されてしまったようだ。


「もう、皆カイトくんを見縊りすぎよ。

 私の事を心配して疲れたなら休んでていいって言っただけなんだから」


 いや、概ね間違ってはいないが、アディさん限定じゃないよ?

 と返せば「わかってますぅ!」といじけられてしまった。


「それより次行くんでしょ?」

「ああ。ダンジョンを変えて一階からやるか、四階行くかで迷ってる」


 思わずタメ口に戻る。ちょっと嬉しそうな彼女を見て、もうこれでいいかと話を進めた。


「大丈夫、任せて。このメンツなら十階層だって安全を保障出来るわ」


 彼女の言葉にソフィちゃん以外が頷く。

 それにしても可愛いと見ていれば「ごめんなさい。六階層までが限界です」と俯いた。

 これは好機だと、そんな彼女の頭を撫で回して「一緒にやろう」と言葉を掛けた。


 正直、ソフィちゃんには癒し枠で傍に居て欲しい。

 ならば一緒に強くなって貰わないとそれは叶わない。釣ってきた相手をしている所を見るに、彼女も戦い自体は苦手ではなさそうだし。


 そのソフィちゃんに掛けた一緒にやろうという言葉に驚いた面々。


「もうかなり急ピッチなんだし、このくらいいいよね?」と問いかければ、他の人たちも俺がいいならと頷いてくれた。

 そうして俺たちは階層を降りて狩りをスタートする。


 初めての四階層。とうとう来てしまった。

 ソフィアを助けた時は本当に付いて行っただけだしな。 


 少しワクワクしていたのだが、出てきた魔物はイグアナモドキのレヤックだった。


「さて、さっさと殲滅するか」とワクワクがクールダウンさせられて思わず口を衝いた。


「皆、カイトくんヤル気だからガンガン連れてくるわよ!」


 アディさんのその言葉に皆思い思いに了承し走り出す。

 でもちょっと待って。ここ三階層より数が多いパターンだよね!?


 大丈夫なの!?


 そうしてわらわらと連れてこられる敵をヒーヒー言いながら倒す羽目になった。遠慮がちにだが、ソフィちゃんも参加してる。もっとがつがつやっていいのに……

 てか、皆凄いな。こっちに来そうになると蹴りで転がしたり、体で受け止めたりしてるのに全然余裕そう。

 まるで遊んでいるみたいだ。


 まあ狩りをしてる日数が違うからな。

 いや、自分と比べるのはよそう。悲しくなる。



 そうして俺はガンガン魔物を倒していった。

 次の日もその次の日も、止められることもなく永遠と。


 三日が過ぎる頃には三つのダンジョンを六階層まで制覇し、全員の治療が完了し、お店兼自宅をゲットして居た。


 ありえない程に早かった。人が増えすぎた。

 俺は、ソフィちゃんと一緒に涙目になりながら見渡す限りの魔物を永遠と切り続けるほどに釣り人員ができてしまい、仕事をしないと見放されると思ったのか、積極的に集めて来たのだ。


 アディさんが「早ければ早いほど良いんだから魔物を切らせちゃダメよ」とまるで消耗品の様に言って常に補充され続けたお陰で、今や回復魔法も大分回数がこなせるようになっていた。


 借りた借家も中々に良い所だ。

 木造の二階建てで古き良きお屋敷といった感じ。


 壁は板張り、床はフローリングの十四部屋。大半の部屋にはベットの木枠だけは入って居たそうで、寝具だけの購入ですんだそうだ。もう十分住める。


 そしてお店となる場所は入ってすぐの所にある居間の予定だ。

 中央にガラステーブルとソファが設置されいる。

 少し追加で資金が必要となったが、これだけ揃えたのだから仕方ない。


 全員が入居を望んだので少し手狭だが、彼らにとっては勿体無いほどの待遇だそうだ。


 まあ手狭なのはもうすぐ告げる言葉で解消されることとなるだろう、多分。


 今は客を向える居間にて全員が集合し、俺と向かい合い整列して立っている。


「さて、大半のお仕事が片付いたので皆さんに改めてお話があります」


 まだ治したばかりの人も居る。割と緊張感が高まっていて、そわそわとして居る。

 そんな中、ここ数日幾度となく交わした王国騎士団の壊滅の話を再びして、彼らに問いかけた。


「このまま残るのは命に関わる話になりますので、一回の治療の代償としては割が合わないと考えました。なので、希望者には一ヶ月の手伝いを免除しようと思います」


 ざわざわと顔を見合わせ「どういう事だ」と聞きあう声が聴こえる。


「怖いから今すぐ逃げたいと思う人は逃げていいと言ってるだけ。

 数人残ってくれれば俺の目的は達成出来るから、あの治療は無料って事にしてあげるって話」


 そう問いかければ彼らの動きが止まった。


「ちょ、ちょっと待てよカイトさん、全員逃げたいって言ったらどうすんだ?」

「お前逃げるの?」

「んな訳ねぇだろ!」

「じゃあいいじゃん」


 彼らは、そうしたレナードとの掛け合いを見て真剣に考え出した。 


「あの、いつかお礼はさせて頂きたいとは思いますが、私は出来ることならこの街を一刻も早く出たいと思っています……」

「はい、一人決定。マジでデメリットは無いからな?

 流石に自力で行って貰うから、移動の金すら当てが無い奴は厳しいかもしれんが」

「じゃ、じゃあ俺も頼みます!

 絶対にご恩は忘れないし、外からできる事はやりますから!」

「まあ、いつかそういう機会があったら宜しくね」


 そうして彼らの言葉に優しく声を掛ければ、四十四人居たが残る人員は十一人まで数を減らした。

 ジッともう居ないのと見詰める。

 本当にもう居ないみたいで俺は内心ほっと息を吐いた。

 女性人が全員残ってくれたしレナード、コルト、アイザックさんなどの首脳陣的存在もしっかり残ってくれた。


 そして出ていくことが決まった奴らに命令を下す。


「契約行使の命令を下します。

 秘密の厳守はそのままだが、期限の日まで自由にしてよし!

 遠く離れるという事は、うっかり喋っても許してやれないから気を付ける様に。

 という事で厳しいだろうけど、再出発頑張れ!」


 そう告げれば、一人一人深く頭を下げて出て行った。 

 そして残ってくれた彼らに向き直る。

 レナード、コルト、アディ、サラ、アリーヤ、エメリー、ソフィ、アイザック、リック、ホセ、ソーヤの十一人。


「まずは皆、残ってくれてありがとう。

 残った面々にもメリットはあるぞ。先ず、一人一部屋にできるから広く使える。

 後、この人数なら衣食住のほかに、稼げれば一ヶ月後に給料も出してやれる。

 仕事もドンドン楽になるだろうし、魔物の襲撃さえなければお得なはずだ」

「あの、釣りは大変になるんじゃ……」


 モジモジと顔色を伺うように問いかける少年ソーヤ。彼はソフィと同レベルの力しかない。希望するなら一緒にパーティーを組むのも有りだなと考えている。

 昨日癒したのだが、初日だし休めと伝えたので今日からだ。不安なのだろう。


「いや、そろそろ自力でやろうかと思うんだ。だから集める必要が無くなる。

 ずっと手伝って貰ってたら技術が磨けないだろ?」


 うん。

 ずっと姫プレイすんのはダメだろ。スタートダッシュなら有りかもしれんが。

 そう返せばコルトが待ったを掛けた。


「お待ちください! では、我らの仕事は……?」

「護衛で良いじゃん。楽だろ? あと話し相手にスキル指南もあるし」


 コルトはその言葉に「ああ、それで人員が要らなくなったのですね」と呟く。

 いや、うん、十数人からの釣りとか止めて欲しいしどっちにしてもだよ?


「ははは、カイトさんはしっかり安全を考慮するからマジで楽そうだ」

  

 ダンジョンを変えてまで六階層までを繰り返したからか、レナードがそんな気を抜けた言葉で〆た。


 そしてとうとう営業をスタートさせようという話しに移り変わる。 


「さて初めに、アイザックさん準備の指揮お疲れ様でした。

 良い物件ともろもろの手回し、ありがとうございました」

「なんのなんの。この程度のこと造作もありません」


 毎朝ミーティングの様な事をしているので、最初の頃に動けるようになった面々はすっかり慣れて良い空気で話し合いが行えている。


「リックの方はどうかな? おっさんとの話し合い、昨日行ったんでしょ?」

「はい。『おっさんの集い』のギルドマスター、アーロンさんはいくらでもいいから頼むと深く頭を下げられていました。

 予定通り、治療条件と共に設定金額を提示して承諾と依頼をお受けしました。

 開業日が決まり次第すぐ伝えて欲しい、出来れば急いで欲しい、とも言っていました」


 彼の言葉にアイザックさんから「人数制限がある事は伝えましたか?」との鋭い視線の突込みが入る。


「ええ。回数は未定なので明確には伝えておりませんが、一日に回数の制限がある事は告げておきました。

 魔力が切れ次第終了しますので五人以下になる可能性もご了承くださいと」


「そうですか。良い対応ですが、報告はしっかりするように」と言って彼の表情が緩む。


 彼はアイザックさんが指名した商人組だ。適当に数人選んでと言えば必ず彼が入って居た。きっと有能なのだろうとアイザックさんか彼のどちらかが行って聞いてきてと頼んであったのだ。

 設定金額は大銀貨で二枚。最初はもっと高額を提示されたが下げさせた。

 これでも高すぎないかと尋ねたが、完治まで持っていく事を前提に考えれば安すぎるくらいだそうだ。月の雫の卸値よりも安いらしい。


「そっかそっか。じゃあ、俺は向こうの部屋で待ってればいいのかな?」


 居間の隣に六畳間程度の一室があり、寄りかかってもらえれば回復魔法が通る事も確認済み。患部に手を当てられないから多少効果は落ちるが、そこまででもなかったのでこれで行く事にした。


 俺が待機する部屋に居間から入れる戸もあるが、家具で封印して回りこまないと入れなくしておいた。


 その隣に大柄の人でも余裕で入れるくらいのボックスが置いてあり、その中で背中をつけて貰えば治るという設定となっている。


 無詠唱での実験も、出て行った彼らでさせて貰った。腕一本くらいなら二回でギリギリ元通りになる。状況を見て治らなかったらもう一度の報告をして貰う事になっている。


「まあ、カイトさんが自己申告しなきゃ最初はどっちに居ても良いんじゃねぇか?

 カイトさんも見ておきたいだろ? 最初の客対応くらいはさ」

「馬鹿者! そういった油断が命取りになるんじゃ。主に適当なこと言うでない!」


 彼は白髪のお爺さん、ホセさんだ。一日目が終わるまで訝しげな目でずっと見ていたが、次の日になれば、何故か俺を主と仰ぎ出した。

 そういうのいいからと言っても聞いてくれないので仕方なく受け入れている。


「まあちょっと気になるけど、そう言う事なら任せるよ。

 隣の部屋に居るだけで良いんだし、誰かに話し相手になって貰えばいいか」

「じゃあ、わたしぃ!」


 とアディさんが手を上げて、アリーヤさんが「長時間いらっしゃる事になるでしょうから、お食事やお飲み物などの給仕をさせて頂きます」と言ってくれた。


「うん。てか、商売の必要ない人員はこっちに居なよ。

 邪魔って程の事はないだろうけど、病人的にもその方がいいでしょ。

 てことでリック、もう呼びに行っちゃっていいよ」


 俺なら知らん奴にジロジロ見られたくない。


「では、早速彼らに伝えてきます。

 すぐに来られるかはわかりませんが、昨日の様子から恐らく大丈夫かと思われますので一応そのつもりで準備をお願いします」


 そう告げると、リックはすぐさま出て行った。

 お客の相手をする人員はアイザックさん、ホセさん、リック、コルトだ。


 ホセさんとコルトは武装している。用心棒的立ち位置だ。


 居た方が良いと言うので採用したのだが、何故かホセさんはフルプレートメイルで顔まで隠すほどにガッチガチに固めており結構違和感がある。

 これは買い与えたものじゃなく、多くの人が金策で装備を売る中でも彼が取っておいた物だ。

 病院にフル武装かよ……とも思うけど、まあ彼らが問題ないというのだからそうなのだろうと受け入れた。


 別室待機の俺たちは部屋を移動して椅子やベットに腰掛けて思い思いに寛ぐ。


「しかし、早かったなぁ……三人で魔力がキツイって言ってたから、もっと掛かるかと思ったぜ」

「怒涛の釣りだったからな。ありがたかったが、大変だった。ね? ソフィちゃん」

「でも、お陰で加護を得られた感覚があります。まさか、治療して頂いた上に強くして頂けるなんて思っていませんでした」


 共に苦難を乗り越えたからか、彼女とも打ち解けてきた。上目遣いで少し困った様に笑う彼女。居るだけで癒されるわぁ。流石治療院。癒し的存在だ。


「そうだ! ソーヤも俺とパーティー組まない?」

「なんで問いかけるのよ。強制でいいじゃない」


 何故かソーヤをギロリと睨みつけるアディさん。


「こら、アディ! メッ!」


 彼女は楽しそうにニコニコしてこちらを向いた。敬語は嫌だと本気で思っていたそうだ。その願いに応えて気安く接するようにしている。

 俺からも、敬語を使う根源である周り威嚇するのを止めてとお願いした。

 早速彼女は約束を破っているが……


「別に嫌なら良いんだよ。無理したって良いこと無いって。

 どうしてもしなきゃならない状況まで取って置けばいいの」

「そうだよぉ! わたしも同感! 戦いの基本だよね?」


 いや、その戦いをしなくても良いという話しなんだが、とエメリーの何も考えてなさそうな元気な言葉に一同の顔が緩む。


「あの、僕がパーティーに参加しても良いんですか?

 役に立てるかわかりませんけど……」

「行ける階層は俺らと同じくらいだろ? 普通に役に立つよ。

 言っておくけどパーティーだぞ? 護衛じゃないし敵も集めないぞ。敵をみんなで囲むんだ」


「始める階層も七階層からだし」と伝えれば彼はやっと緊張を解いた。


「あ、ソフィちゃんもだからね」

「おいおい、こいつにゃ聞いてやんねぇのか? お前こいつ好きだよなぁ」


 そう言った瞬間、アディからローキックが放たれた。太ももを押さえて転がるレナード。


 今、なんで蹴られたの? と一同がアディに視線を向ける。


「ど、どうしたの? ムカついたからよ?」


 理不尽だなぁ……レナード南無。


「カイトさん、頼むからムカついたら蹴っていいっての取り消してくれよぉ……」

「アディさん、訂正する。酷い事を言った時は蹴っていいよ」

「あら、酷い事言ったじゃない」


 その言葉に一同は再び首を傾げた。

 そんな時、玄関の戸が激しく開かれる音がした。


「随分と早いな」と思わず俺は呟いた。

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