第18話


 目が覚めれば、宿の一室に、十人の人が居る状態になっていた。

 なんで全員こっちに居るの。宿の人に怒られない?

 他に二つも部屋取ってるでしょ……

 てか、人を増やすたびに宿代が増えるのか。早々に家を借りたい。精神衛生上の問題で。


「おはよう」

「「「おはようございます」」」


 半数以上が膝を付いて頭を下げた。

 いや、そういうの求めてない。それとコルト、何故お前がそっち側!?


「普通でいいから。アイザックさん、この中で使いたい人材を五人選んで今日から行動始めちゃって。準備が終わる頃には全員回復出来てるでしょきっと」

「わかりました。カイトさんは今日もダンジョンに?」

「あっ、そうだった……その予定だから戦えない人は優先的にそっちでお願い」


 そうして雑ながらも指示を出せば彼は気を回して、全員に状況説明までしてくれて行動が開始された。

 どうやら昨日の時点で領主サイドへの商売を始める申請、家の下見などを行ってくれて居た様だ。一応候補は決まっているが、後は俺の確認待ちだという。


 希望者全員で住めそうな広さがあるのなら、アイザックさんの判断に任せるから早めに使える様にして欲しいと頼んだ。


 彼らの今日の予定は取り合えず家を借りる事と、回復したばかりの者は身なりを整える事。余裕があればアイザックさんの指示で適当にやってくれとお願いした。

 飯代から何からお金渡していってるからかなり精神的に宜しくない。

 商売で人使うって大変なんだな……早く利益を出したい。


 まあ、わざわざ金銭面が不安だなんて言って不安にさせても良い事無いだろうから言わないけども。


 そうして残ったのはレナード、コルト、アディさん、もう一人は同年代だろう十五歳程度の女の子だ。

 レナードは自然に残ったが、コルトとアディさんはこっちを希望した。


 取り合えず、初対面の様なものなので同年代の子にに話しかけた。


「俺は、もう知ってると思うが、カイト・サオトメだ。簡単な事しか頼まないつもりだからね。それとやる事さえやってくれれば友達感覚でいいから。よろしくな」

「は、はいっ。わ、わたしはサラです。よろしくおねがいします!」

「二階層で釣りできる?

 ああ、怪我するかもしれないと思ったらできるって言っちゃダメだからな?

 当面は魔力を全て彼らの回復に当てるからさ」

「えっと数匹を引き付け続けるんですよね……七……いえ、八階層まではできます!」


 おお、結構やるなぁ。と声が漏れれば彼女も表情を少し緩ませた。


「サラは周りから期待されるほどに有望株だったのよ。

 ただ、身寄りが元々なかったし私までこうなっちゃったからね……」

「へぇ、道理で年もかわらなそうなのにそこまでいけるわけだ」

「あら、集めなければ十三階層くらいまでは行けたわよね?」


 マ、マジかよ……

 なるほど、アレクたちもここのやつらから見れば温室育ちの坊ちゃんって事か。


「まあよ、カイトさんには誰にも真似できねぇもんがあるんだから気にすんなよ。

 大丈夫だ。女に負ける事だってある。アディみたいに凶暴なのも多いからよ」


 んな事考えてねぇよ。弱い事は知っているし受け入れてます!


「アディさん、ムカついたら蹴っていいからね? 怪我さえさせなければ……」


「えぇ、困ったな。永遠と蹴る事になっちゃう……」と彼女が言えばサラが控えめにだが笑った。

 クスクスと笑うと彼女の金色の髪が微かに揺れる。

 肩には掛からない程度のショートの髪、つり目で少し独特な目の形をしている。

 俺の好みからみればアディさんと比べると少し劣る外見だ。

 それでも日本で居れば高値の華だろうな。学校の中でトップを争うくらいは出来るだろう。

 エリザベスといい勝負かな。


「ちょっとカイトくん、見過ぎよ! 私を見なさい!」

「わかりました。アディさんは綺麗だなぁ。可愛いなぁ。スタイルもいいし、最高だなぁ」


 彼女の体を舐めるように見詰めて最後に目を合わせて微笑んでみた。


「ちょ! カイトくん? 馬鹿にしてるでしょう!?」

「いいえ。本気で思っています。ただ同時に怖くもあるけど……」


 サラが俺たちのやり取りを見て目を剥いている。やはりアディさんのデフォルトは怖いのだ。

 まあ、緊張は抜けたみたいだし、もう出発でいいだろう。


「えっと、アディさん、サラちゃんにこれで服を買ってあげて下さい。お釣りがでればそれも好きに使っちゃって構いませんから。

 俺たちは回復を終えたら昨日の終わった場所辺りから始めます。

 また適当な所で交代要員としてお願いするので適当に休んでてください」

「えっ!? カイトくん、今から行く気? ちょっとしか寝てないでしょ?」


 いや、十分寝たから。多分四時間以上は寝た。これから学校なら寝るが、ダンジョンなら行くに決まってるでしょ。

 そんな風に彼女に返して、颯爽と宿を出る。


 そして見慣れてきた薄暗い路地裏。

 もうここの人も、本当に回復するという事を信じられたようで、我先にと寄って来る。


「今、皆で住む為の家をアイザックさんに借りにってもらっています。見つかり次第、そっちに移ってもらいますから、あと数日我慢してください」


 順番などで不平不満が出るかと思ったが、そんな事はなかった。目の前で治療し続けているのがよかったのだろう。あとの関係の事を考えて指名されるのを待っているんだろうな。


 今回は女性を全員治療した。こんな時に馬鹿な事をする奴は居ないと思うが、アディさんもサラちゃんも同じ場所に固まっていたのだ。恐らく自衛目的だったのだろう。

 女性が少なくなったら不安だろうからと説明をして残っていた女性三人を癒した。

 同じく服代を渡し、宿の名前を教えてそこで今日はゆっくり休んでと伝えた。


 レナードは若いのは一人だけと言って居たのにもう一人若い子が居た。

 どういう事? 若い子三人も居るんだけど?


「おい、情報間違えてんぞ!」と言えば「いや、あれはまだガキだろ?」と返って来た。

 どうやら彼にとって女の子はアディ一人の様だ。他はまだ幼女らしい。

 俺にとっては十分女性なのだが……レナードとは年齢が違うし仕方がないか。


 確かに若くて幼く見えるが、サラちゃんと同年代にはちゃんと見える。

 そしてビックリするほど可愛い。これはお話するのが楽しみだ。明日が待ち遠しいな。


 軽く後ろ髪を引かれたが、向う先がダンジョンなので気持ちを切り替えて予定通り動く。


 そして到着してみれば、今日も低層は人っ子一人居ない。

 何でだ?

 コルトが早速釣りに行ってくれたのでレナードに問いかけた。


「そりゃ、回復がねぇから今は行くなって話が回ってるからだな。

 失敗したら終わりなんだから安全な仕事を選ぶだろ普通。

 本当なら下に行く奴と擦れ違うくらいはするんだろうけどな」


 ああ、そりゃそうか。

 けど、もうちょっと上行ける奴が難易度調整で降りてきたりしないの?

 と、コルトが釣ってきたアリを叩きながら雑談する。


「カイトさん、野良騎士は金を稼ぐ為にダンジョンに行くんです。

 七階層までは何一つ稼げませんから、生活を考えたら行けないんです」


 ああ、言われてみればそうだ。俺の場合はレベルを上げればその分稼ぎになる方法を得ているからこうしていられるんだな。


「そういうところを領主が支援してやればもっと良い騎士が育つのになぁ」

「おっ、ホントそうだぜ。でもまあ『おっさんの集い』がそういうの引き受けてるからそこまで深刻でもねぇがな」


 あー、リーダーが強そうだったから信じられなかったけど、弱い者同士で寄り添ってってのは嫌味とかじゃなかったんだな。

 レナードはそう言うと敵を探しに走り出し、コルトが抱えてる敵を殲滅していく。

 

「いや、今はどうだろうな……

 あそこも大打撃を受けて機能していないそうですよ。

 あそこならカイトさんの事業の良いお得意様になってくれるんじゃないですか?

 約束事は守るところですから、秘密にしたいから見るなと言えばしっかり守ってくれるでしょう」


 ……うん、頼まれても居るけど、あのカオスな状態を見せられちゃったからなぁ。

 引き受けるにしても、回復して欲しいなら素面で来い、って条件付けるか。

 うん。どうせ受けるならそいつらを試運転のテスターにしよう。


「じゃあ、あとで話し付けにいくか。丁度『希望の光』にも頼まれてるんだ」

「えっ!? あそこと知り合いなのですか……」


 あら、コルトがこんな苦い顔を向けるなんて相当微妙な所なのかな? 


「いや、そこのハンナさんと知りあいなだけ」

「ああ、その人ですか。あそこの最後の良心と言われていますね」


 そんなに酷いのかと聞こうと思ったらレナードが戻ってきてコルトが釣りに行く。

 なのでレナードにそこら辺を聞いた。


「まあ、あれだな。使命感に溢れちゃってる感じだ。あと、力があるからってそれを使い過ぎだな。俺も正直嫌いだわ。正しい事をしてはいるんだろうけどよ」


「言われてみればそうだな」と、レナードに食堂であった話をしてみた。


「マジかよ……あそこも一杯死んで大変だろうに……まあ、そういう所なんだわ」

「けど、なんで弱い奴を盾に使う様な真似したんだ?」


 普通、強いの前に出して他がサポートだろ。そこに命賭けるならまだしも、そんな風に使い捨てたら無駄死にもいいとこだろうに。


「そりゃ、ヘレンズの騎士団が使えな過ぎるからだろ。

『希望の光』まで向かったらこの街の守りが居なくなると領主がびびったんだ、って話が有力だな。

 ここの領主は『希望の光』が居れば問題無いと騎士団を低予算で扱ってお飾りを許してるくらいなんだよ。

 悪事の取り締まりさえ機能しない時期があって『希望の光』と契約し、今やあそこは罪人を捕まえる役目も負っている状況だ。

 商才の方はあるらしいんだけど、自治に関してはクソ最悪だ」


 確かにそんな事をしたら力バランスが崩れるな。やろうと思えば何でも出来てしまう。まあ、そこは流石に契約で縛ってあるか。


「それで中堅の人たちを盾にして時間を稼いで王国騎士団に投げたのか。

 けど、そんな対応の所為で王国騎士団壊滅しっちゃった訳だし、相当拙い立場に居そうだな、その領主」


 その言葉にレナードはタゲ取りの役目も忘れて棒立ちした。


「おい! レナード! アリさん群がってる! 群がってるから!!」


「ちょっとわりぃ。『烈波』」と言って全身から淡い光を放って剣を横に大きく振りそのまま回転すると全てのアリが一瞬で消えた。

 おお、一撃で全滅だ。

 そしてそのまま剣を落とすように放り投げると俺の両肩に手を当てた。


「壊滅ってどういうこった! もう、この街にゃ来てくれねぇって事か!?」

「これも秘密だからな? 王国騎士は今五十名しか居ない。ホワイト団長も戦死した。副団長のルンベルトさんが近衛騎士を編入させて再編させている所だ。

 今すぐってなると簡単には来れないだろうな……」


 なんてこったと天を仰ぐ。戻ってきたコルトの釣ってきたアリも全て一瞬で倒したレナードは、めっちゃ怒っているコルトをスルーしつつ彼に聞かせてやって欲しいと頼んだ。


 なので詳しく事情を話していく。


「そ、そんな事が……

 ホワイト団長と言ったらこの国最強の覇者じゃないですか……」

「こりゃ、この町捨てて出て行く事を最優先に考えた方がいいぜ。マジな話し……」


 彼ら曰く『希望の光』でも東部森林から下りて来た魔物は荷が重いのだそうだ。

 主クラスとまともにやり合えるのはギルドマスターのアンドリューくらいで、他は雑魚処理すら厳しいらしい。


「なら本当にホワイト団長って人はマジで凄かったんだろうな。

 主クラスを三体相手にしていたんだから」


「三体……そんな事がありえるんですか? 普通……群れのボスは一匹なんですが……」とコルトが呟く。

 三つの群れだったんだろと返せば彼の言葉が止まる。


「そ、そりゃ壊滅もする訳だ。それを倒しきるとか、マジ尊敬するわ……

 俺たちには到底無理な話しだし、即逃げするに限るな」

「しかしレナード、逃げると言っても我らにはカイトさんの手伝いがある……」


 そんなコルトの言葉にレナードが噛み付く。


「馬鹿野朗! 雇い主を守るのが俺ら騎士の仕事だろうが。

 だったらカイトさんがここに根ずく前に即刻逃がすべきだろ!?」

「そ、それは確かに……カイトさんはどうお考えですか?」


 えっ、大体一緒だけど……流石になんもしないで見捨てるってのもなぁ。


「一応、元から回復魔法で出来ることやってバックレようとは思ってた。俺にできるのはそんくらいだから。

 けど、後味悪いよなぁ。確かに背に腹は変えられないんだけどさ。

 もうちょっとできる事ない?」


 そう言って視線を流すが、彼らの表情は優れない。


「ねぇな。元々戦力が足りてねぇ。

 月の雫があって俺たちもフルで動けて『希望の光』もフル稼働して犠牲を覚悟すりゃ主一体の群れなら対応できただろうけどよ。

 前回でとんでもなく人が死んだからな……」


 そりゃそうだろうね。あんなの無理だよ……

 ゴーレムなんて人の三倍もあったし、恐竜まで居やがったからな。


「そもそも東部森林は元々王国騎士団が担当していたんだろ?」

「いや、兼任だな。

 俺たちもヘレンズの騎士団に呼ばれて何度か駆り出された事あるぞ。

 だからあそこの怖さは身に沁みてるんだ。ありえねぇ程につえぇ。

 俺程度の加護じゃ三人で雑魚一匹に掛かっても一歩下手したら死ねるレベルだ。

 それも上手く囲めての話しだぞ? 纏まって二匹向かって来ただけでアウトだ」

「そうだな。成す術が一切見当たらなかった。ひたすら蹂躙されて、焦った後衛の魔法が次々と飛んできて、本当に地獄だった」


 あれ? ヘレンズの騎士団は飾りなんだよね? お飾りと一緒に行ったの?

 え? お前らがヘレンズの騎士団として王国騎士団に合流してたの?

 てことはもしかして、国が強制依頼するって言ってたギルドってこの街の話か?

 もう大半が傾いてるんだろ? 益々もって後がねぇじゃねぇか……


「なぁ、その依頼ってギルドに入ってなくても強制だったの?」

「いや、そんな事はないぞ。

 ギルドですら断る事はできっけど、ギルドがそれをしたら相当叩かれただろうな。

『希望の光』が馬鹿みたいに騒ぐからな。戦いから逃げた恥さらしとか罵ってよ。

 ああ、ソロの俺が受けた理由は簡単だぜ。誰もあんな難易度だって知らされてなかったんだ」


 戦いから逃げた恥さらしか。なるほどねぇ。『希望の光』は都合よく自分でルール作って押し付けちゃう奴らなんだな。自分達は今回出て居ないってのに。

 正直、ハンナさんですらその節があった。本当に正しい事をしたいなら領主に掛け合って戦場に出るべきだった。

 戦場に戦力を小分けに出しても人が死ぬだけだ。


 ただ時間稼ぎをしたかったとしても、最善手は受け止められる前衛を出して後衛がサポートをして陣形を成立させる事だ。

 次点で少人数で遠くに釣るとかだろ。それも釣るやつは死ぬだろうけど……


「まあどっちにしても、ここで一度稼がないと移動は出来ない。

 俺一人なら雑魚過ぎて戦場にも呼ばれないだろうし今のままでもいいんだけど、付いてくるんだろ?」

「ったりめぇよ。手伝うって決めたからな」

「俺も、許されるならば付いて行きたいと思っています」


 なら方針は一応決まったな。


『おっさんの集い』を立て直す。

 他も治療しまくって一度怪我人を無くす。

 ある程度終わったら行きたい奴を連れて逃げる。


 全員を治療か……俺の魔力じゃ結構掛かるかもなぁ。

 それまで魔物の襲撃が無いといいけど……


「まあ、取り合えず狩りを再開すっか」


 話し合いも概ね終わったので、俺たちは再び動き出した。

 事の重さに俺の魔力を引き上げる事が急務だと感じたのか、彼らのペースは速く、交代を頼む前に二階層を狩り尽くした。


 そして、三階層に移動する。


 他のダンジョンに行くか迷ったのだが、ベビーアントと難易度はほぼ変わらないそうでそれならばと二人を信じて階段を降りた。

 次の敵はレヤックという尻尾の無いイグアナの様な生き物だった。

 舌を垂らし、サメの様な牙を見せつけ涎を垂らしている。ここは剣の方が良いらしく、レナードと武器を交換して貰った。


 始めてみれば、気持ち悪いだけでアリよりも断然楽だった。

 恐らく魔物の攻撃力は上がっているのだろうが、タゲを取ってもらっているので関係がなく、普通に深く切りつければ倒せた。


 特にこれといって問題もなく、彼らは怒涛の釣りをこなしていく。

 それにあわせてベースを上げたが、すぐに単調な狩りになり黙々と続けた。


「ちょっと! いつまでも来ないから心配したでしょ!?」


 無心モードに入って居たのだろう。突如女性の声が聴こえハッとして我に返る。

 目を向ければ五人の女性が立っていて、アディさんの手には俺の突剣が握られていた。


 レナードに話していいかと問いかけられ、頷くと彼は彼女達に向き合う。


「ちょっとヤバイ話がある。お前達も聞いて自分の進退を決めてくれ」


 そう言ってレナードは王国騎士団の現状を話し、この街に居るのは危険だと伝えて、この先一緒に移動するかどうかを決めろと突きつけた。


「なら今すぐ行きましょうよ。なんでダンジョン籠もってるの?」

「お前は馬鹿か!? 契約があるだろ!

 それにカイトさんは街の怪我人を無くしてから移動したいんだってよ。

 まあその間がこえぇけど、俺たちもその方が気兼ねなく行けるしな」


 馬鹿と言ったからだろうか?

 アディの蹴りが飛び床に転がされて押し黙るレナード。彼女の話し相手がコルトへと移る。


「それでカイトくんの魔力を増やす事が急務って事ね?」

「あ、ああ……そうだ……

 ピッチを上げて集中していたら時間が経ちすぎて居た様だ。蹴るなよ?」

「そう、じゃあ即効で終わらせて皆で移動しなきゃね」


 たじたじになるコルトに鋭い視線を向けながらも「話はわかった」と一つ頷くアディさん。


「皆で来て正解だったわね。ハイこれカイトくんの剣」


 差し出されて大剣と交換すれば、彼女はコルト達からも武器を奪い、彼女達に与えていく。

 今ある武器は突剣、大剣二本、短剣、ハンマーの五本だ。俺が突剣を持っているので一本足りず、アディさんは手ぶらで立っている。

 

 早速釣りを開始しようとした彼女らに待ったを掛けた。

 武器もそうだが、その前に聞いて置きたいことがある。


「生まれ育った街を捨てる事になるんだけど……本当にいいの?」


 その言葉に返事を返したのは今日癒した名前も知らない可愛い少女だった。


「汚いものを見る様な目を向けるだけで、誰も助けてくれませんでした……

 皆も、もし治ったら町を出たいってずっと言ってたから……」


 そう返して他の面々に視線を送る。

 起き上がってアディさんから距離を取っていたレナードが「当然だな」と声を上げた。


「一緒にあの襲撃で戦った奴らを放って逃げるならまだしも、そいつらも動けるようにしてやるんだ。ぶっちゃけ、カイトさんの依頼が終われば街を出ようと思っているやつらばかりだぜ?」

「あんたは喋んなくていいから。もう帰りなさいよ、めざわり」


 人数の差か蹴りを恐れたのか不満を露にしながらも「うぐっ」っと一歩後退するレナード。

 コルトがレナードに「ここは退こう」とまるで戦いの最中にいる様な顔で言って一度こちらに頭を下げるとその場を後にした。


 そして男二人が帰り、五人の女性と俺一人という構図となった。

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