第5話


 午後の授業に思いを馳せて居れば、腕を組んだ男子生徒が隣に立っていた。


「キミ達、随分と王女殿下と親しげだったようだけど、何者なんだ?」


 見下ろし、軽く睨むような視線を送る茶髪でオールバックの男。

 こいつは他と違い俺と同じでイケメンとは言えない顔だ。

 垂れ目でちょっとぽっちゃりしている。


 わかるよ。羨ましいんだろ? 大丈夫。俺たちは仲間だ。


 そんな風に思っていれば、アレクが立ち上がり胸に手を当てて名乗りを上げる。


「私は騎士団副長を勤めるルンベルトを祖父にもつ、アレクサンダー・べレスと申します。そちらのお名前を伺っても?」

「なるほど。殿下に失礼を働いたどこぞの馬の骨という訳ではないのだな。

 私はエヴァン・ウォーカー。後は言わずともわかるな?」


 そう言って軽くドヤ顔を浮かべるポッチャリ君。


 知らんわ! と言いたい所だが、どうやらアレクは知っているみたいだ。


「おお! ではあの防衛大臣を務めるニコラス・ウォーカー卿の!?」

「ああ。キミは話がわかりそうだ。今から少し時間を貰えるか?」


 えぇ……だってもうすぐ授業始まるぜ?

 そう思っていたのだがアレクが「ええ、構いません」と答えたので俺も軽く頷いて様子をみることにした。


「非公式の場だから名乗りの前後は気にしないが、キミは名乗りもしないのか?」

「え? あ、俺はしがない平民なんでお構いなく。一応名前はカイトといいます」

「……騎士を目指すのであれば平民という意識は捨てるべきだ。

 仮に末端の騎士にしかなれずとも、準貴族位を得られることくらい知っているだろう?」

 

 相当に当たり前の事だったのだろう。

 訝しげな視線を此方に向けるぽっちゃりエヴァン君。何と答えたものかと思っていると代わりにアレクが説明してくれた。


「ええと、彼は遠い他国の出身のようでして……

 ですが先日騎士団の窮地を救い、国から褒賞を貰うほどの功績を挙げた実績を持つ男です。多めに見て頂けませんか?」

「何っ!? これは失礼した。ではキミが件の救世主か……」


 え? ちょっと何その大仰な言い様。

 止めて? 何となく抜いた草をただ捨て忘れてただけだから。


 いやいやと首を横に振ってみたが、アレクが身を乗り出し「エヴァン様は何か知っておられるのですか?」と問いかけた。

 続けて「彼には騎士団の方から口止めが入って居りまして教えて貰えないのです」と彼に事情を話す。

 彼は「取り合えず、同学年だ名前は呼び捨てていい」と伝えてから同じテーブルに着き、言葉を返す。


「そういう事か。隠せるものでもないが、確かに大っぴらに言われても困るな。

 だがべレスが明確に王国騎士を目指しているのは家柄からも見て取れる。

 そのキミが心の内に秘めると言うのならば話そう」

「わかりました。誓いましょう」


 真剣な面持ちでアレクが答えに一つ頷くと今回の一件を最初から語り出す。

 食堂で話していいのかと思ったがもう皆授業の為に移動していて居なかったので、彼と向き合い聞きに入る。



 そして彼の長い語りが始まる。



「事の発端は十年前。先代の国王陛下暗殺事件まで遡る。

 その今も未解決な事件の捜査に追われ、騎士団は東部森林の西半分までしか討伐の手を伸ばせない時が続いた。


 これに関して騎士団に責は無いので安心して欲しい。


 事前に騎士団からは、捜査に全力を出すのであればそのくらいが限界だという報を聞き、中央もそれを了承していた。

 だが、長らく放置し過ぎた所為で森の奥に住まう凶悪な魔物が増えすぎて生息地から溢れたのだ。

 それはまでは、森全体の個数を減らせば問題ないと考えられていたが、それは間違いだった。


 群れを成し東部森林の西まで下り、一部は森を抜けてきた。

 余りのその群れが強すぎた。

 すぐさま王国騎士団全軍にて討伐隊が編成されて赴き、抜けてきた魔物の討伐はすんなりすんだそうなのだが、その後続の群れが大きすぎたのだ。


 千五百からなる王国騎士団がその戦いにて五十にまで数を減らしてしまうことになり、騎士団長も殉職された。

 残った五十名ですら大半が致命傷を受けていて、まともに歩けるものすら居なかったと聞く。


 致命傷を受けて歩けなくなっても諦めず、最後の一匹まで魔法で撃退しきるなど、本当に騎士の鏡だと痛感されられたが、だからこそ、そうなる前に手を打てなかったのかと悔しく思う。


 おっと、話がそれたな。


 討伐完了後、動けるものが一人も居らず死を待つばかりだった兵士達の元に、何故か月の雫を持った少年が現れた。

 その彼は傷ついた兵士に月の雫を分け与え、そのまま群生地の場所まで案内してくれたそうだ。

 そのお陰で副団長及びに五十数名の兵士は戦死者の遺品と装備を回収して帰還する事ができた。

 それがこの件のおおまかな全容だ」


「それがキミなのだろう?」と問いかけられた。

 ここまで知っている人に隠しても仕方が無いので頷き肯定する。


 話を聞き終えて間が空くが彼の目を見つめたまま固まるアレク。

 カタカタと口を震わせ、首を横に振りながら否定する。


「え? 冗談……ですよね? うん、嘘だよ。ありえない。

 あの無敵のホワイト騎士団長が魔物なんかにやられるなんて……」

「事実だ。自身の目で確認した彼が否定しないのがその証拠だろう」


「そんな……」と放心しているアレクをそのままに彼は言葉を続けた。 


「そんな窮地だからこそ我々は、国も騎士も民も、一つに纏まらねばならない。

 その団結を作り上げる為にもキミ達に聞いて欲しい話があるのだ」


 そこからはアレクが黙ってしまっているからか「キミもここで騎士を目指すのであれば知っていて欲しい」と俺に向けての話しになった。


「現在、女王陛下が国を治めているが、本来は王政で男性がなるものとされている。

 だが今この国に王子は居ない。

 その場合は孫の代まで待ち王子が生まれるのを待ってからの即位となるが、それは王が健在だった場合の話しだ。

 ワイアット宰相に国を任せきりなカミラ女王陛下よりも、然るべき人物を選定し王女の伴侶に王位を譲った方が良いのではないか、との声が上がっているくらいにな」


 ……そ、そんな話を聞かせて俺にどうしろと。

 これは前もってお断りを入れておいた方が良さそうだな。


「すみませんが、そんな王の即位の話を聞かされましても俺が関わる事は無いですよ?」


 彼はそれに一つ頷いた。


「ああ。それは当然わかっている。

 ただの騎士が王になる事は間違ってもないが、王女の周囲に居る、というだけで無関係ではないんだ」


 そ、そういうものなのか。 

 けどだからなんだっての?


「何が言いたいのかわかりませんけど、アリス王女殿下が辛い思いをするような真似できませんよ?」

「当然だ。我ら臣下が王女を悲しませるなど以っての外。

 それに我らが担ぐのは戦姫と謳われ、アリス様とも仲の良いエリザベス様なのだからそういった心配は要らない。

 逆にそんな不敬な事をしようとする輩は排除して欲しい」


 そんな事出来る力も無いんだけど……

 まあ、彼女を守る側の話しならもうちょっと聞いてみようかなと「では、一体どの様なお話なので?」と問いかけた。


「単刀直入に言うとだな……アリス王女殿下と仲良くして欲しいんだ」

「……そう言うって事は彼女の外聞を悪くしろってことか?」


 彼は目を見開き「キミは最初からそれがわかってて近づいたのか?」と問いかけてきた。

 強い疑いの目を向けられ『それを頼んできたのはお前だろ』とイラっとした俺は勘違いすんなと弁解する。


「いや、違うから。話しの流れでそう思っただけ。

 そもそもあの事件の事を聞きたがった王女二人が強制的にお茶会に俺を呼んだ事が切っ掛けだったから、知り合ったこと自体が不可抗力だって。

 けどアリス王女は優しい子だなと思ったし、傷つく様な事の片棒は担げないよ?」


「なるほど」と顎に手を当て思考に耽るエヴァン。

 まどろっこしいのは苦手だからはっきり言って欲しいんだけど……


「……キミがそういう性格ならば全部説明した方が良さそうだな。

 第一にアリス王女は王妃になる事を望んでいない。その事を念頭に聞いてくれ」


 その言葉に頷き続きを促す。


 そのまま話を聞いていれば、やはり彼女が王妃に選ばれる事が無いようにしたいということだった。

 本人も王妃には成りたくないと公の場で意思表示した事があるらしく、彼女が女王や王妃に成る可能性は低いが、第三王女は側室の娘という事もあり、ゼロとも言えないそうだ。


 だがいくら国の為と言っても王族に対して牙を向くような事があってはならない。

 そこは絶対な様で、心穏やかかつ目立たぬよう学院生活を終えて欲しいということらしい。


「そもそも第一王女はどうしたの?」

「あぁ、あの方だけは絶対にダメだ。彼女は憎しみに囚われすぎている。

 確証も無いままに隣の大国、ティターン皇国に宣戦布告をしかねない勢いでだ。

 頭は良いし王位を継ぐ意思もある。あの方が真っ直ぐ育って頂けたら申し分なかったのだが……」

 

「理由は先ほど告げた事柄から解るだろう?」と苦い表情を見せるエヴァン。


 なるほど。国王暗殺はティターン皇国って所が怪しい訳か。

 それで、王国騎士団の人たちも、表向きは仲が良いと言いながらも眉間にしわが寄っていたのか。


 第一王女は皇国が犯人だと決めつけていて復讐をしたがっていると。


 そんなこんなで第二王女のアリスちゃんが有力なんだけど本人が嫌だと言ったわけか。

 だから能力があって人気もある第三王女を押したいと。


「良く分かった。もう一つだけ聞かせて欲しい。

 エヴァンの名前を出して彼女に全てを話し、問いかけてみてもいいか?」

「……ああ、構わない。ただ、憶測で悪く言うのだけは止めてくれ」

「わかった。彼女の望みも一致するようなら無理の無い範囲で協力する」


 と言っても俺の協力なんて足を引っ張るだけ……ああ、それが今回は有効なのか。

 うん。エヴァンも満足そうだし、問題なさそうだな。


 さて、と立ち上がったエヴァンの裾を突如アレクが「お待ちください!」と引っ張った。


「……お爺様は、騎士団は、これからどうなるのですか!?」


 いきなり強く引っ張られ、凄い剣幕で問いかけられたエヴァンは態勢を崩した。

 たたらを踏みながらも椅子を掴みなんとか堪えたエヴァンは、アレクに困惑した表情を向ける。


 彼に応える様子が無いので仕方が無いとアレクの問いには俺から答える。


「アレク、今近衛騎士の大半を移動させて再建中だって話だ。無茶を押し付けて知らん振りって訳じゃない。

 エヴァンが困ってるから取り合えず離せって」

「あっ……申し訳、ございません……」


 いきなりで俺もちょっとビックリしたけど、騎士団の生き残りが五十人だけって聞けばそりゃルンベルトさんの事が心配にもなるわな。


「いや、いい。だがそっちの話は聞いてないな。それだけか?」


 あら、ちょっとは怒るかと思ったけど普通に許すんだ。言ってることもまともだったし結構いい奴かも。

 って、他になんかあったっけ……?

 ああ、一応まだあるな。


「ギルドにも声を掛けるってさ。そっちは有事に緊急依頼って形を取るらしいけど。

 あと、最悪はここの上級生を頼る可能性すらあるらしい」


 それを聞いたアレクは一先ず息を吐き落ち着きを取り戻した。

 だが、今度はエヴァンが顔を歪めている。

 

「ちっ、思いの他厳しいようだな。だから父上も言わなかったのか。

 カイトといったな、話してくれて助かった」

「あっ、待った。上級生には言うなよ? マジで。

 伝えるなら伝えるで国からの方がいいだろ? ちゃんと黙っててくれよ?」


 去りながらも手をヒラヒラと振り「そのくらいは理解して居る」とエヴァンは食堂を後にする。

 二人きりとなるとアレクは恥ずかしそうにモジモジし出した。

 チラチラと上目遣いで此方を見ている。


 そういうとこやぞ!


「あはは、なんか……取り乱しちゃってごめんね」

「いいって。それよりこれからどうする? 精神的にきついなら今日は帰るか?」

「うん、ごめん。僕は帰るよ。調べたい事があるから……」


 ずっと私と言って居た一人称が僕に変わった。自然と出てしまった様だし、恐らく普段はこちらなのだろう。

 うん。そっちの方が似合ってるぞ。


「気にすんなよ。僕っ子ちゃん」

「……また抓るよ?」


 おおう、目がマジだ。これはもう言うの止めよう。


「はぁ……もっとさぁ、王道な元気付け方してよ!

 そんなんじゃ素直に感謝できないじゃないか……」

「いやいや、ちゃんと王道なのもやったろ!

 俺、元気出る情報出したじゃん。今お前立ち直ってるじゃん。この恩知らず!」


 あーやだやだ、お礼の一つも言えないのかねぇこの子は……

 とジト目を送っていれば「もう、早く行きなよ」と背中を押されてしまった。


 訓練場の場所だけ聞き、彼と別れ授業が行われている場に赴く。

 こちらも巨大な建物で中は射撃場の様なつくりになっていて、生徒が一列に並び、両手を前に出して詠唱を行っている。


 先ほどと同じ男性教員がその後ろで彼らを見守っていたので、遅れた理由やアレクが帰った事を伝えようと声を掛けた。


「先生、話し合いの呼び出しをくらって遅れました。

 あと、アレクは午後は授業に出られないそうです」

「……そうか。だが魔法やスキルの授業であれば出席は自由。報告の必要はないぞ。

 キミは受けていくのであれば先ほどの授業で教えた事を実戦してみるといい。

 詠唱はできていたのだから後は魔力の制御ができれば発動するはずだ」


 おお! それだよそれ!

 早速試したいんだけど魔力うんぬんは一切わかんないんだよな。

 誰か聞ける相手は……おっ! アリスちゃん発見っ!


 彼女を発見してすぐさま隣に駆け寄った。


「我……女神……アプロディーナ様のご加護……賜り……者なり……

 ダメです。これ以上は思い出せません。どうして文字を見ながらの詠唱はダメなのでしょうか……」

「姫様……だからちゃんと心から理解していないとダメなんですって。

 字を見て読むだけじゃダメなんです」


 むむむぅと可愛い唸り声を出すアリスちゃん。

 そんな彼女を隣でジッと眺める。


「あっ……! 居たなら仰ってください。

 もう、悪趣味です。恥ずかしい所を見られちゃいました……」


 アリスちゃんは此方を向くと、先ほどの詠唱失敗が恥ずかしかったのか赤くなった頬を手で押さえ俯く。


「いやいや大丈夫ですよ、王女様。

 大変お姫様然としていて、凛々しくお可愛らしいお姿でした」


 一度胸に手を当ててお辞儀をして、節度を持った距離で自信を持って頷いてみれば、お付きの子も「そうでしょう、そうでしょう」と頷く。

 良かった。嫌がられるかと思ったけど舐めた接し方をしなければ問題なさそうだ。


「またそんなおべっかばかり……

 いえ、カイトさんは本心で言ってくれて居るんですよね。

 こんな見た目の私にそんな事を言ってくれる人は居ないから嬉しいです」


『こんな見た目の』という言葉にお付きの子も少し悲しそうに目を伏せた。


 あれ……? もしかして、アレクの趣味が変な訳じゃないのか?


 エレナ先生も可愛くないって言ってたし。

 もしかしてこの世界だと美的感覚がおかしいのは俺の方?


「そんな……私も常日頃から言っているではありませんか。

 姫様は思考が大変お可愛らしいから大丈夫ですと」


 自信満々に胸を張って言うがそれは流石に違うんじゃないか?

「いや、それは逆に失礼なんじゃないかと思うけど……?」と思わず口にしてしまう。


 彼女にキッと睨みつけられ思わず怯んだが「そうですよねっ!? 私もずっと思っていたのです!」とアリスちゃんが援護射撃してくれた事で難を逃れた。


「カイトさん、ステラにどうしてダメなのか教えて上げて下さいませ」


 えっ!? いやまあいいけど……


「ええと、ステラさんにそのつもりが無くても、頭の中可愛いねと言ってる様なものだからですかね。

 ただ、彼女の気持ちもわかります。王女殿下は振る舞いも可愛らしいのでそう言いたくもなるでしょう。

 次回からは立ち振る舞いが綺麗だとか、仕草がお可愛らしいと言い換えては如何でしょう?」


 恐ろしいのでステラさんの弁解もセットで付け加えた。


「まぁ! それならば素直に受け取れますわ」

「ムムム、解りました」


 ふぅ。若干危なかったが彼女も納得して居るみたいだ。何とか乗り切った。

 と思ったのだが、そんな事は無かったらしい。ステラさんはジッと此方を睨んでいる。


「それで……いつまでそこで見ているつもりなの。姫様の邪魔。

 空きは沢山あるのだからお前はさっさと他に行って。しっしっ」

「こらっステラ! 何て事を言うのですか! メッですよ!」


 人差し指を立てぴょこぴょこと動かしながらくりくりした目を尖らせる。


「「か、可愛い」」


 その様に俺だけでなく、怒られていたはずの彼女までもが思わず口をついた。


「ちょっと! 酷いですわ、カイトさんまで!!」

「これは……仕方ないですよねぇ? ステラさん?」

「ええ、仕方がありません。愛らしい姫様が悪いのです」


 もぉ、とご立腹ながらも楽しそうなアリスちゃん。

 そんな彼女の様を見て俺を遠ざけるのは諦めたのか「もうここで良いから、話してばかりじゃなく訓練を始めてよ」とステラちゃんからのお言葉を貰った。


 恐らく、学生の交流の範囲内と周囲からそう見られたいのだろうな。

 けど俺には聞きたい事があるのだ。悪いがもう少し付き合ってもらおう。


「あの、どっちでもいいんで教えて欲しい事があるんですよね。

 俺、魔力の扱いってのが一切わからなくて、何か良い方法ありませんか?」

「それはですね!『私が教えてあげるからこっちへ来なさい』ス、ステラ!?」


 彼女はアリスちゃんの言葉を遮って抗えない程に強い力で腕を引いた。

 ちょ、腕が折れる。折れちゃうからと思うほどに強い力だ。

 そのまま少し離れた場所まで連れて行かれ、小声で「貴方は誰の手のものなの?」と問いかけられた。


「ああ、丁度良いや。ステラさんに聞きたい事もあったんだ」


 と、エヴァンに言われた事を全部話しつつ、もし彼女が本気で王位を目指すというのであれば、邪魔したくないから距離を取るとも告げた。


「……本当に距離を取ってくれるの?」

「勿論、彼女がそれを望めばね。

 本当はこの話を直接彼女にしたかったんだけど、二人で話しがしたいなんて言えないから、最初にステラさんに話したほうがいいかなって思ってさ」


 彼女は訝しげな表情を向ける。

 そりゃ、しょっぱなから信用はできんわな。


「まあ、疑うのは当然だろうし構わないけど、叩いても何も出ないよ。

 ああ、俺は恐ろしいほどに弱いから、物理的にやれば手加減しても即死するからやめてね?」


 本当に。ガチで。あんたらの力半端無いからね?

 万力にでも挟まれたかと思ったよ。


「え? 戦えないの?」

「うん。そもそも戦った事が無い」

「なんでそれで士官学校に来たのよ……」

「そりゃ、これから強くなる為だよ。超強くなってモテモテになるんだ、俺」


 あっヤバイ、本音が出た。と口を噤んだが時すでに遅し。

 活発な褐色娘ステラちゃんから全力のジト目を頂いた。


「まあいいわ。姫様が寂しそうだから戻るわよ」

「待ってくれ、魔力の扱い方! それ知らない振りじゃないからっ!」


「はぁ」と溜息を吐きながらも、装着していたブレスレットを外して差し出したステラちゃん。


「どしたの? プレゼント?」

「違うわよ! 今だけ貸してあげるから付けてみなさいって言ってるの!」


 一つも言ってないよ……

 そう思いながらも腕に嵌めた。なにやらゆっくりと意識が遠のいていく。


「え? あっ、ちょっと―――――――――――――――」


 俺は彼女に持たれ掛かりつつも意識を手放した。

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