わたしを離さないで

 カズオ・イシグロの、ノーベル文学賞を受賞した作品です。

 

 本文は、優秀な介護人キャシー・Hが、介護人として提供者の世話をする日々や、自分の育ったヘールシャムという施設の思い出を語る一人称で進みます。介護人、提供者という不思議な単語が続々と登場しますが、それに対する解説は一切無いので、モヤモヤさせられるまま物語が進みます。

 たくさんの友人と保護官に囲まれたキャシーは幸せな子供時代を送りますが、その毎日には常に違和感がつきまといます。頻繁な健康診断に、やたら多い図画工作の時間。保護官の異変。

 中盤で明らかになるのは、キャシーたちは臓器提供のために作られたクローン人間であるという事実でした。成長すれば介護人として提供者の世話をし、時が来れば提供者として臓器を提供するだけの運命を、ヘールシャムの子供たちは当たり前のように受け入れます。


 終盤までは淡々とした展開が続くので、そこで飽きてしまう人もいるかもしれません。

 ディストピアものは、たいてい搾取される側の主人公が世界の不条理に立ち向かうストーリーであることが多いですが、本作は全く違います。主人公のキャシーやその仲間たちは、提供者という運命に抗うどころか、嫌とも言わず、その日を粛々と待ちながら暮らしています。ヘールシャムを出た後の生活ではある程度街に出る自由が与えられていましたが、そこで逃げ出したり行方をくらます人もいたのではないか、と想像が膨らみました。


 

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