仄暗い水の底から
最近暇なんです。なので、普段読まないジャンルに手を出してみることにしました。
ソファーに寝転んだまま、手のひらのアマゾンをぐるぐる周って、タイトルに聞き覚えのあった本作を注文することにしました。
本作は、「水に潜む恐怖」を描いた短編集です。全編を通して、東京湾とその周辺の水場が舞台になっています。
第一話は、映画にもなった「浮遊する水」です。
出版社に勤める主人公は、幼い娘と寂れたマンションで暮らしていました。バブル崩壊の負の遺産を引きずったマンションは住民も少なく、暗く湿っぽい雰囲気が漂っています。
娘と花火をするために、屋上に入ったところ、主人公はキティちゃんのバッグの落とし物を見つけます。誰のものか分からないバッグを、主人公は管理人に預けます。
同じ頃、主人公は、かつてそのマンションに住んでいた女の子が行方不明になっていることを知るのでした。
心霊ものが苦手な私としては、幽霊の出てこないホラー小説は大歓迎です。(とは言っても、本作では一編だけ幽霊が登場しています)「漂流船」では海の理不尽な怪異、「穴ぐら」では漁師の身に起こった恐ろしい事件と、その顛末が描かれます。幽霊が出てこなくても、充分怖いです。
人間にとって水は身近なものであり、恐怖の対象でもあります。海洋恐怖症という恐怖症も存在するそうです。
呼吸ができない空間というのは、命に直接関わるだけあって、本能に根ざした警戒心や恐怖を抱かずにはいられないのかもしれません。
東京湾という場所には詳しくないので、別の話をします。
私にとって一番近くにある水場はため池です。自宅から徒歩圏内だけでも、十近くあります。
緑色の汚い水や、淵に溜まっている大量のゴミの類を見ていると、なんとなく嫌な気持ちになります。何が沈んでいるか分からない得体の知れなさ、ありとあらゆる汚物が溶け込んで悪臭を放つ水、周辺の湿地に、ところどころ足首まで埋まる泥があること、そのすべてが苦手です。
本作は水をテーマにしたホラー小説なので、当然、水死体が登場します。水の中で死んだ遺体は目もあてられぬ姿になるそうなので、恐怖を演出するにはうってつけでしょう。私自身は水死体を見たことはありませんが、マネキンだと思って石を投げていたら本物の人間だったという話を、知人を通して聞いたことがあります。
機会があれば、映画の方も見てみたいです。
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