親なるもの 断崖
本作は、北海道室蘭市に実在した、
娘は売り物、という考え方が珍しくなかった時代、青森の農村から北海道に売られた少女がいました。松恵、お梅、武子、道子の四人です。
四人を連れた女衒は、幕西に向かう道中、彼女たちを
女衒は四人に言います。「死にたくなったら
四人の中で一番年上だった松恵は、到着したその日の夜に客を取らされ、ショックで自ら命を絶ちました。二人分の借金を背負うことになった松恵の妹のお梅は、十一歳の身で女郎になることを選び、礼儀作法が身につき容姿が整っていた武子は
第一部ではお梅を主人公に、三人の過酷な人生と、開拓と同時期に誕生した遊郭の歴史が語られます。
体を売る女と、買う男。それぞれが属する底辺が支えた、昭和初期の日本の社会についても、作品を通して知ることができます。
第二部では、お梅の娘
室蘭で降る鉄で色づいた赤い雪や、工場からの煙で赤く染まった空の描写が印象的でした。
女郎の娘であることで、幼い頃からいわれなき差別を受けた道生にとって、室蘭は居心地の良い町ではありませんでした。母が姿を消してもなお、女郎の血を引く子という事実は、道生の子供時代に暗い影を落とします。
遊郭を扱う創作物としては、かなり重く暗い分類に入ると思います。
「生死の淵なれば 問うことあたわず 問えば地獄 あるいは生き地獄」という一文に、売られた女性たちの境遇の悲惨さがよく表れていると思いました。
女郎を買う立場にいた男性の多くは、タコ部屋労働者と呼ばれる開拓従事者でした。貧しさゆえに半ば騙されるような形で北海道に渡り、苛酷な労働を強いられ、動けなくなれば生き埋め、逃げだせば火炙り、蚊ぜめ。女郎とは別の地獄の中にいた弱者のことについても、作中で詳しく語られています。
まさに開拓の裏の歴史と呼ぶべき物語です。
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