僕だけがいない街

 本作はアニメ化、実写映画化されたこともあるミステリー漫画です。友人が知り合いにネタバレを食らって激怒していたことが懐かしいです。


 主人公の藤沼悟は、アラサーの売れない漫画家でした。ピザ屋でバイトしながら、漫画を書く日々は、決して満たされたものではなく、物語の序盤では悟の鬱屈した独白が続きます。一言で言うと根暗です。


 身の回りに危険が迫ったとき、解決されるまで時間の巻き戻りを繰り返す再上映リバイバルという現象に巻き込まれ、悟は交通事故に遭い、入院することになります。些細な出来事は連鎖的に次の再上映リバイバルを引き起こし、ついに悟の目の前で、恐ろしい事件が起こります。

 そのとき発生した再上映リバイバルによって、悟は十八年前の過去、一九八八年に戻ってしまいました。


 二十九歳の記憶を持ったまま小学五年生になってしまった悟は、現代で起こった事件の犯人へ繋がる糸口が、一九八八年の連続児童誘拐殺人事件にあることを知ります。

 二人のクラスメイトと一人の児童が亡くなったその事件においては、悟の年上の友人だった「ユウキさん」が犯人として、死刑判決を受け服役していました。

 ユウキさんのアリバイを証明するはずの悟の証言は黙殺され、後悔のうちにその記憶自体を封印して、悟は大人になったのです。


 悟は最初の被害者だったクラスメイト、雛月加代に接近します。加代が殺害された日を特定し、その日まで彼女を守ることで、事件を未然に防ごうとしたのです。

 悟の行動は徐々に未来を変え、現代と過去、二つの事件の真相を導き出していくのでした。


 全体的に独白や文字が多めなので、漫画というよりは、絵のついた小説を読んでいるようでした。

 些細な箇所にも事件の真犯人に繋がるヒントが隠されていたり、巧妙な伏線が仕込まれているので、一度読んだだけでは分からない箇所もありました。

 一番、他人にネタバレしてはいけない系統の話です。友人が怒った気持ちもよくわかります。

 二度目の子供時代を送る悟は、連続誘拐殺人を防ぐという使命のために、クラスメイトや周囲の大人達を巻き込んで行動します。その過程で引っ込み思案だった悟が変化していく過程を読者の視点から眺めるのも、いい楽しみ方です。

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