天使の囀り

 本書は貴志祐介さんのホラー小説です。

 作家である主人公の恋人は、紀行文執筆のために探検隊とともにアマゾンへ同行します。恋人はアマゾンでの生活や、個性豊かな探検隊のことをメールで主人公に報告するのですが、何かがおかしい。

 帰国した恋人は別人のように変貌していました。過食に加え、忌み嫌っていたはずのタバコを吸い、何よりも恐れていた死に興味を持ち始めます。その上、天使が耳元で羽ばたくような幻聴が聞こえるとまで言い出し、とうとう自殺してしまいます。

 同じ頃、彼とアマゾンに同行した探検隊のメンバーが、一人また一人と不可解な死を遂げたのでした。


 一方、二十八歳になっても定職に就かずエロゲ三昧のニートの男は、偶然見つけた怪しいセミナーに応募します。

 その内容は、悩みを抱える人々が集まってグループトークを行う、一見なんの変哲も無い普通のセミナーのようですが、セミナー合宿の終盤ではとても奇妙な儀式が行われました。

 セミナーに参加したあと、退屈だった男の生活は、少しずつ味のあるものに変化していきます。

好きな人ができ、健康を手に入れ、バイトの人間関係も良好になり、段々とうまくいくようになった男の生活には、ある習慣が組み入れられます。それは男が大嫌いだった蜘蛛の飼育でした。

 やがて家の一部屋まるごとを蜘蛛のために使うようになった男は、過去の自分と現在との乖離に違和感を覚えます。自分は蜘蛛が怖くて怖くて仕方なかったはずでは……。

 そんな疑問も、愛しい蜘蛛たちの前では霞のように消え去ってしまうのでした。

 

 貴志先生、エロゲオタクだったんですね。女のコのセリフからゲームの主題歌まで作り込んでいるあたりに、先生のこだわりを感じます。

 というのはさておき、この小説。詳細を書くとほぼネタバレになってしまうので伏せますが、まあ怖い。呪いや霊と言った非現実的な要素は一切登場しないのですが、後半のあのシーンは読む者を震え上がらせること間違いなしです。あと、中盤から主人公に協力するようになる科学者がいいキャラしてます。

 頭が良くて、度胸があって、目つきの悪い毒舌家。嫌いじゃないです。


 むさ苦しい夏の夜には、きっと本書がぴったりです。食事中には、読まないことをおすすめします。

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