ゲームの王国

 本作は上下巻構成の長編SFとなっています。SFと言っても歴史もの成分がかなり強めです。

 上巻の舞台は1950〜1970年代のカンボジアです。

 

 物語の内容に触れる前にまず一つ。

 この作品はクメール・ルージュによる革命と圧政、虐殺が大きな主題となっています。

 約40年前に実際に起こった出来事にも関わらず、私はこの小説を読むまでカンボジアの一連の歴史をほとんど知りませんでした。

 小中学校の歴史の授業では一切触れられない上に、報道で見かけることもありませんでしたし、その政権を日本が支持していたということも、もちろん知りませんでした。 

 読後、クメール・ルージュのことをネットで少し調べました。

 子供に教えにくい内容であることは否めませんが、現代史において、まるで無かったかのような扱いは妥当だとは感じませんでした。

 

 本作の主人公は二人です。

 田舎の農村に生まれた天才児ムイタックと、ポル・ポトの隠し子で、他人の嘘を見抜く能力を持つソリヤ。二人は親類の結婚式にて出会い、そこでカードゲームに興じます。

 互いに初めて本気を出して勝負を楽しんだ二人は再戦を誓い合うのですが、その日クメールルージュの革命が成功し、カンボジアは暗黒時代に突入します。それぞれが地獄に耐えながら生き延びる中、二人の再開は最悪の形で訪れることになりました。

 下巻では数十年の時が流れ、ソリヤは政治家に、ムイタックは大学教授になっていました。登場人物もほぼ一新して、上巻とは全く違う物語が始まります。SF要素はほぼ下巻にしかありません。

 

 この小説の大きな特徴を挙げるなら、登場人物があまりにも個性的なことです。

 たとえば、泥というキャラクターの誕生秘話や死因は、これでもかというほど強烈でした。ちなみに泥の兄は鉄板という名前で、彼もものすごくキャラが濃いです。

 全体的には難しい言葉遣いが少なく読みやすかったです。扱うテーマがテーマなので、かなり気を遣って描写していることがよくわかりました。

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