7. 相手が十八歳未満と知りながら金品を渡したうえでみだらな山菜採りを行ったとして、ヘルシーな条例違反となる。

 俺はさっそく信者たちの尻穴にパンを詰めてこれを善しとした。祭壇に上がる。信者たちは魔法にかけられた質感の瞳で俺を見ている。


 教会には歌が流れていた。サディスティックな旋律の賛美歌だ。


 信者たちのメカニカルかつデカダンスな視線に射抜かれると、下腹部から喉にかけての空間に自分のものではない言葉が注がれた。俺は異物感に堪り兼ねてそれらを吐き出す。


「アブストラクト死蝉街。アヴァンギャルド脆弱性」


「アブストラクト死蝉街。アヴァンギャルド脆弱性」


 信者たちが復唱した。言葉の嘔吐は快感を伴い、俺の中枢はリビドーに抗えない。


「全前兆が耐えがたいデフォルト」


「全前兆が耐えがたいデフォルト」 


「リクライニング老衰 不注意ユートピア オブリビオン回廊 欠乏シナジー 」


「リクライニング老衰 不注意ユートピア オブリビオン回廊 欠乏シナジー」


 喉に詰まった言葉を吐瀉するうちに、もしや俺は、予感を伝えるために祭壇へ上がったのではないだろうか、という疑念が意識にのぼった。


「だるま 火だるま 肉だるま 元祖略奪クソだるま」


 俺は無自覚のうちに、無邪気な様子で、無謀にも、無造作に置かれた言葉を無作為にすくいあげ、無意味かつ無残で無価値な無味無臭の無駄口を無我夢中に無差別に吐き腐る無様な無駄骨を折っているが、この儀式を通して、俺が微かに予感している、これから迫り来る無機的な無情すなわち不条理を信者たちに伝えるため壇上にいるのだ。そうだ。疑念が使命感へと昇華される。


「輪廻転生風人間 脱衣 迅速 ポルチーニパスタにおけるポルチーニ」


「輪廻転生風人間 脱衣 迅速 ポルチーニパスタにおけるポルチーニ」

 しかし豚を崇める信者の眼球が俺を急き立てて迷走させる。我たる言葉が出てこない。


「不適切発言お詫び怪獣! 誹謗中傷困り愛汁!」


 やめてくれ、という心中の咽びとは裏腹に、俺は忌々しい稲妻に衝き動かされる。


「不感症シンポジウム カタストロフ審議会」


 信者たちは復唱をやめて談笑していた。


「邪眼レーシック 賽銭危機 マロニーチックアイデンティティ」


 彼らはおもむろに尻穴から取り出したパンを一心不乱に頬張り、天気や堕天使や食洗機について、忌憚のない意見交換をはじめたようだ。礼拝に飽きた旨をアーティスティックに表現しているに違いない。


 俺は豚信者どもの思い思いの振る舞いを気にかけながら、止まらない呂律を呪いつつ、それでも必死に訴えようとした。


 しかしもはや冥王神の傀儡となった俺からは要介護5の言葉が零れるのみであった。


「パパ ママ 泣いてる資金 ただ ただ ファイナルちんちん」


 二時二分になった。俺は演台のうえに置かれた分厚い書物の222ページを開き内容を読み上げる。


「魂は、断末魔と共に生まれ、産声と共に死ぬ。魂は精錬と腐敗を繰り返し、最後ま

で黙秘権を行使する。しかし冥王神の慈しみをデリケートゾーンから経皮吸収すると、ジェームスブラウン的躍動および背徳的イノベーションを得るだろう。冥王も冥王冥利に尽きる。それでは冥王の一週間を振り返る」


 222ページ後半には冥王神のとある一週間が綴られていた。


 欠曜日、ピッチ走法で黄泉を駆け抜け脱脂綿とのあいだに不平等条約を締結。ノイローゼに。


 駄曜日、自我とファンクを混ぜたキャットフードを犬に食わせた旨を絵葉書にして漆黒のポストへ投函。カタレプシーに。


 吸曜日、相手が十八歳未満と知りながら金品を渡したうえでみだらな山菜採りを行ったとして、ヘルシーな条例違反となる。オウンゴール。


 黙曜日、コカイン中毒の霊媒師を引き連れてバイオレンス確定申告。霊媒師が霊的アポイントメントを取り忘れて霊的ヒステリーを起こし、シド・ヴィシャスとレーニンとアンブローズビアスを同時に降霊してしまい、霊的に死亡。霊的幽霊となる。


 着ん曜日、皇帝と男娼を兼任するフリーランスの暗殺者とキスフレになる。パラノイアに。


 屠曜日、哲学的ゾンビと心を通わせて労働の義務を放棄。以後お天気情報サイトの汚点を発見する生活へ突入。メタボリックシンドロームに。


 気違曜日、「いいことないな」を煮っころがした結果、猥褻な無安打無得点試合を達成。花咲き散る螺旋の淵でクソ喰らえ。


 雨上がりの忘却に虹。

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