7 胡乱-2-
「あ、そうだ! すっかり忘れてましたわ」
ダージは腰袋から数枚の金属板を取り出した。
「銅板か? 今回は頼んでいないハズだが――」
「いや、そうじゃねえんですよ。このあいだ拾ってきたものなんですがね」
彼は作業台に銅板を並べ、それを一枚ずつ裏返した。
「ほら、手を加えた跡があるでしょう? そういやダンナが似たようなものを作っていたのを思い出しましてね」
カイロウは訝しげにそれを手に取った。
「何か心当たりはありますかい? いや、なけりゃいいんだ。でもどうにも引っかかっちまいまして……」
「………………」
金属板を手にしたまま、カイロウはそれをじっと凝視した。
「あの、ダンナ…………?」
ダージは額に手を当てた。
これはまた彼の気に障ることをしてしまったのではないか。
カイロウには技師としてのプライドがある。
ガレキの山から拾ってきたものを、あなたが作っているものに似ていると言われれば気分を害するのは当然ではないか。
なぜそこまで気を回せないのか。
彼は自分の軽々しさがつくづく嫌になった。
「す、すみません……そういうつもりじゃ……!」
ダージはその場に膝をついた。
己の迂闊さが招いたことだが、それゆえに彼は謝り方というものも分からなかった。
下手な謝罪をすれば火に油を注ぎかねない。
どうにか怒りを鎮めなければ、と思っていたところに、
「なんで座っているんだ?」
カイロウがとぼけた口調で問うた。
「…………はい?」
こちらも気の抜けた返事をしてしまう。
「ああ、さっき落としたネジを探してくれているのか」
彼がそう言ったので、ダージは慌てて作業台の下にもぐってネジを拾い上げた。
「ああ、あの、怒ってるワケじゃないんですかい……?」
「どうして怒る必要があるんだ?」
両者の会話は噛み合わない。
ダージはその理由を言おうとしてやめた。
頭の中を整理する前に質問が飛んできたからだ。
「それより、拾ってきたと言ったな?」
「は、はい」
「どこで?」
「第3の聖地――と言えば分かりますかい?」
「いや、分からない」
「ここから北に2時間ほど歩いたところにある丘ですわ。丘と言っても恵みの雨が降り積もってできたものですがね」
カイロウは金属板を何度も返して観察した。
いくつかは割れ欠けていて、無数の小さな傷がついていた。
先の尖ったもので何度も引っ掻いたような跡や、高熱でひしゃげた部分もある。
「そうか…………」
裏側に刻まれた記号を指先でなぞる。
これには見覚えがあった。
「きみは優れた調達屋だと思っているし、信頼もしている。だからきっといろんなものを目利きできるだろう」
「はあ…………?」
脈絡もなく褒められ、ダージは返答に窮した。
こういう手口は彼の苦手とするところだ。
良いも悪いもハッキリ言ってもらったほうが分かりやすい。
「そこで訊くが、これは誰かが捨てていったものだろうか?」
彼はしばらく考えてかぶりを振った。
「それはないでしょうな。拾う奴はいても、わざわざあそこに捨てに行く奴なんざいませんぜ」
「そうなのか?」
「こういう事情はオレたちだけの秘密なんですが、ダンナには特別にお教えしますわ。さっきのお礼だ」
彼は少し得意気に言った。
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